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obstruction
別名: イレウス
執筆者: 古村 眞
腸管内容が、何らかの原因で肛門側へ通過しない病的状態を腸閉塞症(イレウス)と定義される。腸液、ガス、糞便などが腸内に充満し、排ガス・排便がなくなり、腹痛、腹部膨満、嘔吐などの症状が出現する。
腸閉塞症の原因は、腸の動きによる腸閉塞が停滞する機能的イレウスと腸内容の通り道が閉塞される機械的イレウスに大別される。
機能的イレウスは、腸管の神経支配の障害によって、腸管の動きが消失した状態である。小児外科で取り扱う代表的な機能的イレウスは、ヒルシュスプルング病である。これは、腸管の動きを司る神経が先天的に欠損し、常に腸管が攣縮(細い状態)し腸管の蠕動を認めない状態を呈する。また、開腹手術の後には、一時的に腸管蠕動が麻痺することによって腸閉塞状態となる。虫垂炎などによる腹膜炎を合併すると、炎症の波及で腸管蠕動が低下し腸閉塞状態になる。まれではあるが、新生児期の甲状腺機能低下により麻痺性の腸閉塞を発症する。
機械的イレウスは、器質的な病変により腸管の狭窄、閉塞をおこしていることをいう。
開腹手術後の癒着,ヘルニアの嵌頓,また頻度は少ないが腫瘍(原発性または転移性),異物による閉塞,メッケル憩室,クローン病などによって発祥する。新生児期には、胎便関連のイレウス、小腸閉鎖症があげられる。乳幼児期には,腸管回転異常による腸捻転症,特発性腸重積症によって発症する。
成人では、一日で唾液1L,胃液1.5L,膵液1L,胆汁1L,小腸1.8Lが分泌されるとされている。水分は大腸で吸収され、栄養素は、回腸、空腸で吸収され、肝臓にグリコーゲンとして蓄えられる。腸閉塞症の状態は、これらの生理機能の破断した状態がである。
もし閉塞が完全であれば,摂取された水分や食物,消化性分泌液やガスなどが腸管内に大量に貯留することになる。閉塞部位より口側腸管は膨張し,肛門側腸管は虚脱する。口側腸管の内圧が上昇し、腸間膜の血流障害が発生すると腸管の血行障害による壊死にいたる。そして、粘膜バリアーとしての粘液産生の低下がおこり、腸管粘膜の機能が破綻し、腸管壁の透過性が亢進する。さらに病状が進行すると、腸管壁の全層が破壊され、腸管内の細菌が血中に移行して敗血症を合併する。腸管内に生じた毒素が、吸収されるとエンドトキシンショックに進行する。
腸管内に多量の腸液が貯留することとなり、嘔吐や腸内容を吸引排除することによって、水分、電解質を多量に喪失し高度の脱水状態になり、循環血液量の減少によるショックに陥る。
閉塞部より口側の腸管の拡張のために腸管漿膜面の痛みと蠕動亢進による間欠的な疝痛発作がおこる。絞扼性イレウスに進行すると激痛と持続する腹痛に変化する。腸管内容の停滞によって、腸管内容物が増加して、腹部膨満となる。腸液の胃内への逆流に伴い嘔気が発生し、胃容積を超える腸液の逆流で嘔吐が発生する。腸管内のガス、腸液が肛門側腸管に完全に流入しない、あるいは少量の流入のために、排便・排ガスが認められなくなる。
小児の腸閉塞症では、対象患児が正確に自覚症状を訴えることができない場合が多い為、診断・治療を行ううえで、患児家族の観察による客観的な情報が重要となる。開腹術を行った患児の家族は、常日頃から便性の状態、排便量、腹部の膨満の有無などの他覚的症状について、本人が症状経過を説明できるまでは観察する必要がある。
視診:
閉塞部より口側腸管に腸液、ガスが貯留するため、腹部の膨満が認められる。上部消化管が閉塞部位であれば、上腹部に限局した腹部膨満となる。下部小腸あるいは大腸の閉塞では、腹部全体に強い膨隆が認められる。また、腹壁をとうして拡張した腸管が蠕動不隠の為の蠕動運動がみられることがある。
聴診:
