膵嚢胞性疾患 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.02

膵嚢胞性疾患(すいのうほうせいしっかん)

執筆者: 木村 理

はじめに

 “嚢胞”とは臨床病理学的には「液体や半固形状の物質を含む閉鎖腔」と定義されてきたことから,膵嚢胞(pancreatic cyst)の定義としては膵管との交通がないことがその疾患概念の重要な要素とされていた.しかし,典型的な“嚢胞”とされてきたものでも,内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)や切除標本の膵管造影などで膵管内圧を高くして造影すると交通がみられることがあること,また貯留嚢胞や膵嚢胞腺腫・腺癌などは,その発生母地が膵管と考えるのが最も妥当であり,したがってもともとは膵管との交通があったとの考えが成り立つことから,膵管との交通の有無は嚢胞の定義上,かならずしも重要でないと考えられるようになってきた.最近では画像診断の進歩により,膵管の嚢胞状拡張性病変が幅広くとらえられるようになったことから,膵管との交通の有無にかかわらず,これらを広く膵の嚢胞性病変(cystic lesions of the pancreas)として扱うようになってきている(1,2).

 嚢胞内腔を被覆する上皮を有するものは真性嚢胞,有しないものは仮性嚢胞とされる。膵における腫瘍性嚢胞は真性嚢胞の範疇に入り,漿液性嚢胞腫瘍(serous cystic neoplasm; SCN),粘液性嚢胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm; MCN),膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm of the pancreas; IPMN) 分枝型が代表的なものである.主膵管型IPMNを嚢胞の概念に含めるか否かは微妙な問題である(3).

 Solid pseudopapillary tumor や膵内分泌腫瘍は中心部が変性や出血によって壊死に陥ることがある.このような中心部の壊死による嚢胞状変化は腫瘍性嚢胞には含めずに二次性膵嚢胞として別の概念でとらえることが多い.なお,二次性膵嚢胞には,膵癌を原因として発生した貯留嚢胞や仮性嚢胞も含める場合もあるが(4),ここでは前者を中心に述べることとする.

 膵の嚢胞性病変は膵疾患のなかで重要な位置を占める.その理由の一つに,最近になって概念の確立された膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN) が臨床の場で高頻度に発見されるようになったことが挙げられる.膵管内乳頭腫瘍(IPMN)の概念は大橋ら(5)が1982年に提唱した「粘液産生膵腫瘍」を病理学的見地からとらえたものであり,わが国における膵癌取扱い規約第4版(6),Armed Forces Institute of Pathology(AFIP)(7),World Health Organization(WHO)(8)の膵腫瘍国際組織分類などによって1990年代中ごろから疾患概念として世界的に定着してきたものである.最近ではIPMN/MCNの国際ガイドライン(9)が作成され,国際的なコンセンサスが得られてきた.

 嚢胞性膵腫瘍の理解を明らかにするためには,膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と粘液性嚢胞腫瘍 (MCN)との鑑別が重要である.すなわちIPMNの分枝型とMCNの線引きをどこにするか(図1)(1),およびこれらを「膵嚢胞の分類」そして「膵外分泌腫瘍の分類」のなかでどのように位置づけるかという問題を明確にしなくてはならない(1).



(図1Cystとは?)
  IPMN分枝型はMCNや漿液性嚢胞腫瘍と同様,膵嚢胞性疾患としてとらえ得る.またIPMNとMCNは粘液産生という共通の属性を有する.しかしMCN とIPMNとは臨床病理学的に明らかに異なった疾患である.したがってMCNとIPMN分枝型との鑑別,線引きはたいへん重要である. MCNとIPMN分枝型の区別をどこでつけたらよいかわからないことが混乱の原因となっている.(文献#より転載)

分類

 ”嚢胞”の定義・解釈の変遷や曖昧さに応じ,膵嚢胞の分類はこれまでさまざまになされてきた.Howard & Jordan(1960)(10),Strodel & Eckhauser(1981)(11),Cubilla & Fitzgerald(1984)(12),Bradley(1985)(13),Howard (1987)(14),黒田・森岡(1990)(15)の分類が代表的である.しかしIPMNの疾患概念が膵管の拡張性病変として確立されてきた今日,これを取り入れていない“膵嚢胞”の分類はすでに古いものとなりつつある.表1にHoward & Jordan,表2に木村の分類(Kimura 2000)(2)を示した.後者は膵管内乳頭粘液性腫瘍の概念を取り入れた分類である.


