MyMed(マイメド)は、究極の医療電子教科書の作成を通じて、利用者のニーズにあった理想的な医療情報サイトを作ろうというプロジェクトです。


執筆者: 高金 明典
胃切除後症候群のひとつで,Billroth-II法による再建術後何らかの原因に起因する輸入脚停滞や輸入脚逆流により生じたさまざまな症候を広義の輸入脚症候群と呼ぶ.輸入脚部の通過障害を原因とした胆汁性嘔吐を狭義の輸入脚症候群と呼ぶ.
輸入脚症候群は通過障害が主な原因であり,術後屈曲・捻転した状態で輸入脚部が癒着したために起こることが多い.また,食物が輸入脚に逆流するために腹痛や食物残渣を嘔吐する場合や輸入脚が長く,蠕動が弱いため内容が停滞することが原因で下痢や脂肪便,消化吸収障害をおこす(盲管症候群:blind loop syndrome)こともある.
術後1~2日以降から2週間の間に発症する急性型の場合は,十二指腸液が多量に貯留し圧が高まった状態のため,腹痛,背部痛,発熱,高アミラ-ゼ血症,肝機能障害,黄疸などを呈する.手術後早期では十二指腸断端の縫合不全を引き起こし,遅延性腸管穿孔により腹膜炎となる.重症化した場合は敗血症やDICを併発することがある.比較的症状が軽く経過した場合では食後に上腹部痛が出現し,突然多量の胆汁性嘔吐をきたすことが多い.食事摂取により胆汁,膵液の分泌が亢進し,輸入脚内の圧が上昇に伴い一時的に閉塞していた輸入脚部が開放され,十二指腸液が一挙に残胃に流れ込むことにより胆汁性嘔吐を引き起こす.
腹部単純X線検査では,右上腹部に拡張した腸管を認める.また,CT検査では拡張した輸入脚,胆管および膵管が認められる.胆嚢が温存されている場合は緊満した胆嚢が描出される.上部消化管造影検査では輸入脚への造影剤流入を認めない.しかし,輸出脚への流入は良好で残胃や輸出脚の拡張は認めない.内視鏡検査では輸入脚への挿入が困難であるが,粘膜の異常は認めない場合が多い.血液生化学検査において,高アミラ-ゼ血症や高ビリルビン血症が認められる.また,胆道系酵素の上昇も認められる.
Billroth-II法再建術後に嘔吐や腹痛が出現し,輸入脚には拡張を認めるが残胃および輸出脚に異常を認めなければ確診となる.術後腸閉塞症との鑑別が必要で,輸入脚の拡張の有無が重要である.
急性発症の場合は保存的に改善する可能性はなく緊急手術の適応である.手術方法では拡張した輸出脚に壊死部位がなく発症からの経過が短い場合は空腸とのバイパス術を行う.可能であればBillroth-II法からBillroth-I法やRoux-en Y法に再建をやり直すことも考慮する.十二指腸に及ぶ広範な壊死がある場合は膵頭十二指腸切除を行う.症状が比較的軽度な慢性型の場合は保存的治療が第一選択である.一度の食事量を減らし食事回数を増やすように指導する.低脂肪食が有効な場合もある.胆汁性嘔吐を起こす回数が多い場合は消化吸収障害を伴うこともあり,消化薬等の投与が必要である.また,盲管症候群のように細菌叢の異常がある場合は抗菌剤投与が奏功することがある.症状が長期化し,コントロ-ルが難しい場合には再手術を行う.
最近は逆流性食道炎や残胃癌との関連もあり, 胃切除後の再建方法としてBillroth-II法を選択することは少なくなっている.
Billroth-II法を行った場合には輸入脚を短くし,十分な吊り上げを行う.Braun吻合を付加することは輸入脚症候群の予防に有用である.
1) 幕内雅敏 監修,荒井邦佳 編集:Knack & Pitfalls 胃外科の要点と盲点 第2版,文光堂,東京,2009年
2) 武藤徹一郎・幕内雅敏 監修:新臨床外科学 第4版,医学書院,東京,2006年
3) 東口髙志 編:NSTハンドブック 疾患・病態別の栄養管理,医薬ジャーナル社,大阪,2008年
4) 久保田哲朗・大村健二 編集:消化器癌化学療法,南山堂,東京,2009年
5) 胃癌術後評価を考えるワーキンググループ・胃外科・術後障害研究会 編集:胃癌術式と胃術後障害 そのコンセンサスの現状と解説,ヴァン メディカル,東京,2009年
1) 高瀬浩造・阿部俊子 編集:エビデンスに基づくクリニカルパス,医学書院,東京,2004年
2) 内富庸介・藤森麻衣子 編集:がん医療におけるコミュニケーション・スキル,医学書院,東京,2007年
3) Jurgen Thorwald 著,小川道雄 訳:外科医の世紀 近代医学のあけぼの,へるす出版,東京,2007年
4) 財団法人先端医療振興財団・臨床研究情報センター 監修:患者・家族のためのがん緩和ケアマニュアル,日経メディカル開発,東京,2009年
5) 竹末芳生 編集:手術部位感染(SSI)対策の実践,医薬ジャ-ナル社,大阪,2005年
1) 上西紀夫 編集:食道・胃外科標準手術―操作のコツとトラブルシューティング (Digestive Surgery NOW),メジカルビュー社 2008
2) 主婦の友社 編集、池上保子・羽生富士夫・喜多村陽一 監修:胃を切った人の食事―おいしく食べて治す 消化器をいたわるレシピ200 (おいしく食べて治す),主婦の友社 2003
情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

※ マイメドでは、疾患項目の追加、および最新情報をお知らせするためにメールマガジンを配信しております。ご希望の方は下記にメールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。
なお、次の職業の方は、職業をご選択の上、メールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。