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最終更新日:2010.07.21

急性腎不全(きゅうせいじんふぜん)

執筆者: 三瀬 直文

概要

 急性腎不全とは、急激な腎機能の低下により体液の恒常性が維持できなくなり、高窒素血症、体液過剰、水電解質異常などを呈する状態である。腎機能低下の速度が慢性腎不全より急速であるばかりでなく、腎不全の原因、腎機能の可逆性においても異なっている。
 急性腎不全では、腎機能低下が数時間~数週間の経過と急速であり、脱水、出血、ショック、薬剤、急速進行性糸球体腎炎など、慢性の腎障害とは異なった原因が認められる。また、慢性腎不全の多くは非可逆性であるのに対し、急性腎不全では腎機能の改善が期待できることが多く、治療の目標が異なる。

 一般に、「血清クレアチニン値が2.0~2.5mg/dl以上へ急速に上昇したもの(基礎に腎機能低下がある場合には血清クレアチニン値が前値の50%以上上昇したもの)、または血清クレアチニン値が0.5mg/dl/日以上、BUNが10mg/dl/日以上の速度で上昇するもの」を急性腎不全と扱っていたが1)、明確な定義は存在しなかった。実際、最近の文献には35以上の異なる診断基準が用いられていた2)。近年になって急性腎不全を明確に定義する試みが始まっており、Acute Dialysis Quality Initiative (ADQI)が2004年にRIFLE分類(Risk, Injury, Failure, Loss, End-stage renal failure)という重症度分類を提唱した3)。さらにAcute Kidney Injury Network (AKIN)が、従来急性腎不全に対して使われてきたAcute Kidney Failureに代わるAcute Kidney Injury (AKI)という用語を提唱し、RIFLE分類をもとに新たな急性腎不全の定義と重症度分類を試み、急性腎不全の概念の標準化を目指している4)

病因

 原因により、腎前性、腎性、腎後性の3つに分類される。

1)腎前性急性腎不全:腎血流量の減少など、腎の虚血、血行動態の変化が原因で起こる。心不全による心臓ポンプ機能の低下、循環血漿量の減少(脱水、出血など)による腎血流量の減少や薬剤(アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬など)による腎内血行動態の変化などにより生ずる。

2)腎性急性腎不全:腎実質障害を原因として起こる。急速進行性糸球体腎炎などの糸球体障害、急性間質性腎炎、急性尿細管壊死などにより生ずる。

3)腎後性急性腎不全:腎より後方での、尿の排泄障害を原因として起こる。前立腺肥大、悪性腫瘍、尿路結石、後腹膜線維症などにより生じ、多くの場合には水腎症を呈する。腎前性、腎後性であっても、障害が長期間持続すると腎性腎不全に移行する。

 主な腎不全の原因を以下に示す。 

  1)      腎前性急性腎不全・ 心拍出量の減少:心不全、心原性ショック、心タンポナーデ・ 循環血液量の減少:出血、嘔吐、下痢、多量発汗、火傷、大手術後、ネフローゼ症候群、肝硬変・ 薬剤:ACE阻害薬、ARB、NSAIDなど・ 敗血症・ 肝腎症候群 など

2)      腎性急性腎不全・ 腎血流の低下:腎動脈閉塞(血栓・塞栓)、解離性大動脈瘤・ 糸球体・小血管・細血管障害:急速進行性糸球体腎炎、血管炎(ANCA関連)、急性腎炎、DIC、HUS、TTP、コレステロール塞栓症、悪性高血圧・ 間質・尿細管障害:薬剤(抗生物質、造影剤、重金属、抗癌剤)、除草剤(パラコート)、重金属(水銀、砒素、鉛、カドミウム)、有機溶媒、高尿酸血症、骨髄腫腎、横紋筋融解症、高カルシウム血症、ヘモグロビン尿症、急性間質性腎炎

3)      腎後性急性腎不全・ 尿路結石、腫瘍、出血・ 前立腺肥大症・ 神経因性膀胱・ 後腹膜線維症・ 腫瘍の転移、周囲からの圧迫 など   院外発症では腎前性腎不全が70%と頻度が高いが、院内発症では腎性の頻度が高くなる5)。   尿量に応じて400ml/日以上を乏尿性腎不全、400ml/日未満を乏尿性腎不全(100ml/日未満は無尿性)と分類することもある6)。一般には尿量減少の程度が激しいほど高度の間質障害を反映し、予後不良のケースが多いとされる7)

臨床症状

 高窒素血症とその結果としての尿毒症症状(消化器症状、神経症状など)、体液貯留・溢水に伴う症状、電解質・酸塩基平衡の異常など、腎機能障害に伴う症状が起こりうる(表1)。
 腎不全の原因が全身疾患、薬剤などの場合には、個々の病態に応じた全身(腎外)症状を伴うことがある。例えば、ANCA関連血管炎における発熱・関節痛・肺出血、薬剤性間質性腎炎における薬疹などが診断の助けとなる。また、手術や外傷後の急性腎不全では、腎不全が多臓器不全の一部として発症することも多い。

検査成績

 高窒素血症、電解質異常、酸塩基平衡異常、貧血など、腎不全に伴う検査値の異常が起こりうる(表1)。
 前項で述べた通り、急性腎不全は他の全身疾患、手術、外傷などに伴って発症することが多いため、腎以外の臓器不全に由来する検査値異常がみられることも多い。
 急性腎不全初期の腎機能増悪時には、血清クレアチニン値やクレアチニンクリアランスと糸球体濾過量(GFR)には解離があり、クレアチニン値から推測される以上にGFRは低下している8,9)。このため、血清クレアチニン値やクリアランスから判断すると、腎機能低下の程度を過小評価することになる9)
 また、急性腎不全の回復期には、GFRよりクレアチニン値の回復が遅れることが多い10)

診断・鑑別診断

 最近まで急性腎不全の明確な定義は存在しなかったが、RIFLE 分類、AKIの定義・分類において、急性腎不全の概念の標準化が試みられている。 RIFLE分類を表2に示す。
 2004年に提唱されて以後、この分類は広く用いられており11)、その重症度(Risk, Injury, Failure)が腎機能の回復、腎代替療法の必要性、入院期間、患者の短期予後を予測するのに有用であることが検証された12)
 AKINは、急性の腎障害を理解するための新たな概念としてAKIという用語を提唱し、AKIとは「48時間以内の急激な腎機能低下」であり、「血清クレアチニン値が0.3mg/dl以上または1.5倍以上に増加すること、あるいは尿量0.5ml/kg/時以下が6時間以上持続すること」であると定義した4)
 AKINの分類はRIFLE分類と共通する部分も多いが、軽度の血清クレアチニン値の上昇であっても、患者の予後悪化に影響する13-14)というエビデンスの蓄積を反映して、血清クレアチニン値0.3mg/dl以上をステージ1に含めることとなった。しかし、血清クレアチニン値は体液量の影響を受けて変動するため13,14)、この診断基準は、適正な輸液を行った後に用いるものとした4)

 AKINが提唱したAKIのステージ分類を表3に示す。   入院中の症例の様に病歴や経時的なデータが明らかな場合、急性腎不全の診断は比較的容易である。しかし病歴が不明の場合、腎不全が急性か慢性かの鑑別をする必要がある。
 血尿・蛋白尿、浮腫、高血圧などの病歴が慢性の腎障害を示唆するのに対し、高度の下痢、脱水、激しい運動、熱中症、手術、腎毒性のある薬剤投与などの所見は急性の腎障害を示唆する。また、進行した慢性腎不全では腎臓が萎縮していることが多く、画像診断が鑑別に役立つ。急性腎不全と判明した場合、腎障害の原因を検索する。
 まず、腎前性、腎性、腎後性の鑑別を行い、その中で特定の原因を同定してゆく。原因の除去、治療により、腎機能の回復が期待できることを銘記すべきである。以下の項目が、急性腎不全の原因診断に役立つ。
・ 病歴:薬剤、手術、下痢、嘔吐、食思不振、合併症など
・ 身体所見:脱水、浮腫、痙攣、意識障害、血圧、多臓器不全症状
・ 尿検査:比重、蛋白、潜血、ケトン体、沈渣、尿生化学(Na、K、クレアチニン)
・ 血液検査:血算、血液ガス、生化学(BUN、クレアチニン、電解質、総蛋白、アルブミン、血糖、CK)
・ 胸部X線写真、心電図・ 腹部超音波:腎のサイズ、水腎症の有無を確認・ 心臓超音波 など
*腎前性腎不全では、尿中のNa排泄が低下していることが多く、尿中Na、FENa (Fractional excretion of Na)の測定が有用である7)。また、血清BUN/クレアチニン比も参考になる7)(表4)  

治療

 予防が重要である。腎毒性のある薬剤、検査など、原因となりうる医療行為を減らすことにより、急性腎不全の発症を減らすことが期待される。また、脱水は造影剤、抗腫瘍薬、抗生剤投与時などに急性腎障害を起こすリスクを増大させる7)。この様な薬剤を投与する前には、十分な補液で脱水を補正することが望まれる。造影剤腎症のハイリスク症例には、発症予防のために造影検査前後の補液が推奨されている15)
 治療は、原疾患(原因)に対する治療と腎不全の管理に分かれる。腎後性腎不全における尿路閉塞の解除(尿管ステント、腎ろうの造設)、脱水による腎前性腎不全に対する補液、急速進行性糸球体腎炎に対する免疫抑制療法など、原疾患に対する治療が可能な場合は、その治療を行う。高窒素血症、溢水症状、電解質異常など、腎不全に由来する症状、検査値異常を呈する場合は、食事、薬物療法による腎不全の管理を行う。
 ドパミン16)、ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)17)、ループ利尿薬18)など、様々な薬剤が急性腎不全の予後改善を目的とする特異的な薬物療法が試みられてきたが、現状で予後改善効果が確立している薬剤はみられない。保存的治療で管理困難な場合は血液浄化療法の適応となるが、その開始時期・透析法の選択(持続あるいは間欠的血液透析)・透析量に関してはエビデンスが不十分であり、コンセンサスを確立する試みが始まっている19)

予後

 急性腎不全の予後は不良で、死亡率は50%に近いと報告されている20)。これは、急性腎不全が単独で起こることが少なく、集中治療室で加療中の重症患者の多臓器不全の一部として起こるためであろう。Uchinoらは、29,269例のICU入院症例を対象とした研究で、急性腎不全1,738例中1,260例が透析を必要とし、その病院内死亡は60.3%、退院時にも透析を離脱できなかった症例が生存者の13.8%であったと報告している21)
 腎機能の回復は、症例の背景、基礎疾患によって異なるが、約5%が末期腎不全となり腎代替療法の継続が必要となるとされている7)。  

最近の動向

 急性腎不全の早期発見に役立つバイオマーカーの研究が進められている。注目されている尿中バイオマーカーとしては、NGAL22)、KIM-123)、L-FABP24)などがある。    
                     (※この原稿は2008年8月26日に受理したものです。)

文献

1)        菱田明:急性腎不全.日本腎臓学会編集委員会編 初学者から専門医までの腎臓学入門.東京:東京医学社; 2005: 169-178.
2)        Kellum JA, Levin N, Bouman C et al: Developing a consensus classification system for acute renal failure. Curr Opin Crit Care 8: 509-514, 2002.
3)        Bellomo R, Ronco C, Kellum JA et al: Acute renal failure – definition, outcome measures, animal models, fluid therapy and information technology needs: the Second International Consensus Conference of the Acute Dialysis Quality Initiative (ADQI) Group. Crit Care 8: R204-R212, 2004.
4)        Mehta RL, Kellum JA, Shah SV et al: Acute Kidney Injury Network: report of an initiative to improve outcomes in acute kidney injury. Crit Care 11: R31, 2007
5)        Singri N, Ahya SN and Levin ML: Acute renal failure. JAMA 289: 747-751, 2003.
6)        Klahr S, Miller SB: Acute oliguria. N Engl J Med 338: 671-675, 1998.
7)        Clarkson MR, Friedewald JJ, Eustace JA et al: Acute Kidney Injury. In: Brenner BM eds. Brenner and Rector’s the Kidney. 8th ed. Philadelphia: Saunders; 2008: 943-986.
8)        Erley CM, Bader BD, Berger ED et al: Plasma clearance of iodine contrast media as a measure of glomerular filtration rate in critically ill patients. Crit Care Med 29: 1544-1550, 2001.
9)        Doolen PD, Alpen EL, Theil GB: A clinical appraisal of the plasma concentration and endogenous clearance of creatinine. Am J Med 32: 65-72, 1962.
10)     Myers BD, Moran SM: Hemodynamically mediated acute renal failure. N Engl J Med 314: 97- 105, 1986.
11)     Ricci Z, Ronco C, D’Amico G et al: Practice patterns in the management of acute renal failure in the critically ill patient: An international survey. Nephrol Dial Transplant 21: 690-696, 2006.
12)     Ali T, Khan I, Simpson W et al: Incidence and outcomes in acute kidney injury: a comprehensive population-based study. J Am Soc Nephrol 18: 1292-1298, 2007.
13)     Chertow GM, Burdick E, Honour M et al: Acute kidney injury, mortality, length of stay, and costs in hospitalized patients. J Am Soc Nephrol 16: 3365-3370, 2005.
14)     Lassnigg A, Schmidlin D, Mouhieddine M et al: Minimal changes of serum creatinine predict prognosis in patients after cardiothoratic surgery: a prospective cohort study. J Am Soc Nephrol 15: 1597-1605, 2004.
15)     Thomsen HS, Morcos SK: Contrast media and the kidney: European Society of Urogenital Radiology (ESUR) guidelines. Br J Radiol 76: 513-518, 2003.
16)     Kellum JA, M Decker J: Use of dopamine in acute renal failure: a meta-analysis. Crit Care Med 29: 1526-1531, 2001.
17)     Lewis J, Salem MM, Chertow GM et al: Atrial natriuretic factor in oliguric acute renal failure. Anaritide Acute Renal Failure Study Group. Am J Kidney Dis 36: 767-774, 2000.
18)     Cantarovich F, Rangoonwala B, Lorenz H et al: High-dose frosemide for established ARF: a prospective, randomized, double-blind, placebo-controlled, multicenter trial. Am J Kidney Dis 44: 402-409, 2004.
19)     Kellum JA, Ronco C, Mehta R et al: Consensus development in acute renal failure: The Acute Dialysis Quality Initiative. Curr Opin Crit Care 11: 527-532, 2005.
20)     Ympa YP, Sakr Y, Reinhart K et al: Has mortality from acute renal failure decreased? A systematic review of the literature. Am J Med 118: 827-832, 2005.
21)     Uchino S, Kellum JA, Bellomo R et al: Acute renal failure in critically ill patients. A multinational, multicenter study. JAMA 294: 813-818, 2005.
22)     Mishra J, Dent C, Tarabishi R et al: Neutrophil gelatinase-associated lipocalin (NGAL) as a biomarker for acute renal injury after cardiac surgery. Lancet 365: 1231-1238, 2005.
23)     Han WK, Waikar SS, Johnson A et al: Urinary biomarkers in the early diagnosis of acute kidney injury. Kidney Int 73: 863-869, 2008. Nakamura T, Sugaya T, Node K et al: Urinary excretion of liver-type fatty acid-binding protein in contrast medium-induced nephropathy. Am J Kidney Dis 47: 439-444, 2006.

表1-4

表1表1表2表2
表3表3表4表4

(Mymedより)推薦図書

1) ヘルムート・G. レンケ・ブラッドリー・M. デンカー 著、Helmut G. Rennke 原著, Bradley M. Denker 原著, 黒川清 翻訳:体液異常と腎臓の病態生理,メディカルサイエンスインターナショナル 2007
  2) 槙野博史 著:New専門医を目指すケース・メソッド・アプローチ 5,日本醫事新報社 2007

3) 高市憲明 監修:新版 腎臓病 (よくわかる最新医学),主婦の友社 2010

 
4) 相川厚 著:日本の臓器移植----現役腎移植医のジハード, 河出書房新社 2009
 

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