十二指腸潰瘍・穿孔 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.15

十二指腸潰瘍・穿孔(じゅうにしちょうかいよう・せんこう)

執筆者: 石神 浩徳

概要

 十二指腸潰瘍は胃液と接触する十二指腸にみられる限局的な組織欠損である。十二指腸潰瘍の有病率は増加の傾向にある。男女比は3:1と男性に多く,年齡別では20~30歳代にピークがある。

病因

 消化性潰瘍の病因の整理のためには,Shay and Sun(1963年)による古典的天秤理論が有用である。すなわち粘膜を攻撃する因子としての胃酸,ペプシン,ガストリン,胆汁酸,エタノール,消炎鎮痛薬,副腎皮質ステロイド,喫煙,精神的ストレス,Helicobacter pylori(H. pylori),活性酸素など,および粘膜を防護する因子としての粘液,重炭酸,プロスタグランジン,上皮細胞増殖因子(EGF),上皮細胞の再生産(細胞回転),血流,一酸化窒素(NO)などの両者の力関係で,粘膜防御機構が破壊された結果として潰瘍が形成されると考える。1983年にオーストラリアの WarrenとMarshallによって報告された,消化性潰瘍の病因におけるH. pyloriの意義は,その後多くの追試と治療的除菌の試みにより確認され,現在では消化性潰瘍の多くはH. pyloriによる慢性感染症として対応すべきものと考えられている。

病態生理

 十二指腸潰瘍の解剖学的表現としては,部位,形態,大きさ,深さなどが用いられる。

A.好発部位 
 十二指腸潰瘍の好発部位は球部の前・後壁である。

B.形態 
 形態は円形,類円形,線状,縦走,不整形などに分類される。

C.数 
 単発潰瘍、接吻潰瘍、線状潰瘍があり、ほぼ同率である。同じレベルの前後壁に対称性に潰瘍が存在する場合に接吻潰瘍(kissing ulcer)と称する。

D.大きさ 
 直径2cmを超えるものを特に巨大潰瘍と呼ぶことがある。

E.深さ 
 深さは村上のUl分類が広く用いられている。 
 (1)Ul-I:粘膜層に限局する組織欠損で,瘢痕を残さずに治癒し,びらんと呼ばれる。 
 (2)Ul-II:欠損が粘膜筋板を貫くが固有筋層に及ばない炎症。 
 (3)Ul-III:欠損が固有筋層に及ぶが漿膜に達しないもの。 
 (4)Ul-IV:胃壁全層に及び,しばしば漿膜を貫き穿孔あるいは穿通をきたすもの。

臨床症状

自覚症状


 十二指腸潰瘍の症状は、外来群と集検発見群とでかなりの差がある。集検群では症状が少なく無症状のものもかなりある。症状としては疼痛 (75~90%)、胸やけ、げっぷなどの酸症状(50~60%)、その他膨満感、重圧感、食欲不振、悪心、嘔吐、吐・下血などが認められる。疼痛の部位は心窩部(80%)がもっとも多いが、背部痛をみることも多い。疼痛の性状は鈍痛のことが多い。治癒期の潰瘍では症状がまったくないことも多い。潰瘍の大きさと疼痛の強さにはほとんど相関はない。十二指腸潰瘍の疼痛は空腹痛が特徴で、潰瘍の活動期には食後1~3時間あるいは夜間に起こり、毎日繰り返す。この疼痛は食事摂取あるいは水を飲んだだけでも軽減~消失する。

他覚症状


 理学的所見に特徴的なものはないが、心窩部に広く圧痛をみることが多い。

検査成績

上部消化管透視 

 活動期・治癒期の消化性潰瘍はニッシェ(niche)として,瘢痕期の潰瘍は皺襞集中像あるいは壁硬化像として描出される。球部変形としてとらえられるが,多発・線状潰瘍が多く,活動期か否かの診断は可能であるが,治癒期と瘢痕期の区別は事実上不可能である。 

内視鏡検査 

 単発潰瘍あるいは接吻潰瘍でも、個々の潰瘍そのものの所見は白苔をかぶった類円型の組織欠損としてみられ、活動期には強い浮腫状の周堤がみられる。十二指腸潰瘍に特有なものとしてridge形成がある。ridgeは球部内に横走して隆起する尾根状の皺襞形成であり、線状潰瘍(97%)、接吻潰瘍 (71%)、単発潰瘍(33%)の順に多くみられる。潰瘍に伴って、しもふり状に浅いびらんをみることがある。接吻・線状潰瘍に多くみられる。病期の判定は胃潰瘍に準じて行う。

 活動期:stage A(A1:潰瘍底の苔が厚く、辺縁に炎症性腫脹がある、およびA2:潰瘍辺縁に白色の輪状縁および充血像がみられる)

 治癒過程期:stage H(H1:潰瘍が縮小し、辺縁に紅暈があり、皺襞集中および潰瘍周囲に皺襞の緩やかな細まりが出現する、およびH2:治癒がさらに進行し、底の盛り上がりとともに底は薄い白苔でおおわれる)

 瘢痕期:stage S(S1:瘢痕の中心部に充血が残り赤色を呈す。いわゆる赤色瘢痕red scar、およびS2:瘢痕部の充血がなくなり、周囲粘膜と同じ色調にも戻る、いわゆる白色瘢痕white scar)

診断・鑑別診断

 上部消化管透視による診断には限界があり、正確な診断には内視鏡検査が不可欠である。

治療

 十二指腸潰瘍の治療法は最近段階的に大きな変貌を遂げてきた。すなわち食事および生活療法,制酸薬と防御因子増強薬,H2受容体拮抗薬,プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor;PPI),H. pyloriの除菌である。

A.食事および生活療法 

 強力な抗潰瘍薬がなかった時代には厳密な食事療法と生活療法が必要とされたが,現在ではむしろ潰瘍の回復期には,強力な抗潰瘍治療(PPIやH2受容体拮抗薬の投与)を行いつつ十分に栄養を与えるべきである。“潰瘍食”は従来とは異なるコンセプトで,出血の恐れがなくなり次第,栄養価の高い食事を速やかに開始すべきである。潰瘍の瘢痕化が確認された後の維持療法期には,潰瘍のリスクファクターとされる暴飲暴食,香辛料,コーヒー,喫煙などは控えさせるべきであるが,H. pyloriの除菌が成功した場合や,少量(半量程度)のPPIで維持療法を行う場合には,それらをさほど厳密に禁止する必要はない。しかし非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)などの薬剤あるいは強いストレスによる潰瘍,さらに吻合部潰瘍の再発は予防できないため,注意が必要である。

B.制酸薬と防御因子増強薬 

 制酸薬には重曹,アルミゲル,水酸化マグネシウム,マーロックスなどがあるが,いずれも常用量では長期間胃酸を中和し続けることはできない。防御因子増強薬は多種類あるが,その作用機序として粘膜血流の改善,内因性プロスタグランジンの産生,粘液(糖蛋白)および重炭酸の産生,H. pyloriの抑制などが挙げられている。

C.H2受容体拮抗薬 

 現在わが国で使われているH2受容体拮抗薬には,シメチジン(タガメット),ラニチジン(ザンタック),ファモチジン(ガスター),ロキサチジン(アルタット),ニザチジン(アシノン)などがある。潰瘍の初期治療成績は報告により異なるが,胃潰瘍(8週後),十二指腸潰瘍(6週後)のいずれも 70~85%である。H2受容体拮抗薬は酸分泌抑制作用は有するが,粘膜防御系因子を低下させる可能性があり,病態によっては(NSAIDs潰瘍など)防御因子増強薬の併用が望ましい。

D.プロトンポンプ阻害薬(PPI)  