(表1)膵嚢胞の分類(Howard & Jordan 19**)(文献#より引用)


(表2)膵嚢胞の分類(Kimura 2000)(文献#より引用)

 仮性嚢胞は1992年のアトランタにおける国際膵炎シンポジウム(16)で,線維や肉芽組織などの結合組織の壁で被包された膵液貯留と定義され,明らかな被膜をもたないacute fluid collection(急性液体貯留)とはっきり区別された。またさらに急性膵炎発症から4週間以上を経過して形成されたacute pseudocyst(急性仮性嚢胞)と、急性膵炎の既往がなく慢性膵炎に合併したchronic pseudocyst(慢性仮性嚢胞)に亜分類された。

真性嚢胞

 真性嚢胞は腫瘍性嚢胞と非腫瘍性真性嚢胞に分けられる. 非腫瘍性真性膵嚢胞は単層円柱・立方上皮を有する嚢胞であり,単純性嚢胞,貯留性嚢胞,先天性嚢胞,孤立性嚢胞などさまざまに分類・呼称される.

腫瘍性真性膵嚢胞


膵管内乳頭粘液性腫瘍 (intraductal papillary mucinous neoplasm of the pancreas:IPMN)


概念


 IPMNの特徴として,大量の粘液産生とそれによるVater乳頭部の開大および主膵管拡張,良好な予後などが挙げられる.男女比は2:1と男性に多く,平均年齢は男女ともに約65歳と高齢者に多く認められる.好発部位は膵頭部である.

分類


 主膵管の拡張を主体とする主膵管型,膵管分枝の拡張を主体とする分枝型に大別される.分枝型に比較して主膵管型に悪性のものが多い.すなわち主膵管型に膵実質や他臓器への浸潤が多くみられるのに対し,分枝型では 上皮内癌 in situ carcinoma や腺腫 adenoma,過形成が高率に認められる.

臨床症状


 腹痛が52%と最も多いが,無症状で偶然発見される例も9%にみられる.閉塞性黄疸は通常型膵癌と異なり18%と少ない.その他易疲労感,体重減少,発熱などがみられる.臨床経過中に急性膵炎を発生する頻度が比較的高いことや,糖尿病の合併が55%程度にみられることが重要である.

検査・画像所見


 血液生化学的検査では特異的なものはない.急性膵炎を随伴すればそれに関係した膵酵素が上昇する.血清腫瘍マーカーのCEAやCA19-9は過形成,腺腫,境界病変では正常のことが多いが,悪性では50~80%の症例で上昇する.

 画像診断では主膵管や膵管分枝の拡張や膵管内の隆起性病変,その周囲の変化について検索する.腹部超音波検査は,スクリーニングとして診断の第1の手がかりとなる.CTは膵全体を検索することができるので,病変を見落とすことがない.ERCPによって,膵管の拡張や膵管内の粘液塊,隆起性病変が明らかになる.また膵液を採取しその中の細胞診やCEA,CA19-9などの腫瘍マーカーの測定,K-ras点突然変異などを検索することで診断が可能となる.ERCPの代わりにMRCPも非侵襲性の画像診断の手段としてその有用性が認められ始めている.膵管鏡によって膵管内乳頭状増生がイクラ状腫瘍として認められる.また,内視鏡超音波検査(EUS)や膵管内超音波検査(IDUS)も隆起性病変や浸潤の有無などの診断に有用である.

治療方針

 
 主膵管型IPMNは約80%が悪性なので手術適応となる.分枝型では壁在結節のあるものや,径が3cmをこえるものが手術の適応となる.すなわち分枝型の約20%が癌,約60%が経過観察の対象となる. 手術術式には,定型的な膵頭十二指腸切除術,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術や膵体尾部脾切除術以外に,膵分節切除術,膵鉤部切除術,十二指腸温存膵頭十二指腸切除術,脾動静脈を温存した脾温存膵体尾部切除術などがある.しかし,通常の手術で完治を期待できるIPMNに対して,安易に縮小手術を選択することは避けるべきであり,縮小手術の適応は厳密にするべきである.

