ギラン・バレー症候群 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.27

ギラン・バレー症候群(ぎらん・ばれーしょうこうぐん)

Guillain-Barré syndrome:GBS

執筆者: 相崎 貢一

概要

 ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS)は、進行性の筋力低下および腱反射低下・消失を主徴とする自己免疫性末梢神経障害である。急性・単相性の経過で、症状は4週間以内にピークを迎えた後に徐々に回復に向かう。電気生理学的および病理組織学的検討から、脱髄型GBSと軸索障害型GBSの2つに大別される。脱髄型はAcute inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy(AIDP)と呼ばれ、軸索障害型は、運動神経の軸索が障害されるacute motor axonal neuropathy(AMAN)と、感覚神経の軸索が障害されるacute motor sensory axonal neuropathy(AMSAN)の2つに区別されている。GBSは人口10万人当たり年間1~2人が発症と推定されており、欧米では脱髄型、日本を含むアジアでは軸索障害型が多いといわれている。(文献1)

病因

 ウイルスや細菌感染が引き金となって起こる自己免疫性疾患と考えられている。主要な先行感染の病原体として、Campylobacter jejuni(C.jejuni)、Cytomegalovirus(CMV)、Epstein-Barr virus(EBV)、Mycoplasma pneumoniae、Haemophilus influenzaeが報告されている。

病態生理

 AIDPでは、先行感染としてCMVが知られているが、発症機序は明らかにされていない。病理学的には、臨床症状に一致する末梢神経系への多巣性リンパ球浸潤、マクロファージによるミエリンの消失が確認されている。

 AMANでは、先行感染としてC.jejuniが知られており、その菌体外膜には神経構成成分のひとつであるGM1ガングリオシド様構造が存在している。そのため、細菌に対して産生された抗体が、ヒト神経組織も標的として攻撃するようになると考えられている。病理学的にも、脱髄やリンパ球浸潤はほとんど認められず、IgGと活性化された補体成分がRanvier絞輪部の軸索膜に沈着しており、重症例では絞輪部以外の軸索とミエリンの間の軸索周囲腔にまで沈着が認められる。これらがマクロファージの遊走を引き起こして、軸索を障害すると推定されている。(文献1)

臨床症状

自覚症状

 前駆症状として発熱・咽頭痛などの上気道症状や下痢症状を有する。先行感染から数日から数週間後に、下肢から上行性に広がる筋力低下を対称性に認めるようになり、数日から2週間にわたって進行する。筋力低下以外の症状としては、四肢の異常感覚や疼痛、顔面神経麻痺、球麻痺、外眼筋麻痺を伴うことがある。また呼吸筋麻痺や不整脈・高血圧・起立性低血圧などの自律神経症状を呈することもあり急性期の死因となりうる。

他覚症状

 GBSの重症度の指標として、下記に示すHughesのfunctional grade(運動機能尺度)が使用されることが多い。

Grade 0 正常
Grade 1 軽微な神経症候を認める
Grade 2 歩行器、またはそれに相当する支持なしで5mの歩行が可能
Grade 3 歩行器、または支持があれば5mの歩行が可能
Grade 4 ベッド上あるいは車椅子に限定(支持があっても5mの歩行が不可能)
Grade 5 補助換気を要する
Grade 6 死亡

検査成績

 下記のいずれも診断を強く支持する所見である。

血液検査―発症早期に自己抗体である抗ガングリオシド抗体が検出される。

髄液検査―病初期には異常を認めないことが多い。1週間以後に細胞数の増加を伴わない、髄液蛋白の上昇を認める(蛋白細胞解離)。

運動神経伝導速度検査―AIDPでは神経伝導速度の低下を認め、AMANでは伝導速度の低下を伴わずに複合筋活動電位振幅の低下を認める。

診断・鑑別診断

 先行感染の既往、進行する四肢の筋力低下および腱反射の低下・消失がある場合に強く疑う。これまでに提唱されている診断基準を以下に示す。(文献2)

