ADH分泌不適切症候群 - MyMed 医療電子教科書

MyMed(マイメド)は、究極の医療電子教科書の作成を通じて、利用者のニーズにあった理想的な医療情報サイトを作ろうというプロジェクトです。

MyMed


このページを印刷
最終更新日:2011.01.26

ADH分泌不適切症候群(えーでぃーえいっちぶんぴつふてきせつしょうこうぐん)

SIADH: syndrome of inappropriate secretion of ADH

執筆者: 関根 孝司

概要

 ADH分泌不適接症候群(SIADH)は、「血漿浸透圧の低下にもかかわらず非生理的なADH分泌が続いている状態」と定義される。 

 ADH[antidiuretic hormone、ヒトではarginine vasopressin (AVP)]は血漿浸透圧の上昇により脳下垂体後葉から分泌され、腎臓集合尿細管での水(自由水:溶質を含まない水)の再吸収を促進させ、その結果血漿浸透圧を低下する。血漿浸透圧の上昇はAHD分泌刺激として極めて鋭敏で、血漿浸透圧の1〜2%程度の上昇でADHが分泌される。

病因

 ADH分泌刺激が非生理的におこることが病因である。脳外科手術後、頭蓋内感染症、頭部外傷、頭蓋内腫瘍などに合併することが多い。これらの頭蓋内病変がなんらかの形でADH分泌を促す。また肺内病変(肺腫瘍、気管支喘息発作、細気管支炎、肺炎)などもADH分泌刺激となることがある。これは胸腔内圧の変化がADH分泌に関与すると考えられている。

病態生理

 頭蓋内病変、肺疾患などに合併して非生理的なADHの分泌がおきることが病態の基本である。ADH分泌が持続するため集合尿細管の基底膜の存在するV2受容体を活性化し、集合酸細胞内のcAMPの上昇を介して水チャネル(aquaporin 2, AQP2)がエンドサイトーシスにより管腔側膜へ挿入される。この結果、腎臓の髄質内で形成されている浸透圧勾配に従い、水チャネルをとうして溶質を含まない自由水が再吸収されることになる。 

 自由水の再吸収が亢進する結果血漿は希釈され、低Na血症(希釈性低Na血症)、低浸透圧血症を呈する。体液量は全体としては増加するが、Naの再吸収を伴わないため、再吸収された水は細胞外液および細胞内液に分布するため、顕性の浮腫をともなうことはまれである。 

 ADHの分泌刺激としては、高浸透圧血症の他に体液量の減少がある。体液量が著しく減少すると(3%以上)、血漿浸透圧の変化を伴わなくてもADHの分泌が刺激され、結果として低Na血症、低浸透圧血症を呈することがあるが、この場合は「生理的なADH分泌」のためSIADHとは呼ばない。こうした場合には体液量は全体として減少しているため、SIADHの鑑別は可能である。

臨床症状

自覚症状 

 低Na血症、低浸透圧血症が軽度の場合、特に自覚症状はない。低Na血症が高度となった場合には意識障害や痙攣をおこすことがある。

他覚症状 

 急激な低Na血症が進行した場合には、低Na血症による痙攣、意識障害、昏睡などを呈することがある。

検査成績

 低Na血症、低浸透圧血症の存在および、血清ADHの高値。

診断・鑑別診断

 SIADHは低Na血症の鑑別疾患として重要である。低Na血症の患者で
1. 理学所見において体液量は正常〜やや増加している。
2. 低Na血症、低浸透圧血症の程度に合致しないレベルのADH分泌がある
(明らかな低Na血症が存在するにもかかわらずADHが測定されればそれのみで異常と判断される)
3. 頭蓋内疾患や胸腔内疾患などの基礎疾患が存在する。
4. 副腎不全など、その他の内分泌異常が存在しない。

 上記を満たす場合、臨床的にSIADHと判断する。

治療

 ADHの非生理的分泌による水の過剰な再吸収が病態生理であるため、飲水制限が治療の基本である(一日必要水分量は60〜70%程度に飲水量を制限する)。SIADHはself-limiting疾患であり、基礎疾患が治癒すれば自然とSIADHの状態も改善する。 

 症候性低Na血症(痙攣、意識障害)が発症した場合には、高張NaCl溶液(3%NaCl)の点滴により、神経症状が軽快するレベルまでは血清Naの補正を急速におこなう。神経症状が消失した後には上記の飲水制限にて対応する。

予後

 SIADHそのものの予後は良好である。著しい低Na血症による痙攣などが持続した場合には神経障害の合併に注意しなければならない。

最近の動向

 SIADHと鑑別すべき疾患の第一としてCSWS(脳性塩類喪失症候群)が挙げられる1)。CSWSではなんらかのNa利尿機序(多くは頭蓋内疾患に合併、ANPやBNPの関与が指摘されている)により、著しいNaおよび水の喪失がおきる疾患である。近年CSWSの報告が多くなされ、従来SIADHと診断されていたものの中にもCSWSが多く含まれている可能性が指摘されている。

 CSWSでは通常体液量が減少し、多量のNa利尿を呈することが特徴である。SIADHとCSWSでは治療が全く異なるので、診断に注意を要する。

参考文献

1)  横谷進、中枢塩類喪失症候群、小児内科35(11): 1855~1857, 2003年

(MyMedより)推薦図書

1) 五十嵐隆 著:小児腎疾患の臨床 改訂第3版,診断と治療社 2008

2) 衞藤義勝 著、Richard E.. Behrman・Robert M. Kliegman・Hal B. Jenson・五十嵐隆・大澤真木子・河野陽一・森川昭廣・山城雄一郎 編集:ネルソン小児科学 原著第17版,エルゼビア・ジャパン 2005

3) 五十嵐隆 編集:小児科学,文光堂 2004

 

免責事項

情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

※ この記事に関するご意見をお聞かせください。


このページを印刷

診療科別


※ マイメドでは、疾患項目の追加、および最新情報をお知らせするためにメールマガジンを配信しております。ご希望の方は下記にメールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。
  なお、次の職業の方は、職業をご選択の上、メールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。

メールアドレス: メールアドレス(確認用):
医療関係者の方はご選択ください: