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epilepsy
執筆者: 川合 謙介
世界保健機構(WHO)はてんかんを、「大脳神経細胞の過剰な発射に由来する、反復性の発作を主徴とする慢性の脳疾患」と定義しています。この定義には、重要なキーワードが集約されています。
古来、てんかんは、その主症状であるてんかん発作の突発性や激しさから、理解できないもの、恐ろしいもの、とみなされ、偏見の対象となってきました。しかし、WHO定義の前半「大脳神経細胞の過剰な発射に由来する」とは、てんかんが決して「実体のない原因不明の脳の病気」などではなく、科学的に検知できる神経組織の電気的異常発射であることを示しています。
また、WHO定義の後半では、原因を問わず、大脳の一部または全体が過剰な発射を繰り返し起こすような性質を獲得してしまった状態に対して、てんかんと呼ぶことを意味しています。したがって、脳外傷の直後や低血糖時にみられる反応性の単回発作があったからと言って、てんかんとは診断しません。また、実にさまざまな疾患が原因になりうるので、てんかんをひとつの疾患として理解するよりも、「てんかん性発作を繰り返し起こす状態」としてとらえる方が理解しやすいかも知れません。
実際の日常診療場面では「てんかん」「けいれん」「発作」などの言葉がかなり不正確に使われている傾向にあり、医療者間や医師患者間で正確に情報を伝えるには注意が必要です。
WHOの定義にもあるように、病因はさまざまです。MRIなどの画像診断や顕微鏡による病理診断によって器質的(形態的)異常が確認できるもの(=症候性てんかん)とそうでないもの(=特発性てんかん)に大別されます。
症候性てんかんの原因には、先天性の大脳奇形や大脳皮質形成異常、脳腫瘍、脳挫傷など頭部外傷の慢性期、脳出血や脳梗塞の慢性期、髄膜炎や脳炎など脳感染症の慢性期などがあります。後者の原因は不明ですが、遺伝的素因の関与が大きく、神経細胞膜のイオンチャンネルや神経伝達物質の受容体やトランスポータなど、分子レベルの異常が関係している可能性もあります。
どのような脳腫瘍でもてんかん性の発作を起こす可能性がありますが、進行性の脳腫瘍では占拠性病変としての症状(局所脳圧迫症状や頭蓋内圧亢進症状)が前景に立ち、てんかんが主症状となることはまれです。むしろ、良性神経膠腫や、「腫瘍と奇形の中間」とも言うべきガングリオグリオーマ(神経節膠腫)や DNT (dysembryoplastic neuroepithelial tumor) などの良性脳腫瘍がしばしばてんかんの原因となります。
てんかんと遺伝の関係は、患者やその家族にとって大きな関心事になります。病因がさまざまである以上、「遺伝するもの」、「遺伝する可能性のあるもの」、「遺伝しないもの」など、さまざまです。「遺伝するもの」として、いくつかのまれな家族性てんかんが知られており、その多くで原因となる遺伝子の異常が特定されています。「遺伝する可能性のあるもの」とは、結節性硬化症など遺伝子の異常により、脳に病理学的異常(皮質結節)が生じ、それがてんかんの原因となる可能性がある場合にあたります。乳幼児の熱性けいれんは遺伝病ではありませんが、遺伝的素因があることが知られており、その熱性けいれんの重症型の一部は、数年後にてんかんに移行する可能性があります。
「遺伝しないもの」とは、後天的な脳外傷・感染・脳腫瘍などが原因となって起こるてんかんです。病因はさまざまですが、てんかんはてんかん(表1)のように分類されます。これは国際てんかん連盟 (ILAE, Internatinal League Against Epilepsy) が1989年に提唱したもので、世界的に用いられていますが、新知見の出現とともに改訂されてきており、今後も変遷する可能性があります。一見複雑な分類に見えますが、要は、全般性(大脳皮質の大部分)vs局在関連性(脳の一部分のみ)という焦点のひろがりの軸による分類と、特発性vs症候性または潜因性という病因による軸による分類により、2 x 2 の4群に大別しています。実用的には、このてんかん分類は、予後の予測と抗てんかん薬の選択の際に重要になります。
特発性てんかんは、原因が明らかでなく、遺伝的素因が比較的大きいのですが、予後良好(抗てんかん薬の効果が良好)です。症候性は、病理学的原因が存在する、または脳症としての性格を有するもので、薬剤抵抗性となる率が高いことが知られています。
病因がさまざまなように、大脳皮質が異常興奮性や異常な同期性を獲得する病態もさまざまです。細胞レベル、シナプスレベル、神経回路のレベルなど、さまざまなレベルでの異常が原因となりえます。
神経細胞膜のイオンチャンネル、神経伝達物質の受容体やトランスポータなどは、個々の神経細胞の興奮性を制御しているため、これらの異常により、神経細胞が異常に興奮しやすくなります。一方、海馬硬化症を伴う側頭葉てんかんでは、低酸素症による神経細胞死からの回復過程で、異常に興奮しやすい回路が形成されるのが、てんかんの原因だろうと考えられています。
てんかんの診断には、脳波におけるてんかん性異常波が必須です。脳波は、数千から数万個の神経細胞の後シナプス電位の集合を見ています。正常な状態では、各々の神経細胞はそこに入力する興奮性の信号と抑制性の信号によりコントロールされていますが、てんかん性異常波では、正常ではあり得ないような莫大な数の神経細胞が一斉に同期して脱分極してしまいます。例えて言えば、個人個人がばらばらに仕事をこなしているが全体としては統合性が保たれている会社組織を正常状態とすると、てんかん発作の際には、あるフロアまたは会社のビル全体の社員が突然暴動を起こして一斉に暴れ始めた状態、ということになります。
