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最終更新日:2010.07.27

開口障害(かいこうしょうがい)

執筆者: 森 良之

概要

 開口障害とは、一般に“口が開きにくい状態”で、顎関節自体あるいはその周囲器官の疾患の症状として、一過性あるいは持続性に顎運動が障害された状態をいう。原因が顎関節自体の疾患あるいはその後遺症として生じた癒着や強直によるもの、一方咀嚼筋の疾患、破傷風あるいは全身疾患によるものなどがある。本稿ではそれぞれを原因から分類する。

1.先天異常, 発育異常


先天異常congenital abnormality, 発育異常growth abnormality


1) 関節突起無形性agenesis of the condylar process
 先天的に胎生期における下顎の発育異常に起因する。Hemifacial microsomiaなどの一症状として現れる場合と単独の場合がある。顎変形を呈し、両側性に生じた場合には重度の下顎運動制限がある。治療は顎発育を考慮し、骨移植を含めた顎関節形成術、顎矯正手術を行う。
 
2) 関節突起形成不全 hypoplasia of the condylar process
 後天的な形成不全の原因として、顎骨骨髄炎、中耳炎、外傷などが挙げられる。多くの場合、顎関節強直症と合併してみられる。上顎前突、開咬、過蓋咬合、交叉咬合などの咬合不全を呈する。治療は顎関節授動術、形成術、顎矯正手術が必要となる。

3) 関節突起過形成 hyperplasia of the condylar process
 顎関節部の炎症性刺激、損傷、良性腫瘍、内分泌異常などの原因による他、原因不明の場合もある。患側関節突起の延長により下顎正中の健側偏位、下顎前突、交叉咬合、患側臼歯部の開咬などの症状を呈する。下顎頭切除術、顎矯正手術が必要となる。

2.顎関節損傷

 顎関節部の損傷は、直接外力が加わって生じる場合(直達性)と間接的に外力が顎関節部へ及んで生じる場合(介達性)があるが、その解剖学的な構造から介達性の損傷が圧倒的に多い。また、急性外傷としては、骨折、顎関節脱臼、過度の開口などがあり、万世外傷では不正咬合、低位咬合、早期接触などの咬合に起因する関節内損傷がある。  

1)関節内損傷 intra-articular traumatic injury


関節円板の損傷


病因:
 あくび、過度の開口、下顎骨骨折や顎関節脱臼などに合併して生じる急性外傷と、不正咬合、片咀嚼、クレンチング、ブラキシズムなど習慣性による慢性外傷とがある。
臨床症状:
 急性期では顎運動時の関節痛、患側頭部、耳部への放散痛をみとめ運動障害が発現する。重症例では関節内出血によって主張をきたし咬合ができなくなる。慢性化すると関節内の線維性癒着、瘢痕拘縮をきたし顎運動障害、咬合障害が残存する。
検査成績:
 単純X線像では、急性期に関節腔の拡大がみられる程度である。関節造影、MRI像では円板の穿孔、位置異常、癒着、瘢痕などの所見が得られる場合がある。
治療:
 急性期には、顎運動制限、スプリントなどにより関節部の安静を保ち、消炎鎮痛剤の投薬を行い消炎を図る。消炎後は比較的早期に開口練習を開始し、顎関節の線維性癒着や瘢痕拘縮を予防する。円板の転位を伴っている場合には、保存的に円板整位運動を行う。  

2)顎関節脱臼


a)前方脱臼


病因:
 あくび、嘔吐、哄笑、打撲・骨折などの外傷のほか、歯科治療、全身麻酔時の気管内挿管、内視鏡検査などの医療行為に際しての過度の開口で発症する。関節部の解剖学的構造から、関節結節が低く、下顎窩が浅く、下顎頭が小さく平坦化している場合や関節包や靭帯が弛緩している場合に生じやすい。
病態生理:
 下顎頭が関節結節を越えて過度の前方転移をきたした状態。
臨床症状:
 片側性では下顎は健側に偏位し顔貌の変形をきたし開閉口障害となる。両側性では下顎前突様症状を呈し、顔貌は面長となり、顎運動障害をきたす。また、関節部の緊張、疼痛を訴える。
治療:
 徒手整復(Hippocrates法、borchrs法)を行う。習慣性のものに対しては、オトガイ帽(chin cap)や顎間ゴム牽引により下顎の運動制限を行うが、効果がない場合には、口峡咽頭部咽頭部の粘膜切除による瘢痕形成や、関節結節のaugumentation などの外科処置を考慮する。  

b)側方・内方脱臼


病因:
 ほとんどの場合、関節突起骨折に合併して生じる。
病態生理、臨床症状および治療:
 関節突起骨折の項を参照。  

c)後方脱臼


病因:
 オトガイ部に関節方向への外力が加わった場合、下顎頭が後方に陥入して下顎窩から逸脱する。しかし、このようにオトガイ部に外力が加わった場合には関節突起は骨折することがほとんどで、後方転位をきたすことはまれである。  

