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最終更新日:2008.11.18

直腸脱(ちょくちょうだつ)

執筆者: 竹末芳生

概要

 直腸の全層が脱出する場合を直腸脱と呼び、内痔核が基点となり肛門管の粘膜のみが脱出する肛門脱とまったく異なる病態である。高齢女性に多く、50-70%に便失禁を伴う。若年男性に発症するときはなんらかの誘発因子があり、極度のいきみ排便を数年続けていることが多い。

病因

 直腸脱には、広がった肛門、肛門挙筋の離開、直腸の仙骨への固定不全、余剰S状結腸、深い直腸膀胱窩(ダグラス窩)などの5つの解剖学的異常が認められる。発症機序に関しては不明な点も多いが,病因には2つ見解があり、ダグラス窩のヘルニアが直腸の管腔内に生じる説と腸重積説がある。後者は直腸が仙骨に沿ったカーブを失い,直線化することにより腸重積の形で発症することが指摘されている.

臨床症状

 脱出腸管自体に起因する症状と高率に合併するincontinence(便失禁)が主な症状である。当初は排便時のみに脱出するが、くしゃみなど腹圧を高めることにより容易に脱出するようになる。粘膜は機械的刺激により剥離、潰瘍形成し、粘液や出血で下着が汚染される。ときに子宮脱を合併することもある。排便が不規則になり、排便時不快感、残便感、しぶり腹を呈し、便秘を合併することも多い。また尿失禁も訴える症例もある。 

 直腸脱における便失禁の原因として,陰部神経傷害による肛門括約筋萎縮や直腸脱出による括約筋の伸展による傷害などが考えられている。以上の症状により、患者は社会との接触を避けるようになることが少なくない 。

検査成績

 同心円状の襞を有する赤色調脱出腸管を確認すれば直腸脱の診断は容易である。鑑別診断として肛門脱が重要だが、これは放射状の襞を呈する。肛門の位置は直腸脱では正常であるが、肛門脱では外反している。また直腸脱では肛門と脱出腸管の間には指が入る溝が認められるが、肛門脱ではその溝はない。診察時に腸管の脱出を認めないことも多く、通常肛門は大きく開口している。腹圧を高め押し出すように促すと、ゆっくりと直腸全層が脱出してくる(脱出しない場合はしゃがみこみ姿勢をとらせる)。

 肛門指診で肛門括約筋の緊張低下があり、随意肛門収縮圧も低下、欠如していることが多い(肛門を閉めるよう促しても肛門内挿入指に圧を感じない)。示指と母子で脱出部の厚さを触診し、腸管全層であることを確認する。S状結腸内視鏡検査で、8-10cmの直腸全壁粘膜が赤色、炎症を呈していることがあり、炎症性腸疾患と診断されることもあるので注意を要する。非脱出性の直腸脱(hidden (Internal) prolapse)はcinedefecographyで証明する。強度の便秘を合併する場合は腸管通過時間(gut transit time)を測定する。大腸での通過時間著明延長(total colonic inertia)があれば、結腸亜全摘が必要な場合もある。

治療

 現在行われている術式は大きく分けて,開腹下の直腸つり上げ固定術(rectopexy)と会陰式手術の2つに分類される.直腸が仙骨に沿ったカーブを失い,直線化することにより腸重積の形で発症することが指摘されている.このことから直腸脱の修復として,いきんだときでも直腸の後方へのカーブが維持されることが重要とされており,その点を考慮した術式であるrectopexyは5%前後の低い再発率が報告されている.

