腰椎椎間板ヘルニア - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.18

腰椎椎間板ヘルニア(ようついついかんばんへるにあ)

lumbar disc herniation

執筆者: 山崎 隆志

概要

 椎間板内の髄核が線維輪を破り、後方に突出した状態を椎間板ヘルニアという。椎間板後方には、下肢や陰部に向かう神経が存在し、ヘルニアにより神経が圧迫されると、下肢痛やしびれ、筋力低下、直腸膀胱障害などの症状が出現する。しかし、画像上椎間板の突出が存在しても無症状のこともある。

病因

 椎間板には体重や体幹筋力により常時圧力が加わっており、繊維輪がその圧に抗することができなくなり、破断すると髄核が突出する。破断の原因は外因性のものとして強い外力、繰り返す軽微な外力があり、内因性のものとして椎間板の変性、すなわち繊維輪の脆弱化、髄核の水分減少がある。亜急性発症が多いが重量物を持ち上げた時やくしゃみをした時に突然発症することや慢性的に発症することもある。発症年齢としては椎間板の変性が進み始める20歳代、30歳台が多い。

病態生理

 ヘルニアの突出状態としては繊維輪を完全に穿破したものと繊維輪内に存在するものがあり、前者を脱出型(extrusion)、後者を突出型(protrusion)と呼ぶ。
脱出型はさらに後縦靭帯の穿破の有無でtransligamentous typeとsubligamentous typeに分類される。脱出型のうちヘルニアが元の椎間板との連続性を失い、脊柱管内に移動したものをseqestration typeと呼ぶ。

 タイプにより自然吸収の起こりやすさが異なり、また手術方法の選択の情報となる。
すなわちtransligamentous typeは自然吸収されやすく、また経皮的髄核摘出術は突出型にしか適応がない。腰部には5つの腰椎と1つの仙椎があり椎間板はそれぞれの間に存在するが、荷重が大きい下位椎間板(L45とL5s)に多く上位に行くほど発生頻度は低下する。L5/S間よりL4/5間に多いのは、L5椎体は骨盤と靭帯により安定性が高いためと考えられている。各椎間に存在する神経根の支配領域が異なるため、ヘルニアの発生部位により神経障害による症状が異なる。

 また通常ヘルニアは後外側に突出し脊柱管内で神経を圧迫するが、さらに外側の脊柱管外で突出することもあり外側ヘルニアという。外側ヘルニアでは通常のヘルニアより1つ上位の神経根が障害され、疼痛が通常のヘルニアより強いことが多い。またseqestration typeのヘルニアも通常と異なる神経根障害を起こすので診断上注意が必要である。

 ヘルニアで疼痛が起こるのはヘルニアが機械的に神経を圧迫するメカニカルな障害とブラディキニンなどの発痛物質を介しての障害がある。障害が強くなると筋力低下や知覚障害などの神経脱落症状が出現する。

 長期的にみるとヘルニアはマクロファージに貧食されることなどにより縮小するので神経の障害を考慮しなければ長期的には自然に治る疾患である(図1)。

図1大きなtransligamentous extrusion typeのヘルニア(上)
4ヶ月後のMRIでは縮小していることが確認できる(下)



臨床症状

自覚的症状

 椎間板ヘルニアの症状は主に局所症状、神経根症状、馬尾症状に分けられる。

 局所症状とは腰痛のことであり、椎間板の変性や繊維輪の破断によると考えられている。また圧迫を受ける神経根には椎間関節や背筋へ向かう後枝の神経線維が含まれており、それらが障害されることも一因と考えられる。神経根症状とは下肢へ向かう神経根が障害されるための症状で、下肢の疼痛やしびれや筋力低下が起こる。神経根は片側で障害されることが多く、疼痛を減じる姿勢を得るために側弯(疼痛性側弯)になる場合がある。馬尾症状とは腰椎部脊柱管内の中央部に存在する馬尾が圧迫を受けるための症状で、馬尾は下肢と陰部に向かうため下肢や陰部のしびれ、直腸膀胱障害が出現する。直腸膀胱障害には排尿遅延、残尿感、便秘などがあり、程度がひどい時には尿閉となる。馬尾症状の出現は圧迫が強度であることをしめしており、緊急手術が必要とされる。

他覚的症状

 腰椎の前屈にて腰痛や下肢痛が誘発されやすい。SLRテスト(下肢伸展挙上テスト)は下肢痛が誘発されれば陽性で、診断の感度が高い。ただし高齢者では神経の緊張度が低いためSLRテストが陰性である場合が多い。上位ヘルニアではFNST(大腿神経伸張テスト)が陽性となる。坐骨神経の走行に沿って圧痛があることもある。障害される神経により下肢の様々な部位に筋力低下や知覚鈍磨や腱反射異常が起こる。馬尾が障害されると直腸膀胱障害や陰部周囲に知覚鈍磨が起こる。

