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執筆者: 渡辺 稔彦
停留精巣は精巣が正常の下降経過の途中で停留して、陰嚢底部にまで到達していない状態である。移動性精巣は、精巣が鼡径部と陰嚢内を移動する状態で、鼡径部から用手的に陰嚢内におろすと留まっていて、軽度の停留精巣との鑑別が困難なことがある。
精巣下降には視床下部-下垂体-精巣系の内分泌環境が正常に機能していることが必須であり、停留精巣では胎生期のゴナドトロピンやアンドロゲンなどの分泌低下が原因となりうる。また、下降に重要な働きのある精巣導帯の異常などの物理的な要因も考えられているが、いまだ十分には解明されていない。
腹腔内で発生した精巣は体制3ヶ月ごろに下降を開始し、8~9ヶ月に陰嚢内に到達する。出生体重と相関があり2500g以下の低出生体重児では約30%の高頻度でみられる。成熟新生児でも約3%にみられ、生後3ヶ月には1.0~1.6%に、1歳には0.8-1.0%に減少し、生後もまだ自然下降がみられるが、3ヶ月以降はほとんどみられなくなる。
陰嚢の片側が小さく左右非対称なことや健診で陰嚢内に精巣を触知しないと指摘されて発見されることが多い。
19世紀末から行われており、現在でもホルモン療法の不確実性などからほとんどの施設で施行されている。精巣の自然下降は3ヶ月を過ぎるとほとんどおこらなくなり、精巣の組織変化がすでに1歳前から認められることや内分泌環境の面から、治療時期は6ヶ月から2歳の間で、理想的には1歳前後と考えられている。移動性精巣では、その程度により手術適応は異なるが、一般的には一定期間精巣下降を観察し、自然下降がない場合には、4~5歳頃までに手術を検討することが多い。触知可能な停留精巣に関しては、鼡径部切開で腹膜鞘状突起の処理を行い、陰嚢内に皮下ポケットを作成し、精巣を収納して固定する。非触知性精巣では、萎縮性精巣・腹腔内精巣・精巣形成不全などの可能性があり、腹腔鏡を併用する方法が考慮される。高位停留精巣では一期的な精巣固定術が困難である場合があり、精巣血管を切断する二期的精巣固定術(staged orchidopexy、二期的Fowler-Stephens法)など、症例に合わせた術式を検討することとなる。
ホルモン剤にはhCGとゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)がありこれらを単独または併用で投与する。hCGの投与法は、1回1500IU/m2を週2回、4週間(合計12000IU)筋注する。GnRHの投与方法は、1回400μgを1日3回鼻腔内に噴霧し、4週間続ける。有効率はどちらも20%前後であるが、効果は軽度の停留精巣か移動性精巣に限られる。特に移動性精巣には明らかに有効なので、ホルモン投与によりこれと停留精巣の鑑別がより確実となり、無用な手術を避けることが出来るという報告もある。これとは別に本療法により精巣組織の改善も期待できる。欧米を中心に普及しているが、外性器に変化をきたすことや保険診療として認められていないことから本邦では第1選択とはされていない。
一般的に臨床では、精巣が触知されるか、非触知精巣かにまず分類し、触知精巣は停留精巣と移動性精巣に分けられる。停留精巣は、位置によって大きく腹腔内精巣、鼡径管内(鼡径管高位・鼡径管低位、陰嚢上部に分類される。非触知性精巣では、真の精巣形成不全(無発生)はきわめてまれで、ほとんどの症例は正常に発生した精巣が出生前に捻転などがおこったために、壊死・消失した萎縮性精巣(vanishing testis)である。まれなものとして、精巣が正常の下降経路から外れた異常位置にあるものは異所性精巣といわれ、位置は陰嚢外側が最も多いが、まれに恥骨部、会陰部、大腿部などにもある。
