胃GIST - MyMed 医療電子教科書

MyMed(マイメド)は、究極の医療電子教科書の作成を通じて、利用者のニーズにあった理想的な医療情報サイトを作ろうというプロジェクトです。

MyMed


このページを印刷
最終更新日:2010.11.26

胃GIST(いぎすと)

Gastrointestinal stromal tumor of the stomach

執筆者: 市倉 隆

概要

現在のGISTの定義


 過去にはその概念や定義に変遷があり混乱もみられたが、現在は、消化管の間葉系腫瘍のうち、KIT and/or CD34を発現し、カハールの介在細胞 (interstitial cell of Cajal, ICC)由来あるいはICCへの分化を示すものをgastrointestinal stroma tumor, GISTと定義するのが一般的である。ICCは消化管筋層内のAuerbach筋間神経叢周囲に存在し、消化管運動のペースメーカーとしての働きを担う細胞と考えられている。したがってGISTの発生部位は消化管がほとんどで、胃にもっとも多く、小腸がこれに次ぐが、食道ではまれである。まれに大網や腸間膜など消化管壁外での発生も報告されており、extra-gastrointestinal stromal tumor (EGIST)と呼ばれる。消化管の間葉系腫瘍としてはGISTの他に平滑筋腫瘍(平滑筋腫、平滑筋肉腫)、神経系腫瘍(神経鞘腫、神経線維腫)、その他 (血管腫、グロームス腫瘍など)があるが、GISTが80%以上を占めるといわれる。過去に平滑筋肉腫などと診断されていた間葉系腫瘍は再検索により GISTと診断されなおすことが多い。

GISTの概念の変遷


 1983年にMazur & Clarkがgastric stromal tumorという呼称を用いたが、1996年、Rosaiにより消化管に発生する紡錐形細胞を主体とする間葉系腫瘍をgastrointestinal stroma tumor, GISTとして一括し、smooth muscle type, neural type, combined smooth muscle-neural type, uncommitted typeに分類することがAckermanのSurgical Pathologyに記載された。そして平滑筋、神経いずれへの分化も示さないuncommitted typeが狭義のGISTと呼ばれ、混乱の一因ともなった。現在でも消化管間葉系腫瘍をgastrointestinal mesenchymal tumor (GIMT)と総称することがある。



 1995年、造血系多分化能幹細胞や血管内皮細胞に発現するCD34が平滑筋や神経への分化を示さない消化管間葉系腫瘍にも発現していることが報告された。Hirotaらは1998年、平滑筋や神経への分化を示さない消化管間葉系腫瘍の多くがKITを発現していることを見いだし、ICCも GISTと同様にKITとCD34を発現していることから、これらの腫瘍がICC由来であると提唱した。この研究が現在のGISTの定義に結びついている。

病因

 GISTの80~90%に c-kit 遺伝子の機能獲得性変異がみられるという。 c-kit がコードするKITは受容体型チロシンキナーゼで、リガンドであるstem cell factor (SCF)と結合することでシグナル伝達を調節するが、GISTでは突然変異したKITがSCFの刺激なしに自律的に細胞増殖に働くことが腫瘍化の機序と考えられている。


 c-kit遺伝子に変異のみられないGISTの半数は血小板由来増殖因子受容体α(platelet-derived growth factor receptor α; PDGFRα)遺伝子に変異がみられるとされている。PDGFRαも受容体型チロシンキナーゼであり、PDGFRα遺伝子の機能獲得性変異が c-kit 遺伝子の変異と同様の機序でGISTの腫瘍化に関与しているものと推測される。一方、 c-kit 、PDGFRαいずれの遺伝子にも変異のみられないGISTが数%存在するが、その病因は現在のところ不明である。

病態生理

 胃GISTは胃体上部に好発する。胃壁における存在部位から、胃内型(内腔型)、壁内型、胃外型(壁外型)、混合型に分類される。基本的には正常粘膜に被われる粘膜下腫瘍の形態をとるが、潰瘍形成もしばしばみられる。腫瘍が大きくなると内部に出血、壊死がみられる。


 すべてのGISTはmalignant potentialをもつと考えるべきで、GIST診療ガイドライン(案)でも生検でGISTと診断された胃粘膜下腫瘍は絶対的手術適応とされている。転移は主に血行性で肝に多く、リンパ節転移の頻度は低い。外科切除後の再発形式としては、肝転移の他に局所再発、播種もしばしばみられる。

臨床症状

自覚症状


 腫瘍の潰瘍形成により出血すると下血をきたすことがある。腫瘍が大きくなると腹部腫瘤を自覚することもあるが、胃GISTが通過障害の原因となることはまれである。検診の普及しているわが国では無症状のGISTが、胃癌検診の際に粘膜下腫瘍として、あるいはスクリーニングで行われるCT検査の際に胃壁腫瘍として発見されることが多い。

他覚症状


 自覚症状に相応する他覚所見として、貧血、腹部腫瘤の触知等を認めることがある。

検査成績

 血液検査で貧血を認めることがある。

診断・鑑別診断

病理診断


 病理組織学的には、好酸性細胞質をもつ紡錐形細胞が膠原線維を交えて束状に錯綜、増生するspindle typeがGISTの多くを占める。他に上皮様細胞からなるepitheloid typeや混合型もみられる。



 GISTの正確な診断には免疫染色を行わなければならない。KIT陽性であればGISTと診断される。KIT陰性、CD34陽性の多くは GISTであるが、solitary fibrous tumorもCD34陽性となるので鑑別を要する。GISTでの陽性率はKITが95%以上、CD34が70~80%といわれる。いずれも陰性の場合、 desminが陽性であれば平滑筋腫瘍、s-100蛋白が陽性であれば神経性腫瘍と診断される。

遺伝子解析


 日常臨床で遺伝子解析まで行うことはほとんどないが、KIT陰性, CD34陽性、あるいはKIT, CD34, desmin, s-100蛋白いずれも陰性の腫瘍では c-kit 、PDGFRα遺伝子の突然変異検索がGISTの診断に有用となる。また、分子標的治療に対する反応性や耐性に c-kit 、PDGFRαの遺伝子型が関連していることが知られているが、今後分子標的治療薬の選択肢が増えた場合、遺伝子解析がさらに有用な情報をもたらすかもしれない。

臨床診断


胃粘膜下腫瘍の鑑別診断


 GIST、平滑筋腫瘍、神経系腫瘍、その他の間葉系腫瘍の他に、粘膜下腫瘍の形態をとる上皮性腫瘍(癌、カルチノイド、転移性腫瘍など)、リンパ腫、嚢胞、迷入膵、duplication、好酸球性肉芽腫などを鑑別の念頭に置く必要がある。

内視鏡、超音波内視鏡


 内視鏡では粘膜下腫瘍としての所見、すなわち立ち上がりが比較的なだらかで正常粘膜に被われた腫瘍を示し、しばしばbridging foldを有する。間葉系腫瘍を通常の鉗子生検で診断することはほぼ不可能であるが、上記の上皮性腫瘍やリンパ腫などを除外するため潰瘍辺縁などから生検は行うべきである。GISTと病理診断がつかない粘膜下腫瘍の治療方針を決定する指針として、内視鏡的には大きさ、潰瘍形成や辺縁不整の所見の有無が重要である。



 超音波内視鏡(EUS)でもGIST、平滑筋腫瘍、神経系腫瘍の各々の鑑別は困難であるが、いずれも固有筋層すなわちEUS上第4層に主座を有する低エコーの腫瘍として同定されることが多く、他の疾患との鑑別に有用である。ただしまれに粘膜筋板由来で第3層に連続する腫瘍として同定されることもある。悪性を示唆する所見としては、不均一な内部エコー、辺縁不整の所見に注意する。

CT, MRI診断


 粘膜下腫瘍としてとらえられたGISTの全体像をみるのにCTはきわめて有用である。胃内に空気や水を注入して胃壁を進展するとより見やすい画像が得られる。またMDCTによる矢状断、冠状断などによる画像も病巣の把握に有用である。悪性を示唆する所見として、壊死、出血、辺縁不整、血流豊富が重要である。



 MRIは壊死部や嚢胞部の検出に優れ、T1強調で低信号、T2強調で高信号を示す。



 肝転移および播種病巣の診断にはCTが欠かせない。



術前確定診断


 術前に病理学的な確定診断を得るためには生検が必要で、粘膜下腫瘍の場合、超音波内視鏡下にエコーガイド穿刺吸引生検(EUS-FNAB)を行う。得られた組織のKIT, CD34の免疫染色を行いGISTの診断を確定する。ただし必要機器を備えている施設は限られており、また生検標本では組織の挫滅による修飾が加わること、KIT, CD34の染色性は必ずしも均一ではなく標本採取部位によって結果が異なる可能性があることを考慮に入れなければならない。