3)関節突起骨折


病因:
 交通事故、作業事故、転倒・転落、けんか、スポ-ツなどで外力がオトガイ部に加わり介達的に関節突起骨折が起こる。
病態生理:
 骨折により小骨片となった下顎頭は、外側翼突筋に牽引され内側に転位する。
臨床症状:
 前歯部の開咬を呈し、片側性では下顎は患側に偏位し開口障害を呈する。両側性では開口障害とともに、下顎は後退する。
治療:
①原則的にほとんどの症例に保存的治療の適応がある。下顎の安静を図り、消炎後に積極的に開口練習を行う。下顎の偏位が著しく中心咬合が得られない場合には、バイオネ-タ-(機能的顎矯正装置)による咬合誘導を行うか、マルチブラケット法、三内式シーネあるいはエリックアーチバーを使用した顎内固定(2ヶ月)を行い、顎間ゴム牽引を行う。この場合も早期の開口練習が必要である。
②観血的治療下顎頭が下顎窩から脱臼している場合には、観血的整復術の適応となる(図1)。



チタン製ミニプレ―ト、吸収性(ポリL乳酸)ミニプレ-ト、キルシュナ-鋼線、ラグスクリュウなどによる固定を行う。

3.炎症

1)化膿性関節炎


病因:
 ブドウ球菌や連鎖球菌・肺炎球菌などを主体とする細菌感染で、感染経路は血行性、リンパ行性に関節内に感染するほか、隣接器官からの波及、骨体部の骨髄炎や関節まで達するような開放性の損傷で感染が挙げられる。
臨床症状:
 急性期には、顎関節部から側頭部、耳後部、頬部に至る腫脹、疼痛、拍動性自発痛、および運動障害を呈する。炎症の進展に伴い関節滑膜、円板、関節軟骨および骨が破壊され骨髄へ波及する場合がある。慢性に移行した場合には、関節腔の瘢痕化や線維性癒着、さらに骨性癒着を引き起こす場合がある。
検査成績:
 X線所見では、下顎頭関節面の吸収像を認める場合がある。慢性化したものでは、関節造影により関節腔内面の粗造化、関節空の狭小化さらに癒着性変化を認
める場合もある。急性期には、血液検査で白血球数の増加、赤血球沈降速度(赤沈)の亢進、C反応性蛋白(CRP)の陽性などの所見を認める。 治療:
 急性期には安静を保ち、抗生物質、消炎鎮痛剤の投与を行う。関節内に液体貯留を認める場合には、穿刺、排膿、洗浄、ドレナージを行う。消炎後は積極的に開口練習を行い、瘢痕性、線維性癒着の防止に努める  

2) リウマチ性顎関節炎 rheumatoido arthritis of TMJ


 慢性関節リウマチの一症状として顎関節に発現する場合がある。原因は不明である。
臨床所見:
 顎関節部の腫脹、疼痛、熱感、運動障害を呈する。起床時の“こわばり”や関節雑音、圧痛を自覚することが多く、症状の寛解と増悪を繰り返すのが特徴である。重症例では、下顎頭は骨破壊により変形し、下顎枝の短縮、下顎の後退、開咬などの咬合不全を呈する。
検査成績:
 血液検査では、RA、CRP陽性、貧血、血沈の亢進、ASO値上昇のほか、γグロブリン値の増加、血清アルブミン値の低下によりA/G比の低下を認める。X線所見では、下顎頭は吸収、粗造化及び平坦化し、関節腔の狭小化を認める。重症例では下顎頭の消失もみられる。治療:関節リウマチの治療に準じる。適宜、アレルギー・膠原病内科への対診が必要である。咬合不全に対しては、バイオネーターや顎間ゴム牽引による咬合管理が有効な場合もある。  

3)外傷性関節炎 traumatic arthritis of TMJ


 直達的あるいは介達的に外力が顎関節に加わった場合や、咬合異常、ブラキシズム、クレンチングなどの機械的ストレスによって生じる。臨床症状、治療に関しては、関節内損傷の項を参照。

4.退行性疾患or変形性関節症


顎関節症Ⅳ型に準ずる変形性顎関節症


病因:
 主因は関節軟骨に対する外力、機械的ストレスによるとされ、その結果、関節軟骨の弾性喪失、変性をもたらす。老化など原発性に生じる場合と、形態異常、損傷、炎症などの結果として2次的に生じる続発性のものがある。
病態生理:
 顎関節の構成体に慢性増殖性あるいは退行性変化が生じ、器質的・形態的変化を起こした病態である。
臨床所見:
 関節雑音、起床時の“こわばり”、自発痛、運動障害が生じる。不正咬合のみられる場合が多く、女性に多い。
治療:
 原発性のものには、対症的に消炎鎮痛剤の投与、スプリントによる顎関節の安静を図る。続発性のものに対しては、1次疾患の治療を行う。

5.腫瘍および腫瘍類似疾患

1)良性腫瘍軟骨腫chondromaおよび骨軟骨腫osteochondroma:ほとんどが関節突起部に生ずる。 
滑膜性軟骨種症:synovial chondromatosis 腫瘍状石灰〔沈着〕症 
tumoural calcinosi(図2):主として大関節部に生じるコラーゲンの石灰化症.遺伝性と考えられる.また、腫瘍性疾患に生じる石灰化症。
 



2)悪性腫瘍扁平上皮癌 squamous cell carcinoma、骨肉腫 osteosarcoma、軟骨肉腫 chondrosarcomaなどをはじめ、前立腺がんや肝臓がんなど他臓器からの転移性がんが発症する。  

6.全身疾患に関連した顎関節異常

1)痛風 gout


病因:
 高尿酸血症(血中の尿酸値が7mg/dL以上)。血液中に尿酸の濃度が高くなると、関節腔には、滑膜と関節腔の間に基底膜がないため、毛細血管を通過して、滑膜に漏れた尿酸塩が関節腔に移行して、尿酸ナトリウムの針状結晶が関節中に析出する。関節中では尿酸ナトリウムに対する異物反応が起こり、周囲組織の急性炎症が生じる。
臨床症状:
 初期は「高尿酸血症」(血液中尿酸値の上昇)で症状はないが 放置により激痛が生じる。通常、腎臓に障害を併発しており、継続的な治療が必要となる。痛風患者の95〜99%が40から50代の男性であるが、最近は若年化が進んでいて、20代や30代でも発病する。女性ホルモンが尿酸の尿中排泄を促す働きがあるため、若い女性には少ない。
治療:
 NSAIDsの内服、座薬でほとんど痛みは治まる。NSAIDsで効果が不十分な場合には、ステロイドを投与する。  

2)偽痛風(ピロリン酸Ca結晶沈着症) pseudogout (Calcium pyrophosphate dehydrate (CPPD) crystal deposition disease)


概要:
 ピロリン酸カルシウム結晶による結晶性滑膜炎。
臨床症状:
 急性発作として関節痛が突発性に出現するが、数日のうちに軽快する。
診断・鑑別診断:
 痛風や急性化膿性関節炎との鑑別を要するが、関節液中にピロリン酸Ca++ 結晶が証明され、確定診断となる。
治療:
 疼痛発作時にはステロイドを用いる。  

3)破傷風 tetanus


概要:
 破傷風強直。痛みのある、緊張性筋収縮を特徴とする疾患。
病因:
 中枢神経系に作用する破傷風菌Clostridium tetaniの毒素(テタノスパスミン)を原因とする。破傷風菌の芽胞が創傷面から体内に侵入することによって感染する。
臨床症状:
 三叉神経障害および咬筋の強直による開口障害を呈する(牙関緊急)。
治療:
 創傷のデブリトマンを行い、早期に破傷風ヒト免疫グロブリンを投与する。必要に応じて抗生物質の投与を行う。全身痙攣がみられる時には抗痙攣剤を投与するとともに、気道の確保(気管内挿管、気管切開)が必要な場合もある。通常は幼児期に三種混合ワクチンとして、ジフテリア、百日咳とともに生涯獲得免疫が行われている。