麻痺性イレウスでは、腸雑音が聴取されない。機械的イレウスでは腸蠕動音が、亢進していることが特徴的な所見である。腸雑音は、短い周期の金属音が聴取される。絞扼性イレウスになると、腹膜炎に進展するため腸雑音は聴取されなくなる。
触診:
単純性イレウスの際には、通常、腹壁の筋性防御はみられない。腹部の圧痛は軽度のことが多い。絞扼性イレウスに移行すると、絞扼部位の腸管の位置に一致して限局性の圧痛を認め、筋性防御を伴うようになる。腸液の貯留が進むと打診によって、腸液による濁音を呈し、ガスの貯留によって鼓音を呈する。
腹部レントゲン写真:
立位、仰臥位、立位ができない場合は側臥位で撮影する。閉塞部より口側の腸管内にガス像が貯留し、立位、側臥位像でガスと液体による鏡面像(ニボー)を呈する(図1)。仰臥位像よっては、消化管ガスで拡張した小腸のKerckring皺壁が認められる。
図1

超音波検査(図2):
腹部レントゲン写真で拡張した腸管ガス像が確認されない場合でも、腹部膨満がある場合は、腹部超音波検査を施行する必要がある。上部小腸の閉塞では、ガスが少なく嘔吐によって、腹部レントゲン写真で腸管ガスが少なくなる場合もあり、超音波検査によって拡張した腸管内の腸液貯留が確認されることがある。また、絞扼性イレウスの場合は、急激に腹水の貯留が認められ、血性の腹水になる場合がある。また、絞扼性イレウスの場合は、腸管壁の構造が破壊されるため、超音波で腸管壁のKerckring皺壁が描出されなくなり、high echoicな壁として描出される。腸閉塞の原因疾患が診断される場ありも有り、注意深い観察が大切である。
図2

血液検査:
水・電解質・酸塩基平衡の検査を行い、イレウスの代謝異常について正確に把握する必要がある。腸内容の停滞や嘔吐によって、胃十二指腸液の喪失が原因で電解質異常をきたすことが、発症後24時間以上経過していると多くなる。麻痺性イレウス、単純性イレウスの初期では、臨床検査上は特徴的な異常所見を示すことは少ない。しかし、絞扼性イレウスでは、白血球数が10000/mm3以上となることが多い。
診断:
腹痛、嘔吐、腹部膨満、排ガス・排便の停止、腸雑音の亢進および腹部単純レントゲン写真によってイレウスの特徴的所見が認められれば、診断は比較的容易である。
鑑別診断:小児の腸閉塞症は、開腹歴と年齢によって鑑別すべき疾患が異なる。
癒着性イレウス:
何らかの理由で開腹手術の既往があれば、癒着性イレウスの可能性が高い。開腹術後の一年以内に発生する症例が80%とされている、経腹手術による横隔膜ヘルニア、小腸閉鎖症などの新生児外科疾患、神経芽腫・ウイルムス腫瘍などの後腹膜原発腫瘍摘出術、穿孔性虫垂炎による腹膜炎手術、開腹によるヒルシュスプルング病・鎖肛の根治術などに発症するとされている。
術後腸重積:
また、開腹術後早期に発生する腸閉塞症として、腸重積症が小児の特徴とされている。開腹術だけではなく、心臓手術術後早期に発症するとされている。術後2週間以内に発症する症例が90%以上であり、ほとんどの症例は1週以内に発症する。術後早期に減少した胃吸引量が増加した場合は本症を念頭におく必要がある。
鎖肛(直腸肛門奇形):
鎖肛の病型によっては、便やガスが貯留し腹部膨満が認められる。高位、中間位鎖肛では、人工肛門の適応となる。会陰部の形態にて診断可能である。また、新生児期に鎖肛が見逃され、離乳食が始まりイレウス症状の発現を呈する患児もまれに認められる。
ヒルシュスプルング病:
肛門から口側の腸に向かって、連続的に神経節細胞が欠如している状態である。神経節細胞が欠如した部位は、腸管が細くなり、その部位より口側の腸管にガスや便が貯留した状態である。注腸造影にて診断する。
腸閉鎖症:腸管の形成異常のために、腸の内腔が完全に閉塞している状態である。腹部レントゲン写真で、拡張した腸管が認められ、それより肛門側の腸管ガス像が認められない。
肥厚性幽門狭窄症:
胃から十二指腸につながる幽門部の筋層が肥厚した状態である。生後2-3週から嘔吐にて発症する。腹壁を注意深く触診すると、幽門部の肥厚した筋肉がオリーブ様に触知される。超音波検査にて、肥厚した幽門部が描出される。
鼡径ヘルニアの嵌頓:
乳児期に嵌頓することが多いので、腸閉塞症状のある乳児には、鼡径部の観察が必須である。
腸重積:
生後3ヶ月から2歳までの乳幼児期に間欠的腹痛として発症する。感冒症状を先行することが多く、乳児では、間欠的に不機嫌になり、嘔吐、血便、腹部腫瘤を呈する。好発年齢の患児の間歇的腹痛には、外来での浣腸によるイチゴゼリー様の血便を確認する必要がある。
腸回転異常症の軸捻転症:
腸管の固定が完全ではなく、腸管の位置の異常では、腸の捻転がおこりやすくなっている。腸の軸捻転の腹痛は、間歇的で突然発症することが多い。捻転が進行すると、腸の循環障害が発生する。腹部レントゲン写真では、腸管ガス像が少なく、典型的な腸閉塞のレントゲンパターンを呈しない。腹部腫瘤のない突然の発症では、本疾患を念頭におく必要がある。
腸間膜裂孔ヘルニア:
腸管は、一枚の連続した腸間膜を有しており、この膜の中に腸を栄養する血管が存在する。この膜に本来は孔がないが、裂孔を有する症例では、この裂孔内に腸管が入り込むことがある。裂孔は、回腸終末部の近くにあることが多い。
原因により治療法は異なる。基本的には、禁飲食として腸管を休めることである。また、腸内容の逆流による嘔吐が認められる場合は、胃管の挿入による減圧が必要である。さらに治療効果が期待されるのがイレウス管の挿入である。イレウス管は、先端のバルーンが腸管蠕動によって進み、閉塞部の手前の減圧が効率よく施行できる可能性があり、手術に踏み切る前に行う価値があると考えられている。しかし、十二指腸をこえて小腸への挿入が熟練を要する場合もある。
また、小児では細いイレウス管を挿入する必要があり、管の内腔が粘稠な腸液のために閉塞することがあるので管理には十分注意する必要がある。
ヒルシュスプルング病に対しては、無神経節腸管を切除し、正常機能を有する腸管を肛門に吻合することである。現在、ヒルシュスプルング類縁疾患に対する治療は、対症療法が中心となる。
麻痺性イレウスに対しては、原因疾患の治療が優先されるが、腸管蠕動亢進剤の投与、浣腸などによる腸管蠕動を刺激することが著効する場合ある。
単純性イレウス:
腸管の循環不全がなくて腸管内容の通過障害だけがおこっている場合は、経鼻胃管、あるいはイレウス管を挿入し腸管の内容をドレナージすることで、捻転や癒着などによる腸管の屈曲・圧迫が改善し、腸管内容の通過が発症前の状態に戻る可能性がある。単純性イレウスは、絞扼性イレウスに急激に移行する場合もあり、漫然とドレナージによる治療を行ってはならない。腹部所見を注意深く観察する必要がある。
絞扼性イレウス:
腸管の通過障害と腸間膜の圧迫による血行障害が合併した場合である。腸管の血行障害を手術的に改善することで、腸管を温存することも可能であり、絞扼性イレウスと診断した場合には、緊急手術を行う必要がある。腸管壊死のために腸管を切除が必要となる場合もあり、壊死腸管が大量の場合は、汎発性腹膜炎、敗血症へと進行し、重篤な状態を呈する場合もある。
1) 佐原力三郎 著, 主婦の友社 編集:大腸がん・潰瘍性大腸炎・過敏性腸症候群 (よくわかる最新医学),主婦の友社 2006
2) 谷崎洋・大棒秀一 著:チェックポイント X線撮影と画像評価―救急医療・当直現場で役立つ,医療科学社 2007
3) 松生恒夫 著:40歳からの腸内改造 (ちくま新書),筑摩書房 2010
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