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whooping cough /pertussis
別名: 百日咳
執筆者: 岡田 賢司
百日咳は、乾性咳嗽が通常の鎮咳剤では軽快せず、連続性・反復性の咳となり、咳込み後に笛声が聞かれる一連の咳発作を繰り返す急性呼吸器感染症である。DPTワクチン未接種者では典型的症状と特徴的検査所見で診断はつきやすい。一方、ワクチン既接種の年長児や成人の百日咳も見られる。この群は、咳が長期間続くのみで特有な咳がなく、検査も異常がないことが多いため治療・診断が遅れ、乳幼児の感染源となっていることが最近問題となっている。
飛沫感染で感染が成立する。体内に侵入した百日咳菌は上気道に付着後、気管支の粘膜上皮細胞または線毛間で増殖する。菌の増殖に伴い百日咳毒素などを産生し、種々の病態を引きこす。
ジフテリア・破傷風・百日咳(DTP)ワクチン接種歴、罹患年齢や移行抗体の有無、抗菌薬の種類・開始時期・期間など多くの因子の影響で症状は多彩である。潜伏期間は、感染後7~10日が多い。
DTPワクチン未接種児に多い
感冒症状から始まり、通常の鎮咳薬では咳が治まらない。乳児期早期では、無呼吸が認められる。
乾性咳嗽が激しくなる。特有な発作性の5~10回以上途切れなく続く連続的な咳込み(paroxysmal cough / staccato ) で苦しくなり、大きな努力性吸気の際に狭くなった声門を吸気が通過する時に、吸気性笛声(whoop)が聞かれる。一連の特有な咳は夜間に強く、咳込みによる嘔吐、チアノーゼ、無呼吸、顔面紅潮・眼瞼浮腫(百日咳顔貌)、結膜充血などが見られる。
特有な咳込みが減少してくるが、上気道感染などで再び特有な咳が聞かれることがある。2週間以上かけて徐々に軽快していく。
米国での1997~2000年の28,187例の報告では、6か月未満児に多く、入院率63.1%、肺炎11.8%、痙攣1.4% 脳症0.2%、死亡0.8%であった2)。
新生児、ワクチン接種児、青年・成人に多い
移行抗体の影響で特有な咳は少ない。死亡率が高く、無呼吸や痙攣が多い。生後2か月以内の児の合併症は、肺炎25%、痙攣3%、脳症1%と他の年齢群より高い2)。
この群も特有な咳は少ない。Yaari らは、5歳~30歳(平均8.9歳)のワクチン接種者の症状を報告している3)。
表1. DTPワクチン接種児における百日咳の症状
咳の持続は4±3.6週間、診断までの日数は平均23日、典型的な症状はわずか6% で、平均白血球数8.7±2.6/mm6 リンパ球40±12% であった。症状や検査所見が典型的でないため、百日咳と診断されることが少なく、感染源となることが問題となる。
特徴的な咳が少なく、長びく咳などが多いため、診断・治療が遅れ、乳幼児への感染源となっていることが国内外で問題となっている。米国で百日咳ワクチンのなかった1933-1939年の患者年齢は、10歳未満95%で1歳未満は7.5%であった。1997-2000年では10歳未満49.8%と著減し、10歳以上が49.8%と大きな変化が認められている4)。
Bisgard らは、乳児百日咳の接触者で7~20日前に咳があった者を感染源として調査した。母親が多く、次いで兄弟、父親、祖父母となっていた5)。
成人で6日~1か月続く持続咳嗽患者での百日咳の割合は、流行のない時期に菌分離とPCRおよび百日咳菌に特異的なPT抗体で診断すると、陽性率は1~17%(平均13%)であった6)(表2)。
表1. DTPワクチン接種児における百日咳の症状
ワクチン接種児や成人例に対する認識が高まってきたが、診断基準が統一されていない。これまでの報告を参考に百日咳診断の目安(案)を表2に示す。
表2. 百日咳診断の目安
症状は、14日以上の咳に百日咳特有の咳(発作性の咳込み、whoop、咳込み後の嘔吐)を伴う場合とした。
確定診断には発症から4週間以内では培養と核酸増幅法(PCR、LAMP)、 4週間以降なら血清診断で確定する。
・培養
患児の後鼻腔から柔らかい針金の付いたスワブを用い検体を採取し、選択培地に塗布する。分離率は、第3病週までが高い。典型的な症状の場合、菌分離率は51.6%と高く、早期診断法として有用である。
・核酸増幅法(PCR法, LAMP法)
培養より感度がよく、時間的にも早く、死菌でも検出できる。とくにLAMP法は特別な機器が必要でないため、今後日常検査として実施できる可能性がある7)。
・血清診断法
凝集素価が広く利用され、対血清で流行株(山口株)4倍以上の上昇が基本である。DTPワクチン接種児や成人の場合、発症後4週間以降の場合などは抗体価が上昇している症例も多く、解釈が容易でない。
対血清を基本とするが、単血清の場合、
a) DTPワクチン最終接種から2年以上経過している場合は流行株、ワクチン株いずれか40倍以上、
b) DTPワクチン最終接種から2年以内の場合は
(I)凝集原を含まないワクチン接種児ではワクチン株、流行株いずれかが40倍以上、