停留精巣の8割は触知可能いわれており、視診と触診が診断の基本となる。視診にて陰嚢の発育状態、鼡径部の膨隆などを観察する。停留精巣では、患側の陰嚢の発育が不良であるので、陰嚢発育が良好な場合には、移動性精巣の可能性がある。精巣が鼡径部や陰嚢内に触れなくても、異所性精巣の可能性があるので、さらに広範囲に会陰部や大腿部も調べる。精巣が発見されない症例では、陰嚢内を丹念に調べると陰嚢上部に軟らかい米粒代の結節(nubbin)を触れることがあり、萎縮性精巣(vanishing testis)である可能性が高い。陰嚢内に容易に引きおろすことができ、手を離してもしばらく留まっている精巣は移動性精巣である。片側が触れない場合、対側精巣が正常サイズであれば一般に腹腔内精巣である可能性が高いが、代償性肥大がある場合には、萎縮性精巣である可能性が高い。
非触知性精巣に対する局所診断法に対して行う。超音波検査は、簡便で非侵襲的であるため、ルチンに行われることが多い。MRIでは、診断制度は高くなるが、検査のための安静を要する。超音波では検出しにくい、腹腔内精巣の局在診断では威力を発揮する。腹腔鏡検査は、治療もかねて行われることが多い。
両側精巣が触れない場合、腹腔内精巣と精巣欠損を区別するために、血中テストステロン・ゴナドトロピン・ミュラー管抑制物質(MIS)の測定とヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)負荷試験が有用である。精巣が1つでも存在すれば、テストステロン値・ゴナドトロピン値はほぼ正常で、MIS値は正常ないし陽性、hCG負荷試験も陽性を示す。両側欠損例ではテストステロンは定値、ゴナドトロピンは高値、MISは低値ないし陰性であり、hHCG負荷試験は陰性を示す。
片側の停留精巣では約10%で、正常人とほぼ同じかやや高い程度であるが、両側例では約35%とかなり高いといわれている。高位停留精巣ほど不妊率は高くなり、特に両側腹腔内精巣では非常に高く、手術直後からのホルモン治療の是非についても検討されている。
停留精巣からの腫瘍発生率は正常精巣の20-40数倍といわれており、高位精巣ほど危険性は高くなり、腹腔内精巣では鼠径部精巣の4倍といわれる。両側例で、片側に腫瘍が発生した場合に対側にも発生する確率は約25%である。腫瘍の好発年齢は20-30歳代の思春期以降が多く、組織学的には一般の精巣腫瘍とほぼ同じで、セミノーマと胎児性癌が多くみられる。停留精巣を早期に治療すれば腫瘍発生率を低下させることができるかについて、希望的観測はあるものの、現段階では明らかなエビデンスはない。
腹膜鞘状突起は正常では生後早期に閉鎖するが、精巣が鼡径管内に停留していることにより閉鎖機転が妨げられ開存したままになることがあり、鼠径ヘルニアが合併しやすい。鼠径部精巣は位置的に下腹部打撲による外傷を受けやすいといわれている。正常精巣と同様、精巣容量が増大する思春期以降に精巣念転が発生しやすくなる。
精巣が正常の位置に存在しないことにより、成長とともに心理学的な悪影響が起こりうる。
治療後の停留精巣は成長とともに発育はするが、思春期が過ぎても大きさは正常側と比べると小さいことが多い。両側の高位停留精巣例では、2次性徴の発現が遅れたり、不十分であったりすることもある。また、将来の不妊症や精巣腫瘍発生の可能性もあるので、長期間のフォローアップが必要である。精巣固定術後に妊容性が改善するか否かについては悲観的な意見が多く、片側例ではその可能性は低いが、両側例では明らかな妊容力の低下が指摘されている。幼児期に移動性精巣で治療が不要と判断された症例で、その後何年も経った後精巣が再挙上することがあり(ascending testis)、程度の強い移動性精巣は長期間のフォローが必要である。
1)市川光太郎 著:小児救急のおとし穴 (CBRレジデント・スキルアップシリーズ (1)),シービーアール 2004
2) 小野正恵 著:Primary care note こどもの病気,日本医事新報社 2006
3) 辻本文雄・井田正博・松原馨 著:腹部超音波テキスト 上・下腹部 (Atlas Series超音波編) ,ベクトルコア; 改訂第三版版 2002
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