予後


 通常型膵癌に比較して良好な予後が得られる.手術例の5年生存率は78%である.しかし他臓器に浸潤したものや,穿破したものの予後は悪い (17).フランスのグループは膵の分節切除の検討を行っているが,IPMNに対する手術としては多中心性発生,表層拡大のため再発が約40%と高率なため薦められないと報告している(18).Yeoらも同様にIPMNの1,3,5年生存率がそれぞれ82,67,57%と思ったよりよくないと考えている (19).IPMNは考えられているより悪性であることを認識して治療にあたるべきである.

問題点

 
 われわれはこれまでIPMNの病態におけるさまざまな問題点を報告してきた(20).

1)腫瘍・非腫瘍,良悪性の病理学的な客観的基準はありうるか,

2)hyperplasia→adenoma→carcinoma sequence は存在するか,

3)良悪性の臨床診断は可能か,

4)良性のものは経過観察でいいのか,どの程度のmalignant potential を有するのか?

5)in situ carcinoma はいつ浸潤するのか,つまりどの程度の期間 in situ に留まっているのか,

6)浸潤はどの程度になったら画像診断,その他でとらえられるか.微小浸潤は画像診断でとらえられるか.

7)浸潤し始めてからも slow growing か.

8)浸潤してから,あるいは浸潤が明らかになってからの手術で間に合うか.

9)さまざまな進展度の病変に対して,どのような手術がもっとも優れているか.

10)どのような縮小手術が可能か.

以上の問題点ですでに明確な解決がついたものはなく,さらに新たな問題も付け加わっている.

11)膵内多発・残膵再発の問題

 IPMN に関する問題点としてはさらに膵内多発の問題および残膵における再発があげられる.このことは診断や手術術式にも重要な問題を投げかけており,常にこの点を考慮した臨床的対応が望まれる.

 われわれは原則として手術適応となる病変に対してのみ手術を行うことにより,膵全摘はできるだけさける方針にしている.

12)通常型膵癌の合併

 IPMNの発生した膵は通常型膵癌の発生母地としても重要であるということである.その頻度として山口ら(21)は76例中7例 (9.2%)に異時性もしくは同時性に認めており,われわれは異時性の発生を28例中2例,7.1%とほぼ同様の頻度に認めている(22).したがって IPMN術後の残膵の follow up はかなり慎重になされなくてはならない.

13)他臓器がんの合併

 IPMNには他臓器の癌が合併しやすい.その頻度は約19~32%と報告されており,胃癌6.2~13%,大腸癌3.7~12%などが高率である(23).同時性の合併か,異時性の合併かに合併臓器の特徴はない.これらは手術適応や手術方法,切除後のフォローアップの方法などに大きな影響を与えるものである.術後のフォローアップについては,胃癌,大腸癌の検索のため,1~2年に1回程度の内視鏡検査が必要であろう.

粘液性嚢胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm: MCN)


臨床病理学的特徴


 粘液性膵嚢胞腫瘍(MCN)は厚い皮膜に覆われた球形の,隔壁を有する腫瘍で,中年女性(平均年齢約48歳)の膵体尾部に好発する(24)という特徴がある.組織学的には卵巣様間質を有することが多い(25).ほとんどが女性にみられるため,男性例でMCNの診断がなされたものは,慎重に見直し・再検討すべきである.MCNの頻度はこれまでの報告よりかなり少なくIPMNの10%程度ではないかと考えられている.

 卵巣様間質は卵巣の間質に類似した細胞密度の高い間質(26)で,円形あるいは細長い核と,細胞質の乏しい紡錘形の細胞が密に集合したもの(27)とされる.免疫染色ではvimentin陽性,smooth muscle actin 陽性,progesteron receptor (PR)およびestrogen receptor (ER)にはときに陽性とされる.量的にはHematoxylin-eosin 染色の弱拡大で,卵巣様間質が青いゾーンとして認識されれば十分である.

MCNの切除成績


 わが国におけるMCNの切除後の成績は,5年生存率は45%,10年生存率40%と決して良好ではない.またMCNは,腺腫と腺癌の鑑別が容易ではなく,嚢胞性腫瘍の経過観察中に浸潤開始時期を予想することや,早期の浸潤を画像でとらえることは困難である.周術期の合併症や死亡率は少ない。以上のことから,MCNと診断がつけば手術の適応となる.Mayo Clinic における切除84例のMCN(70例:女性,14例:男性)のうち54例が腺腫,23例が非浸潤性腫瘍,7例が癌であったが,癌のうち5例は死亡したことから,癌の予後は悪いとしている(28).同様にフランスにおけるMCNは78例の5年生存率は63%であった(29).

