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最終更新日:2008.11.22

ヒト免疫不全ウイルス感染症(ひとめんえきふぜんういるすかんせんしょう)

Human Immunodeficiency Virus

別名: HIV感染症

執筆者: 佐藤武幸

概要

HIVはHuman immunodeficiency virus(ヒト免疫不全ウイルス)の頭文字を示し、様々な病原体への防御に働く免疫に関わるリンパ球に感染し、徐々に免疫を破綻させるウイルスである。

HIVに感染後10年ほどは無症状で経過し、その後免疫系の破綻が顕在化し種々の感染症により死に至る。症状のない時期はHIV感染と称し、種々の感染症により症状がでる段階からはエイズ(後天性免疫不全症候群、AIDS;Acquired immunodeficiency syndrome)と称される。すなわち、エイズとはHIV感染者が末期となり種々の感染症に罹患した状態を指し、HIV感染には含まれるが、区別されて用いられる用語である。

免疫破綻による感染症の特徴は、正常の免疫能を有する人には発症しにくい病原体を原因とし、これを日和見感染症と称する。近年日和見感染症への治療法の発達、さらにHIVに対する化学療法薬の飛躍的発達により、多くの患者がHIV量の減少(完全な除去はない)と免疫能の回復が得られ、長期生存が可能となってきた。

HIVは主に血液(無処理の血液製剤)、精液、膣分泌液、母乳に存在する。従って現在の主たる感染経路は性交渉であり、日常生活では感染しない。その他の感染経路としては、母子感染、薬物注射、性的虐待などがある。母子感染は母親への抗HIV療法と母乳禁止により児の感染率は著減する。凝固因子製剤は加熱処理などにより現在は感染経路から除かれた。

現在、世界ではアフリカ、アジアを中心に毎年約500万人が新たに感染し、毎年約300万人が死亡し、累積感染者数は6000万人を越えている(表1)。

表1. 世界の推定患者数(2006年12月)WHO

本邦でも感染者数は著増中であり、累積感染者数は14,000人超となっている(血液製剤による感染者を除く(図1)。

しかし、HIVの診断は検査によりはじめて明らかになるため、自身の感染事実を知らない感染者が多く、実数は4万人程度存在すると推定されている。対策が不十分であれば、今後数年毎に倍々に増加する可能性も指摘されている。

感染者には若年者が多く、若年者ほど女性が多い(図2)。その原因としてクラミジア、パピローマウイルスなどの性感染の増加に示される性交渉経験の若年化とコンドームを用いない無防備のセックスがある。現在は潜在化しているHIV感染者の増加を懸念される事態であり、学校、社会を網羅しての性感染症教育などの啓発活動が強く求められる。

2008年3月日本小児科学会の次世代育成プロジェクトチームより性感染症防止に関する提言が示された(日本小児科学会雑誌)。その骨子を表2に示した。他に小児科学会員への提言もあり性感染症への関わりが求められている。小児科医は性感染症に接する機会がほとんど無かったが、性交渉経験者が中学生3年生で5-10%、高校3年生で30-40%、さらに高校生のクラミジア不顕感染者が5-10%との現実を直視すべき時代になっている。

表2. 日本小児科学会次世代育成プロジェクトチームからの提言骨子

病因

HIVはRNAウイルスに属し、自身の有する逆転写酵素によりDNAに逆転写され、宿主細胞の遺伝子に組み込まれ、以後は巧みな発現調節により宿主細胞に自身のウイルスを生産させ続ける。ちなみに通常ではDNAからRNAに転写され、さらに翻訳により蛋白質が生成され生命活動が成される。この様な他のウイルスとは異なる特異な感染様式を示すウイルスはレトロウイルスと称され、他にはヒトでは白血病・悪性リンパ腫の原因となるヒト成人白血病ウイルス(HTLV-1)がある。遺伝子に組み込まれることにより、細胞分裂でも感染は拡大するが、幸い精子・卵子には感染しないので、遺伝的な感染とはならない。

HIVにはHIV-1とHIV-2の2種類がある。HIV-2はアフリカで流行しているが、世界的流行はHIV-1であり、本邦でも極めて稀である。

HIVはアフリカのチンパンジーから何らかの経緯でヒトに伝播したことが確認されている。1981年に特異な病態(若年者のニューモシスチス肺炎)を示す病気として5名のエイズ患者がはじめて報告され、1983年にHIVが分離・同定され、1984年には抗体検査が確立し発病前の感染者の診断が可能となった。この間に加熱処理されない凝固因子製剤により多くの血友病患者に感染が拡大される事実があった。

HIVは外界では非常に弱いウイルスであり、熱・アルコールに弱く、汗などに含まれるRNA分解酵素により容易に不活化され環境からの感染はない。従って、傷口が直接接触する、新鮮な血液が直接に体内に入る(医療従事者の針刺し事故、注射の廻し打ちなど)、または粘膜に触れるなど特殊な場合以外に感染しない。プール・風呂などの共有、蚊を媒介とする感染、食器の共用、軽いキス(粘膜障害のない場合)、タオルの共有など通常の日常生活では感染しない。しかし、カミソリの共有など傷口から直接血液が粘膜に接触する可能性のある行為は避ける必要がある。

