肥厚性幽門狭窄症 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.02

肥厚性幽門狭窄症(ひこうせいゆうもんきょうさくしょう)

hypertrophic pyloric stenosis

執筆者: 浜野 志穂

概要

 新生児期から乳児期早期に発症する疾患で、幽門筋肥厚により胃内容の通過障害をきたす。臨床症状として噴水状嘔吐を呈する。頻度は出生1,000人に対し1-2人で男女比は4-5:1、男児では第1子に多い。家族内発症例もみられる。

病因

 病因には神経原説、筋原説、消化管ホルモン説などがある。近年の組織学的検討により、non-adrenergic non-cholinergic neurotransmitterであるnitric oxideの産生低下1)、Cajal cellの減少2)などの幽門筋における神経支配の異常が重要視されている。また内圧検査によって、pylorospasmが特徴的所見であることが明らかにされている3)。

病態生理

 輪状筋を主とした幽門筋肥厚により、幽門管が延長・狭小化し、胃内容の通過障害をきたす。本症の主たる病態は嘔吐に伴う脱水、電解質異常、低栄養である4)。すなわち初期は単なる脱水の病態を呈するが、嘔吐の増強に伴う胃液の排出によりH+、Cl−の消失がいちじるしくなり、血清電解質の変動を生じる。血清Cl値の低下を認め、代謝性アルカローシスを呈する。さらに嘔吐が持続し経口摂取が十分とれない場合は、減少する細胞外液を維持しようと細胞内液が移動し、細胞内脱水の状態となる。また経口摂取不良による栄養状態の悪化は、組織異化作用を生じ、尿中Kが消失する。K消失の程度は嘔吐の量と持続期間、細胞内脱水の程度、低栄養の進行に関連すると考えられる。このように重症例においては、脱水、低Cl血症、低K血症、血清蛋白低下、貧血などを生じる。酸塩基平衡では低Cl性アルカローシスを呈し、代償性にPC02は増加傾向を示す。さらに病態が増悪すると逆にアシドーシスを生じる。

臨床症状

 生後2-3週頃より嘔吐がみられ、徐々に特徴的な噴水状嘔吐となる。嘔吐は非胆汁性嘔吐(胃液、ミルク)であるが、逆流性食道炎を併発しコーヒー残渣様嘔吐を呈することもある。最近は早期受診、早期診断されるようになり、高度な低栄養症例、低Cl血症例は少なくなった。

診断・鑑別診断

 噴水状嘔吐、胃の蠕動亢進等の臨床症状と、オリーブ様腫瘤触知により診断される。触診のこつは胃内容を吸引して安静時に行うことである。心窩部から右上腹部に肥厚した幽門部を硬いオリーブ様腫瘤として触知される。
 腹部超音波検査の特徴は長軸像では幽門が狭小化し、肥厚した幽門輪状筋が前庭部に突出して、子宮頸部様に描出される(ultrasonic cervix sign)(図1)。短軸像では低エコーの肥厚した幽門輪状筋が高エコーの粘膜面を取り囲むように描出される(doughnut sign)(図2)。幽門筋厚4mm以上、幽門管長14mm以上で確診される5)。上部消化管造影検査は現在ではほとんど行われないが、臨床所見と画像所見が一致しないときに行うことがある。造影剤の胃から十二指腸への通過が遅延し、幽門管の延長と狭小化像(string sign)や、幽門が十二指腸へ突出した像(umbrella sign, mushroom sign)が描出される(図3)。

図1


図2



図3

治療

 外科手技と麻酔学の向上に伴い手術が安全に行われるようになり、現在幽門筋切開術が標準術式として行われている。

1)外科的治療

 脱水、電解質異常、代謝性アルカローシスの補正後に手術を行う。5%ブドウ糖液と生理食塩水1:1の混合液にKClを加えKが20mEq/lとなるように矯正し輸液を行う。投与水分量は150-200ml/kg/dayを目安とする。尿量1ml/kg/hr以上、BE2.5mEq/l以下、Cl95mEq/l以上に補正する。
 手術はRamstedtによって確立された粘膜外幽門筋切開術(pyloromyotomy)が行われる6)。上腹部横切開の後、腹膜を縦切開で開腹する。幽門部の無血管野に長軸方向の筋層切開を加え、benson鉗子で粘膜が十分膨隆するまで拡大する。
胃内容排泄障害の改善のポイントは胃側の筋層切開を十分行うことである。十二指腸側は筋層が菲薄化して穿孔を生じやすい(dangerous point)ため慎重に行う。
 外科治療法はその後整容上の観点から皮膚切開法に変化が加わり、臍上部弧状切開法7)などが行われている。近年では腹腔鏡手術(Spread法)8)も試みられている。より安全で簡単、確実な方法を求めて工夫がなされ、Crush法9)、Slice and pull法10)などが考案されたが普及率は低い。

2)保存的治療

 硫酸アトロピンの経口投与や静注療法が有効な症例もみられる。しかし外科的治療に比べて治療期間が長く、治癒率がやや低い点が問題である11)。

予後

 外科手術でも硫酸アトロピン療法においても、いったん治癒すれば再発することはない。発症時の組織学的所見は、数ヶ月後に正常化していると報告されている12)。

参考文献

1) Vanderwinden JM, Mailleux P, Schiffmann SN, et al: Nitric oxide synthase activity in infantile hypertrophic pyrolic stenosis. N Engl J Med 327: 511-515, 1992.
2) Vanderwinden JM, Liu H, De Laet MH, et al: Study of the interstitial cells of Cajar in infantile hypertrophic pyrolic stenosis. Gastroenterology 111: 279-288, 1996.
3) Imura K, Kawahara H, Yagi M, et al: Pyloric motor abnormality in patients with infantile hypertrophic pyrolic stenosis. Pediatr Surg Int 14: 178-181, 1998.
4) 駿河敬次郎: 新生児外科学. 医歯薬出版株式会社: 247-245, 1979
5) 桜井正児, 辻本文雄, 脇坂宗親, 北川博昭: 肥厚性幽門狭窄症における超音波検査. 小児外科39 (6): 652-656, 2007
6) Ramstead C: Zur operation der angeborenen pylorus stenose. Med Klin8: 1702, 1912
7) Tan KC, Bianchi A: Circumumbilical incision for pyloromyotomy. Br J Surg 73: 399, 1986.
8) Alain JL, Grousseau D, Terrier G: Extramucosal pylorotomy by laparoscopy. J Pediatr Surg 26: 1191-1192, 1991.
9) Castanon J, Portilla E, Rpdriguez E, et al: A new technique for laparoscopic repair of hypertrophic pyrolic stenosis. J pediatr Surg 30: 1294-1296, 1995.
10) Rothenberg SS: Laparoscopic pyloromyotomy : The slice and pull technique. Pediatric Endosurg Inn Tech 1: 39-41, 1997.
11) 名木田章, 竹迫倫太郎, 須賀楓介, 長谷井嬢, 大塚亮介, 小坂康子, 坂田理香: 肥厚性幽門狭窄症に対する硫酸アトロピン静注療法. 小児内科 39(6): 870-871, 2007
12) Vanderwinden JM, Liu H, Menu R, et al: The pathology of infantile hypertrophic pyrolic stenosis after healing. J Pediatr Surg 31: 1530-1534, 1996.

(MyMedより)推薦図書

1) 岡田正 著:系統小児外科学,永井書店 2005

2) 小野正恵 著:Primary care note こどもの病気,日本医事新報社 2006

3) 桜井正児 著:小児アトラス (コンパクト超音波αシリーズ),ベクトルコア 2003
 

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