7.顎関節強直症

顎関節強直症:ankylosis of temporomandibular joint


 顎関節の器質的変化によって、関節が骨性または線維性に癒着して顎運動が著しく制限された病態。
 
病因:
 前述した化膿性顎関節炎などの炎症や、骨折などの損傷に伴って関節構造の破壊や治癒後の瘢痕化、骨造成をきたし運動障害を生じる。また、リウマチや痛風などが原因で2次的に瘢痕化をきたし生じる場合もある。
臨床症状:
 開口障害を呈する。線維性癒着の場合は多少の可動性があるものの、骨性癒着では全く可動性は消失する。小児期に発症した場合には、罹患側の下顎骨の発育障害により下顎正中の患側偏位をきたし顔面非対称となる。また、両側性に生じた場合には小下顎症を呈する。
治療:
 癒着部の骨を切除し、瘢痕組織を切離して関節の可動性を回復し、関節の形態を賦与する顎関節授動術(関節骨切離切除術)、関節形成術、下顎頭切除術などの外科的治療が行なわれる。顎関節へのapproachは、顔面神経の損傷を避けることと、瘢痕をなるべく目立たなくする目的で、耳前切開法あるいは側頭部切開法(temporal approach法)(図3)がよく用いられる。



 この方法では、側頭皮弁を形成しつつ側頭筋膜上での剥離により、顔面神経、浅側頭動脈は皮弁内に含まれるため、これらを損傷することなく頬骨弓さらに顎関節に到達できる(図4)。術後の再癒着を防ぐためには、幅10mm程度の十分な骨切除量が必要である。また、切除部への中間挿入物として側頭筋膜弁などが選択される。さらに、術後なるべく早期に開始し、瘢痕拘縮の生じる3~6か月より前から可動域を確保しておくことが大切である。

8.顎関節症

 顎関節症:temporomandibular joint arthrosis は、顎運動時の顎関節雑音、疼痛および開口障害を主症状とする疾患で、急性炎症症状はなく、慢性に経過する病態の総括的診断名である。

病因:
 低位咬合、過蓋咬合、片咀嚼、咬頭干渉などの咬合に起因する慢性の外傷性因子や、歯ぎしり、くいしばりなどの咀嚼筋緊張や顎運動の異常習癖に起因するもの、またこれらの異常習癖の誘因となる精神的緊張(ストレス)、骨折や打撲あるいは顎矯正手術後の後遺障害として生じる場合などが考えられる。しかし、これらは単独の原因で作用するのではなく、多因子によるものが多い。
臨床症状:
 顎関節症は、関節包、関節円板、関節靭帯、滑膜などの軟組織、咀嚼筋、そして下顎頭、関節結節、下顎窩などの硬組織から構成されており(図5)、病変の部位によって主な症状が異なり、日本顎関節学会では次のように分類されている。

1)咀嚼筋障害(Ⅰ型); 咀嚼筋痛、咀嚼筋障害を主徴候としたもの

2)関節包・靭帯障害(Ⅱ型);関節痛、円板後部組織・関節包・靭帯の慢性外傷性病変を主徴候としたもの

3)関節円板障害(Ⅲ型);関節円板の異常を主徴候としたもの(a.復位を伴うもの、b.復位を伴わないもの)

4)変形性関節症(Ⅳ型);退行性病変を主徴候としたもの5)その他;以上のいずれにも分類されないもの  



治療法:
1)保存的治療法 a.筋リラクゼーションマッサージ、ストレッチ、スプリント、薬物、生活指導、カウンセリング b.洗浄療法

2)CT,鏡視下の手術  開放形成 → 骨棘削除(円板形成)

参考文献

1.塩田重俊、宮田喜内 監修:最新口腔外科学,医歯薬出版 東京 1999
2.石川梧朗 著:口腔病理学1口腔病理学2,永末書店、東京 1997
3.田嶋定夫 著:顔面骨骨折の治療,克誠堂出版,東京 1999
4.高戸毅 監修:顎口腔外傷のチーム医療,金原出版 東京 2005.
5. D. Chikazu, Y. Mori, H. Saijo, H. Fujihara, E. C. Ko, H. Hikiji, Y. Yonehara, T. Takato:A case of tumoural calcinosis in the temporomandibular joint associated with systemic sclerosis. Int. J. Oral Maxillofac. Surg. 2008; 37: 190–193. 6. Al-Kayat,A.,et al .: A modified preauricular approach to the    temporomandibular joint and malar arch. Brit J Oral Surg 17:91-103, 1979  

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