小児における再生医療 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.19

小児における再生医療(しょうににおけるさいせいいりょう)

Regenerative medicine in pediatric diseases

執筆者: 小室広昭

概要

失われた機能の回復を目指した医療 


 「失われた臓器や機能の回復」は医学の、そして小児外科における永遠のテーマであり、これまでに様々な治療法が考案され、実践されてきた。一つは自己の他臓器で代替する方法であり、食道や膀胱の代わりに胃や腸で代用する治療などがその典型例である。もう1つは肝臓、腎臓、腸管のような複雑な臓器に対して他人の臓器を移植する方法であり、生体部分肝移植などは小児外科医がリードして行われてきた。さらには、心臓や血管、腎臓などの代替として人工臓器をもちいる方法も行われてきた。しかし、それぞれ様々な問題を抱えているのが現状であり、決っして満足のいく治療とは言いがたい。そこで、21世紀の医療として注目を浴びているのが臓器を自己の細胞を用いては甦らせようとする再生医療である。 

Tissue engineering (テッシュエンジニアリング)

 再生医療の始まりは、細胞から組織や臓器を作るTissue engineeringという概念で、1980年代に米国マサチュセッツ工科大学(MIT)のランガーとボストン小児病院の小児外科医であるバカンティによって提唱され、Science誌に発表されたのが1993年であった。
 Tissue engineeringとは、細胞(Cells)と足場(Scaffolds)と液性因子(Growth factors)を駆使することによって、本来の組織と同じものを作り上げようという治療戦略である。よく用いられるのは生体吸収性の足場に細胞を播種して組織を作り出すものである。生体吸収性材料としては生体内にも存在する天然高分子のコラーゲンや手術材料などに用いられる人工高分子のポリグリコール酸(PGA)やポリ乳酸(PLA)などであり、これらを用いて自由に形状を作ることが可能になる。こうした足場は最終的には吸収されて最終的には自己の細胞外マトリックスで置き換わるように設計されている。
 このように生体分解性ポリマーと細胞培養を組み合わせて皮膚や軟骨など比較的単純な組織を作り出すことに成功したが、現時点ではより複雑な臓器を作り出すにはまだ限界があるといわざるをえない。 
 

幹細胞

 再生医療の研究が進む上で注目されてきたのが幹細胞である。幹細胞という概念はすでに以前からあり、血液幹細胞のように医療現場で利用されているものもあった。一方で,身体中のあらゆる細胞に分化する能力を秘めた「胚性幹細胞(ES細胞)」がヒトで確認されたのが1998年のことである。同じ1998年には、大人の脳でも神経細胞が新たにつくられていることが証明され、スペインの神経解剖学者ラモニ・カハールが唱え1世紀以上にわたって信じられてきた「脳のニューロンは再生しない」という常識を覆したこの成果は神経幹細胞の発見につながり、その後、やはり再生しないといわれた心臓でも幹細胞による再生の可能性が示されている。
 このように、多分化能を持った幹細胞の存在に注目が集まり、さらにはそのような細胞が胎生期ばかりでなく、成人の組織にも存在することが次々に示され、現在、骨髄の間葉系幹細胞をはじめとして、生体のあらゆる組織から幹細胞が分離同定されるに至っている。幹細胞とは自己複製能と多分化能を持つ細胞と定義され、非対称分裂をする能力を持ち、自己を残しながら、様々な細胞に分化していくことができる。幹細胞のこうした能力を利用して組織を作っていこうとする夢のような再生医療が始まろうとしている。 

小児における再生医療の意義

 小児における再生医療の成果は成人のそれ以上のものと期待される。その理由は、
1) 小児の強い再生力を利用できること。
 つまり、小児においては成人に比べ幹細胞の数も多く、増殖力も強いことがわかっており、この小児期特有の再生力を利用することができる。小児においては成人に比べてはるかにすぐれた再生力がそなわっていると考えられるため、再生医療を応用した場合の成果も大きいことが期待される。
2) 再生医療は自然治癒力を利用した低侵襲の人に優しい医療であること。
 再生医療は、これまでのいわば強引とも言える無理に直そうとする医療でなく、自分の力で無理なく直ろうとするのを後押しするような治療と考えられる。従って、人に優しく、低侵襲で、副作用の少ない医療をまだ未発達でかよわい小児にも提供することができる。そこでは人工臓器の異物反応や移植に伴う免疫抑制剤の使用などといった心配の種もなくなるのである。
3) 小児の成長と共に成長する再生組織。もし、組織が再生できたとするとその組織は小児の成長に合わせて成長することが期待されるため、人工臓器のようにサイズの問題が存在しなくなるため、小児の後先長い一生の間、交換の必要もなくずっと機能してくれるものと期待される。このように、再生医療は小児にこそ最も有効な医療であるといっても過言ではなく、小児外科疾患に対する画期的な治療法になるものと期待される。 

小児外科における再生医療

 それでは、小児外科ではどんな夢の医療が期待できるのだろうか。Tissue engineeringとしては、食道閉鎖症における食道の再生、気管狭窄症に対する気管の再生、膀胱拡大術に替わる膀胱の再生、短腸症候群に対する小腸の再生、横隔膜ヘルニアの治療に向けた横隔膜の再生、腹壁欠損に対する腹壁の再生、さらには肝移植に代わる肝の再生など、臓器の再生ができればなんとすばらしいことであろうか。実際にこれらの再生の研究が日々なされている。こうした夢のような試みが成功すれば先天性の臓器欠損を持った子供にとって朗報となることは間違いない。 
 ボストンのグループは、胎児の細胞を用いて出生前に組織を作り、出生後にそれを利用した組織の置換医療を行うという概念(Fetal tissue engineering)を提唱している。胎児診断から治療までをプランニングする新たな治療概念であり、小児外科における再生医療の応用としての将来の一つの姿を現していると思われる。
 幹細胞を利用した再生医療の研究も盛んになってきており、今後の研究の発展に期待が持たれる。その一つにヒルシュスプルング病に対する神経提幹細胞移植などの研究も行われている。
 これまで長い間、人とは無縁と考えられていた「再生」という概念が、医療の方向性を大きく変えようとしている。今後の再生医療の発展が、生まれながらに小児外科疾患というハンディキャップを背負って生まれてきた多くの子供たちに大いなる恩恵をもたらすであろうことを夢見てやまない。

参考文献

1) 小室広昭:再生医学の小児外科への応用―Tissue engineeringから幹細胞の利用まで, 小児外科 36:1425-1429, 2004

2) Fauza DO:Amniotic fluid and placental stem cells. Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol. 18:877-891,2004

(MyMedより)推薦図書

1) 八代嘉美・中内啓光 著:エスカルコ゛・サイエンス 再生医療のしくみ (エスカルゴ・サイエンス),日本実業出版社 2006

2) 東嶋和子 著:よみがえる心臓―人工臓器と再生医療,オーム社 2007
 

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