悪性度評価


粘膜下腫瘍の悪性度評価


 EUS-FNABで確定診断ができない粘膜下腫瘍では、臨床的に悪性度を評価し治療方針を決定しなければならない。腫瘍径は重要な要素で5 cm以上は悪性を示唆する。その他の臨床的な悪性所見として、潰瘍形成、辺縁不整、経過中の腫瘍の急速増大が挙げられ、またCT, EUSなど画像診断による悪性所見として、腫瘍内部の壊死・出血(不均一な内部エコー)、辺縁不整、豊富な血流が挙げられる。

切除標本の悪性度評価


 臨床的な悪性度指標として転移、偽被膜破損、腹膜播種、他臓器浸潤が挙げられている。病理組織学的には腫瘍径と核分裂数からのリスク評価が一般的に用いられているが(表1)、核分裂数の代わりにKi-67陽性細胞率や腫瘍壊死像を用いたリスク評価もある(表2)。

 表1. GISTリスク分類

 表2. Ki-67発現と腫瘍壊死像によるGISTリスク分類

治療

GISTの外科治療


 GISTと確定診断がつき遠隔転移がなければ外科手術の適応である。十分なマージンをとって偽被膜を損傷しないよう完全切除する。予防的なリンパ節郭清は必要ないので胃部分切除が妥当であるが、腫瘍の部位や大きさによっては噴門側胃切除や胃全摘を行う場合もある。5 cm未満の腫瘍では腹腔鏡下手術も許容しうる。

粘膜下腫瘍の治療方針。


 GIST診療ガイドライン(案)では、GISTの病理診断がついていない無症状の粘膜下腫瘍では、腫瘍径別にによって臨床的および画像上の悪性所見(6.4.1 粘膜下腫瘍の悪性度評価)に従って治療方針が定められている。



2 cm未満:臨床的な悪性所見がなければ経過観察、悪性所見があればCT, EUS等の精査を行う。画像上の悪性所見があれば手術適応、なければ経過観察を行う。



2~5cm:CT, EUS等の精査を行う。臨床的あるいは画像上の悪性所見があれば手術適応。いずれもなければ経過観察を行うが、十分な説明の上、患者が希望すれば手術の選択肢もある。



5 cm以上:手術適応。

切除不能、再発例の治療


内科治療


 転移があり切除不能、あるいは切除後の再発で切除不能の場合、イマチニブimatinib 400 mg/日内服による内科治療を行う。保険診療上、イマチニブ投与はKIT陽性が確認された症例に限定されているが、KITと同様にPDGFRαのキナーゼ活性もイマチニブにより阻害され、KIT陰性例にも有効と考えられる。8割程度の症例でpartial responseあるいはstable diseaseが得られるがcomplete responseはまれである。イマチニブに対する反応性と c-kit の遺伝子型は関連があり、例えばGISTの中でもっとも頻度の高いエクソン11変異例では反応性が良好であるが、エクソン9変異例では奏功率が低い。イマチニブの主な有害事象は浮腫、消化器症状、皮疹、筋肉痛、血液毒性などである。

再発例の治療方針


 局所再発のみ、あるいは切除可能な肝再発の場合、完全切除が可能と判断されれば外科切除を行う。それ以外は手術適応はなくイマチニブによる内科治療を行う。

予後

 低リスク症例では再発はまれで予後は良好であるが、高リスク症例では半数以上が再発をきたすとされる(田代敬ほか.臨牀消化器内科 2005;20:1249、図1)。

 図1

最近の動向

 イマチニブの術後補助療法、あるいは術前補助療法としての有用性についてはエビデンスはなく、現在すすめられている臨床試験の結果が待たれる。



 イマチニブ不応例に対する、Sunitinibの有効性が報告され、2008年に承認された。分子標的治療薬の進歩はめざましく、さらなる有効薬剤の開発も期待される。

(MyMedより)推薦図書

1) 幕内雅敏 監修、新井邦佳 編集:胃外科の要点と盲点 第2版,文光堂 (2009

2) 笹子三津留 著:胃・十二指腸 (みる・わかる・自信がつく!消化器外科手術ナビガイド),中山書店 2009

3) 跡見裕 編集:術式別 消化器外科術前術後 ケアの要点―イラストでらくらくわかる!,メディカ出版 2007
 

免責事項

情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

※ この記事に関するご意見をお聞かせください。


このページを印刷

診療科別


※ マイメドでは、疾患項目の追加、および最新情報をお知らせするためにメールマガジンを配信しております。ご希望の方は下記にメールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。
  なお、次の職業の方は、職業をご選択の上、メールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。

メールアドレス: メールアドレス(確認用):
医療関係者の方はご選択ください: