胚細胞腫瘍(奇形腫群腫瘍) - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.12

胚細胞腫瘍(奇形腫群腫瘍)(はいさいぼうしゅよう(きけいしゅぐんしゅよう))

germ cell tumors

執筆者: 池田 均

概要

 胎児期の胎生4週に原始胚細胞(原始生殖細胞)が出現し、胎生5週に将来の卵巣や精巣を形成する生殖堤(隆起)へ移動する。この原始胚細胞から卵子や精子などの胚細胞が形成される。従来、「奇形腫群腫瘍」としてまとめられていた腫瘍は胎児期の原始胚細胞が胚細胞になるまでの間に発生してくる腫瘍と理解されており、現在は「胚細胞腫瘍」と呼ばれる。胚細胞腫瘍は卵巣や精巣の他、頭蓋内(松果体)、縦隔、胃、後腹膜、仙尾部などの性腺以外の部位からも発生するが、これは胎児期の発生段階で迷い込んだ(迷入した)原始胚細胞から発生するものと考えられている。

 米国の統計では頭部以外に発生する胚細胞腫瘍は15歳以下の小児腫瘍の3%にすぎないが、15歳から19歳までの思春期ではその頻度が14%に増加する(1)。

病因

 腫瘍発生の真の病因は不明であるが、性染色体異常をともなう性腺発育異常やクラインフェルター症候群(46XXY)では胚細胞腫瘍のリスクの高いことが知られている。また稀ながら家族内発生の報告もある。腫瘍の染色体異常としては思春期以降の精巣腫瘍において12番染色体短腕の同腕染色体i(12p)の存在が知られており、腫瘍発生との関連が示唆されている。ただし、乳幼児期と思春期以降に発生する胚細胞腫瘍ではそれぞれの生物学的特性(性格)や悪性度が異なり、乳幼児期の腫瘍では12番染色体の異常は稀である。また乳幼児期の胚細胞腫瘍は治療によく反応する。

診断・鑑別診断

画像検査

 超音波検査、CT、MRIなどの画像検査を行う。奇形腫では超音波検査により嚢胞成分と充実性成分の混在を認め、CTやMRIなどにより石灰化や脂肪の存在を確認できる。未分化胚細胞腫や卵黄嚢腫瘍、複合組織型では腫瘍内の組織成分や出血、壊死を反映して多彩な像を呈する。悪性例では転移巣の検索にCT、MRI、骨シンチなどを行う。

腫瘍マーカー

 胚細胞腫瘍の腫瘍マーカーとしては血清のAFP、β-HCG、CA125、LDH-1などがあり、特にAFPとβ-HCGは診断、治療効果の判定、再発のモニターに重要である。

 卵黄嚢腫瘍では血清のAFPが高値を呈し、治療に反応して推移する。すなわち腫瘍の摘出後、約5日の半減期で減少するが、転移や再発があれば再上昇する。AFPは胎児期の卵黄嚢や肝、腸管で産生されるタンパクで、出生後に減少し生後10ヵ月には成人レベルの10 ng/ml以下になる。卵黄嚢腫瘍の他、胎児性癌、肝芽腫、肝細胞癌、肝炎、肝硬変などで高値を示すが、胚細胞腫瘍由来のAFPと肝腫瘍由来のAFP、肝炎、肝硬変などの良性肝疾患由来のAFPでは糖鎖構造に違いがあるためレクチン吸着性二次元免疫電気泳動法により鑑別することができる。奇形腫ではAFPは上昇しないが、腫瘍内に卵黄嚢腫瘍の成分を含む場合には高値となり、逆にAFPの高値をともなう奇形腫では腫瘍内に卵黄嚢腫瘍の成分を含むと考えるべきである。

 絨毛癌では合胞体栄養膜細胞由来の腫瘍細胞がHCGを産生する。HCGは二種類のサブユニット、αとβからなるが、αサブユニットは黄体ホルモンや卵胞刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモンのαサブユニットと構造的類似性があり、βサブユニット(β-HCG)には構造上の類似性は認められない。したがってβ-HCGに対する抗体は他のホルモンと交叉反応がないため、血清中のβ-HCGを測定し腫瘍由来のHCGをモニターすることができる。血清β-HCGの正常値は1.0 ng/ml未満で、半減期は24時間である。未分化胚細胞腫に合胞体栄養膜性巨細胞をともなうと血清中のβ-HCGが高値となるが小児では稀である。

 卵黄嚢腫瘍、胎児性癌、未分化胚細胞腫などで血清中のCA125が高値となることがある。CA125は発生途中の体腔上皮に発現する糖タンパクに関連した抗原で、成人の卵巣癌で高値を示す。正常値は35 U/ml未満である。

 また、卵黄嚢腫瘍、未分化胚細胞腫、絨毛癌において血清LDHのアイソザイム1(LDH1)が高値を示すことが知られている。

治療

 胚細胞腫瘍の治療は発生部位、組織型、年齢、進行度(病期)により異なる。治療は外科治療と化学療法、放射線療法に大別される。

外科治療

 良性の奇形腫に対しては外科的切除が行われる。ただし腫瘍の発生部位によっては一塊として切除することが困難で、そのような場合、正常組織の損傷などの手術合併症に留意しなければならない。

 一方、悪性の胚細胞腫瘍に対しては一期的切除または化学療法後の二期的切除を行う。特に腫瘍が巨大な場合や他臓器への浸潤が著明な場合には生検後の化学療法を優先する。

化学療法

 悪性の胚細胞腫瘍に対しては多剤併用療法が用いられる。現在、小児で使用されるレジメンはシスプラチン(cisplatin)、ビンブラスチン(vinblastine)、ブレオマイシン(bleomycin)を組み合わせたPVB療法、シスプラチン、エトポシド(etoposide)、ブレオマイシンを組み合わせたPEB療法、カルボプラチン(carboplatin)、エトポシド、ブレオマイシンを組み合わせたJEB療法などで、3週または4週毎に3コースないし4コースを投与する。あるいは腫瘍マーカーが正常化してから2コースを投与する。副作用はシスプラチンの腎障害、聴力障害、ブレオマイシンの肺障害、エトポシドによる二次がんの発生などに特に注意を要する。ブレオマイシンによる肺障害は非可逆性で致命的となるので、小児ではオリジナルのPVB療法は用いずブレオマイシンの投与量は減量する。

放射線療法

 頭蓋内の胚細胞腫に対しては放射線照射が用いられる(2)。

部位別の病態・治療

精巣

 乳児期から5歳頃にかけて奇形腫と卵黄嚢腫瘍が発生する。いずれも多くの場合、無痛性の陰嚢腫大として発見されるが、反応性の水瘤をともない陰嚢水腫として見過ごされることがある。したがって緊満感をともなう陰嚢腫大では超音波検査による陰嚢内容の確認が必要である。奇形腫と卵黄嚢腫瘍の鑑別は超音波検査やCT、MRIなどの画像所見と血清のAFP値により行う。また精巣原発の卵黄嚢腫瘍は後腹膜リンパ節へ転移するので、CT、MRIによる検索が必要である。

 治療は奇形腫では外科的切除のみで十分で、特に腫瘍が小さく精巣実質が温存できる場合には精巣実質を残し腫瘍の核出術を行う。一方、卵黄嚢腫瘍に対しては鼠径管を解放して精索と精巣を一塊に切除する高位精巣摘除術が行われる。腫瘍の進展度や経過により術後の化学療法や後腹膜のリンパ節郭清を組み合わせるが、化学療法が有効なため後腹膜リンパ節郭清は次第に行われなくなっている。また腫瘍が精巣内に限局した病期Iでは経過観察を行い、化学療法は再発後に行うとの考えが一般的である。

 停留精巣では成人以降にセミノーマや胎児性癌が高率に発生すると言われている。停留精巣では一般に、1歳から2歳前後に精巣固定術が行われるが、固定術を行うことにより精巣の腫瘍発生が予防できるか否かに関しては不明である。

卵巣

 卵巣原発の腫瘍は学童期、特に8歳から10歳以降に腹痛、腹満、腹部腫瘤あるいは頻尿などを症状として発見される。また卵巣茎捻転による急激な腹痛で発症することも多い。奇形腫の他、未分化胚細胞腫、卵黄嚢腫瘍、複合組織型などが発生する。診断は腹部超音波検査、CT、MRIなどの他、血清AFP、β-hCGにより行われる。

