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portal vein thrombosis
執筆者: 緒方 裕
門脈血栓症(portal vein thrombosis)は様々な疾患を背景として、肝内外の門脈に血栓を形成し、その結果、門脈圧亢進症、ショック、肝不全などを呈する疾患である。 急速に血栓が形成され、門脈本幹が閉塞する場合は重篤な状態に陥り、死に至る場合がある。血栓が上腸間膜静脈まで進展すれば、腸管壊死に陥ることもあり、速やかな診断と治療が必要である。急性期の症状が消失した後、肝門部に求肝性側副血行路(cavernomatous transformation)が形成され、肝外門脈閉塞症(extrahepatic portal vein obstruction: EHO)に移行すると長期にわたり門脈圧亢進症に対する治療が必要である。 本症は1869年に、BalfourとStewartによりはじめて報告され、その後種々の疾患に合併し発症することが示された。小児から成人まで様々な年齢でみられ、性差はない。発生頻度は剖検例で0.05~0.5%とされ、比較的まれな疾患である[1]。
一般的に静脈血栓形成の要因として、血管内皮の障害、血流異常や血液凝固能の亢進、線溶能の低下、血小板の数的・機能的異常などの血液性状の変化があるが、これらの要因が様々な疾患を背景に門脈に及べば門脈に血栓が形成される。

(表1. 門脈血栓症の原因疾患)
小児では、新生児臍炎、急性虫垂炎、腹膜炎などの感染症が原因であることが多い[2]。感染症では血液凝固能が亢進し、線溶系が抑制される。さらに小児では容易に脱水に陥りやすいため、血栓症を発生しやすくなる。
成人では、門脈圧亢進症に合併したものが最も多く、とくに肝硬変がもっとも頻度の高い基礎疾患である。肝細胞癌、膵癌などの悪性腫瘍に続発する門脈血栓は肝硬変に次いで多く、成人の門脈血栓症の21~24%を占める[3]。腫瘍の門脈への直接浸潤、機械的圧迫、手術操作や放射線治療による門脈周囲の繊維化が血栓形成の原因として指摘されている。腹腔内感染症を原因とする門脈血栓症は成人例の10~25%とされる[3]。慢性膵炎に続発する血栓症は門脈より脾静脈に血栓を形成することが多く、門脈本幹より左側領域のみの門脈圧が亢進する局所性門脈圧亢進症を呈する。脾摘後には血小板増加や感染、残存脾静脈内の血流うっ滞や血栓などが門脈血栓の原因と考えられる。原因のはっきりしない特発性門脈血栓症は本邦ではまれである。
肝硬変など門脈圧亢進症を基礎疾患にもつ場合には門脈圧の急上昇によって食道静脈瘤の急性増悪や静脈瘤破裂、腹水や脾腫の増大がみられ、肝機能の増悪や脾機能亢進による貧血、白血球および血小板減少を伴うこともある。血栓の発達が急速で、上腸間膜静脈までおよぶと腸管のうっ血や壊死をきたし、ショックや播種性血管内凝固症候群(DIC)などの重篤な状態となる[4]。門脈血栓が軽減せず、また進展が比較的緩徐で急性期の門脈血うっ滞が比較的軽度に経過した場合には数ヶ月以内に求肝性側副血行路が発達してEHOとなり、門脈圧亢進症が持続することになる。
肝硬変を基礎疾患にもつ場合は、EHOとは異なり、求肝性側副血行路は必ずしも形成しない。食道静脈瘤あるいは胃腎短絡路など、すでに遠肝性側副血行路が形成されている症例では、門脈閉塞部に十分な求肝性側副血行路を形成できず、門脈血が遠肝性側副路に向かうようになる。この血行動態の変化により門脈系より大循環系に短絡する血流が急速に増加し、食道静脈瘤や肝性脳症の増悪をきたすとともに、肝血流が極端に減少し、肝不全を惹起する要因となる。
急性門脈血栓症では、通常発熱、腹痛、下痢、悪心・嘔吐など非特異的な症状を示す。肝硬変など門脈圧亢進症を合併するときには食道静脈瘤破裂などの消化管出血、脾腫、腹水などが認められる。
門脈血栓症は、以前は血管造影(腹腔動脈、上腸間膜動脈、経皮経肝的門脈、術中門脈)が一般的検査法であった。しかし現在では、腹部超音波検査 (US)や超音波ドプラ、腹部CT検査、MRI検査が非侵襲的で有用とされる。
USは簡便であり、経時的変化や治療効果の観察ができることから、本症の診断において最も有用な検査法である。新鮮な血栓はhypoechoicに、器質化とフィブリン塊形成によってhyperechoicに描出される。血栓により門脈が閉塞している場合には門脈本幹あるいは左右の門脈枝は描出されないことが多く、代わりに肝門部に発達する側副血行路が認められる。血栓が陳旧性で十分に側副血行路が形成されている場合には閉塞部より腸間膜側の門脈径は拡張していないかやや細い程度である。一方、閉塞部より腸間膜側の門脈径が13 ないし15 mm以上に拡張し、かつ呼吸による門脈径の変化がみられない場合には急性門脈血栓症が強く疑われる[5]。また超音波ドプラ検査を併用することにより、門脈内腔の血流や側副血行路の血流方向を確認することが可能である。
CTは、門脈血栓の診断と経過観察に有用である。門脈や上腸間膜静脈の血栓は造影剤投与後低吸収域として描出される。新鮮血栓の場合は単純CTにて高吸収域としてみられることもある。間接所見として門脈側副血行路や肝実質の門脈血流減少部が動脈相で早期に造影され(segmental staining)、門脈相では周囲よりも低吸収域に描出される。門脈腫瘍塞栓と血栓では造影効果の違いがあり、鑑別可能である。MDCTはさらに診断能が高く、腸管壊死などの評価に期待される。
MRIは血栓の性状の評価に有用である。陳旧性の門脈血栓はT1強調画像では様々な信号を示すのに対し、T2強調画像では高信号を示す。一方、発生5週以内の急性の門脈血栓はT1、T2強調画像ともに高信号を示す[6]。門脈血栓の血管造影所見は、門脈本幹、肝内門脈枝内の透亮像として認められるが、大多くの症例では門脈は既に閉塞しており、門脈本幹自体の走行を同定するのは困難である。門脈閉塞部位では数条の求肝性側副血行路が描出され、さらに肝門部で多数の副血行路に分岐しcavernomatous transformationを呈する。門脈閉塞による血行動態の変化は求肝性に加え、食道静脈瘤、胃腎短絡路などの遠肝性側副血行路を形成する。MRI angiographyや3D CTでは血流のある部分だけを描出することが可能であり、通常の血管造影より低侵襲で、血栓の立体的把握に有用である。
門脈血栓症の治療は、門脈血栓そのものに対する治療と門脈圧亢進症に対する治療が必要である。
門脈血栓には血栓溶解・抗凝固療法などの保存的治療と外科的治療がある。
血栓溶解療法としてはurokinaseやtissue plasminogen activatorが全身投与、上腸間膜動脈投与、経皮経肝的門脈投与が報告されているが、どの経路でも良好な効果が得られている。可能な限り早期にできれば発症後24時間以内が望ましいとされる。抗凝固療法としてheparin、warfarin、antithrombin㈽製剤が用いられ、腸切除後の血栓再発防止に有効である[7]。
外科治療として血栓除去術(thrombotectomy)があるが、側副血行路の損傷の危険性や血栓除去後の再発率も高いことから、血栓が門脈から上腸間膜静脈まで進展し腸管の循環障害が広範囲に認められる場合に適応があり、腸切除に付加して行われる。門脈内視鏡を肝円索より挿入し内視鏡的に血栓を除去する方法も報告されている[8]。
門脈圧亢進症に対しては、食道・胃静脈瘤からの出血を制御することが治療の主体である。内視鏡的硬化療法、内視鏡的静脈瘤結紮術などの内科的療法と遠位脾腎シャント術、経胸食道離断術などの手術療法がある。
急性期に腸管壊死や食道静脈瘤破裂、肝硬変の急性増悪をきたさなければ数週間以内に側副血行路が形成されるため比較的予後は良好である。急性期に静脈瘤からの出血で致命的になることは内視鏡的治療が進歩した現在ではほとんどなく、合併病変が急性期の予後を規定する因子といわれている[7]。
しかし、腸切除にまで至った症例の予後は不良で、致死率は50%を超える。血栓が消失せず側副血行路のみでは門脈血流は完全に改善されない場合、恒常的な門脈血のうっ滞や門脈圧の亢進、遠肝性側副血行路の形成などがみられ、EHOが成立する。基礎疾患に肝硬変などの合併がなければ、通常長期にわたり肝機能は増悪せず生命予後は良好である。
生体肝移植後の門脈血栓症、狭窄の頻度は5%程度であり、術後早期の門脈血栓症は致命的となることがあり、USで早期に診断し、外科的に血栓除去や再吻合が必要である。晩期門脈血栓症では、側副血行路により肝内門脈の血流が保たれている場合は肝機能が上昇しないことがあり、経過観察が可能である。しかし、急性の消化管出血や高度の肝機能異常を伴う症例では外科的シャント術などが必要になることもある。全身的なrecombinant tissue plasminogen activatorの投与が有効であるとの報告もある[9]。
