神経膠腫 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.18

神経膠腫(しんけいこうしゅ)

glioma

執筆者: 三島 一彦 西川 亮

概要

 脳には、神経細胞と神経線維以外にその間を埋めている神経膠細胞(グリア細胞)があります。

 この神経膠細胞から発生する腫瘍の総称が神経膠腫(グリオーマ)です。神経膠腫は全脳腫瘍の中の約30%を占め、腫瘍を発生するもとの細胞の種類から、星細胞系腫瘍(せいさいぼうけいしゅよう:原発性脳腫瘍の約22%)、乏突起膠腫(ぼうとっきこうしゅ:約1.1%)、上衣腫(じょういしゅ:約1.1%)、脈絡乳頭腫(みゃくらくにゅうとうしゅ:約0.3%)などに分類されます。

 一般に、この腫瘍は周囲の脳にしみ込むように拡がる浸潤性の性質をもち、正常脳との境界が不鮮明で、手術で全部摘出することが困難なことがあります。神経膠腫の中で最も多い星細胞腫群は、その悪性度によって脳腫瘍WHO (世界保健機構)分類により4段階(grade:グレード; I〜IV)に分けられます。

 最も悪性度の低いgrade Iは毛様性星細胞腫といい、増殖能が低く主に小児の小脳や視神経、視床下部に発生する腫瘍で、あまり周囲の脳に浸潤せず、肉眼的に全摘出できれば治癒することが期待できるものです。

 Grade IIはびまん性星細胞腫 (diffuse astrocytoma) とよばれ、増殖能は低いのですが、脳に浸潤する性格をもち、しばしば再発し経過中悪性のものに変化 (悪性転化)する可能性があります。手術で全部摘出できない場合は術後に放射線療法が必要になります。

 Grade IIIは退形成性星細胞腫 (anaplastic astrocytoma)といい、病理組織的に腫瘍細胞は多形性で核異型があり核分裂像が散見され、退形成(悪性)変化が加わった腫瘍です。治療には放射線と化学療法を必要とします。

 Grade IVは膠芽腫 (glioblastoma) といい最も悪性度が高く、特に脳への浸潤性格が強く、病理組織的には腫瘍細胞密度が高く多形性と顕著な退形成を示し、壊死と微小血管増生がみられ、手術での全摘出は困難です。従って術後の放射線療法と化学療法は必須です。

 悪性神経膠腫やhigh-grade gliomaという場合はgrade III, IVの腫瘍をさし、low-grade gliomaという場合はgrade I, IIの腫瘍をさします。それぞれの星細胞腫群では好発年齢が違っており、びまん性星細胞腫は24〜49歳、退形成性星細胞腫は35〜54歳、神経膠芽腫は45〜64歳と約10歳の幅で異なります。

 WHO分類のgrade は臨床的な予後によく相関し、grade IIでは生存期間中央値が7-9年、grade IIIは2-3年、grade IVは1年以内とされています。予後を規定する因子としては病理組織像の他に、年齢(若年)、手術摘出率、術前の神経症状の程度(軽度)、などが関与します。

 神経膠腫の治療が難しいのは、前記したように腫瘍が浸潤性の性格をもつことや、腫瘍細胞が単一の集団ではないこと、腫瘍細胞が抗がん剤に対する耐性機構をもつこと、放射線治療に抵抗性を示すこと、脳の血管が抗癌剤などの物質を通過させない脳血液関門 (Blood brain barrier: BBB) をもつこと、などが理由となっています。

病因

星細胞系腫瘍

 星細胞系腫瘍の腫瘍形成や悪性化には,複数の癌遺伝子や癌抑制遺伝子の異常が関与していることが明らかになっています。

 癌遺伝子は細胞増殖を促進する遺伝子で、細胞の癌化を促進します。癌抑制遺伝子はその遺伝子の異常により遺伝子産物であるタンパク質がつくられなかったり、タンパク質の機能低下や失活により、細胞の癌化が促進されます。

 例えばp53というがん抑制遺伝子は、本来細胞分裂を停止させ、その間にDNAの損傷した細胞を細胞死に導き、遺伝子に異常が生じた細胞を体内から取り除く働きをしていますが、p53に異常が生じると、この機構が働かなくなり、細胞内での遺伝子異常が蓄積し癌化が促進されます。

