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最終更新日:2009.06.22

急性心筋梗塞(きゅうせいしんきんこうそく)

執筆者: 掃本誠治 小川久雄

概要

急性心筋梗塞(acute myocardial infarction: AMI)は急性冠症候群(acute coronary syndrome: ACS)に含まれるのでまず急性冠症候群の概念から説明する。急性冠症候群は、急性心筋梗塞、不安定狭心症、心臓突然死を総括的に総称する疾患概念である。発作時の心電図所見から、ST上昇型と非ST上昇型の2つに分けられ、ST上昇型急性冠症候群の多くはST上昇型急性心筋梗塞(ST elevation myocardial infarction: STEMI)であり、非ST上昇型急性冠症候群(non-ST elevation acute coronary syndrome: NSTEACS)には、不安定狭心症(unstable angina: UA)と非ST上昇型急性心筋梗塞(non-ST elevation myocardial infarction: NSTEMI)が含まれる。
急性心筋梗塞と不安定狭心症は一般の患者、家族にとってあるいは循環器専門以外の医師、医療スタッフにとっても病名から受ける印象として重篤感が大きく異なるのが実情で、世間一般的には急性心筋梗塞のほうが致死的であると考えられがちである。しかし、不安定狭心症は突然死を含め急速に病態が悪化する危険性がありかつ早期に対応すれば重篤化を防げる。
現在、不安定狭心症と急性心筋梗塞は同一の病態で発症すると考えられ、診断される時期が違うだけとも言えるが、この項目においては急性心筋梗塞について説明する。

危険因子

生活習慣の欧米化に伴い急性心筋梗塞を含む急性冠症候群の頻度は増加傾向にあるが欧米諸国と比較すると本邦での発症率はまだまだ低いのが実情である。危険因子として、肥満、喫煙、高血圧、脂質異常、糖尿病があり、また最近ではメタボリック症候群という言葉をよく耳にするが糖尿病“予備軍”でも急性心筋梗塞の発症は高いと報告されており日常の生活習慣の是正が重要である。

病態生理

一般の患者、家族の方に最も誤解されてるのは、急性心筋梗塞は冠動脈の狭窄が長い年月をかけて徐々に狭くなっていき、閉塞したときに発症するのだと思われてることである。ところが、急性心筋梗塞発症の多くはそうではなく、非有意狭窄(狭窄の程度が強くない部位)から発症してくるのが多い。発症機序としては、冠動脈硬化性粥腫(プラーク)の破綻やびらんにより、局所に血栓が形成され冠動脈を閉塞したり狭窄、あるいは、粥腫内出血により内腔の狭小化が引き起こされ心筋虚血が誘発され急性心筋梗塞をおこしてくる。
また、冠動脈トーヌスの亢進(coronary spasm)も酸素供給の減少を引き起こし心筋虚血の一因となり急性心筋梗塞の原因となることがある。冠動脈が完全に閉塞し血流が完全に遮断されるとST上昇型急性冠症候群(多くはST上昇型急性心筋梗塞(STEMI))が発生するが、閉塞せず高度狭窄の状態になったり、閉塞しても早期に側副血行が発達したりすると心内膜側に限局した心筋虚血に陥る。このような病態のもとでは、不安定狭心症や非ST上昇型急性心筋梗塞となる。不安定狭心症と非ST上昇型急性心筋梗塞(non-ST elevation myocardial infarction: NSTEMI)の違いは、心筋障害マーカ上昇の有無、つまり虚血障害の程度で決まってくるが、連続した同一疾患スペクトル上の病態として捉えられ、薬物療法のみで治療可能な比較的軽症のものから早急な血行再建を要するものまで重症度のスペクトルが非常に広い特徴を有する。

自験例を示す 67歳 男性 

左回旋枝の経皮的冠動脈拡張術(POBA;バルーン拡張)後の確認冠動脈造影を施行され、回旋枝には再狭窄なく、左冠動脈前下行枝LADには有意狭窄を認めていなかった(図1A)。
1ヶ月半後、突然の胸痛で救急外来受診、心電図上胸部誘導でST上昇し、緊急冠動脈造影施行。LADの完全閉塞認め(図1B)、
ガイドワイヤ通過後(図1C)、血栓吸引し、ステント留置術施行(図1D)。



