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Esophageal hitus hernia
執筆者: 村越孝次
1. 概要食道裂孔をヘルニア門とし、腹部食道・胃の一部または全部が縦隔内へ脱出する横隔膜ヘルニアの一型である。小児では、腹部食道・胃噴門部がそのまま脱出する滑脱型が多く(85%)、症状は胃食道逆流症(GER)、食道炎・潰瘍による出血・貧血、逆流に伴う誤嚥性肺炎・気管支喘息等多岐に及ぶ。治療には保存的治療・外科治療がある。
.病因
2.1 先天性;種々の発生論があるが、確固たるものはない
2.2 後天性;
①横隔膜の脆弱化による食道裂孔の開大
重症心身障害児(者)、痙性四肢麻痺等でいわゆる寝たきり状態にあり、筋緊張、痙攣、脊柱側弯、上部消化管蠕動障害、誤嚥、閉塞性呼吸障害等が複合的に作用し、食道裂孔脚筋束の脆弱化とともにヘルニアとなる
②二次性;先天性食道閉鎖症、先天性横隔膜ヘルニア術後に発生する。
先天性食道閉鎖症の食道吻合術後には、検査のみの異常を含めると約2/3に胃食道逆流症(GER)が認められる。
3.病態生理
以下の胃食道逆流防止機構が形態的・機能的に損なわれ、胃内容が食道に逆流する胃食道逆流症(Gastroesophageal Reflux;GER)を呈する
①一過性下部食道括約筋弛緩下部食道括約筋が、食道・胃接合部に存在し、恒常的に収縮する筋群で構成されている。この括約筋は、嚥下やそれに伴う食道蠕動運動にしたがい弛緩するが、嚥下や食道蠕動とは無関係に一過性に弛緩することがあり(一過性下部食道括約筋弛緩;Transient LES relaxation), 胃食道逆流症の発生の要因の一つと考えられている。
②食道裂孔部の防止機構 食道裂孔部は横隔膜右脚が下部食道を取り巻くように存在し、吸気時に食道を挟み込むように収縮し、さらに腹部食道は横隔膜食道膜により食道裂孔部に固定され、腹圧上昇に対して腹部食道が腹腔内にとどまり、腹腔内圧を外側から受けることにより、逆流防止が働く
③His角 食道と胃底部が鋭角に接合することにより、胃内圧上昇に対して胃底部による下部食道括約筋への外圧により、胃食道逆流症が生じにくくなる
4.臨床症状
4.1 消化管症状
4.1.1 逆流による症状;嘔吐・吐乳があり、仰臥位となる夜間に多い。
4.1.2 食道炎による症状;胸やけ、心窩部痛、胸部不快感があり、食道炎が進行すると食道潰瘍・狭窄となり、吐血(コ-ヒ-様残渣)、下血(黒色便)が出現し、鉄欠乏性貧血となる。
4.2 呼吸器症状
4.2.1 上気道感染症状;逆流・誤嚥にともなう咳嗽・喘鳴を伴い、反復性肺炎を呈することが多い。
4.2.2 気管支喘息;GERにより誘発される喘息あるいは喘息性気管支炎
4.2.3 無呼吸発作;逆流により誘発される呼吸停止の機序は不明であるが、迷走神経反射の関与が示唆されている。乳児突然死症候群(SIDS; (infant sudden death syndrome)の不全形とも考えられており、near miss SIDSの原因の一つとして検索すべきである。
4.3 その他
4.3.1 発育不全;嘔吐、哺乳摂取不良にともなう体重増加不良
4.3.2 鉄欠乏性貧血
4.3.3 Barrett上皮・食道;胃食道接合部の食道側に胃粘膜が認められる状態で、Barrett食道からの癌化(腺癌)の報告もある。
5.検査成績
5.1 上部消化管造影
上部消化管(食道・胃・十二指腸・空腸)の形態・機能的状態を把握することで、画像上の評価が可能である。食道裂孔ヘルニアは、形態が固定した症例では造影上容易に判明するが、胃から食道への逆流の際に滑脱のみられる軽度な症例では、造影のビデオ撮影による評価も重要である。ただし、造影によりGERが検出される頻度は約30%以下であり、造影のみで評価することは困難である。造影の際は、形態的所見の他、食道蠕動の有無、食道内逆流のクリアランス、胃から十二指腸への造影剤の排出状態(胃排出遅延)、十二指腸・空腸の蠕動状態も把握可能である。
5.2 食道内圧検査主に下部食道昇圧帯の状態を内圧上評価する検査である。検査方法は、カテ-テルあるいは半導体センサ-による圧測定であり、必ずしも生理的状態を検出はできないが、呼吸波との同時測定で、昇圧帯と横隔膜の解剖学的位置関係を把握することができ、内圧上で微妙な滑脱を検出することが可能である。さらにスリ-ブセンサ-で、上部食道から数カ所の食道と昇圧帯を同時に持続測定することで、食道蠕動運動の協調性、一過性下部食道括約筋弛緩(Transient LES relaxation)をモニタ-することができる。