 卵巣奇形腫では同時性、異時性を含めて両側発生が5-10%の頻度で認められる。小児の卵巣奇形腫では未熟奇形腫であっても良性病変なので、卵巣組織を温存する腫瘍核出術が原則である。腹膜転移を思わせる腹膜神経膠腫症も良性病変である。

 未分化胚細胞腫は思春期にみられる卵巣の代表的な充実性腫瘍で、腹部腫瘤、腹痛、るいそうなどを主症状とする。卵巣卵管切除による腫瘍摘出の後、化学療法を併用し約90%の生存率が得られている。未分化胚細胞腫は放射線に感受性があるため以前は放射線治療が行われたが、有効な化学療法の開発と放射線による不妊を回避するため現在ではほとんど用いられない。

 卵黄嚢腫瘍は未分化胚細胞腫と同様、10代の思春期にみられる腫瘍である。CTやMRIの画像所見は未分化胚細胞腫と異なり、また血清のAFP値が高値を示す。切除と化学療法により80%以上の生存率が得られている。

 複合組織型では混在する成分のうち、最も悪性度の高い腫瘍成分に照準を合わせて治療を行う。

性腺外の胚細胞腫瘍

 性腺外の胚細胞腫瘍は仙尾部、胸部・縦隔、腹部・後腹膜、頭蓋内などに発生し、部位により発症年齢、性別、症状などの特徴を有する。

 仙尾部は性腺外胚細胞腫瘍の好発部位で、巨大な仙尾部奇形腫は胎児期から発症する。女児に多く、骨盤外に発育した場合、その特徴的な形態から胎児超音波検査により診断される。腫瘍内出血や胎児水腫、心不全、分娩時の腫瘍破裂などにより胎児死亡や新生児死亡の原因となる。一方、仙骨前あるいは骨盤内に発育し症状の発現が遅い例では、乳児期以降に悪性化してから診断されることもある。仙尾部奇形腫では卵黄嚢腫瘍や胎児性癌の成分を含むことがあり、また奇形腫でも術後に悪性病変として再発することがある。したがって早期に尾骨を含んだ全摘出術を行い、摘出後はAFPとβ-HCGを測定し経過を追う。

 胸部または縦隔の胚細胞腫瘍の多くは前縦隔の胸腺から発生する良性の奇形腫である。稀に卵黄嚢腫瘍、胚細胞腫、絨毛癌などが発生する。新生児期に発症する巨大な奇形腫では胎児期からの圧迫による肺の低形成をともなうことがある。

 腹部および後腹膜に発生する胚細胞腫瘍もその多くは良性の奇形腫であるが、腫瘍が巨大で腸間膜や腎門部の血管を巻き込むような場合には摘出が困難で手術の合併症もおこしやすい。1歳未満の乳児に発症する胃の奇形腫は男児に多く、胃の通過障害や出血で発症する。

 頭蓋内の胚細胞腫瘍は松果体あるいは鞍上部に発生し胚細胞腫が多い。視覚障害、尿崩症、下垂体機能低下などの症状を呈する。

予後

 良性の奇形腫では98%の10年生存率が得られるが、8%に再発がみられ、3%弱は悪性として再発する(3)。一方、悪性の胚細胞腫瘍では病期I、IIにおいて95%程度の6年生存率が得られ、病期IIIあるいは遠隔転移を有する病期IVでも80%以上の6年生存率が得られている(4,5)。
 頭蓋内の胚細胞腫瘍では、胚細胞腫で90%以上の5年生存率が得られ、胚細胞腫以外の腫瘍では約70%の5年生存率である(2)。

分類

 小児の胚細胞腫瘍は良性の奇形腫と悪性の腫瘍に大別される。前者は成熟型と未熟型に分類され、後者は未分化胚細胞腫(胚細胞腫)、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、胎児性癌などを含む。

奇形腫

 奇形腫は成熟・分化した三胚葉成分からなる腫瘍で、肉眼的に毛髪、歯牙を認めるなどの特徴がある。未熟奇形腫は神経上皮組織などの胎児組織類似の未熟な組織を含む。未熟組織の多寡による分類(grading)は成人における卵巣原発例の悪性度の指標となるが、小児の奇形腫は良性でありgradingの意味合いは乏しい。卵巣原発の奇形腫では腹膜やリンパ節に転移様の結節性病変を多数認めることがあるが(腹膜神経膠腫症)、これもグリア組織で悪性病変の腹膜播種とは異なる。しかし、奇形腫に混在する微小な悪性病変が、切除後の再発、転移などの原因になることも事実で、詳細な組織学的検討や腫瘍マーカーの測定が必要である。