血管内超音波(IVUS)では、血栓と思われるエコー輝度の不均一な所見を認めた(図2B矢印)。



吸引された組織の光顕写真を示す(図3)。
図3A白矢印:血栓、図3B黒矢印:コレステリン結晶、図3C:マクロファージ染色、図3D:Cの強拡大非有意狭窄病変から生じた急性心筋梗塞の血栓原因説を裏付ける一症例と思われた。



分類 


急性冠症候群の分類を図4に示す。急性冠症候群は、ST上昇の有無でST上昇型ACSと非ST上昇型ACSとに分類される。ST上昇型ACSは、ST上昇型急性心筋梗塞と診断される例が多く、非ST上昇型ACSはトロポニン上昇の有無により不安定狭心症または非ST上昇型急性冠症候群に分類される。

症状

胸痛の頻度が高いが高齢者や糖尿病患者では気分不良や無症状のこともある。急性心筋梗塞に心不全を合併していれば呼吸困難が前面にでることもある。典型的には狭心症の発作とは違って胸痛の程度が強く、持続時間が長く(30分以上)、冷汗、嘔吐、嘔気を伴うことが多い。

病歴・身体所見

急性心筋梗塞は、今まさに目の前で胸痛を訴え苦しがっている状況のため、迅速な診断と治療が必要である。短時間で適確な病歴聴取を行い、同時に診察、検査を行う。身体所見としては、急性心筋梗塞に特異的なものはないが合併症や他疾患との鑑別に役立つので血圧、脈拍、呼吸、心音、肺音、頸部静脈、腹部診察(腹部bruitの有無)、四肢末梢冷汗、下腿浮腫、チアノーゼ、頸部、腹部、大腿部の血管雑音聴診、動脈触知など評価する。
臨床的に
急性心筋梗塞との重要な鑑別疾患として、急性大動脈解離、急性肺血栓塞栓症がある。また、ショックを伴う急性心筋梗塞の場合、大動脈バルーンパンピング(IABP)を挿入する必要があるが、腹部大動脈瘤や下肢動脈狭窄があれば再考せざるを得ないので、聴診、触診による身体所見の迅速かつ的確な把握は重要である。
筆者は以前、母親とその息子3人兄弟すべて虚血性心臓病であり冠動脈バイパス術、あるいは冠動脈ステント留置術を施行した症例や、父子で冠動脈ステント挿入の症例を少なからず経験したが、家族歴、既往歴の聴取は重要である。冠危険因子(年齢、男性、喫煙、高脂血症、糖尿病、高血圧)についても聴取する。

検査成績・鑑別診断

心電図


12誘導心電図では、ST上昇型であれば診断に苦慮しないが、例えば、aVRを除く四肢誘導、胸部誘導でST低下を認める場合(aVRはやや上昇傾向)、重篤な3枝疾患、あるいは左主幹部病変の可能性があり、的確な診断が望まれる。 ST上昇型急性心筋梗塞では、 T波増高(hyperacute T wave) 超急性期に梗塞部位誘導で観察される。 ST上昇(ST elevation) T波増高と相前後して梗塞部位誘導でST上昇がみられる。最近は再灌流療法が行われるので成功すれば速やかにST低下する(ST resolution)。ST上昇が長期間持続する場合は心室瘤の合併を考える。異常Q波(abnormal Q wave)梗塞部位誘導のR波は減高し、異常Q波が形成される。冠性T波(coronary T wave)梗塞部位誘導のST上昇の終末部からT波の陰転が始まり(T terminal inversion)、ST低下とともに陰性T波が生じる。対側性変化(reciprocal change) ST上昇の誘導と電気的に反対側に位置する誘導でST低下がみられる。以上のような心電図変化をたどることが多い。異常Q波出現誘導と梗塞部位の関係を表1に示す。 左冠動脈主幹部閉塞 最重症であり、来院時にはショック状態のことが多く、来院前に死亡する例も少なくない。心電図ではQRS幅は延長しST低下が広範囲にみられることが多い。 

 

心エコー

 
診断と病態評価に非常に有用である。入院時に左室局所壁運動、駆出率を評価するだけでなく、急性心筋梗塞に伴う合併症の診断にも有用である。

血液生化学  


血清クレアチンキナーゼ(CK)、クレアチンキナーゼMB(CK-MB)、トロポニンT、トロポニンIなどが上昇する(発症後4-8時間)。心臓型脂肪酸結合蛋白(H-FABP)は発症2〜4時間の超急性期における診断マーカとして有用であるが腎障害などでも高値を示しやすいので注意が必要である。心筋逸脱酵素の総量およびpeak値は心筋壊死量の指標となるのでこの値が高いほど一般に重症と考える。

胸痛をきたす疾患を表2に示す。この中でも、以下の疾患とは鑑別が特に重要である。急性大動脈解離:激しい胸痛・背部痛で発症する。冠動脈入口部まで病変が及んでいなければ心電図には明らかな虚血性変化は生じない。造影剤を併用したCT検査で確定診断を行う。

肺塞栓症

突然の胸痛と呼吸困難を訴えることが多い。肺血流シンチグラムでは区域または肺葉に一致する欠損をみる。造影CTが有用である。

気胸

突然の胸痛で発症するが、胸部X線写真で診断可能である。

急性心外膜炎・急性心筋炎

発熱などの炎症所見を伴うことが多く、心電図上、冠動脈支配に一致しない広範囲のST上昇を認める。心膜摩擦音を聴取することもある。

合併症

不整脈


急性期には心室性期外収縮PVCなどの不整脈が生じる。R on T、連発、多源性などは心室頻拍、心室細動に移行する危険が高い。心房細動、心房粗動は心不全に合併しやすい。洞徐脈、房室ブロックは下壁梗塞例に多い。一時的に体外式ペースメーカを必要とする場合もある。心不全 左主幹部、左冠動脈前下行枝近位部の梗塞、あるいは発症から数日経過して入院した症例などでは心不全を合併しやすい。呼吸状態によっては人工呼吸器管理が必要なこともある。右室梗塞 下壁梗塞に合併し、右室への流入障害をきたし、右室拡張末期圧、右房圧、静脈圧が上昇、心拍出量低下。血圧低下、ショックになることもある。ショック 左主幹部が病変であったり、広範囲の梗塞の場合心拍出量が減少し血圧低下、尿量減少、四肢冷汗、意識障害を伴う心原性ショックを呈することがある。左室自由壁破裂 梗塞後に脆弱になった心室自由壁が断裂することによって生じる。高齢女性、梗塞発症1〜4日後に多い。
 

Blowout type(破裂型)


完全に心筋が裂ける。突然のショック状態となり、死亡率が高い。

Oozing type(滲出型)


染み出すように出血し、徐々に心タンポナーデの症状(血圧低下、頸静脈怒張、奇脈(吸気時に血圧が10mmHg以上低下する)、Kussmaul徴候(吸気時に頸静脈怒張が増強)、心音減弱)が出現してくる。心エコーによる心嚢液貯留の評価は非常に有用である。心室中隔穿孔 心室中隔の亀裂で左右短絡(シャント)が生じた状態。全収縮期雑音を聴取し血行動態が悪化、あるいは改善しない。カラードップラー法にて左室から右室へのシャントがみられる(図5)。



僧帽弁乳頭筋・腱索断裂 乳頭筋の虚血で機能不全、断裂を生じ僧帽弁逆流が出現する。下壁梗塞で後乳頭筋障害がなりやすい。梗塞発症1週間以内、全収縮期雑音を聴取し、心不全、ショックになる。虚血性僧帽弁逆流 僧帽弁複合体(僧帽弁、乳頭筋、腱索)に器質的異常がないのに、tetheringによる僧帽弁逆流を生じることがある。 

Tethering


左室拡大→乳頭筋外側変位→僧帽弁弁尖を牽引→閉鎖のずれ→僧帽弁逆流 tetheringと僧帽弁輪拡大により僧帽弁逆流が増悪する。

心室瘤 真性心室瘤


貫壁性梗塞部位が進展拡大する。壁菲薄化、心筋線維化、dyskinesis(収縮期に外側に膨隆)みられる。心室瘤の部位で血流がうっ滞し血栓を生じやすくなり、血栓塞栓症のリスクが高まる。 

仮性心室瘤


左室自由壁の一部が断裂し心腔内血流が心外膜下に漏出、心膜が癒着し限局性瘤を生じる。後下壁から側壁に多く、破裂しやすく手術の適応となる。左室リモデリング 心負荷→障害部位の菲薄化・伸展→健常部位の心筋細胞肥大、間質細胞増殖、結合組織増生→このような左室の立体構造変化をリモデリングと呼ぶ。つまり、心筋梗塞後の左室内腔拡大(リモデリング)は、梗塞部進展(infarct expansion)と非梗塞部心筋肥大による。

心筋梗塞後症候群(Dressler症候群) 


梗塞心筋を抗原とする自己免疫機序による心膜炎が主体。梗塞2週間から数ヶ月の間に、発熱、胸痛を訴える。
 

CCU症候群 


心筋梗塞急性期に、疼痛、不安、心電図モニター、静脈点滴ライン、血圧モニターなどによる身体拘束などと相俟って、精神的に混乱し、不隠になることがある。

治療

再灌流療法 


発症早期のST上昇型心筋梗塞に対し、再灌流療法により心筋保護と死亡率低下の予後改善が期待できる。再灌流療法には血栓溶解療法と経皮的冠動脈形成術(Percutaneous Coronary Intervention;PCI)があり(表3)、これまで両治療法の優劣が論じられ、特別なケースを除けば、最初から経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行することが推奨されている。経皮的冠動脈形成術の適応であれば、抗血小板薬アスピリン162mg〜325mgをかみ砕いて服用し、クロピドグレルは300mgのloading doseに続き75mg/日を継続する。



自験例 64歳 男性 

胸痛で救急外来受診。心電図;II,III,aVFでST上昇し、緊急冠動脈造影施行(図6A)、右冠動脈中間部に血栓を伴う99%狭窄(図6A赤矢印)、末梢に完全閉塞を認めた(図6A赤矢印頭)。引き続き経皮的冠動脈形成術に移行し、まず血栓吸引術施行、図のような血栓が吸引できた(図6D)、中間部にステント挿入(図6B)、末梢はバルーン拡張し良好な血流再開得られ終了(図6C)。



血栓溶解療法 


適応としては、ST上昇を有し発症から12時間以内で75歳未満の患者、あるいは脚ブロックのためSTの分析が不明確であるが急性心筋梗塞を示唆する病歴のある患者がClass Iとされている。ウロキナーゼよりもフィブリン親和性が高く酵素活性が血栓上で発現する組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)が使用される。急性心筋梗塞発症早期の血栓溶解療法は死亡率低下に有効と認められている。ただし、再疎通率の高い経皮的冠動脈形成術PCIの普及により血栓溶解療法の頻度は減少している。血栓の豊富な症例、施設の対応度、患者の状況などにより、個別に対応されているのが実情である。疼痛対策 緊急の経皮的冠動脈形成術時など、急性期に症状が持続すれば、塩酸モルヒネを静注する。
しかし、本邦では、モルヒネは麻薬管理のため使用するのに煩雑さがあるため、塩酸ブプレノルフィン(商品名レペタンR)、ジアゼパム(セルシンR)で代用する場合もある。ただし、レペタンには嘔気などの副作用があり、一過性の血圧上昇をきたすので注意が必要である。

薬物治療


抗血小板薬 

心筋梗塞のみならず狭心症を含めて冠動脈疾患に対する抗血小板薬としてアスピリンが最も使用されており、大規模スタディにて、心血管事故を減少させることが報告されている。アラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ1(COX-1)によりプロスタグランジンPGG2/H2が生成され、トロンボキサンA(TXA)合成酵素によりトロンボキサンA2が産生される。アスピリンは、COX-1を抑制することで血小板凝集を減弱させる。また、チエノピリジン系のチクロピジン、クロピドグレルも死亡あるいは非致死的心筋梗塞の減少が示されており血小板膜上のADP受容体P2Y12への結合を阻害することによりADPが誘導する血小板凝集を抑制する。チクロピジンは、クロピドグレルに比して副作用が多く、消化管症状、肝障害、白血球減少、血栓性血小板減少性紫斑病などが報告されており、投与開始初期は2週間毎の採血検査が必要である。 抗血小板薬の使用に際しては、出血合併症のリスクを検討することが重要であり、特に高齢者、女性、出血性疾患の既往、腎機能障害の患者では、注意が必要である。 
 
