紫斑病性腎炎 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.10

紫斑病性腎炎(しはんびょうせいじんえん)

Henoch-Schönlein purpura nephritis: HSPN

執筆者: 清水 マリ子

概要

 紫斑病性腎炎(Henoch-Schönlein purpura nephritis: HSPN)は、アナフィラクトイド紫斑病(anaphylactoid purpura)、血管性紫斑病(vascular purpura: VP),ヘノッホ-シェーンライン紫斑病 (Henoch-Schönlein purpura: HSP)とも呼ばれている原因不明の血管炎に続発する糸球体腎炎である。

HSPは2〜10歳の小児に好発し、男女比は2:1で男児に多い。10万人に13.5〜20人の頻度で発症すると言われているが、腎炎(HSPN) の合併はその内の20〜80%と言われている。血管炎はIgA免疫複合体の血管沈着による全身性の小血管炎と考えられており、紫斑、腹痛および関節痛を三主徴とする。発症機序の詳細は不明だが溶血連鎖球菌などの感染症がトリガーとなっている可能性はある。HSPNの大半はHSP発症後1ヵ月以内に合併し、小児の二次性糸球体腎炎の中で最も頻度が高い疾患である。HSPNの多くは軽症であるが、慢性腎炎の中では小児期に腎不全を引き起こす頻度が最も高く、全透析導入例の5%を占める重要疾患である。腎生検所見でHSPNとIgA腎症(IgA Nephropathy: IgAN)は同一の所見が見られるが、腎外症状はHSPにのみ認められる。この二つの疾患は共通の病因から成ると考えられているが、HSPNは年少児に多く認められるのに対し、IgANは年長児〜成人に多く認められる。HSPNの治療方法については現時点では一定した見解やプロトコールがなく、様々な治療が試みられている。

病因

 IgA腎症(IgAN)と同様に病因は詳細不明である。現在考えられているものは、病原体や食物抗原が上気道などの粘膜に作用する事により、リンパ組織においてIgA抗体が産生され、このIgAを含む免疫複合体が腎臓の糸球体メサンギウム領域に沈着し炎症反応を惹起するという説である。沈着するIgAに関してはサブクラスであるIgA1である事が報告されている。細菌、ウイルス、薬物、ワクチンなどの抗原刺激によって扁桃やその周囲のリンパ組織で糖鎖不全 IgA1抗体が作られると推定されている。なぜ糖鎖不全IgA1が産生されるのか詳細は不明である。また、HSPやIgANでは家族内発症が報告されており、何らかの遺伝因子の関与も疑われている。

病態生理

 詳細は不明である。病理組織では多量体IgA1 免疫複合体の沈着が特徴的であり、これが主に皮膚、消化管、腎糸球体に作用して引き起こされると考えられている。病変は、小血管の白血球破砕性血管炎(leukocyteclastic vasculitis)である。腎生検病理組織所見ではメサンギウム領域にIgA1免疫複合体が沈着している。このIgA1免疫複合体の沈着によって凝固系や補体系が活性化し腎炎を発症していると考えられる。腎の病理組織所見はIgANとほぼ同じであり、IgANをHSPNの症状が腎に限局された症例として考える意見もある。

臨床症状

自覚症状

HSPでは、紫斑、腹痛、関節痛などを呈するが、HSPNの多くはその約1ヵ月以内に無症状(尿潜血や蛋白尿のみ)で発症する。HSPN症例の20〜30%に肉眼的血尿(赤色・コーラ色の尿)を認めるが、多くは検尿しなければ判らないため、HSP罹患後は定期的に尿検査を行う必要がある。ネフローゼ症候群や急性腎炎症候群を呈する例では、浮腫や高血圧に伴う頭痛がみられる。  

他覚症状

顕微鏡的血尿、血尿・蛋白尿、急性腎炎症候群、ネフローゼ症候群あるいは慢性腎不全といった症状を示す。61%に高血圧が出現したという報告があるが、HSPNの多くは軽症である。HSPの症状の程度からHSPNの重症度を予測する明確な指標は無いが、重症の腹痛、持続する紫斑、年長児、血液検査での第13因子活性低下などが報告されている。慢性腎不全への移行率は2〜5%あるが、Nephro-nephritic syndromeを呈する例や、長期間ネフローゼ症候群を呈するでは腎不全のリスクが高くなる。

検査成績

尿所見

HSP罹患後は、定期的に複数回検尿を行う。一時的または持続的に尿潜血が認められる場合、反復性の肉眼的血尿(赤色・コーラ色の尿)、血尿・蛋白尿の持続、高度蛋白尿(常に顕微鏡的血尿を伴う)の持続など様々な所見を呈する。尿蛋白量(尿中の蛋白/クレアチニン比や、24時間蛋白尿定量)は腎生検を施行するかどうか判断する重要な指標であり定期的に測定する。その他に、疾患活動性の強い時期に尿中ポドサイトが増加するということが報告されている。