(II)凝集原を含むワクチン接種児では対血清でいずれかの株の4倍以上の上昇とした。
EIA法でPT(pertussis toxin) –IgG も測定できる。第2~3病週で上昇してくる。ワクチン未接種児 は 10 EU/ml 以上を抗体陽性とする。ワクチン接種児では、高い抗体価を示す場合が多く単血清では診断できない。対血清が基本となるが、有意上昇の基準がない。2倍の上昇で判定している。 単血清の場合、米国人を対象とした報告ではあるが、94 EU/ml 以上を有意としている8)。
表2. 百日咳診断の目安
百日咳の多彩な症状は百日咳毒素によると考えられている。このため、抗菌薬は特徴的な咳が出る前であれば、症状の軽症化は可能であるが、家族内感染などに限られる。多くは、典型的な咳が出始めた頃、あるいは長びく咳の場合に初めて百日咳と疑われる。この時期の抗菌薬治療は、病状改善効果は低いが、除菌することで周囲への感染を防ぐことができるため重要である。通常治療開始後5-7日で百日咳菌は陰性となる。
治療に関するランダム化および準ランダム化比較試験が報告されている9)。 従来のエリスロマイシン(EM) 14日間治療(長期療法)とクラリスロマイシン(CAM) 7日間治療およびアジスロマシン(AZM) 3日間治療(短期療法)とを比較している。菌の消失率は、短期療法と長期療法と同等(relative risk :1.02)に有効であった。副作用は、短期療法が少ない(RR: 0.66)。臨床症状の改善および細菌学的再発率も長期療法と短期療法に差がなかった(但し、わが国では百日咳にAZMは保険適用外となっている)。CDCガイドラインではマクロライド薬の選択には、有効性・安全性・服用性などを考慮し以下のように推奨している10)。6カ月以上の乳幼児ではAZM・CAMはEMと同等な有効性があり、副作用は少なく使いやすい。CAM ・EMはチトクロームp450酵素系の抑制作用があるため、他の薬剤との相互作用を起こしやすい。
CAM・AZMは、EMに比較して耐酸性で組織内濃度も高く、半減期も長い。EMは他の2剤より安価。新生児でのAZM・CAMの有効性を実証した報告はないが、肥厚性幽門狭窄症を考慮してEM やCAMよりAZMを暴露後や治療で推奨している。
米国小児科学会では、感染管理法として、1)患者との接触者でDTPワクチン1~2回接種者は追加接種 2)家族内や保育施設内の濃厚接触者はエリスロマイシン14日間内服 3)医療従事者も接触後21日間は咳などの症状に注意し、咳が出始めたら培養検体採取後、抗菌薬内服を開始 などを推奨している11)。CDCでは、濃厚接触者とは有症状患者と3フィート(約0.9m)以内での対面や1時間以上狭い室内での同室などの状況を挙げている10)。 γグロブリン製剤は痙咳期に効果が認められることがあるが、使用法は確立されていない。
わが国は世界に先駆け、発熱など副反応の強かった全菌体百日咳ワクチンを改良し、有効成分のみを単離し、副反応は少なく効果も同等の無細胞百日咳ワクチンを開発した。ジフテリア・破傷風トキソイドと混合し、DTaP (a : acellular)として1981年秋から開始され20年以上が経過した。生後3か月から接種し、3~8週間隔で3回、1~1年半後に追加接種となっている。接種率の向上とともに、百日咳患者は著明に減少し、優れた効果を示してきた(図1A)。しかし、国内では相対的に10歳以上の患者数が増加している(図1B、図3)。米国での増加はわが国より顕著で、対策として新たらしくジフテリアの抗原量を減らした思春期・成人用の三種混合ワクチン(Tdap)を2006年1月から11-13歳児にジフテリア・破傷風二種混合(Td)ワクチン に替えて推奨している12)。欧米各国の追加接種対策を(表3)に示す。
表3. 国による百日咳ワクチンの種類と接種時期の違い
フランスは早くから対策をとっており11~13 歳 に DTaP-IPV(不活化ポリオワクチン) または Tdap-IPVを接種している。ドイツでは9~17 歳にTdap または Tdap-IPVを行っている。日本でも、増加してきた思春期・成人の百日咳対策が必要な時期となっている。現在の2期接種年齢(11~12歳)にDT二種混合ワクチンに替わり、百日咳ワクチンを加えた三種混合ワクチンが有益と考えられる。日本で開発されたDTaPを利用していくか、海外のTdapを導入するかを早急に検討する必要がある。
表3. 国による百日咳ワクチンの種類と接種時期の違い
百日咳は、感染症法5類感染症・定点把握疾患に分類され、全国約3000の小児科定点から報告されている。図1に1982年からの定点あたりの報告数を示す。
図1
4~5年毎に小さなピークが認められるが報告数は着実に減少してきた。1982年と比較すると2006年は約1/20に減少しているが、2007年は各地で小流行が認められ、第29週時点では2004年より増加している。
図2. 第1〜29週までの百日咳の累積報告数の比較
近年の特徴は患者年齢に変化が認められる(図1B、図3)。
図1B. 百日咳患者年齢割合の推移