診断に必要な特徴


A. 2肢以上の進行性筋力低下。その程度は軽度な両下肢の筋力低下(軽度の失調を伴うこともある)から、四肢、体幹、球麻痺、顔面神経麻痺、外眼神経麻痺までを含む完全麻痺まで様々である。

B. 深部腱反射消失。全ての腱反射消失が原則である。しかし、他の所見が矛盾しなければ、上腕二頭筋反射と膝蓋腱反射の明らかな低下と四肢遠位部の腱反射消失でもよい。

診断を強く支持する特徴


A. 臨床的特徴(重要順)

・進行: 筋力低下の症候は急速に出現するが、進行は4週までに停止する。約50%の症例が2週までに、80%が3週までに、90%以上が4週までにピークに達する。

・比較的対称性: 完全な左右対称性は稀である。しかし、通常1肢が障害された場合、対側も障害されるのが普通である。

・軽度の感覚障害を認める。

・脳神経障害: 顔面の筋力低下は約50%にみられ、両側性であることが多い。その他、球麻痺、外眼筋麻痺がみられる。また外眼筋麻痺やそのほかの脳神経障害で発症することがある(5%未満)。

・回復: 通常症状の進行が停止した後、2~4週で回復し始めるが、回復が数か月遅れることもある。多くの患者は機能的に回復する。

・自律神経機能障害: 頻脈やその他の不整脈、起立性低血圧、高血圧、血管運動症状の出現は診断を支持する。これらの所見は変動することがあり、肺梗塞などの他の原因を除外する必要がある。

・神経症状の発症時に発熱がない。

(非定形例:順不同)

・神経症状の発症時に発熱を認める。

・痛みを伴う高度の感覚障害。

・4週を超えて進行。ときに4週以上数週にわたり進行、軽度の再燃が起こる。

・症状の進行が停止しても回復を伴わない。または、永続的な重度の後遺症を残す。

・括約筋機能: 通常、括約筋機能は障害されないが、症状の進展中に一過性膀胱麻痺が生じることがある。

・中枢神経障害: 末梢神経の病気と通常考えられているため、中枢神経障害の合併に関しては議論が多い。小脳性と考えられる強い運動失調、構語障害、伸展性足底反射、境界不明瞭な感覚レベルなどの存在がときにみられるが、ほかの所見が典型的なら診断を除外する必要はない。

B. 診断を強く支持する髄液所見

・髄液蛋白:発症から1週を過ぎて髄液蛋白が上昇しているか、経時的な腰椎穿刺で髄液蛋白の上昇が見られる。

・髄液細胞:10/mm3以下の単核白血球。

(亜型)

・発症後1~10週の期間で髄液蛋白が上昇しない(まれ)。
・髄液細胞数が11~50/mm3の単核白血球。

C. 診断を強く支持する電気生理学的所見

 約80%の症例は経過中のある時点で、神経伝導速度の低下または神経伝導ブロックの所見を示す。伝導速度は通常正常の60%以下であるが、病変は散在性であり、すべての神経が侵されるわけではない。遠位潜時は正常の3倍まで延長していることがある。F波の反応はしばしば神経幹の近位部や神経根の伝導速度低下の良い指標となる。20%未満の患者は伝導速度検査が正常である。伝導速度検査は発症数週間までは異常とならないことがある。

診断に疑いを持たせる特徴


・高度で持続性の非対称性の筋力低下
・持続性の膀胱直腸障害
・発症時の膀胱直腸障害
・髄液中の単核球が50/mm3以上
・髄液中の多核球の存在
・明瞭な感覚障害レベル


除外診断


ヘキサカーボン乱用の現病歴(揮発性溶剤:n-ヘキサン、メチルn-ブチルケトンなど)。塗装用ラッカー蒸気や接着剤を吸入して遊ぶことを含む。
急性間欠性ポルフィリン症を示唆するポルフィリン代謝異常、尿中へのポルフォビリノーゲンやδ-アミノレブリン酸の排泄増加が見られる。
最近の咽頭または創傷へのジフテリア感染の既往または所見:心筋炎はあってもなくてもよい。
鉛ニューロパチーに合致する臨床所見(明らかな下垂手を伴った上肢の筋力低下、非対称性のことがある)および鉛中毒の証拠。
純粋な感覚神経障害のみの臨床像。
ポリオ、ボツリヌス中毒、ヒステリー性麻痺、中毒性ニューロパチー(例:ニトロフラントイン、ダプソン、有機リン化合物)など。

治療

 GBSの治療として有効性が確立されているのは、免疫グロブリン静注療法(intravenous immunoglobulin:IVIg)と単純血漿交換(plasma exchange:PE)であり、同等の効果を有する。IVIgはヒト免疫グロブリン400mg/kg/dayを連日5日間投与する方法であり、簡便性と安全性の面で優れる。ただし免疫グロブリン製剤に対する過敏症の既往者には禁忌であり、IgA欠損症、腎機能障害、脳・心血管障害またはその既往のある患者、血栓・塞栓症の危険性の高い患者の場合では慎重投与のため、状況に応じてPEを考慮する必要がある。

 合併症に対する全身管理も必要である。特に、呼吸不全・不整脈など呈することもあり、呼吸・心電図モニターなどを装着して注意する。また嚥下障害による誤嚥にも注意し、症状があるようならば経管栄養も考慮する。発症初期や回復期に大腿部・腰背部を訴えることがあり、鎮痛剤を適宜使用する。長期臥床に伴う深部静脈血栓症予防に弾性ストッキングなどを装着させることもある。また病初期から関節拘縮・筋萎縮予防を意識し、病状に応じた適切なリハビリテーションが必要である。

 再燃・再発時には、初回治療にかかわらず再度同様の治療を施行することで改善が認められた報告が散見される。再燃を繰り返す際には、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP)が混在している可能性があり注意が必要である。(文献2、3)

予後

 従来、予後は良好で6か月以内に回復するといわれていたが、永島らは、発症後5~65か月(中央26か月)のGBS患者98名のうち、全体の8%の患者が家庭生活で介助を要し、17%が余暇活動の継続を断念し、また就労者は31%が退職を余儀なくされたと報告している。またオランダのBernsenらは、発症3年から6年後のGBS患者150名を対象とし調査したところ、回復良好群(Hughes機能尺度1以下)84名中、半数もの患者が仕事や家庭生活、余暇活動に何らかの支障を訴えていると報告しており、運動機能尺度が回復した場合にも、日常生活に大きな影響が起こりうることを指摘している。

 予後不良因子として、1.高齢者、2.先行感染として下痢症状、3.発症時およびピーク時に高度の麻痺があること(特に人工呼吸を必要とする呼吸筋麻痺)、4.電気生理学的に軸索障害を疑わせる所見を有することがあげられる。(文献4)

最近の動向

 IVIgにメチルプレドニゾロンを併用することにより、独歩可能までの平均期間が短縮するとの報告されており、今後更なる検討が望まれる。(文献5)

参考文献

1) Richard A C Hughes, David R Cornblath. Guillain-Barré syndrome. Lancet 2005; 366:1653-1666.

2) 日本神経治療学会/日本神経免疫学会合同治療ガイドライン(案) pdf

3) ギラン・バレー症候群 リハビリテーション実践マニュアル.Monthly Book Medical Rehabilitation No56. 2005;56:9-37

4) 永島隆秀、西本幸弘、平田幸一ら. Guillain-Barré syndromeの転帰:運動機能評価尺度と生活の変化との対比.臨床神経 2004;44: 50-53.

5) R van Koningsveld, P I M Schmitz, F G A van der Meche, et.al. Effect of methylprednisolone when added to standard treatment with intravenous immunoglobulin for Guillain-Barré syndrome:randomized trial. Lancet 2004; 363:192-196.

以上執筆者:相崎貢一、津留智彦、奥村恵子 国保松戸市立病院 小児医療センター 小児内科

執筆者による推薦図書

1) 加我牧子、佐々木征行、須貝研司 著:小児神経科診断・治療マニュアル改訂第2版,診断と治療社

2) 加我牧子・稲垣真澄 編集、有馬正高 監修:小児神経学,診断と治療社

3) 小牧宏文:小児筋疾患診療ハンドブック,診断と治療社

4) 高橋昭喜 編集:脳MRI 1.正常解剖,秀潤社
 

(MyMedより)推薦図書

1) 鳥取大学医学部脳神経小児科 編集:診療実践 小児神経科―小児神経疾患のプライマリケア,診断と治療社 2008

2) 佐々木 征行 著:小児神経科ケースカンファレンス100―国立精神・神経センター武蔵病院,診断と治療社 2004

3) 鴨下重彦 著:ベッドサイドの小児神経・発達の診かた 改訂3版,南山堂 2009
 

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