病態生理

HIVのライフサイクル

HIVは、主にリンパ球の一部であるCD4陽性Tリンパ球に感染し、免疫系の破綻をきたして、種々の感染症を発症して死にいたる。CD4陽性Tリンパ球には主にヘルパーT細胞と称される免疫の司令塔とも言われるリンパ球が含まれる。他にメモリーT細胞も含まれ、本細胞は年余にわたり生存するため、現状の抗HIV薬で感染を完治するためには、60年必要との説もある。

他の感染細胞としては、マクロファージ・樹状細胞があり、近年特に粘膜からの感染成立に重要な位置をしめることが報告されている。その他腸管内細胞、神経膠細胞があり、それぞれHIVによる直接感染症として下痢、神経症状をきたす。またエイズ患者の約10%に血小板減少症が報告されており、当初は自己免疫機序が推定されていたが、筆者を含む研究により血小板産生の元となる細胞である巨核球への直接感染が証明された(文献6,7)。

感染の第一段階である細胞への侵入には上記CD4抗原にケモカインリセプター(CXCR4、CCR5)が必要とされる。細胞内ではウイルスRNA遺伝子は自身の逆転写酵素によりDNAとなり、宿主細胞のゲノムにプロウイルスとして組み込まれる。その後は細胞分裂により子孫に複製されて、持続感染系となる。プロウイルスは巧みな遺伝子発現により宿主の蛋白合成系を利用して増殖し細胞外へ放出される。HIVの成熟にはプロテアーゼが必要とされる。この過程のどこかを阻害する薬剤がHIV治療薬の候補となるが、現在は逆転写酵素阻害剤とプロテアーゼ阻害剤が治療薬として開発され発売されている。最近はケモカインリセプターを標的とした侵入阻害薬、組み込み阻害薬が次々と開発されつつあり、実用化された薬剤もある(本邦では未だ発売されていない)。

図3. HIVのライフサイクル

感染後の経過

HIVは初感染から種々の日和見感染症を発症するまで通常10数年の経過をとる慢性感染症であり、最終的に後天性免疫不全症候群(AIDS:エイズ)を呈し死に至る。感染後1~2週内に1×106コピー/ml以上のウイルス血症を呈し、約半数に伝染性単核症類似の症状を呈するが、症状に差があり、気付かれない事が多い。その後の経過は個人差があるが、通常10年程の経過を経て徐々にCD4陽性Tリンパ球の減少に代表される免疫不全をきたし、種々の日和見感染症により死にいたるが、それまでのほとんどの期間は無症状であり、検査をしない限り診断されない。リアルタイムPCR法の開発により、HIVウイルス量の定量が可能となり、無症状の期間もHIVは活発に複製されていることが判明した。生体の防御能との攻防がつづき、最後に力尽きCD4陽性Tリンパ球は減少し、HIVウイルスは増加し、日和見感染症の発症に至る。

日和見感染症

正常の免疫能を有する人には発症しにくい病原体を原因とする感染症を日和見感染症と称する。HIV感染症以外に、癌化学療法中の患者、自己免疫疾患・ネフローゼなどでの免疫抑制剤使用者、造血幹細胞移植などの臓器移植患者など先端医療の発達で日和見感染症は増加している。HIV感染症(エイズ)に伴う日和見感染症は多々あり、エイズサーベイランスのためのエイズ指標疾患を表3に示す。悪性新生物として分類されているカポジ肉腫ではHHV-8(ヒトヘルペスウイルス8)が、悪性リンパ腫ではEBウイルスなどが関与している。

表3. AIDS指標疾患

感染源と伝播様式

HIVウイルスは主に血液により感染するが、他に精液、子宮膣分泌液、母乳が感染源となる。唾液、尿などの体液は血液が混入しない限り感染性はない。従って本邦における感染様式は(1)性的接触(膣、ペニス、肛門、口腔)、(2)直接血液を介する感染(針刺し事故、粘膜接触、注射器を用いた薬物使用、稀に輸血など)、(3)母子感染(母乳を含む)に限られている。

現在は原因のほとんどが性的接触である。1回の性交渉による感染率は0.1―1%と推定され、男性から女性への感染率の方が高い。他の性感染症を合併していると感染率は数倍上昇する。肛門性交は粘膜障害が強くMSM(men sexed with men)男性での感染拡大がある。

HIV陽性妊婦より生まれた新生児の感染率は無治療の場合約30%である。母体のHIVウイルス量が重要であり、妊娠中より抗HIV療法を受けウイルス量を減少させる事および母乳栄養の禁止により、現在では数%に低下してきた。帝王切開により感染リスクはさらに減少し、感染リスクは1%程度まで低下可能となってきた。出生後の母乳感染も重要であり、先進国では安全な人工栄養を供給できるが、発展途上国では困難な状況が続いており対策が求められている。輸血については、遺伝子増幅検査による感染ドナーの選別により感染リスクは極めて低くなった。血液製剤についてはドナー選別に加え加熱などによるウイルス不活化処理、さらに遺伝子組み換え製品もあり、現在ではほとんどリスクはなくなった。