術前に門脈血栓症が存在する頻度は、急性血栓で0.8%、慢性血栓は1.2%と報告されている[10]。以前は門脈血栓が判明した時点で移植の適応外となっていた。しかし近年ではさまざまな方法を用い移植を行っている施設が多い。術前の正確な評価が必要となるが、いまだに血栓合併症のうち35~57%の症例で門脈血栓が術前に診断できず術中に判明することがある[10]。門脈血栓の存在する症例での生体肝移植では、術前の正確な評価が手術を成功させる鍵といえる。
1) Okuda K, Ohnishi K, Kimura K, et al: Incidence of portal vein thrombosis in liver cirrhosis. An angiographic study in 708 patients. Gastroenterology 89:279-286, 1985
2) Boles ET Jr, Wise WE Jr, Birken G: Extrahepatic portal hypertension in children. Long-term evaluation. Am J Surg 151:734-739, 1986
3) 大橋 薫, 児島貢嗣, 深澤正樹, ほか:門脈血栓症の病態と治療.臨床科学 32:1564-1570, 1996
4) Witte CL, Brewer ML, Witte MH, et al: Protean manifestations of pylethrombosis. A review of thirty-four patients. Ann Surg 202:191-202, 1985
5) Johansen K, Paun M: Duplex ultrasonography of the portal vein. Surg Clin North Am 70:181-190, 1990
6) Zirinsky K, Markisz JA, Rubenstein WA, et al: MR imaging of portal venous thrombosis: correlation with CT and sonography. AJR Am J Roentegenol 150:283-288, 1988
7) Webster GJM, Burroughs AK, Riordan SM: Portal vein thrombosis; new insights into aetiology and management. Aliment Pharmacol Ther 21:1-9, 2005
8) 渡辺 学, 炭山嘉伸, 武田明芳, ほか: 門脈内視鏡により血栓摘除を行った門脈血栓症の1例.日臨外会誌 59:1354-1357, 1998
9) Takatsuki M, Chen CL, Chen YS, et al: Systemic thrombolytic therapy for late-onset portal vein thrombosis after living-donor liver transplantation. Transplantation 77:1014-1018, 2004
10) Kadry Z, Selzner N, Handschin A, et al: Living donor liver transplantation in patients with portal vein thrombosis; a survey and review of technical issue. Transplantation 74:696-701, 2002
1) 日本超音波検査学会:腹部超音波テキスト,医歯薬出版 2002
2) 後藤信哉, 浅田祐士郎, 池田康夫:血栓症―やさしく・くわしく・わかりやすく,南江堂 2004
3) 日本消化器病学会 編集:肝硬変診療ガイドライン,南江堂 2010
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