デュシェンヌ型筋ジストロフィー - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.30

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(でゅしぇんぬがたきんじすとろふぃー)

Duchenne muscular dystrophy,DMD

執筆者: 松尾 雅文

概要

 Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)は伴性遺伝形式をとる最も頻度の高い遺伝性の進行性筋萎縮症である。DMD患者は乳幼児期には正常児とほとんど変わらない運動能力を示すが、4〜5歳頃から筋力低下に気付かれ、歩行異常が出現する。年齢を経るに従い筋力低下は進行し、12歳までに歩行不能となり車椅子生活となる。現在、有効な治療法は確立されておらず、20歳代で心不全または呼吸不全により死に至る重篤な疾患である。

 DMDはジストロフィン遺伝子の異常から発症し、骨格筋でのジストロフィン欠損を特徴とする。男児に発症し、出生男児3500人に1人が羅患する。最近ではDMD診断の契機は血清クレアチレキナーゼ(CK)値の異常高値が偶然の発見されることであることが多い。

病因

 X染色体の短腕に座位するジストロフィン遺伝子の異常が原因である。本遺伝子の異常により骨格筋でのジストロフィンが欠損するために発病する。遺伝学的には遺伝子の異常のキャリアーである女性から出生する男児の2人に1人の頻度で発生すると考えられる。しかし、実際にはDMD患者の母親の3人に1人はキャリアーではなく、特発的に発生している。

 ジストロフィン遺伝子はヒト最大の遺伝子で、79ヶのエクソンから構成されている。遺伝子の異常としてエクソン単位の欠失が最も多い。ついでエクソンの重複の異常が多く見られる。これらの欠失・重複の異常はジストロフィン遺伝子の2つの領域に集中して発生し、遺伝子異常のホットスポットとして知られている。また、他にもジストロフィン遺伝子のナンセンス変異など様々な遺伝子の異常によっても発生する。

病態生理

 筋ジストロフィーは進行性の筋力低下と筋委縮を伴い、筋線維の変性・壊死・再生を主な病理像とする遺伝性疾患の総称である。その中でDMDは骨格筋でのジストロフィン欠損を特徴とする。このジストロフィン欠損をもたらす機序は、ジストロフィン遺伝子の異常がタンパクの翻訳に及ぼす影響を判定するフレームシフト則により説明される。

 すなわち、DMDでは欠失したエクソンにコードされた塩基の数が3の倍数でないため、遺伝子から転写されて産生されるmRNAのアミノ酸読み取り枠にずれが生じる(アウトオブフレーム)。その結果、欠失したエクソンの下流に終止コドンが出現し、ジストロフィン合成が途中で停止してしまう。そのため、骨格筋組織においてジストロフィンが全く免疫染色されない。DMDはアウトオブフレームの変異により発症するというフレームシフト則はDMD患者の9割以上に当てはまり、DMDの分子病態の要である。

 ジストロフィンは筋細胞膜の裏打ちタンパクとして存在している。その欠損により細胞膜の機能が破綻し細胞内から様々な酵素が血中に流出することとなる。その結果、血中CKの異常高値が臨床検査の特徴的な所見として検出される。

臨床症状

 DMDは、筋ジストロフィーの中で最も頻度が高く、症状も重症である。しかし、乳児期には明らかな症状はみられず4〜5歳ころが筋力低下に転びやすい、走るのが遅いなどの異常で気付かれる。筋力低下は近位筋優位であり、登はん性起立や動揺性歩行を示す。年齢を経るとともに筋力低下も進行し、12歳までに歩行不能となる。同時に脊柱変形、関節拘縮も進行する。10歳後半から20歳前後で呼吸不全・心不全を呈しこれらの病状が生命予後を大きく左右する。また、DMD患者の約3分の1が知能の障害を合併する。

検査成績

 一般臨床検査では、著明な血中CKの上昇が特徴的である。新生児・乳児でも何らかの機会に血液の検査を受けてAST,ALT(GOT,GPT)の異常高値が偶然発見され、さらに、CKの異常高値も合わせて検出されることから診断に至る例も少なくない。CK値は乳・幼児期には数万IU/lを示すが、年齢の上昇とともに自然に低下する。確定診断は、筋生検により得た骨格筋でジストロフィンの免疫染色を実施して、その欠損を証明することである。あるいは、遺伝子診断でジストロフィン遺伝子の異常を明らかにすることである。遺伝子診断は患者への負担が少なく頻用されている。

治療

 治療法としては現在のところ有効に臨床症状を改善するものは知られていない。最近では、後に紹介する様々なDMDに特異的な治療法が提唱されている。現時点では、歩行障害・呼吸障害に関してリハビリを適宣実施し、呼吸不全に陥った時には呼吸をサポートする治療を実施し、出来るだけ患者のQOLを高めることが必要である。一方、心障害については早期発見して薬物治療を行う。

予後

 DMDの多くは20歳台で心不全あるいは呼吸不全で死亡する。呼吸不全あるいは心不全に対する積極的な治療により、生命予後は次第に改善している。しかし、患者が30歳を超えるには根本的な治療法の確立が必要である。

最近の動向

 DMDの遺伝子診断と分子病態の解明は大きく進み、有効な治療法を確立することが次に解決すべき課題となっている。遺伝子治療・薬物治療・幹細胞治療等様々なアプローチがなされている。中でも、分子病態に応じたリードスルー治療法とエクソンスキッピング誘導療法が最も臨床応用に近づいている。ジストロフィン遺伝子のナンセンス変異により発症したDMDに対しては、翻訳時にナンセンスを読み取ばしジストロフィンを産生させるリードスルー誘導法が提唱され臨床応用がはかられつつある。

 また、エクソン欠失によるフレームシフト変異を有するDMDに対しては、欠失したエクソンに隣接するエクソンのスキッピングを誘導し、mRNAのアミノ酸読み取り枠をアウトオブフレームからインフレームに変え、ジストロフィンを産生させるエクソンスキッピング誘導療法が提唱されている。アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いてエクソンスキッピングを誘導するもので、一部患者への応用がすでに行われている。

 さらに、患者の中胚葉性血管芽細胞に遺伝子を導入して、その細胞を患者に戻す治療法も有望視されている。この治療法は、DMDモデル犬において著明な治療効果が得られている。

 こうした成果により、DMDが治療し得る疾患となる日もそう遠くはなくなっている。

(MyMedより)推薦図書

1) 河原仁志 著:筋ジストロフィーってなあに?,診断と治療社 2008

2) ピーター・ハーパー 著、川井充・大矢寧 翻訳:筋強直性ジストロフィー―患者と家族のためのガイドブック,診断と治療社 2005

3) 埜中征哉 監修、小牧宏文 編集:小児筋疾患診療ハンドブック,診断と治療社 2009
 

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