β遮断薬 

心拍数×血圧を低下させ心筋酸素消費量を減少させ虚血を寛解させる。また、心筋酸素消費量減少のみならず、拡張期を延長することで冠血流量および側副血行路の血流量を増加させる。高度徐脈、高度房室ブロック、洞機能不全、最近の喘息発作、急性左心不全では原則禁忌である。本邦では、冠攣縮性狭心症の割合が海外に比べ高く使用には注意を要するが欧米では禁忌がない限りβ遮断薬の使用は常識のようになっている。心筋梗塞に対し生命予後改善の機序として急性期は、致死的不整脈の抑制、心破裂の抑制、梗塞領域の軽減、慢性期は虚血改善、再梗塞抑制、抗不整脈作用、心臓リモデリング抑制などが挙げられる。Ca拮抗薬 心筋梗塞後に、β遮断薬とCa拮抗薬の効果を比較したJBCMI試験において、本邦ではCa拮抗薬の有効性はβ遮断薬と同等であると示されている。

スタチン 


スタチン薬は、冠動脈疾患の一次予防、二次予防に有効であることが報告されている。急性冠症候群を対象としてプラバスタチンとアトルバスタチンの比較試験(PROVE IT TIMI22)では、プラバスタチンによる標準的治療(LDL-C:95mg/dl)に比べてアトルバスタチンによる強力な治療(LDL-C:62mg/dl)は一次エンドポイント(全死亡、心筋梗塞、不安定狭心症、血行再建術、脳卒中)を抑制し、LDL-Cは下げればそれだけ効果があるという結果であった。もともとLDL-C低下に対し強力な治療も標準的な治療も差はないのではないかと試験前には思われていたが、急性冠症候群発症直後からのスタチンでの強力な治療が重要であることを示したことで意義深い試験である。本邦においてはJ-LIT試験(Japan Lipid Intervention Trial)で、心血管疾患の一次予防、二次予防に対する有用性が示され、MUSASHI-AMI試験では、急性心筋梗塞患者に対しスタチン早期導入による心血管イベントの抑制が示され、さらに、ESTABLISH試験においてPCIを施行した急性冠症候群患者にアトルバスタチン20mgを投与することで、冠動脈プラークの減少が報告されている。
さらに、スタチンは、血清コレステロール低下作用以外にも多面的効果(pleiotropic effect)を有し、例えば、抗酸化作用、血管内皮細胞の分化増殖の促進とその機能障害の改善、血栓形成改善作用、抗炎症作用、免疫抑制作用などみられる。

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB) 

心筋梗塞後心不全を合併し予後を規定する因子として左室リモデリングがある。左室リモデリングには、レニンーアンジオテンシンーアルドテロン系の活性化が関与しておりACE阻害薬、ARBで活性化を抑えることで左室リモデリングが抑制される。

硝酸薬 

狭心症発作時には舌下、噴霧投与が有効だが、急性心筋梗塞では無効である。24時間以上点滴静注を行う場合耐性出現が問題となり、また経口投与では間歇的投与などで耐性を作らないようにすべきである。シルデナフィル(バイアグラ)は硝酸薬併用で血圧低下をきたすことがありシルデナフィルの服用の有無を確認する必要がある。

リハビリテーション・予後・最近の動向

 リハビリテーション  


当初は、心機能回復を伴う身体機能訓練で運動療法の意味合いが強かったが、最近では包括的心臓リハビリテーションといって様々な職種のスタッフが多方面からアプローチしている(例えば、栄養指導は管理栄養士、服薬指導は薬剤師、生活指導は専門看護師、運動指導は理学療法士)。ひとつの病院で急性期から慢性期治療まで完結するのではなく地域全体としての病院、医院間の連携を通してそれぞれの役割分担を持ちながら個々の患者さんにかかわっていく必要性が増している。
 

予後  


急性心筋梗塞の院内死亡率は以前と比べ非常に低下しており、入院中の予後つまり短期予後は著明に改善している。このため、退院後の中期、長期予後改善が重要になってくる。なぜなら、冠動脈疾患による死亡、急性心筋梗塞発症の約半分は以前に冠動脈疾患と診断された患者から発生し、心筋梗塞既往のある患者の心筋梗塞発症率は既往がない例に比較し数倍高いことが報告されている。また、心筋梗塞既往患者では、突然死のリスクが一般住民より高く、つまり“一度あることは繰り返す“ということから退院後の管理が重要となってくる。さらに、急性心筋梗塞後にうつ病を合併することがあり、生活の質(QOL)を低下させ長期的にも死亡率が高くなることが報告されており心筋梗塞発症後身体的のみならず、精神的なケアも重要である。