 Grade IIの星細胞腫では、p53遺伝子の異常と血小板由来増殖因子 (PDGF-A) 、PDGF受容体 (PDGFR)-αの高発現が認められ、これらの遺伝子異常は腫瘍の発生段階に関与していると考えられています。また、さらにこの腫瘍が悪性化し、grade IIIさらにgrade IVの膠芽腫になる(星細胞腫が膠芽腫に段階的に悪性化する場合をsecondary glioblastoma;二次性膠芽腫といいます)には網膜芽細胞腫(RB)遺伝子の異常、第10染色体の欠失、などが関与していると考えられています。

 前記のように、星細胞腫から悪性化するのではなく最初から膠芽腫が発生する場合(primary glioblastoma; 一次性膠芽腫といい95%はこれにあてはまります)には、その腫瘍形成に上皮増殖因子受容体(EGFR)の増幅と異常や、RB遺伝子の異常、第10染色体の欠失、PTEN遺伝子の異常、p16やp14遺伝子の欠失、MDM2の高発現などが関与していることが示唆されています。

乏突起膠腫

 乏突起膠腫で最も高頻度に認められている遺伝子異常は1番染色体短腕(1p)および19番染色体長腕(19q)の欠失であり、grade II及びgrade IIIの退形成性乏突起膠腫においても概ね6-8割の腫瘍で認められます。

 また70%以上に1p. 19qの欠失が同時に認められ、この腫瘍の発生に関与するとともに乏突起膠腫の分子マーカーとして病理診断上有用であると考えられています。また、この双方の欠失があるものは、ないものに比較し、放射線や化学療法によく反応し予後がよいことが明らかになってきました。

臨床症状

 脳腫瘍による症状は,大きく2つに分けられます。

(1)腫瘍の増大、脳浮腫、静脈還流障害、髄液循環障害などが原因となって頭蓋内圧が亢進して出現する一般症状と、
(2)腫瘍による脳組織の圧迫や損傷により腫瘍が発生した場所に応じて生じる局所症状(巣症状)があります。

頭蓋内圧亢進症状

 頭蓋内圧亢進症状は、頭蓋骨の内部の圧が高くなることによっておこる症状で、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害へと進行していきます。脳は頭蓋骨に囲まれているため、脳腫瘍によって容積が増え内圧が上昇した結果、これらの症状がおこります。特に悪性腫瘍では、大きくなる速度が速く、しかも腫瘍の周囲に広範な脳のむくみ (浮腫) を伴うため、急激に圧が上昇します。

 腫瘍のできる部位によっては、腫瘍が小さくても脳脊髄液の通路が障害されて、脳室に水がたまり水頭症をおこします。この場合も頭蓋内圧が高くなります。頭蓋内の圧が極度に高くなると、大脳と小脳の間にあるテントという膜の隙間や、脳と脊髄を連絡する大後頭孔に向かって脳の一部が陥入する脳ヘルニアがおこり、意識障害、呼吸障害などの重篤な状態を引きおこします。

局所症状(巣症状)

 腫瘍により脳が圧迫、浸潤、破壊を受けて局所の機能脱落症状をきたします。

 また刺激症状として、てんかんをおこすこともあり、発育の緩徐な乏突起膠腫や星細胞腫に多く、20歳以後の初発てんかんでは脳腫瘍を考慮して検索をすすめる必要があります。

 大脳半球に主に発生する星細胞系腫瘍では前頭葉,頭頂葉,側頭葉,後頭葉に関連する症状や,大脳基底核,視床,内包などの深部構造が障害されたために起こる様々な局所神経症候が出現します。

 脳は部位によって機能が違うため、腫瘍のできた部位によって出現する症状が異なります。例えば、前頭葉と頭頂葉を分ける中心溝という溝のすぐ前は運動野と呼ばれ、この領域の障害により病変と反対側の運動麻痺が出現します。

 また優位半球(多くは左大脳半球)の前頭葉の下側方および側頭葉の後上方には言語中枢があり、それぞれ障害を受けると、相手の話は理解できるが自分ではしゃべれない運動性失語と、相手の話も理解できなくなる感覚性失語をきたします。

 後頭葉には視覚の中枢があり、一側の後頭葉の障害で、その反対側の半盲(左右ともに右半分あるいは左半分の視野が欠ける状態)をおこします。その他、腫瘍の発生部位により、頭頂葉では左右が分からなくなる、計算ができなくなる、読み書きができなくなる、知っている場所で迷子になってしまう、前頭葉や側頭葉では記憶力が低下する、性格が変わる、など様々な症状が出現します。

 小脳は運動のバランスをとる部分であるため、小脳の腫瘍ではまっすぐに歩けないなどの歩行障害が出現します。また、脳脊髄液の通路に近いため、その通過障害により水頭症も出現します。脳幹は脳のすべての神経が集まり脊髄に移行する部分であるため、小さな病変でも四肢麻痺が生じることがあります。また、脳神経の様々な核があるためその障害で、顔面神経麻痺、顔面の知覚障害、眼球運動障害による複視、嚥下障害なども呈してきます。

腫瘍別の症状

 びまん性星細胞腫では頭蓋内圧亢進症状があらわれる前に、腫瘍ができる部位による 色々な局所症状が先行します。てんかんを起こすことも多いです。

 悪性度の高い膠芽腫は急速に増大し、同時に周辺脳に浮腫を伴うので、発症から診断までの期間が短くほとんどが半年以内に診断されます。初発症状として頭痛が最も多く、けいれん、性格変化などが、運動麻痺のようにはっきりした局所症状よりも多いです。ときに腫瘍内出血をきたし、脳卒中のような症状を呈し、急激に症状が悪化することがあります。

 乏突起膠腫は大脳表層に近く発生し、かつ緩徐に増殖する腫瘍であるので,急激な神経症状の悪化を見ることは少なく,症候性てんかんで発症することが多いです。その他の初発症状としては,発生した大脳の部位に応じての緩徐進行性の局所症状をみます。膠芽腫とは対照的に,頭痛や嘔吐などの強い頭蓋内圧亢進症状を呈することは稀で、性格変化などが前面に出ることも多く、脳梁を侵すと痴呆が比較的頻繁にみられます。

検査成績

 神経膠腫を含めて脳腫瘍の診断には、CT(コンピュータ断層撮影:X線を利用)やMRI(核磁気共鳴画像:磁気を利用)などによる脳の断層画像を撮影します。これらで脳内のどこに腫瘍があるのかを調べます。脳腫瘍が疑われた場合は、ヨード剤やGd-DTPAなどの造影剤を静脈内注射して撮影する造影CTや造影MRIが必要です。また、画像の特徴から腫瘍の種類を推定することができます。星細胞系腫瘍において、びまん性星細胞腫はMRI T1強調画像で低信号、FLAIR (fluid-attenuated inversion-recovery)画像やT2強調画像で高信号を示し、周囲との境界が明瞭で脳浮腫もほとんどみられません。また造影剤による増強もみられないことが多いです(図1)。

(図1)



退形成性星細胞腫では不整形となり脳浮腫がみられ、部分的に造影効果もみられます(図2)。

(図2)



 最も悪性の膠芽腫では不均一な信号強度を呈し、不整形でGd-DTPAによる増強効果も強く不均一になり、リング状増強効果や多発性に増強効果がみられ、腫瘍内に壊死や出血を認める事も多く、周囲の脳浮腫も強くなります。片方の大脳半球にとどまらず,脳梁を介して反対側の半球にまで広がることも比較的多くみられます(図3)。

(図3)



 また脳室の壁に沿って浸潤した像や、くも膜下腔へ浸潤する播種像を見ることもあります(図4)。

(図4)



 膠芽腫は画像上、転移性脳腫瘍、悪性リンパ腫との鑑別が難しいことがあります。

 乏突起膠腫では、CTで石灰化像を認め(50〜90%)腫瘍嚢胞を伴う境界不鮮明な低吸収域として捉えられます。概してMRIではT1強調画像で低信号,T2強調画像では内部が不均一な高信号域となり、石灰化の部分は強い低信号域として,嚢胞は高信号域としてとらえられ,周囲脳組織の浮腫あるいは腫瘍浸潤部は高信号域として描出されます。腫瘍内出血もしばしば(22%)認めます。造影MRIでは,悪性度が高くなるにつれて部分的な増強像をみます(図5)。

(図5)



 星細胞腫との鑑別ですが、星細胞腫の方がより均一で石灰化は少なく、より深部に発生する傾向があります。

 浸潤性の神経膠腫では,FLAIR画像で高信号として捉えられる領域は,CT上の低吸収域よりも広い傾向があり,この領域には浸潤する腫瘍細胞が存在すると考えられます。

 更に、MRS(magnetic resonance spectroscopy;化学成分の分布が分かる)、PET(positoron emission tomography;腫瘍の代謝が分かる)、SPECT(single photon emission computed tomography;腫瘍の血流や代謝が分かる)などの検査で、腫瘍と脳梗塞や変性疾患との鑑別、放射線障害による壊死と腫瘍再発との鑑別や腫瘍の悪性度の評価がある程度可能です。

 また、腫瘍内の血管分布や腫瘍周囲の血管の細かな情報が診断と手術のために必要であり、カテーテルを用いた脳血管撮影が行われます。悪性神経膠腫ではしばしが腫瘍濃染像を認めます。最近では、MRA(magnetic resonance angiography)やhelical CTなど、侵襲の少ない方法で代用されることも場合によっては可能です。

治療

 手術療法、放射線療法、化学療法、が一般的な治療法で、その他に、遺伝子治療、温熱療法、免疫療法、などがあります。原則的には全ての神経膠腫で外科的切除が必要です。

 手術の目的は、

(1)病理組織診断の確定、(2)腫瘍そのものの摘出、(3)腫瘍周囲の脳への圧排の軽減です。

 臨床症状や画像での診断では確実でなく、手術時に得られた組織標本を、病理学的に検討して初めて正確な組織診断が下されます。この診断をもとに、各腫瘍に適した放射線治療、化学療法などの補助療法を選択します。

手術について

 神経膠腫は悪性度を問わず,手術による腫瘍摘出率と生命予後との間に有意な相関があります。

 例えば悪性度の最も高い膠芽腫において、MRI上腫瘍を98%以上摘出できた症例では98%未満のものに比べ有意に生命期間が延長することが報告されています。

 神経膠腫は一般に浸潤性で正常組織との境界が不明瞭であり,大事な脳の機能を温存しながら全摘出することはしばしば困難です。そこで重要な機能の存在する部位に腫瘍があったりその部分に近接する場合には、手術中の電気生理学的なモニター(sensory evoked potential(SEP), motor evoked potential(MEP))で運動野や運動神経の部位を同定したり、ニューロナビゲーションシステムを利用し手術部位を検知したり、覚醒下手術で言語野を同定するなどが行われています。また、腫瘍の摘出率をあげるため、腫瘍の蛍光標識、術中CTやMRIなどの工夫が行われています。

 腫瘍を蛍光標識する1つの方法として5-aminolevulinic acid (5-ALA)が用いられます。5-ALAは種々の癌細胞に選択的に取り込まれ、細胞内の酵素でprotoporphyrin IX(PpIX)が合成され蓄積することが知られています。特定の励起光で術野を照射するとこのPpIXが蛍光を発し腫瘍の同定が可能になります。悪性神経膠腫の摘出にもこの方法が使用され、摘出率向上の助けになります(図6)。

(図6)


補助療法について

 一般的に,悪性神経膠腫の術後には,補助療法として放射線治療と化学療法が行われます。

 膠芽腫と退形成性星細胞腫は本来放射線抵抗性の腫瘍ですが,放射線療法による生存期間の延長が証明されています。腫瘍局所に総線量60Gy程度を分割照射します。神経膠腫患者の生存期間の延長とともに,放射線照射による遅発性脳障害も近年大きな問題となっています。脳の放射線壊死にかぎらず,慢性的に進行する広範な脳組織の萎縮とそれに伴う高次脳機能障害が,照射を受けた長期生存例や高齢者では高頻度に生じるので,今後は放射線のかけ方や線量などをさらに検討する必要があります。