図3. 百日咳の報告症例の年別・年齢郡別割合
10~14歳、15歳以上は2002年頃から漸増している。図4に1989年以降の福岡地区での百日咳患者年齢を示す。
図4. 百日咳患者年齢分布
1989~1997年に比較して、1998年以降は10~15歳、20歳以上の患者数が増加している。
1) 病原微生物検出情報(月報)Infectious Agents Surveillance Report (IASR)~特集:百日咳。第26巻、第3号.国立感染症研究所、厚生労働省健康局結核感染症課,2005.
2) Pertussis--United States, 1997-2000 Morb Mortal Wkly Rep. 51(4):73-76, 2002
3) Yaari E, Zimermann YY, Schwartz SB et al :Clinical manifestations of Bordetella pertussis infection in immunized children and young adults.Chest 115:1254-1258,1999
4)Cherry JD :The science and fiction of the "resurgence" of pertussis. Pediatrics 112: 405-406,2003
5)Bisgard KM, Pascual FB, Ehresmann KR et al : Infant pertussis ; Who was the source? Pediatr Infect Dis J. 23:985-989, 2004.
6)Cherry JD:The epidemiology of pertussis:A comparison of the epidemiology of the disease pertussis with the epidemiology of bordetella pertussis infection. Pedatrics 115:1422-1427,2005
7) Kamachi K et al: Development and Evaluation of a Loop-Mediated Isothermal Amplification Method for Rapid Diagnosis of Bordetella pertussis Infection .JCM 44(5) 1899-1902, 2006
8)Baughman AL, Bisgard KM, Edwards KM, et al : Establishment of diagnostic cutoff points for levels of serum antibodies to pertussis toxin, filamentous hemagglutinin and fimbriae in adolescents and adults in the United States. Clin Diagn Lab Immunol 11(6) : 1045-1053, 2004.
9)Altunaiji S, et al : Antibiotics for whooping cough(pertussis). Cochrane Database Syst.Rev. no1.:CD004404. 2005 (epub)
10) Recommended antimicrobial agents for treatment and postexposure prophylaxis of pertussis 2005 CDC Guidelines.Morb Mortal Wkly Rep. 54 :RR-14, 2005
11)Red Book -2006 Report of the Committee on Infectious Diseases-, 27th ed.498-520. American Academy of Pediatrics 2006.
12)Recommended childhood and adolescent immunization schedule – United States, 2006.Morb Mortal Wkly Rep. 54(52) :Q1-Q4,2006 。
1) 清益功浩 著:咳事典 咳を科学する-その咳、大丈夫?危険!-,医薬経済社 2010
2) 西原崇創 著, 古川恵一 監修:そこが知りたい!感染症一刀両断!,三輪書店 2006
3) タラ・ウォーカー 著、今井由美子 翻訳、宮脇利男:子どもの感染症ケア教本―子どもと対面、接触しているあらゆる人のための安全バイブル,産調出版 2005
4) 細谷亮太 監修、主婦の友社 編集:最新版 0~6才赤ちゃん・子ども病気百科 (主婦の友新実用BOOKS),主婦の友社 2008
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