てんかん発作の国際分類をてんかん(表2)に示します。てんかん発作は、部分発作(大脳皮質の一部分から始まる発作)と全般発作(大脳皮質の大部分から一斉に始まる)に分類されます。代表的な発作の特徴を(表3)に示しました。 「けいれん発作」とは、強直発作や間代発作のように、手足や顔面のぴくぴく、がくがくという運動を伴った発作の別名です。したがって、けいれん発作イコールてんかん発作ではありません。側頭葉から始まる複雑部分発作では、けいれんはまったくなく、逆にじっと動作が停止してしまったり、無目的ながらも正常に近い手足の動き(=自動症)をすることがよくあります。
てんかんの診断は、病歴や発作型の聴取、ビデオ撮影による解析、脳波、CT/MRIなどの画像検査によって行われます。しかし、外科的治療を考慮する場合には、より詳しい焦点診断のための諸検査が必要となります。(表3)
てんかん治療の基本は、まず薬物治療です。最初の単剤治療で約60%の患者は発作が完全に抑制されます。第一選択薬は、上述のてんかん分類に基づいて決定します。日本で現在、主に用いられている抗てんかん薬は、バルプロ酸、カルバマゼピン、フェニトイン、ゾニサミド、フェノバルビタールなどです。
* バルプロ酸(デパケン®、バレリン®、ハイセレニン®、セレニカ®など)
最も広い作用スペクトラムを有し、認知機能に対する副作用がないので特に小児に適しています。催奇性のために妊娠希望の成人女性では原則的に服用を避けます。
* カルバマゼピン(テグレトール®など)
部分発作に対する第一選択薬であり、認知機能への副作用が少ない薬です。投与初期に複視・めまいなどが起こりやすいので通常、少量から開始します。
* フェニトイン(アレビアチン®、フェニトインN®、ヒダントール®など)
やはり部分発作に有効で、脳外科手術後にもしばしば使用されます。小児や女性では、長期投与により顔貌や美容に対する副作用の問題があります。フェノバルビタールとの合剤(ヒダントールF®など)は、血中濃度管理が困難なので最近は用いられなくなってきました。
* ゾニサミド(エクセグラン®)
部分発作に有効です。本邦で開発され、脳外科手術後にもしばしば使用されます。副作用として時に精神症状が問題となります。
* フェノバルビタール(フェノバール®)
認知機能への副作用があるので、第一選択薬ではありません。特に小児では投与を避ける傾向にあります。妊娠希望の成人女性には、催奇形性が低いので適しています。
抗てんかん薬服用中は、薬の血中濃度を測定し、投与量を調節します。また、ジアゼパム坐剤(ダイアップ®)は吸収が早いので、発作が起こりそうな時や、発作頻発時に頓用で用いるのに便利です。
てんかん患者の10-30%は薬剤治療に抵抗する難治てんかんです。そのうち約50%は外科治療の対象となると言われています。以下のような手術法があります。
* 側頭葉てんかんに対する側頭葉切除術
約80%の患者で日常生活の支障となるような発作が消失し、有効性が高く、最も多く行われる手術です。海馬などの内側焦点を切除するためにいくつかの術式があります(選択的海馬扁桃体切除術など)。また、最近では、海馬切除による記憶障害の危険性を少しでも減らすために、海馬を切除せずに割を入れる方法(=海馬多切術)も行われます。
* 側頭葉外てんかんに対する病巣切除術や皮質焦点切除術
腫瘍・血管奇形など病巣自体の切除や、頭蓋内留置電極や術中皮質脳波記録により同定された皮質焦点の切除が行われます。
* 切除不能領域の焦点に対する軟膜下皮質多切術
大脳皮質に5 mm間隔で割を入れてゆく手術法で、てんかん波は消失するが大脳機能は温存されます。
* 失立発作に対する脳梁離断術
失立発作は激しい転倒や頭部前屈のために外傷の危険が特に高いのですが、脳梁離断術により90%以上で消失します。しかし、てんかん焦点に対する根治的手術ではないので、部分発作は残存する可能性が高くなります。
* 半球性焦点に対する半球切除術
片側巨脳症やスタージ・ウェーバー症候群など半球性焦点に対して用いられます。最近は、脳実質切除を少なくした機能的半球切除術や半球離断術などが行われます。
* 迷走神経刺激療法
埋込型の刺激装置により左迷走神経を間歇的に刺激します。平均して約40-50%の発作減少が得られます。本邦ではまだ承認されていないので、この治療を受けるには約200万円の自己負担経費がかかります。
久郷敏明:てんかん学の臨床. 星和書店 1996.
1) 金澤 治 著:医学教養新書 知られざる万人の病てんかん,南山堂 改訂2版版 2006
2) 久保田英幹・日本てんかん協会 著:てんかん、こうしてなおそう 治療の原則 「てんかん」入門シリーズ,クリエイツかもがわ 2009
3) 大生定義 著:神経内科診療スキルアップ CBRレジデント・スキルアップシリーズ 7,シービーアール 初版版 2006
4) 高橋幸利 著:てんかんの発作間欠期・発作時脳波を読む,診断と治療社 2007
5) 後藤和宏 監修:図解入門 よくわかる最新「脳」の基本としくみ,秀和システム 2009
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