検査成績

 椎間板ヘルニアは血液検査での異常は出現しない。単純レントゲンはヘルニアの診断には役立たない。MRIがヘルニア診断に有用で、ヘルニアの大きさや突出の形状でヘルニアのタイプの予測も出来る。大きなヘルニアや急峻な形状のヘルニアはtransligamentous type である可能性が高い(自然吸収されやすい)。MRIだけは診断がつかない場合や手術のレベルや方法を決定する場合に脊髄造影、神経根造影、椎間板造影などの造影検査が行なわれる。MRIが撮影できない場合は大きなヘルニアであればCTでも診断可能である。

診断・鑑別診断

 自覚症状や他覚症状から腰椎椎間板ヘルニアを疑い、MRIで椎間板の突出と神経の圧迫が認められ、それに一致する神経障害があれば診断は容易である。先述のようにヘルニアがあっても全く症状がない場合もあるので、画像上の突出だけではなく、臨床症状との一致を確認することが重要である。
  
 腰椎部腫瘍、化膿性脊椎炎、硬膜外膿瘍、硬膜外血腫、骨盤内病変(腫瘍、梨状筋症候群)、腓骨神経麻痺などの末梢神経障害が鑑別診断となる。脊柱管狭窄症が合併していた場合にヘルニアと診断するか狭窄症と診断するかは医師の判断によるが重大な問題ではない。

治療

保存療法:

 ヘルニアを縮小させる根本的保存療法は今のところはない。したがって、保存療法はヘルニアが自然治癒するまでの間の対症療法と考えられる。NSAIDsや硬膜外ブロックは短期的に症状を改善する。牽引や温熱療法や針などの理学療法が有効であるとのエヴィデンスはないが、一度試みて短期的にでも症状の改善を感じることができるのであれば継続する価値はある。マニピュレーションは有効とのエヴィデンスはなく、悪化例も存在するので勧められない。

手術適応:

 直腸膀胱障害がある場合は緊急手術の適応である。進行性の強度な筋力低下がある場合も筋力の回復を目指すためには手術がよい。十分な保存療法を行ったにもかかわらず、発症後3ヶ月しても日常生活に不自由がある場合や、疼痛が強度で入院してブロックしても耐え難い疼痛がある場合、社会的事情で保存療法を行う時間的余裕がない場合などに手術を考慮する。

手術方法:

 一般的にはラブ手術が行なわれ、顕微鏡を使用して行なわれることが多く、手術成績は良好である。内視鏡下ヘルニア摘出術が最近は行なわれている。これにより入院期間が短縮し、術後疼痛が軽減するが長期成績はラブ手術と同等で、硬膜損傷や術後血腫が多いことが欠点とされる。画像的に不安定性がある場合、ヘルニア切除に際して椎間関節の切除が必要な場合などに椎間固定術が併用される場合がある。

 経皮的髄核摘出術は若年(40歳以下)のprotrusion typeのヘルニアに適応があり局所麻酔で可能であるが、手術成績はラブ手術より劣る。経皮的レーザー椎間板蒸散法は経皮的髄核的手術と同等の術後成績であるが、保険適応はない。

予後

 直腸膀胱障害や強度の筋力低下がない場合は手術でも保存療法でも長期的には予後は良好である。手術の方が早く疼痛軽減が得られる。ただし、椎間板ヘルニアには椎間板変性が基盤にあるので、手術、保存療法にかかわらず、ヘルニアが消失しても腰痛や下肢のしびれなど軽度の症状が残存することがある。

最近の動向

 手術において内視鏡下ヘルニア摘出術が広まってきている。術後の疼痛が少ない、入院期間が短い、手術創が小さいなどのメリットがある一方、視野が2次元的である、ワーキングスペースが狭く技術習得のラーニングカーブが長いなどの欠点があり手術器械の改善が今後望まれる。

執筆者による主な図書

1) 三宅祥三 監修、長田薫 編集、山崎隆司 分担執筆(整形外科担当):これだけは知っておきたい医療禁忌,羊土社 2004

2) 吉澤英造 編集、山崎隆司 分担執筆(ブロック療法担当):インフォームド・コンセントのための図説シリーズ 腰部脊柱管狭窄症,医薬ジャーナル 2003

3) 中村耕三 編集、山崎隆司 分担執筆(腰仙椎部担当):整形外科領域の痛み―外来診療での診断と治療のエッセンシャル,真興交易医書出版部 1999

4) 中村耕三 監修、織田弘美・高取吉雄 編集:整形外科クルズス,南江堂 2003

5) 中村耕三 監修、星地亜都司・織田弘美・高取吉雄 編集:整形外科クルズス,南江堂 2006

執筆者による推薦図書

星地亜都司 著:Critical Thinking 脊椎外科,三輪書店 2008

(MyMedより)その他推薦図書

1) 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会・腰椎椎間板ヘルニアガイドライン策定委員会 編さん:患者さんのための腰椎椎間板ヘルニアガイドブック―診療ガイドラインに基づいて,南江堂 2008

2) Nikolai Bogduk 著、齋藤昭彦 翻訳:腰椎・骨盤領域の臨床解剖学,エルゼビア・ジャパン 2008

3) 荒井孝和 編集:腰の痛みはこれでとる (健康ライブラリーイラスト版),講談社 2001

免責事項

情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

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