 MCNの術後遠隔成績に関する主な報告(27,28,30-33)を(表3)にまとめた。腺腫・非浸潤癌例は切除後の予後はきわめて良好である。一方、浸潤癌では5年生存率は17~50%であった。


(表3)IPMNとMCNの鑑別点.(日本膵臓学会嚢胞性膵腫瘍分類小委員会診断基準案(2004)(#)

 本邦の全国集計では179例全例が女性であった。平均年齢は56歳(19~74歳)。悪性例は30.6%であった。5年生存率は腺腫・非浸潤癌で100%、浸潤癌で38%であった(表2)。
 

(表2)膵嚢胞の分類(Kimura 2000)(文献#より引用)

 2006年12月に344例のreviewが報告された(34)。Medlineで検索しえた1996~2005年までの英文報告25編をまとめたものである。卵巣様間質が存在した症例のみをまとめた10編の論文では,99.7%が女性で平均年齢は47歳(18~95歳)であった。 94.6%が膵体尾部に存在していた。腫瘍の大きさは平均8.7cm(0.6~35cm)で、76%が有症状であった。6.8%に主膵管との交通を認め、 27%が悪性であった。一方、卵巣様間質のない症例も含めて検討した論文15編のまとめでは,卵巣様間質なしの症例が有りの症例よりも高齢で男性も存在し、悪性例が多い。卵巣様間質なしの群はIPMNとMCNの中間的な位置づけのものではないかと報告している。この報告では卵巣様間質の有無で臨床病理学に比較されているところに意義がある。

 MCNの手術方針としては,拡大手術か標準手術か,どの程度の病巣にどの程度のリンパ節郭清を伴った術式にするかは症例における進行度によって決定するのがよいと考えられる.

IPMNとMCNの鑑別


 膵の腫瘍性嚢胞の理解を明らかにするためには,膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と粘液性嚢胞腫瘍 (MCN)との鑑別が重要である.MCNとIPMNは膵管が嚢胞状に拡張するという点,および粘液を産生するという点からは共通している(図1).



 また,両者はいずれも膵管上皮由来で同一の組織像を示す.しかし,発生年齢,性,発生部位,卵巣様間質・被膜・膵管との交通・随伴性膵炎の有無などについての臨床病理学的特徴には大きな違いがある.すなわち日本膵臓学会嚢胞性膵腫瘍分類小委員会でも明らかにされたように,MCNとIPMNとは臨床病理学的に明らかに異なった疾患である(表3).また,MCNは診断され次第手術の適応であるが,IPMN分枝型の約60%は切除せずに経過観察が可能であるという点からも両者は厳密に区別されるべきものである.



 このなかでMCNの定義として卵巣様間質が絶対必要条件であるということを欧米のグループがかなり強硬に主張していた.一方,我々は術前に鑑別診断をつけて手術適応を決めなくてはならないという臨床実務上,IPMN とMCNの鑑別は画像上で行うのがよいのではないかと主張してきた.つまり「MCNは肉眼的に球形で嚢胞全体を被包する固有の線維性被膜を有するもの, IPMNの分枝型は拡張した膵管分枝が集合したもので全体の外郭は球形ではなく凹凸のあるもの」と,画像診断的あるいは肉眼的に定義するのがよい.すなわち,画像診断学的にIPMNは「ぶどうの房」(図2),MCNは「夏みかん」(図3),と特徴づけられるのである(表4).


(図2)分枝型IPMNのMRCP像.


(図3)MCNのCT像


(表4)IPMNとMCNの鑑別

 MCNと卵巣様間質(図4)との強い関係を主張したZamboni ら(27)も,MCNの中の14%は卵巣様間質のないものがあること,それらは卵巣様間質のあるものより浸潤傾向の強いことを報告している.日本膵臓学会嚢胞性膵腫瘍分類小委員会の全国調査では卵巣様間質のないMCNは25/173(16.8%)にのぼっており,卵巣様間質のないものがあるものより悪性の頻度が高く術後成績の悪い傾向を示している(30).卵巣様間質をMCNの定義の絶対条件とすると,MCNにもIPMNにも分類できない症例がでてきてしまうという欠点が生カじるのである.


