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Adenovirus infection
執筆者: 梶保 祐子
咳嗽・鼻汁等の気道症状(一般の“かぜ”様症状)、結膜炎、胃腸炎などの原因となり多彩な症状を示すウイルス感染症である。
アデノウイルスは、アデノウイルス科に属するDNAウイルスであり、A~Fの群に分類され、更に51種類の血清型が報告されている。その型により感染部位が異なるため、症状と血清型には関連があるとされる(表)。しかし絶対的なものではなく、予想と異なる症状を呈することも少なくない。3, 7型が重症化傾向が強く、特に7型は重症肺炎などの原因となることがある。年間を通じて発症が見られるが、春・夏に比較的多い。乳幼児の上気道炎の5~8%にアデノウイルスが関与するとされる1)。

ウイルスは主に気道・便中に存在し、飛沫感染や糞口感染により広まっていく。潜伏期間は1週間である。扁桃や気道の上皮でウイルスが増殖し扁桃炎や以下の気道症状をきたすことが多いが、腸管内での増殖も見られ、血清型によっては胃腸炎症状を呈する。
咽頭炎から始まり手指を介して結膜炎を続発する場合と、結膜炎から始まる場合がある。39度前後の発熱が3~5日継続し、咽頭痛を伴う。周囲リンパ節炎、肺炎、胃腸炎を伴う場合がある。
耳前リンパ節腫脹を伴う、両眼性の急性濾胞性結膜炎である。5~7日の潜伏期の後、片眼ずつ発症する。細菌性結膜炎と比べ激しい充血、大量の眼脂、流涙、眼瞼腫脹な どが見られる。
発熱と共に白色の滲出物を伴う口蓋扁桃の発赤腫脹が特徴的である。時に咽頭後壁の“いくら様”と称されるリンパ濾胞群が見られる3)。
急性胃腸炎の5%を占めるとされ4)、軽度の下痢・嘔吐・発熱を中心としロタウイルスより持続期間は短い。腸重積・急性虫垂炎の合併に注意する。
男児に多く、急激な排尿痛と肉眼的血尿が特徴的であり、数日から2週間程度持続する。発熱は稀である。腎機能低下は来たさない。
遷延する発熱・咳・呼吸障害、レントゲン上の間質性肺炎像のほか、7型に多く見られる重症化例では、逸脱酵素の急激な上昇、肝脾腫、汎血球減少を含む造血障害、骨髄の血球貪食像等が見られる。また、胸水貯留、ARDSへの進行、ウイルス関連血球貪食症候群(VAHS)、脳炎・脳症やDICの合併例もあり、心肺系の基礎疾患を有する児での死亡率が高く注意が必要である。
稀に心筋炎、脳炎の報告が見られる。免疫不全児の場合には、上記の症状が強く出るため慎重な管理が必要である。
アデノウイルス感染症の一般血液検査では、白血球数やCRP値に代表されるような炎症反応の上昇が見られ、同様の検査値を示す細菌感染症との鑑別が困難である。強い炎症反応の原因として、インターロイキン6、インターフェロンγ等の高サイトカイン血症の関与が推測されている5),6)。実際の現場では迅速抗原キットの開発に伴い、急性期の現場での咽頭ぬぐい液等での診断が可能となった。キットの感度・特異度としても優れている7)が、検体採取時にしっかりぬぐわないと偽陰性となり注意が必要である。より確実な診断としては、咽頭ぬぐい液・結膜擦過液・便のウイルス分離や血清抗体診断があるが、検査に時間がかかり急性期の診断は難しい。
診断には前項のような迅速キット・ウイルス分離・血清抗体診断などの方法がとられる。咽頭炎所見が強い場合には、溶血性連鎖球菌感染症などの細菌性咽頭炎や他のウイルス性疾患との鑑別が必要となる。一般には溶連菌性の場合には咽頭の発赤の程度が強く、舌の白苔、苺舌、発疹を伴うことがある。またEBウイルスによる伝染性単核球症、川崎病なども鑑別が必要になる場合がある。
胃腸炎症状の鑑別には、他のウイルス性胃腸炎・細菌性腸炎に加え、腹痛・嘔吐を伴う腸重積・急性虫垂炎などにも注意が必要である。他のウイルス性胃腸炎との鑑別は症状のみからは困難なことが多いが、治療としては同様に行う。
アデノウイルス感染症に対する特異的治療法はなく、アセトアミノフェン等の解熱鎮痛薬の投与など対症療法が中心となる。ただし有熱期間が長く全身状態が悪化したり脱水の強い例に対しては、補液や入院での十分な経過観察が必要となったり、また炎症反応の高度上昇例については細菌感染の合併を考え抗生剤投与が望ましい場合もある。ただし本症に2次的な細菌感染が生じやすいという事実は無い。重症アデノウイルス感染症の場合ステロイドパルス療法、γグロブリン大量療法が早期に推奨される。
また、咽頭結膜熱は学校保健法で第二種伝染病に指定されており、症状消退後2日を経過するまで出席停止、流行性角結膜炎は第三種伝染病に指定されており、伝染の恐れがなくなるまで(発症後約10日間)出席停止が定められている。
一般的には良好で、7型でも死亡率は改善傾向である8)。重症化した場合に気管支拡張症など後遺症を残す症例がある。
遷延する症状に対し、短期の経口ステロイド療法の効果が経験的に知られていたが9)、近年積極的にステロイド投与を初期から導入し、入院に至る症例の減少が見られたとの報告がある10)。現時点では保険適応外治療であり、今後のevidenceが待たれる。
1) Kenneth M:Adenoviruses:an overview, Nelson Textbook of Pediatrics 17th edition W.B.Saunders Company, Philadelphia, 2004
2) 稲田敏樹:アデノウイルス:小児感染症マニュアル2003-2004, 日本小児感染症学会, 東京医学社, 2003
3) 佐久間孝久:アトラスさくま、メディカル情報センター, 2005
4) LI L, PHAN TG et al:Molecular Epidemiology of Adenovirus Infection among Pediatric Population with Diarrhea in Asia, Microbiol Immunol, vol.49, No.2, 121-128, 2005
5) 高橋 豊ら:アデノウイルス3型感染症における血清サイトカインの検討 日児誌 104 : 730-734, 2000
6) 川崎幸彦ら:アデノウイルス小児呼吸器感染症における臨床像と各種サイトカインの検討 日児誌:1172-1178, 2000
7) 吉村 速ら:アデノウイルス抗原検出キット 小児科 104:1172-1178, 2000
8) 吉光 誠:1995~1996年、広島市で流行したアデノウイルス7型感染症の臨床的検討 小児科臨床52:817, 1999
9) 横田俊一郎:アデノウイルス感染症 小児科診療 63:増刊号144-146, 2002
10) 西村 章:アデノウイルス感染症 臨床とウイルス 34 No.5, 2006
1) 砂川慶介・尾内一信 編集:小児感染症治療ハンドブック,診断と治療社 2008
2) 市川光太郎 著:小児救急のおとし穴 (CBRレジデント・スキルアップシリーズ (1)),シービーアール 2004
3) 国立成育医療研究センター 編集:ナースのための小児感染症―予防と対策,中山書店 2010
4) 小野正恵 著:Primary care note こどもの病気,日本医事新報社 2006
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