 一方会陰術式は,直腸脱の原因に対するというよりも、むしろ結果(脱出腸管)に対する処置であり,自ずと術後長期経過例の再発に関しては限界があり,経腹法と同等の期待はできない.しかし手術侵襲が少なく、術後疼痛も軽微のため、高齢者や心疾患などの合併症を有する患者にはよい適応となる。

経腹的直腸つり上げ固定術(rectopexy)

メッシュなどのつり上げ帯 (sling)を用いた方法

 Ripstein法は,エプロン状のメッシュを前方から直腸に巻き付け,非吸収糸で仙骨に固定する術式で,過去アメリカを中心に行われた.しかし,sling装着に起因する合併症が16.5%と高率であり,糞便閉塞,狭窄,骨盤内膿瘍,slingへの小腸癒着によるイレウス,slingの圧迫による瘻孔形成などが認められた.これらの多くは腸管の全周をslingで巻き付けることに起因しており,その解決策として現在も英国を中心に行われている直腸後方にsling (Ivalon sponge)を装着するWells法がある.この術式は直腸の前方1/4はカバーしないことにより,slingによる直腸の締め付けを防ぎ,合併症はRipstein法のほぼ半分となった.その他rectopexyは各種考案されているが,再発率に関してはどの方法を選択しても同様である.またrectopexy後の約10%の患者に粘膜脱が残ることが知られている.


Slingを用いない縫合による直腸固定術(suture rectopexy)

 Wells法では難治性便秘やslingによる狭窄は低率となったが,最もやっかいな合併症である異物による骨盤内感染などはRipstein法と同様であった.そこでFrykmanとGoldbergはslingを用いず,直接直腸を仙骨に固定する方法を発表した.さらにS状結腸切除を追加することにより,術後の便秘が改善されることが報告され,本術式は難治性便秘合併直腸脱ではよい適応と考えられている.直腸脱患者では術前より便失禁(50〜75%)や便秘(30〜67%)が高率に認められており,術後の排便機能についても検討されている.

 直腸脱における便失禁の原因として,陰部神経傷害による肛門括約筋萎縮や直腸脱出による括約筋の伸展による傷害などが考えられており,rectopexyだけで40-70%の患者でcontinenceが改善することが報告されている.術後も継続するincontinence症例に対して、sacral nerve stimulationなどが報告されている。

会陰術式

Gant-Miwa+Thiersch

 日本で広く行われている術式であるが、現在欧米ではほとんど評価されていない。脱出した腸管の粘膜を鉗子で把持し筋層の一部を含めて貫通結刹紮し、それを繰り返し縫縮していく方法である。これに、肛門管周囲の皮下にナイロン糸などを通し肛門管を狭くして脱出を防止するThiersch法を追加する。本術式は手術侵襲も少なく、合併症も低率のため、高リスク患者に対しても実施可能であり、また専門施設で行えば良好な成績が報告されている。しかし一見手技は簡単にみえるが、経験の少ない医師が行えば再発は高率となる。もし粘膜のみを縫縮すれば、粘膜脱の治療には有効かもしれないが、全層が脱出している直腸脱では一過性に改善は認められるものの再発は高率となる。再発しているのもかかわらずTheirsch糸により脱出できず、肛門管直上で腸重積を起こし、hidden (Internal) prolapseの形で排便困難を訴える症例もみられる。

会陰式直腸S状結腸切除術

 経肛門的に直腸、S状結腸を剥離、肛門外に遊離し約20cmの脱出腸管を切除する術式である。直腸脱は2つの全層腸管壁で構成されており、外筒腸管は肛門管に連続しており、内筒腸管は口側腸管(S状結腸)につながっている。肛門側の外筒腸管を全層切開し、内筒腸管を口側に剥離、遊離してゆく。この操作により肛門外に引っ張り出された余剰腸管を20cm程度切除し、S状結腸と肛門管とを吻合する。 会陰式直腸S状結腸切除術において肛門挙筋形成術(Levatoroplasty)を同時に行った場合、完全なcontinenceの回復は約60%と報告されている。また2001年にWexnerのグループが109例の会陰式直腸S状結腸切除術を行い、再発率、再発までの期間はlevatoroplastyなし20.6%, 13.3ヶ月、levatoroplastyあり 7.7%, 45.5ヶ月で有意差を認め、levatoroplastyは再発予防になることを報告した。

 本術式は現在米国では高齢者に広く行われているが、日本でも他の会陰術式と比較しとくによい適応は,(1)他の会陰術式の早期再発例,(2)腸管が嵌頓,壊疽性となった直腸脱例,(3)便失禁症例(levatoroplastyが行えるため)である。

 本術式は3―4cm以上全層が脱出する症例でないと手技が困難であるので,軽症例ではDelorme法(直腸粘膜を全周剥離切除し筋層はアコーディオン状に縫縮することで脱出腸管を短縮する)などを選択する.