その他の検査所見

特異的な所見はないが、血清IgA, IgA-immune complexの上昇、IgA-ANCA、IgEの上昇、血清補体成分C3の上昇、血清ASO, ASKの増加、CRP軽度増加、凝固XIII因子活性の低下、白血球増多、血沈の亢進などが認められる。また、急性期にfibrinogen値,D-dimer, TAT, FDP, von-Willebrand 因子が上昇、便潜血陽性などが認められる。

腎生検(腎病理所見と分類)

腎生検の適応基準として現在明確な指標はないが、高度尿蛋白持続例や腎機能障害を呈する症例は末期腎不全への移行リスクを考慮し、入院の上腎生検を行う。腎病理所見と臨床所見から治療方針を決定する。特に、Nephro-nephritic syndromeを呈する場合は早急に腎生検を行う。一方で発症後3〜6ヵ月で尿蛋白が減少〜消失する症例も多く、患児に余分な負担をかけない事も重要である。

光学顕微鏡所見

メサンギウム細胞の増加と、メサンギウム基質の増生が種々の程度でみられる。血管内に多核白血球・単球が存在し、壊死病変も認められる。病理学的には巣状もしくはびまん性のメサンギウム増殖性腎炎を呈する。半月体の出現頻度、基底膜病変の有無により国際小児腎臓病研究班(International Study of Kidney Diseases in Children : ISKDC)による組織分類がある(表1)。


(表1.腎生検所見)

診断・鑑別診断

 HSPNの診断は、HSPの症状と腎炎の所見から判断するが、確定診断は腎生検病理組織診断で行う。腎病変だけではIgANと鑑別困難であるが、腎外病変が認められる点で臨床症状から鑑別することが出来る。

その他の鑑別疾患としては、 全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)や結節性多発動脈炎(Polyarteritis nodosa; PNまたはPAN)、ウェゲナー肉芽腫症(Wegener's granulomatosis)などが挙げられる。

治療

 現在、HSPNに対して確立された治療法はなく、治療開始時期も明確な基準が確立されていない。また、自然治癒傾向が認められる症例が多いので小児においては過剰医療に成らないよう注意する必要がある。しかし、腎病理所見により腎機能低下の可能性がある症例に対しては積極的治療を行う事が多い。また、蛋白尿の評価は早朝尿蛋白/クレアチニン比で判断するのが臨床に即している。

軽症例(早朝尿の蛋白/クレアチニン比<0.5)では、経過観察のみかあるいは抗血小板薬(ジピリダモールなど)、ACE阻害剤、ARB、を単剤かまたはこれらの2〜3剤を併用する。

中等症例(早朝尿の蛋白/クレアチニン比≥0.5)では、軽症例の治療にステロイド剤を併用する場合がある。

重症例の治療は腎生検の組織診断確定後に行う。現在主に行われている治療は、メチルプレドニゾロンパルス療法、カクテル療法(ステロイド剤、抗血小板薬、抗凝固剤、免疫抑制剤の併用療法)、血漿交換療法、三者の組み合わせ療法などである。

一般治療として、高度の蛋白尿を呈する例では食塩制限食とし、乏尿時には利尿剤を投与する。また、紫斑が強い場合や腎機能障害、高血圧が認められる際には運動制限を行う。軽度の蛋白尿では、高血圧の合併が無ければ運動制限はしない。ステロイド剤を3ヵ月以上投与する場合にはビタミンDや胃粘膜保護剤を考慮する。

末期腎不全患者に対しては、透析療法を開始し腎移植を検討する。

予後

 HSP発症時に予防的ステロイド投与を行う事で、HSPNのリスクを減少させる事が出来るという報告があるが、明確なエビデンスは無い。腎機能障害や高血圧を呈する例や持続する蛋白尿の程度が高いほど予後は不良である。ただし、治療により腎病理組織像は変化するため、予後判定のための繰り返し腎生検が必要な場合がある。尿蛋白の量が1日あたり1g/m2体表面積以上を呈する急性腎炎症候群や、nephro-nephritic syndrome では末期腎不全(End Stage Renal Disease : ESRD)ESRDへの移行の可能性が高く、反対に尿蛋白の量が1日あたり1g/m2未満ではESRDに至らないという報告がある。たとえ尿所見や紫斑が軽微であっても腎炎が進行しうる疾患であり、生涯にわたるフォローが必要である。腎移植を受けたIgANおよびHSPN患者の50%に再びメサンギウムのIgA沈着が認められることが知られている。

最近の動向

 現時点では評価は一定ではないが、IgA腎症における扁桃摘出術+ステロイドパルス療法につき後向き研究が進み、有効性を示す報告が散見される。同様の腎病変を持つ本疾患でも奏功したという報告が散見されているが、有効性を客観的に示す学術論文が数少なく、その医学的効果は現時点では国際的に評価されておらず、日本国内の専門医間でも賛否両論である。

(MyMedより)推薦図書

1) 五十嵐隆 著:小児腎疾患の臨床,診断と治療社 2010

2) 田中敏章 著:新しい小児の臨床検査基準値ポケットガイド,じほう 2009

3) 椎貝達夫 著:腎臓病の話 (岩波新書 新赤版 1100),岩波書店 2007

免責事項

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