(図4)卵巣様間質の組織像

 国際ガイドライン作成時のさまざまな議論(35)の結果,卵巣様間質のないMCNはindeterminate mucin-producing cystic neoplasm (未解決の粘液産生膵腫瘍)とされた.卵巣様間質がないものはすべてIPMNとするとしていた欧米の医師たちから重要な譲歩を引き出したものと考えている.

漿液性嚢胞腫瘍(Serous cystic neoplasm)


臨床病理学的特徴


 SCNは膵の嚢胞性腫瘍の中でも比較的稀な腫瘍とされてきたが、近年の画像診断法の発達に伴い発見の機会が増えてきた。SCNはglycogenを含有する短命な細胞で構成される微小嚢胞が蜂巣状に集蔟する多房性嚢胞腫瘍でmicrocystic adenomaやglycogen-rich adenomaと呼ばれている(36)。しかし近年、このような典型的なSCNの他に、大きな嚢胞からなるmacrocystic typeや肉眼的には充実性腫瘍に近いsolid typeが報告されてきた。

 macrocystic typeはMCNと、solid typeはislet cell tumorとそれぞれ鑑別が難しい場合がある。MCNは上記のように手術適応であり、islet cell tumorも10%の悪性例があるため、手術適応である。このため鑑別診断困難例が手術適応となる場合がある(37-39)。

 われわれはSCNは大きくなると上流膵組織の腺房細胞の脱落をもたらすこと,強固な癒着などにより拡大手術を要することがあること,病理学的には最大径が5cm以上の症例では間質浸潤を疑わせる所見を呈するものが存在すること,最大径が6cm以上では悪性化の報告があることから4cmを越えるものでは積極的切除の方針が望ましいと考えている(24,36).
 
手術は郭清を伴わない切除で十分と考えられる。しかし少数ではあるが、リンパ節転移を伴った症例も報告さ れており、症例ごとに適切な郭清を加える術式が必要になるかもしれない。全体としては予後が良好な腫瘍といえる。

SCNの遠隔成績に関する最近の報告


 SCNは本邦では臨床症状がない場合、経過観察になる症例が多い。そのため、海外に比較して切除例が少ない。しかし過去に悪性例が10例報告されており(24,40-47)(表5)、本症が原因となって死亡した症例も3例報告されている(40-42)。




(表5)SCNにおける悪性例の報告

 また丹念に病理組織標本を検索すると、神経周囲浸潤や局所的な浸潤所見を認める場合もあり、注意が必要である(27,48)。海外では“この腫瘍を放置して100%大丈夫という保証はできない”という観点から、切除される場合が多い。2007年にJohns Hopkins Medical Institutionから単施設での158切除例の報告があった(48)。平均年齢は62.1歳で75%が女性であった。63%が有症状で腹痛が多かった。75例が膵尾側切除、65例が膵頭十二指腸切除術、9例がcentral pancreatectomy、5例が局所切除または核出術、4例が膵全摘術を施行されていた。腫瘍の大きさは平均5.1cmであった。157例は良性で、1例にリンパ節転移を認めた。

二次性膵嚢胞


 solid-pseudopapillary tumor は充実性膵腫瘍の二次性嚢胞化として代表的な腫瘍である(4).1981年にKloeppelらによって最初に報告された(49).若年の女性に好発し,予後良好である点が特徴である.多くは線維性被膜で覆われた壊死傾向の強い充実性の腫瘍で,充実性部分と嚢胞性部分からなる.嚢胞の成因は腫瘍中心部の出血,変性壊死などの退行変性などによる.出血壊死部には血管を軸とした偽乳頭状構造がみられる.腹部超音波検査,CTでは腫瘍中央部の出血,変性壊死の部が嚢胞状に描出され,嚢胞と辺縁の充実部が混在した特徴的所見を呈する.

 内分泌腫瘍は大きくなると中心部が壊死に陥り,二次性嚢胞を伴うことになる.比較的小さなうちから中心部の出血・壊死を伴うこともあるが,産生ホルモンによる壊死性嚢胞の形成のしやすさは特にないと考えられている(4).

 acinar cell carcinomaはまれな腫瘍で,高齢者にみられることが多いが,周囲との境界は明瞭で二次性の壊死性嚢胞を伴う.

 pancreatoblastomaは7歳以下の女児に発生し,7cm以上と大きく,しばしば中心部に出血性壊死を認める.