卵黄嚢腫瘍

 卵黄嚢腫瘍は乳幼児の悪性胚細胞腫瘍で最も頻度の多い腫瘍である。組織学的には網状、嚢胞状などの像を呈し、特徴的な類糸球体構造(シラー・デュバル体)や好酸性の硝子滴などを認める。腫瘍はアルファ・フェトプロテインを産生する。

未分化胚細胞腫(胚細胞腫)

 卵巣では未分化胚細胞腫、精巣ではセミノーマ、性腺外では胚細胞腫と呼ばれ、組織学的に同一の腫瘍である。精巣のセミノーマは通常、小児ではみられない。組織学的には大きく明るい細胞質および円形の核を有する腫瘍細胞と間質へのリンパ球浸潤が特徴で、腫瘍細胞の細胞膜には胎盤性アルカリフォスファターゼが陽性である。

胎児性癌

 胎児性癌は小児では単一な組織型としてみられることは稀で、複数の組織型が混在する複合組織型の構成成分として認められる。組織学的には充実型や管状型、乳頭状型を呈する。

絨毛癌

 絨毛癌も小児においては複合組織型の構成成分として認められることが多い。例外として母体または胎盤の絨毛癌が経胎盤に胎児へ転移し、乳児期に発症することがある。この場合、腫瘍は単一な絨毛癌の組織像を呈する。絨毛癌は細胞性栄養膜細胞と合胞体栄養膜細胞に由来する二種類の腫瘍細胞からなり、後者はヒト絨毛ゴナドトロピンを産生する。

多胎芽腫

 受精直後のヒト胎児に似た構造を示し、通常、複合組織型の一成分として認められる。

複合組織型

 奇形腫、卵黄嚢腫瘍、胚細胞腫、胎児性癌、絨毛癌、多胎芽腫のうち二種以上の組織型を同一腫瘍内に認めるものを複合組織型と呼ぶ。複合組織型のうち奇形腫を成分とするものを悪性奇形腫とよぶことがある。腫瘍は肉眼的にも嚢胞、充実性部分、出血などの多彩な像を呈する。

参考文献

1) National Cancer Institute: Childhood extracranial germ cell tumors (PDQ®): Treatment. URL: http://www.cancer.gov/cancertopics/pdq/pediatrictreatment/

2) Haas-Kogan DA, Missett BT, Wara WM, et al. Radiation therapy for intracranial germ cell tumors. Int J Radiat Oncol Biol Phys 56:511-518, 2003

3) Lo Curto M, D'Angelo P, Cecchetto G, et al. Mature and immature teratomas: Results of the first paediatric Italian study. Pediatr Surg Int 23:315-322, 2007

4) Rogers PC, Olson TA, Cullen JW, et al. Treatment of children and adolescents with stage II testicular and stages I and II ovarian malignant germ cell tumors: A Pediatric Intergroup Study-Pediatric Oncology Group 9048 and Children's Cancer Group 8891. J Clin Oncol 22:3563-3569, 2004

5) Cushing B, Giller R, Cullen JW, et al. Randomized comparison of combination chemotherapy with etoposide, bleomycin, and either high-dose or standard-dose cisplatin in children and adolescents with high-risk malignant germ cell tumors: A Pediatric Intergroup Study-Pediatric Oncology Group 9049 and Children's Cancer Group 8882. J Clin Oncol 22:2691-2700, 2004

執筆者による主な図書

1) 岡田正 監修、伊藤泰雄、他 編集:標準小児外科(第5版),医学書院

2) 丸光惠、石田也寸志 監修:ココからはじめる小児がん看護,へるす出版
 

(MyMedより)推薦図書

1) 日本病理学会小児腫瘍組織分類委員会:小児腫瘍組織分類図譜 (第5篇),金原出版; 新訂版版 (1999

2) 細谷亮太・真部淳 著:小児がん―チーム医療とトータル・ケア (中公新書),中央公論新社 2008

3) 太田茂 編さん:小児ガンのABC―一般の方、保護者、学生、医療者に向けたわかりやすい小児がんの話,三恵社 2008
 

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