最近の動向


再生医療  

心筋再生と血管新生の両面から検討されており、急性心筋梗塞の経皮的冠動脈形成術PCI成功後に骨髄単核球細胞あるいは末梢血単核球細胞を冠動脈内に注入したところ、梗塞巣の縮小、左室駆出率改善、左室リモデリング抑制などが報告されている。閉塞性動脈硬化症などの重症下肢虚血肢に対する血管新生療法はある程度普及しているが、心筋梗塞に対しては一般的とまでは言えず今後の研究が待たれる。

心臓CT  

冠動脈造影は動脈を穿刺しカテーテルを挿入するという侵襲的観血的な検査であるが、最近では非観血的検査としてマルチスライスCT(MSCTあるいはMDCT)の普及と画像処理の進歩により冠動脈に高度石灰化がなければ冠動脈CT(CT coronary angiography:CTCA)が冠動脈造影に代用可能なレベルに達しており急速に普及している。さらに、冠動脈内腔だけでなく、プラークの性状評価に優れており、不安定プラーク(vulnerable plaque)を検出し、プラーク破裂、びらんから急性心筋梗塞を発症する前に予知できないか、研究されている。自験例を示す。 64歳 男性、2週間前から労作時胸痛認め、数日前から安静時でも発作がみられるようになり救急外来受診。ECG は2年前(図7A)と比べ、今回(図7B)、I, aVL誘導で軽度ST低下、V4,5でT波の陰転化、V6でT波の平坦化を認める。入院時のトロポニンは0.1ng/ml。冠動脈CTでは、左冠動脈前下行枝LAD近位部にCT値の低いプラークを伴う高度狭窄(図8A, B矢印)を認めた。冠動脈造影(CAG)では、CTに一致して狭窄を認め(図8C矢印)、血管内超音波(IVUS、図8D)では、高輝度と低輝度の混在した内腔に凸な血栓を疑わせる所見と、石灰化を伴わないにもかかわらず、プラーク内のエコー輝度が減衰(attenuation)し、後方がほとんど観察できない所見(矢印)を認めた。この所見は、PCI時のバルーン拡張あるいはステント挿入により末梢塞栓症のリスクが高い可能性を示しており、異物除去カテーテルを用い末梢塞栓症の予防を行いステント挿入し問題なく終了した。



図の説明

図の説明


図1   
A:急性心筋梗塞発症1ヶ月半前の冠動脈造影
B:Aの造影から 1ヶ月半後、突然の胸痛で救急外来受診、心電図上胸部誘導でST上昇し、緊急冠動脈造影施行。LADの完全閉塞認める。
C:ガイドワイヤ通過後の造影
D:血栓吸引し、ステント留置術後の造影

図2   
A:病変の近位部
B:血栓と思われるエコー輝度の不均一な所見を認める。
C:病変の遠位部

図3   
A:白矢印:血栓
B:黒矢印:コレステリン結晶
C:マクロファージ染色
D:Cの強拡大

図6   
A:右冠動脈造影 赤矢印:血栓を伴う99%狭窄、赤矢印頭:閉塞
B:ステント留置のためバルーン拡張中
C:最終的な右冠動脈造影
D:吸引された血栓

図7   
A:2年前の安静時心電図
B:救急外来受診時、I, aVL誘導で軽度ST低下、V4,5でT波の陰転化、V6でT波の平坦化を認める

図8   
A:冠動脈CT:LAO view、
B:冠動脈CT:LAO,Cranial view 左冠動脈前下行枝LAD近位部にCT値の低いプラークを伴う高度狭窄(矢印)を認める。
C:冠動脈造影(CAG):RAO,Cranial view CTに一致して狭窄を認める(矢印)。
D:血管内超音波(IVUS):高輝度と低輝度の混在した内腔に凸な血栓を疑わせる所見と、石灰化を伴わないにもかかわらず、プラーク内のエコー輝度が減衰(attenuation)し、後方がほとんど観察できない所見(矢印)を認める。attenuationの所見は、PCI時のバルーン拡張あるいはステント挿入により末梢塞栓症のリスクが高い可能性を示しているといわれている。  

免責事項

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ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

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