非腫瘍性真性膵嚢胞


 膵嚢胞は大きく真性嚢胞と仮性嚢胞に分かれ,真性嚢胞が腫瘍性嚢胞と非腫瘍性真性嚢胞に分けられる.

 非腫瘍性真性膵嚢胞は単層円柱・立方上皮を有する嚢胞であり,単純性嚢胞,貯留性嚢胞,先天性嚢胞,孤立性嚢胞などさまざまに分類・呼称される.
 
 「円柱あるいは立方上皮で被覆された非腫瘍性真性嚢胞」の呼称・分類はこれまで用語の使い方として混乱を招いてきた.円柱あるいは立方上皮で被覆された非腫瘍性真性嚢胞のうち,閉塞機転の明らかなものを貯留性嚢胞(retention cyst),明らかでないものを単純性嚢胞(simple cyst)と呼ぶのがよい.孤立性嚢胞(solitary cyst)はこのいずれかの概念に入るもので,なるべく使わないようにすべきである(50).

 なお,重層扁平上皮や過形成上皮などを有するものには,epidermoid cyst や hyperplastic cyst などがある.

先天性膵嚢胞


最近の報告では,先天性膵嚢胞として報告されているのは,いずれも2歳以下の症例についてのみである.した がって先天性嚢胞の概念としては,「被覆上皮が円柱・立方上皮からなる真性非腫瘍性嚢胞のうち,“ある年齢”(例えば2歳)より若年のもの」というように,年齢を恣意的に決めてしまうか,あるいは,これをまったく含めず,「polycystic disease や cystic fibrosis などの先天的要素が濃厚と思われるもののみを先天性嚢胞とする」などとするのが適当である(50).

 円柱・立方上皮で被覆された先天性膵嚢胞としては,欧米では2歳以下の12例がtrue congenital pancreatic cysts として報告され,多くは単純性嚢胞と診断されるとされている(51).また,本邦小児例ではこのような嚢胞は7例報告されている(52).これによると 2.5cm,3cm以外の5例はいずれも10cm以上~腹部全体にわたる大きなもので,7例全例が,嚢胞切除あるいは嚢胞消化管吻合の手術を受けている.

 cystic fibrosis は,全身の粘液腺からの分泌液が粘稠となる,常染色体劣性遺伝の先天性疾患である(53).膵液が粘稠となった結果,膵管が嚢胞状に拡張するいわゆる貯留嚢胞がその主体となる.膵の外分泌腺機能低下は年齢とともに高度となる.粘稠な膵液が分泌される結果,粘稠な胎便がうっ滞し,胎便性イレウスを起こす. Langerhans島は比較的よく保たれ,糖尿病の合併は1~2%と少ないとされている(53).呼吸器系では,気道に粘稠な分泌物が存在するため,肺炎を中心とした気道感染症や気管支拡張,無気肺,肺気腫などの所見がみられる.また汗腺からは,高濃度のNa,Clが分泌されるため,電解質の低下が生じ,致死的となることがある.

 polycystic pancreasについては,Hortonら(54)はLindau病の膵嚢胞はほとんどが1層の円柱上皮に被覆されるsimple cystであると報告しており,またpolycystic pancreas自体には外科的治療の必要はなく,糖尿病や膵外分泌障害に対して治療するべきであるとする報告もある(55).しかし,癌化の例も報告されている.80歳のpolycystic disease の嚢胞中のCEAが高値を示し,被覆上皮にCEAで染色される癌性上皮が認められた(56).この疾患についても注意深い観察が必要である.

診断


 上腹部超音波検査(US)や腹部CT検査で嚢胞性病変として描出されるものは,他の検査の所見を加えながら質的診断に近づくようにする。すなわち質的診断は十分な検査ののちに行うようにする。spiral CTや超音波内視鏡などは膵嚢胞性病変の鑑別に有用である.膵嚢胞の診断におけるフローチャートを図2に示した(57).