Low-grade gliomaに対する治療

 現在の標準治療は手術摘出と放射線照射(50Gy)ですが、手術でほぼ全摘出された場合は照射せず経過をみることもあります。

 放射線治療のタイミングを調べるためlow-grade gliomaに対してヨーロッパで臨床試験が行われました。その結果、術後早期に54Gyの放射線治療を行った場合の無増悪生存期間は5.3年で、術後早期に放射線治療を行わなかった場合の3.4年に比較し、再発までの期間が延長することがわかりました。しかし生存期間に関しては、再発後に照射を行った群で7.2年、早期に照射した群では7.4年と両者の間に有意な差がなかったことが報告されています。

 また、Low-grade gliomaに対し行う放射線治療を、低い線量50.4Gyと高い線量64.8Gyで施行した場合の生命予後と副作用について比較する臨床試験が行われ、前者の5年生存率が72%、後者は64%と低線量の方がやや成績がよく、また副作用である放射線壊死の頻度も高い線量の場合の5%に対し2.5%と低いことが報告されました。この結果より、low-gared gliomaに行う放射線治療の線量は50.4Gy でよいと考えられます。

 low-grade gliomaは比較的長期に生存可能ですので、放射線照射後生じうる高次機能障害、内分泌機能の低下、脳萎縮などの障害を軽減する目的で、照射の開始を遅延させることや、回避するこができないかの検討が必要です。ヨーロッパでは照射の変わりに後述する抗がん剤:テモゾロミドによる治療を行う群と照射する群を比較し高次機能を含めた予後を検討する臨床試験が行われていますが、結果がでるのはまだ先のことです。

 Low-grade gliomaは比較的早期に悪性転化する症例もあり、その予後の違いから2つに分けて扱うべきだとする考え方があります。それによると

1)40歳以上、

2)腫瘍径6cm 以上、

3)腫瘍が正中を越える、

4)組織学的に乏突起膠腫成分を含まない、

5)神経学的症状を呈する、

 という5つの予後不良因子があり、この因子が2つ以下の腫瘍はlow-risk(低リスク)群、3つ以上の腫瘍はhigh-risk(高リスク)群と分類したところ、low-risk群の生存期間中央値は7.8 年、high-risk群の生存期間中央値は3.7年とhigh-risk群では退形成性星細胞腫に匹敵する予後の悪さでした。

 従ってhigh-riskに属するlow-grade gliomaは、退形成性星細胞腫に対する治療すなわち放射線と化学療法(テモゾロミド)を行うべきであるとの考えが提唱され、現在欧米で検証中です。また、low-riskのlow-grade gliomaに対しては放射線治療を行う群と、照射せずテモゾロミドで治療する群を比較する臨床試験がヨーロッパで進行中です。

High-grade gliomaの治療

 現在の標準治療は手術摘出と放射線照射(60Gy)と化学療法です。用いる化学療法剤テモゾロミドについて少しくわしく説明いたします。

 テモゾロミドはアルキル化剤に分類される抗がん剤で悪性神経膠腫の治療薬として最近非常に注目されています。

 この薬は、血漿中など生理的条件下で容易に加水分解されメチルトリアゼン誘導体である5-(3-methyltriazen-1-yl)imidazole-4-carboxamide(MTIC) に変換されます。

 MTICは活性本体であるメチルジアゾニウムイオンの中間型であり、極めて不安定であることから、すみやかにメチルジアゾニウムイオンと副産物(6-aminoimidazole-4-carboxamide(AIC)に分解され、このメチルジアゾニウムイオンがDNAのグアニンのO6位にメチル基を付加してアルキル化を起こすことにより、細胞増殖抑制作用を示します。

 この反応は酵素反応でないため人種差がないとされています。テモゾロミドは、脳腫瘍の治療を難しくしている抗がん剤の通過を妨げる脳血液関門(BBB)を通過することが可能です。

 日本では、2002年10月より再発神経膠腫の患者さんを対象に第I相臨床試験(副作用を正確にに把握し推奨用量を決定する試験)が行われ、薬物動態プロファイルには人種差がないこと、また副作用も外国人と同程度であることが確認されました。

 引き続き2003年から初回再発退形成性星細胞腫に対する第II相臨床試験(薬剤の有効性を腫瘍縮小効果について検討する試験)が行われ、欧米で施行された第II相試験の結果とほぼ同等の有効性と副作用であることがつい最近報告されました。この第II相試験の結果をもとに厚生労働省によって優先審査を受け2006年7月には悪性神経膠腫を適応として承認され、9月15日より市販されるに至りました。

 膠芽腫に対する初回治療としてテモゾロミドを放射線治療と併用する大規模な臨床試験がヨーロッパとカナダで行われ2005年に結果が発表されました。

 この試験は膠芽腫を対象に術後放射線照射にテモゾロミドを併用する治療法と、これまでに標準治療と考えられていた術後放射線治療単独とを比較するもので、テモゾロミドは照射中75mg/m2を連続内服、照射後は150-200mg/m2を28日ごとに連続5日間内服するサイクルを6サイクル行う方法で投与されました。

 その結果、生存期間中央値は放射線単独群の12.1ヶ月に対し、テモゾロミド併用群は14.6ヵ月とテモゾロミド併用群の生存期間中央値が有意に延長しました。副作用としては放射照射との併用時期に7%、テモゾロミド単独投与時期に14%の患者さんにグレード3-4の血液毒性が見られていますが,これはとても軽いものと評価できます。

 この報告によって膠芽腫に対する世界的な標準治療は、術後の放射線照射と照射中ならびに照射後にテモゾロミドを併用することになりました。日本では悪性神経膠腫に対してこれまでACNUを中心としたニトロソウレアを抗がん剤として併用する治療がおこなわれてきました。

 これは1990年代に日本で行われた臨床試験で、ACNUを放射線治療に併用すると生存率には有意差はないが、奏功率は勝っていたという結果にもとづいています。テモゾロミドとニトロソウレアの効果を直接比較した臨床試験の結果はありませんので確実なことはいえないのですが、生存期間を確実に延長するという結果より、日本でもテモゾロミドを使うことが膠芽腫に対する標準治療として受け入れられつつあります。

 退形成性星細胞腫に対しても、テモゾロミドを放射線治療と併用する治療が標準治療と考えられます。

 70歳以上の高齢者の膠芽腫は特に予後が悪く、積極的治療を行わないという考え方もありますが、放射線治療は無増悪生存期間、生存期間を共に延長させることが示されました。それでも生存期間は6.5ヶ月と不良です。

 またQOLの観点から照射期間を少しでも短縮できないかも検討され、6週間で60Gy照射する従来の方法と、3週間で40Gy照射する方法が比較され、生存期間に差がないことが示されました。また放射線治療による副作用を軽減するとともに治療効果をあげる方法として、まだ結果はでていませんが、65歳以上の高齢者に放射線照射の変わりにテモゾロミド単独で治療する方法や、照射の線量を下げてテモゾロミドを併用する試みが欧米で臨床試験として行われています。

テモゾロミドの効果予測因子

 テモゾロミドに対する効果を予測する因子についても調べられています。膠芽腫などの腫瘍細胞にはDNA修復酵素であるO6-methlguanine-DNA methyltransferase(MGMT) があります。

 MGMTは抗がん剤(アルキル化剤)で損傷した細胞のDNAを修復し、その効果をうち消してしまう働き(耐性)に関与し、MGMTの発現はMGMT遺伝子のプロモーター領域のメチル化により抑制されることが知られています。前述したヨーロッパとカナダで行われた膠芽腫に対する臨床試験の患者を対象に、テモゾロミドの治療効果にMGMTが関わるかが調べられました。

 MGMT遺伝子のプロモーターにメチル化がある膠芽腫の患者さんでは,放射線治療とテモゾロミドを使った治療をすると全生存期間中央値は21.7ヶ月で、メチル化のない患者さんでは同じ治療をしても全生存期間中央値は12.7ヶ月でした。すなわちMGMT遺伝子のプロモーターの部分にメチル化がある膠芽腫患者さんの方がメチル化のない患者さんより生命予後がよいことが判りました。

 この事実は,MGMT遺伝子のプロモーター部分のメチル化を調べることによってテモゾロマイドを投与した方が良いかどうかがあらかじめ判るということを示しています。MGMT遺伝子のプロモーター部分のメチル化のない患者さんには、他のアルキル化剤を組み合わせて投与したり、テモゾロミドを長期に投与することで、MGMTを枯渇させるような治療法が現在欧米を中心に臨床試験で試されています。またこのような症例には、より強力な治療を開発する必要があると考えられます。

退形成性乏突起膠腫の治療

 退形成性乏突起膠腫はPCV(procarbazine+CCNU+Vincristine)療法という化学療法に高い感受性を示すこと、その感受性が染色体異常すなわち染色体1番の短腕(1p)と19番の長腕(19q)のヘテロ接合性の消失(loss of heterozygosity; LOH)の有無と相関することが以前よりいわれてきました。

 最近ヨーロッパとアメリカで退形成性乏突起膠腫を対象に行われた臨床試験では、放射線照射にPCV療法を加えることにより、再発までの期間は有意に延長するものの(PCV+照射; 2.6年、照射のみ; 1.7年)、生存期間は延長しない(PCV+照射; 4.9年、照射のみ; 4.7年)ことが示されました。

 すなわちPCV 療法には一定の効果が認められるものの、初回は放射線単独で治療し再発後に化学療法を行っても初回から化学療法を併用しても、最終的な生存期間は同等であったということです。さらにPCV治療により、グレード3/4の有害事象が65%にもみられることがわかり、PCV療法を初回から行うべき治療であるかは慎重に検討する必要があると考えられます。

 また染色体1pと19qの欠失の有無でさらにくわしく解析すると、双方の欠失がある群では生存期間が7年以上、欠失がない群では2〜3年と欠失のある群が有意に優れていました。しかし、この生存期間の有意な延長はPCV療法の有無にはかかわらず、照射単独でもみられることがわかりました。

 このことは、1pと19qの欠失は予後がよいという特徴を備え持つ腫瘍の一群である可能性を示しています。

 現在PCV療法にかわって、より副作用の少ないテモゾロミドの効果がどうであるかの臨床試験が欧米で行われています。

再発悪性神経膠腫に対する治療

 これまで再発悪性神経膠腫に対しては様々な化学療法が試みられてきましたが、標準治療となるエビデンスレベルの高い有効性が証明されていませんでした。

 その中で欧米においてテモゾロミド単独治療による再発悪性神経膠腫に対する有効性、安全性が報告され注目を集めました。

 再発退形成性星細胞腫を対象とした米国の臨床試験では、奏功率は35%、無増悪生存期間中央値は5.5ヵ月、生存期間は14.2ヵ月と報告されています。日本でも同様の臨床試験が最近行われ、奏功率は34% 、無増悪生存期間中央値は3.9ヵ月であったと報告されました。

 再発膠芽腫に対する米国の臨床試験では無増悪生存期間中央値が2.9ヵ月、全生存期間中央値は7.3ヵ月と報告され、またヨーロッパで行われた臨床試験では無増悪生存期間中央値が2.1ヵ月、全生存期間中央値は5.4ヵ月と報告されています。テモゾロミドが有効であった再発膠芽腫と退形成性星細胞腫の自験例を呈示します(図7)。




 現在、欧米ではテモゾロミドに様々の抗がん剤や従来の抗がん剤とは異なった機序で抗腫瘍効果を発揮する種々の分子標的治療薬を組み合わせることにより、よりよい治療法の開発を目指して臨床試験がなされており、今後その結果が注目されます。

(MyMedより)推薦図書

1) 日本脳神経外科学会・日本病理学会 編集:臨床・病理 脳腫瘍取扱い規約―臨床と病理カラーアトラス,金原出版 2010

2) 福島孝徳 著:ラストホープ 福島孝徳 「神の手」と呼ばれる世界TOPの脳外科医,徳間書店 2004

3) 藤巻高光 編さん:患者と読む、患者に話す脳腫瘍Q&A135―脳腫瘍と闘うために、すべてがわかる,メディカ出版 2007
 

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