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最終更新日:2010.07.26

脊髄腫瘍(せきずいしゅよう)

spinal cord tumor

執筆者: 星地 亜都司

概要

 せぼね(脊椎)の中はトンネル構造になっており、このトンネルは脊柱管と呼ばれる。脊柱管には脊髄があり、脊髄の周辺か脊髄の内部に発生する腫瘍を脊髄腫瘍と総称する。腰椎では脊髄が枝分かれして馬尾神経という多数の神経となる。腰椎の脊柱管内に発生する腫瘍は、馬尾神経腫瘍と呼ばれる。

 脊髄馬尾神経腫瘍のうち、最も頻度が高いものは神経鞘腫であり、2番手は髄膜腫である。この二つとも脊髄の外部に発生する腫瘍であり、基本的には良性の腫瘍であるが、一部悪性の亜型がある。

 これに対し、脊髄の内部に発生する腫瘍があり髄内腫瘍と呼ぶ。髄内腫瘍の代表は星細胞腫、上衣腫、血管芽腫である。血管芽腫は良性腫瘍であるが、星細胞腫、上衣腫の一部には悪性のものがある。そのほか頻度が少ないが、嚢腫性病変といって液体成分を主体とし袋状の膜でつつまれた腫瘍類似疾患がある。

病因

 腫瘍の発生原因は全く不明である。神経線維腫症といって遺伝子変異によって神経系の腫瘍が多発する疾患がある(後述)。

病態生理

 腫瘍の増大速度は不明であるが、ある程度大きくなって脊柱管の中を大きく占拠するようになると、脊髄や馬尾神経を圧迫あるいは刺激するようになり麻痺症状や疼痛をきたすようになる。

臨床症状

自覚症状


 腫瘍の発生部位や大きさによってさまざまな自覚症状が発生する。頸髄が圧迫されると手足のしびれや脱力などの麻痺症状(手の動きが悪くなったり、歩行障害がでたりすること)が発生し、膀胱直腸障害(おしっこが出にくい、回数が多い、できらない、便秘がちになる、など)をきたすこともある。胸髄部発生例では手の症状は起きず下半身の麻痺症状が発生する。腰椎中に発生する馬尾神経腫瘍では、下肢や腰の痺れや痛みが主症状となる。脊髄、馬尾神経腫瘍の特徴のひとつは、力んだり、咳やくしゃみをしたりすることで疼痛が増強することであり、夜間に痛みのため目が覚める、という症状も特徴的である。


他覚症状


 脊髄や馬尾神経が障害されると、障害部位によって四肢や体幹のいづれかの部位の感覚障害や筋力低下をを検出できるようになる。頸椎胸椎内発生例では下肢の腱反射が亢進することが多い。神経学的な診察によって脊髄がどこで障害されているか、どこの画像をオーダーすればよいか、をみきわめるのが専門医の仕事となる。

診断・鑑別診断

 脊髄馬尾神経腫瘍の診断の決め手はMRI検査である(図1)。麻痺や疼痛の範囲などから、頸椎、胸椎、腰椎のいずれかまたは複数の組み合わせで検査範囲をオーダーすることになる。MRI検査によって脊髄腫瘍を発見できれば、診断はほぼ確定するが、症状と無関係な腫瘍がたまたま発見されることも稀にある。その場合、腫瘍が症状発現の犯人なのか、別の神経疾患が共存しているのかどうかを専門医が診断する必要が生じる。画像上で腫瘍発見されても、多数の種類がある腫瘍のどれであるかの最終診断は手術によって摘出した腫瘍細胞の病理診断によらざるを得ない。


(図1)第1−2腰椎部脊柱管内に発生した神経鞘腫のMRI画像

治療

 症状の原因となっている脊髄馬尾神経腫瘍の治療方法は手術が基本となる。脊椎の後方に窓をあけて脊柱管内部にある脊髄と腫瘍をみつけ、顕微鏡視下に丁寧に腫瘍を取り出す。脊髄の内部に発生した腫瘍では、脊髄を切開しないと腫瘍を取り出すことができない。脊髄を切開する手技自体が脊髄に障害を生じさせる原因となりうることが問題である。脊髄の前方に発生した腫瘍では、脊椎の前方を削って大きな窓をあけてから腫瘍を摘出することがある。その場合、けずった部分に骨盤の骨を移植充填する必要が生じる。腫瘍が脊椎の内部のみならず外部にも進展した場合には、脊椎の前方後方の両方から進入する方法をとることがある。

 病理診断によって、悪性の診断がでた場合には、腫瘍の種類によって放射線治療や化学療法(抗がん剤)の併用を検討することになる。

予後

 神経鞘腫や髄膜腫のほとんどは一旦完全摘出できれば再発するリスクは少ない。良性腫瘍であれば生命には大きな影響を生じることはないが悪性であれば脳や脊髄にちらばって多発転移を生じたり、肺などの重要臓器に転移したりして生命予後を悪くするリスクが増える。良性腫瘍であっても腫瘍を完全に摘出できなければ、いづれ腫瘍が再増大して症状の再悪化をまねく可能性が高い。良性腫瘍である神経鞘腫は神経(通常は脊髄の枝である神経根)から発生するため、腫瘍摘出時に発生起源となった神経をやむを得ず切断することが少なくない。切断神経の機能が残っていた場合には、四肢の筋肉の一部に筋力低下が生じたり、感覚障害が発生したりする可能性がある。脊髄腫瘍の手術、とくに髄内発生例の手術の難しさは、腫瘍摘出時に正常な神経細胞へのダメージをいかに最小限に抑えられるか、にある。いかに顕微鏡視下に熟達した専門医が手術を行っても、新たな神経症状が発生するリスクをゼロにはできていないため、術前説明にはその説明が必ず付いてくることとなる。

 術前にあった麻痺やしびれ、痛みがどれほど軽減するかどうかには個人差がある。

神経線維腫症

 タイプ1はvon Reckkinghausen病とも呼ばれてきた疾患であり、皮膚のカフェオレ班、多発する神経線維腫、脳脊髄腫瘍の存在により診断される。第17番染色体上のneurofibrominという遺伝子の変異が原因である。常染色体優性遺伝であるが、突然の発生例もある。タイプ2は両側の聴神経腫瘍が発生する常染色体優性遺伝疾患である。これも原因遺伝子が同定されている。タイプ1,2とも多発する脊髄腫瘍を合併しやすく、タイプ1では悪性化のリスクが高いといわれている。タイプ1,2いづれにも属さないが脊髄腫瘍が多発する症例が存在する。

執筆者による主な図書

1) 星地 亜都司 著:Critical Thinking脊椎外科,三輪書店 2008

2) 中村耕三 監修、星地亜都司・織田弘美・高取吉雄 編集:整形外科手術クルズス,南江堂 2006

(Mymedより)推薦図書

 1) 戸山芳昭 編著:脊椎・脊髄 (最新整形外科学大系),中山書店 2008
 
2) 森岡秀夫 編さん、戸山芳昭 監修、大谷俊郎 監修:骨・軟部腫瘍および骨系統・代謝性疾患 (整形外科専門医になるための診療スタンダード 4),羊土社 2009
 
3) 伊藤彰一 著:神経MRI診断学,シービーアール 初版 2009

免責事項

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ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

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