 検査所見において膵酵素,すなわちアミラーゼ,リパーゼなどの上昇がみられた場合はIPMNに伴う急性膵炎や,急性膵炎・慢性膵炎に伴う仮性嚢胞を疑う.肝胆道系酵素やビリルビンの上昇がみられた場合には仮性嚢胞や腫瘍性嚢胞による胆道狭窄・閉塞,あるいはIPMNの胆道穿破などを考える.

 血清CEAやCA19-9などの腫瘍マーカ-の上昇では悪性腫瘍を疑うが嚢胞性病変に随伴する膵炎・胆道炎などの炎症による可能性も念頭に入れる.

理学的所見や血液生化学的検査では情報が少ないことが多く,診断は画像所見が中心となる.

治療


 単純性嚢胞,貯留嚢胞,など非腫瘍性真性膵嚢胞,先天性膵嚢胞の診断が確定すればそのまま経過観察でよい.二次性膵嚢胞の場合にはそのもとの腫瘍の手術適応や経過観察の方法に沿った対応が必要となる.

高齢者の小嚢胞性病変


 ガイドラインの中で序文にふれられているように,高齢者膵にみられる小嚢胞性病変(57)はどのような意義をもつのかという点では重要であり,今後ますます研究の対象としてしぼられていくものであろう(図6,図7)(58).IPMNが高齢者にみられることからこの小嚢胞性疾患と通常型膵癌との合併についても重要な問題となる.これがIPMNになるのか,通常型膵癌になるのかはわかっていない.われわれはこの一部はIPMNに発展し,一部は通常型膵癌に発展するのだと考えている(57~60).







 われわれの結果は高齢者膵にみられる小嚢胞性病変の3.4%は異型を示す上皮であるが,大部分が異型を認めない病変,あるいは過形成性病変であることを示した(58).これらの中から膵癌に発展する悪性度の高いものを効率よく診断していく必要がある.over surgery は患者にとっても医師にとっても負担となる.また,通常型膵管癌の発生病理の点から高齢者膵の小嚢胞性病変を検索することは非常に興味あるものである.さらに画像診断を含めた臨床病理学的検討や,分子生物学的検索が期待される.

仮性嚢胞

定義と分類


 線維や肉芽組織などの結合織の壁で被包された膵液貯留と定義され,明らかな被膜をもたないacute fluid collection(急性液体貯留)と区別される.急性膵炎発症から4週間以上を経過して形成された急性仮性嚢胞と、急性膵炎の既往がなく慢性膵炎に合併した慢性仮性嚢胞に分けられ,成因により炎症性、外傷性、腫瘍性、寄生虫性、特発性と原因により5分類される.

病態


 膵仮性嚢胞が自然消退せずに、出血、感染、破裂などの合併症を引き起こした場合、その死亡率はいまだに高率である(61)。

治療


 発症後約6週間経過しても自然消退しない嚢胞径が約6cm以上の症例が治療の適応とされている。内視鏡的嚢胞消化管吻合術は侵襲が少なく推奨される術式である.位置的に対応できない症例や内容が液状化していない症例,隔壁を有する症例などは開腹手術による嚢胞消化管吻合術の適応となる。嚢胞の摘出は炎症による周囲との癒着が強固な場合が多く,周囲臓器の損傷の可能性も強いため,適応にならないことが多い.経皮的ドレナージ術については永久膵液瘻の危険性から適応は厳重にする.最近では腹腔鏡下の嚢胞消化管吻合術が試みられつつあるが、いまだ一般的ではない。

 手術としては仮性嚢胞の発生部位により嚢胞胃吻合術、嚢胞空腸吻合術、嚢胞十二指腸吻合術が行われている。前2者が最もよく行われており,両者の手術成績には差は認められない.

参考文献

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(MyMedより)推薦図書

1) 伊佐山浩通・吉田晴彦・椎名秀一朗 編集, 小俣 政男 監修:肝胆膵診療エキスパートマニュアル,羊土社 2008

2) 大橋計彦・山雄健次 編集:膵嚢胞性疾患の診断,医学書院 2003

3) 宮城征四郎・徳田安春 編さん:身体所見からの臨床診断―疾患を絞り込む・見抜く!,羊土社 2009

4) 日本気胸・嚢胞性肺疾患学会 編集:気胸・嚢胞性肺疾患規約・用語・ガイドライン 2009年版,金原出版 2009

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