5.3 下部食道24時間pH測定 胃から食道への酸性逆流を24時間モニタリングすることで、胃食道逆流症を量的に測定する検査であり、胃食道逆流症の診断率が高いとされているが、原因・病態は分析できない。さらに胃内が酸性環境にない場合(制酸剤投与下、ミルクを含むアルカリ性食品の摂取直後)は逆流を感知できない。測定の評価は、24時間中の食道下部環境をpH4以下で逆流と規定し、pH4以下の全逆流数、時間率、5分以上持続する逆流回数、最長逆流時間を解析し、スコアリングで判定する。胃内、食道下部の2チャンネル測定で、胃内環境との関連が参考となる。
5.4 上部消化管内視鏡・粘膜生検 実際に上部消化管の粘膜面を直視下で判定でき、逆流性食道炎・潰瘍(瘢痕)、胃炎・潰瘍、十二指腸炎・潰瘍の評価や食道裂孔ヘルニアの形態、食道狭窄、幽門部狭窄等の器質的評価ができ、粘膜生検による組織診断も可能である。
5.5 腹部エコ- 胃食道逆流症をリアルタイムで観察可能であり、侵襲の少ない検査として、特に乳児における哺乳中・後の胃食道逆流症のスクリ-ニング検査として有用である。
5.6 食道・胃シンチグラフフィ 胃食道逆流症の診断率が高く、ある程度量的評価が可能で、比較的簡易で侵襲度は少ない。ただ、短時間の評価で、再現性に乏しく、pHモニタリングに比べると診断能は低い。pHモニタリングでは得られない食直後の逆流や、気道への誤嚥、胃排出遅延の評価ができる利点がある。
6.1病型分類
6.1.1脱型(sliding type);胃食道接合部が脱出
6.1.2傍食道型(paraesophagea type);胃食道接合部はそのままで食道周囲に胃が脱出
6.1.3混合型(mixed type);上記の混合型
6.2 鑑別診断
6.2.1 横隔膜ヘルニア;横隔膜内側のヘルニアとの鑑別は難しい
.治療
新生児期・乳児期の胃食道逆流症、軽度の食道裂孔ヘルニアは、体重増加が良好で呼吸吸器症状等がなければ、経過観察可能で、軽快例あり。 体重増加不良、食道炎・潰瘍による出血・貧血の進行、繰り返す呼吸器感染等の症候性胃食道逆流症を伴う症例では、外科的治療も視野にいれ、上記検査の動向を認識する必要がある。
7.1 保存的治療
7.1.1 上体挙上 特に乳児期の胃食道逆流症の治療として繁用され、トッタ-等での半坐位姿勢で 管理する方法であり、2-4週の観察が一般的である。
7.1.2 少量頻回哺乳、濃厚乳の使用 乳児期治療として、通常1日6-8回の哺乳を一日哺乳量を変えずに10-12回哺乳とし、胃食道逆流症を管理する方法で、一般に入院治療で管理する。在宅治療の場合は、調整乳を通常の14%から18%くらいまで、段階的に濃度をあげることにより、胃食道逆流症を管理する方法が便利である。
7.1.3 胃管・経鼻空腸チュ-ブ栄養 注入時間・注入部位をチュ-ブで選択することにより、胃食道逆流症を管理する方法であるが、通常外科治療の前提として状態改善に採用される。
7.2 薬物治療
7.2.1 制酸剤・H2受容体拮抗薬 胃液量・酸度を下げ、逆流性食道炎をコントロ-ルするために用いられる。 7.2.2 消化管運動促進薬 食道運動機能亢進、胃内容排出促進を目的に使用される。
7.2.3 漢方薬
7.3 外科的治療
保存的治療無効例、形態変化の強い食道裂孔ヘルニア、症候性胃食道逆流症に対しては、外科的治療を採用する。逆流防止機構を手術により再建することを目的に、腹部食道の形成、食道裂孔部の縫縮、His角の形成を組み合わせて行う。代表的な手術としてはNissen噴門形成術があり、最近では乳児期から腹腔鏡手術が施行されている。 .治療 新生児期・乳児期の胃食道逆流症、軽度の食道裂孔ヘルニアは、体重増加が良好で呼吸吸器症状等がなければ、経過観察可能で、軽快例あり。 体重増加不良、食道炎・潰瘍による出血・貧血の進行、繰り返す呼吸器感染等の症候性胃食道逆流症を伴う症例では、外科的治療も視野にいれ、上記検査の動向を認識する必要がある。
.予後
8.1.1保存治療軽快例新生児期・乳児期の胃食道逆流症、軽度の食道裂孔ヘルニアは、体重増加が良好で呼吸吸器症状等がなければ、保存的治療で軽快する症例がある。
8.1.2手術適応例体重増加不良、食道炎・潰瘍による出血・貧血の進行、繰り返す呼吸器感染等の症候性胃食道逆流症を伴う症例、食道閉鎖症等の二次性症例、神経学的障害児・者(脳性麻痺・重度知的障害)では、外科治療が選択されるが、再発が問題となる。
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