患者背景を考慮した術式の選択

 会陰式直腸S状結腸切除などの会陰術式の再発率が20%前後と、経腹法の5-10%と比較し高率なため、経腹的rectopexyを合併疾患のない患者には選択する。強い便秘を伴う患者においてはかなり長い余剰S状結腸を認めることが多く、rectopexyに加えS状結腸切除を行う。もし患者が術前に深刻な便秘を訴えていれば、transit timeやdefecographyなどの生理機能検査を行い、もしslow transitを認め適切なemptingが証明され、かつcontinenceが良好なら、結腸(亜)全摘、回腸直腸吻合、rectopexyを考慮する。しかしこのようなケースは稀であり、また括約筋機能が充分保たれていなければ、術後のincontinenceの原因となってしまう。

 より高齢で、高リスク患者では会陰式直腸S状結腸切除を選択する。多くの直腸脱患者は何らかの合併症を有していることが少なくなく、実際は会陰術式が選択されることが少なくない。最近、高リスク直腸脱患者に対して腹腔鏡下手術も行なわれており、これは後述する。男性とくに若年者に対しては意見が分かれていたが、性機能に関してもかなり安全に手術できるようになってきており、また低い再発率のため経腹的rectopexyが選択されるようになってきた。

最近の動向

 経腹的手術において再発は低率になるものの、手術侵襲の面で会陰術式を選択せざるをえない症例が多いという問題点があった。しかい近年直腸脱に対する腹腔鏡下手術による良好な成績が報告されており、高リスク患者への経腹法の適応拡大の可能性も検討されている。また通常の開腹と比較し腹腔鏡により骨盤内操作がむしろ容易に行えることも大きな利点と言える。

 腹腔鏡補助下のresection rectopexy117例の成績では。手術時間は初期の1/4の症例では180分であったが、術式に慣れてきた最近の1/4の症例では110分と短縮した。尿管損傷やドレナージを必要とする縫合不全などの合併症は9%で、62ヶ月のmedian follow upで再発率は全層脱2.5%、粘膜脱が18%であったことが報告されている。開腹手術とのCase-control study8では腹腔鏡手術で入院期間が有意に短く(平均3.9 vs 6.0日)、平均経過期間5年での手術を要する再発は腹腔鏡9.3%、開腹4.7%で、便秘の改善は各々74%、54%、便失禁の改善は48%、35%と同等であった。無作為比較試験などの評価はまだ十分でないが、症例数の多い施設で実施されれば今後期待される術式である。

文献

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Gordon PH, Hoexter B:Complications of the Ripstein procedure. Dis Colon Rectum 1978;21:277-280,

Wells C: New operation for rectal prolapse. J R Soc Med 52:602-603,1959

Frykman MH, Goldberg SH: The surgical treatment of rectal procidentia. Surg Gynecol Obstet1969;129:1223-1230

Yamana T, Iwadare J: Mucosal plication (Gant-Miwa procedure) with anal encircling for rectal prolapse--a review of the Japanese experience. Dis Colon Rectum.2003;46(10 Suppl):S94-9.

Ramanujam PS, Venlatesh KS, Fietz MJ et al: Perineal excision of rectal procidentia In elderly high-risk patients; a ten-year experiencee. Dis Colon Rectum 1994; 37:1027-1030.

Ashari LHS, Lumley JW, Stevenson ARL, et al: Laparoscopically-assisted resection rectopexy for rectal prolapse: Ten years’ experience. Dis Colon Rectum 2005;48:982-987

Kariv Y, Delaney CP, Casillas S, et al: Long-term outcome after laparoscopic and open surgery for rectal prolapse: a case-control study. Surg Endosc 2006;20:35-42

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