 現在わが国で使われているPPIにはオメプラゾール(オメプラール),ランソプラゾール(タケプロン)およびラベプラゾール(パリエット)などがある。いずれも強力な胃酸分泌抑制作用と同時に粘膜保護作用も有すると考えられている。 E.H. pyloriの除菌 H. pyloriの存否の判定は,内視鏡下粘膜生検による培養,鏡検(Giemsa染色),迅速ウレアーゼ試験,血清中の抗H. pylori-IgG抗体,13C尿素呼気試験などで行われている。現在までに検討されたH. pyloriの除菌法には抗生物質,ビスマス製剤,抗原虫薬,PPIなどの単独あるいは併用がある。その中ではPPIと2種類の抗生物質(AMPCと CAMなど),あるいはPPIと抗生物質と抗原虫薬(メトロニダゾールまたはチニダゾールとAMPCまたはCAMなど)が有効性が高いが,高用量の抗生物質を長期間(1~2週間)投与するため,下痢,薬剤性腸炎,アレルギー反応などの副作用の発現に留意する必要がある。

予後

 消化性潰瘍の初期治療はPPIの投与によりほぼ完璧に行えるようになったが,まれにPPIを一定期間投与しても瘢痕治癒しない潰瘍もある。この場合,Zollinger-Ellison症候群の除外,24時間胃内pH測定などが必要となる。

A.維持療法 

 H. pyloriの除菌が成功した場合を除き,初期治療により潰瘍が瘢痕治癒しても,その後治療を中断すれば高率に再発がみられる。したがって潰瘍患者で除菌を行わない場合には,通常初期治療終了後に維持療法が必要である。維持療法としては,本邦ではPPIの長期投与が保険診療で認められていないため,H2受容体拮抗薬の常用量あるいは半量を基本に,防御因子増強薬を併用している場合が多い。この場合,報告により異なるが,再発率は1年で20~50%とかなり高い。しかしPPIの少量長期投与の有効性と安全性が報告され,欧米諸国では少量のPPIによる潰瘍の維持療法が行われる趨勢にある。本邦でも,今後 PPIの少量長期投与による潰瘍維持療法の検討を,有効性,安全性,医療費節減などの点から行う必要がある。

 

B.合併症 

 消化性潰瘍の合併症には出血(貧血),穿孔(穿通),狭窄(変形)などがあり,いずれも通常直ちに適切な対応を必要とする。

 a.出血,貧血 
 潰瘍の露出血管からの出血に対しては,通常内視鏡的止血処置が行われる。最近ではクリップ止血法や局所注射法が頻用されている。局所注射法では従来純エタノールを用いることが多かったが止血後の潰瘍治癒が遷延するため,最近では高張(10%)食塩水+ノルエピネフリンが用いられることが多い。 内視鏡的止血が成功した後は,直ちに強力な抗潰瘍治療を開始するとともに,貧血に対する治療を行う。

 b.穿孔 
 穿孔に対しては以前は緊急手術が行われていたが、近年では胃管よりの胃内容物の持続吸引など保存的に対応することや,腹腔鏡下に穿孔部を修復することも可能になった。しかしこの場合には強力に抗潰瘍治療を行い,さらに回復後にH. pyloriの除菌あるいはPPIの少量維持療法などにより,潰瘍の再発を予防する方策を講じる必要がある。

 c.狭窄 
 潰瘍を繰り返した結果生ずる狭窄は幽門前庭部から十二指腸球部にみられ,高度の場合にはgastric outlet obstructionをきたし,食事摂取が妨げられるために外科的治療が必要となることもある。

(MyMedより)推薦図書

1) 星原芳雄・光永篤・中村哲也・太田正穂 著、長廻紘 編集:消化管内視鏡診断テキスト 1 食道・胃・十二指腸,文光堂 2008

2) 笹子三津留 著:胃・十二指腸 (みる・わかる・自信がつく!消化器外科手術ナビガイド),中山書店 2009

3) 平塚秀雄 著:新版 胃・十二指腸の病気 (よくわかる最新医学),主婦の友社; 新版版 2005

4) 主婦の友社 編集、勝健一・宮本千華子 監修:おいしく食べて治す胃・十二指腸潰瘍に効く食事―消化のよいレシピ200,主婦の友社 2002

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