臨床症状

急性感染症

初感染後2~4週に発熱、発疹、リンパ節腫張などの急性感染症の症状を聞き取ることができる患者もいる。しかし症状に差があり、気付かれない事が多い。この時期は、HIV量は増加しCD4陽性Tリンパ球数の減少を一時的示すが、以後慢性感染期となる。最近はB型肝炎に伴って発見される感染後間もない例も多くなっている。

慢性感染期

この時期に入るとHIV量は低下し、CD4陽性Tリンパ球数は正常レベルまで上昇する。しかし以後徐々にHIV量は上昇しCD4陽性Tリンパ球数は減少して、最終的に様々な日和見感染症の発症に至るが、その間は全く正常人と同様に健康である。しかしこの時期でもCD4陽性Tリンパ球数が500/μl未満となると(正常値は700-1000/μl)、帯状疱疹が最も高い頻度で認められることがある。その他としてカンジダ口内炎、結核、カポジ肉腫なども認められる。

日和見感染症期

初感染からこの時期までは数年~10数年である。稀に急激な経過を呈する例もある。母子感染では2つのパターンがあり、約20%が急激に発症して4歳頃までに死亡し、他は成人と同様比較的長い経過をとる。

一般的にCD4陽性Tリンパ球数が200/μl未満となると様々な日和見感染症の発症リスクが高くなる。

症状としては、全身性リンパ節腫大、肝脾腫、カンジダ症、下痢、肺炎、中枢神経症状、反復性細菌感染症、網膜炎などがあるが、表3に示される種々の日和見感染症による症状である。この内最も多く認められる典型的症状はニューモシスチス肺炎による労作性呼吸困難であり、通常の抗菌療法で軽快しない肺炎では、エイズに伴う本感染症を疑う必要がある。他には繰り返す帯状疱疹、口腔内カンジダ症、サイトメガロウイルスによる網膜炎などが多く認められる感染症である。

小児に特有な病態としてリンパ性間質性肺臓炎があるが、EBウイルス関連肺臓炎である。

診断・鑑別診断

PA法、EIA法などによる抗体のスクリーニング検査と、ウエスタンブロット法による抗体検査およびPCR法によるHIV定量による確定診断の2種に大別される。

抗体検査はHIV-1とHIV-2を同時に検出可能なキット、10分程度で診断可能な迅速キット、唾液を用いるキット(本邦での発売なし)など、簡便な方法が多数開発されているが、偽陽性の可能性も高く、確定診断には以下のウエスタンブロット法またはHIV量検査が必要である。 自施設での測定が困難な場合は民間検査会社に外注可能である。

ウエスタンブロット法は、種々のウイルス蛋白への抗体を検出するため診断の確度は高く、さらに初感染の判定に有用となる。

HIV量はリアルタイムPCR法により定量される。キット化されており、1~10コピーの検出も可能であるが、高感度法でも50コピー/ml以下は信頼性に欠ける。偽陽性もあり、陽性判定には慎重さが求められる。

ウイルス分離は高価で限られた機関でしか出来ないため、通常診療では行われていない。 P24抗原検法もあるが、PCR法と比べ感度は低く、偽陽性の問題もあり、補助的検査法である。抗体が強陽性にもかかわらず、PCR検査が陰性など、時に診断に苦慮する場合がある。国立感染症研究所エイズ研究センターなどの専門機関へのコンサルトを勧める。

母子感染における検査は母体から抗体が移行しているため、抗体検査は不適となる。通常生後6ヶ月でのPCRが陰性なら感染は除外出来る。最終的に1歳半でPCR法、抗体共に陰性なら確実である。

HIV検査は個人のプライバシーに強く関わる検査であり、必ず本人の同意が必要である。特に未成年者の場合本人の意思確認が重要である。術前検査などで本人の同意なしにルーチンに行われる検査ではない。

治療

近年抗HIV治療成績は飛躍的に向上し、全体として約80%以上の患者で免疫的改善が得られ血中HIVがPCR法にても感度以下となり、慢性感染症としての性格を呈してきた。しかし根治は認められず、抗HIV療法の中断で全員がHIVの再出現と免疫の低下をきたし、治療は生涯つづける必要がある。

治療開始時期

表4に年齢別CD4陽性Tリンパ球および全リンパ球に対する比の正常値と抑制のレベル(中程度低下と高度低下)を示した。小児ではCD4陽性Tリンパ球数の正常値は年齢によって異なり、6歳未満では年齢によるばらつきの少ない全リンパ球に対するCD4陽性Tリンパ球のパーセントが免疫抑制レベルとしてすすめられている。以下は年齢別に開始時期を解説するが、現時点でも確定的なデータはなく、今後も変化していくと思われる。

表4. 年齢別CD4陽性リンパ球(全リンパ球に対する比)の正常値と抑制レベル

12ヶ月未満の治療開始時期

免疫抑制レベルおよび臨床症状に関係なく治療を開始する。しかし現時点では十分なデータはなく、無症状でCD4陽性Tリンパ球パーセントが25%以上ある場合は必ずしも治療しなくてもよいとの意見もある。

12ヶ月以上の治療開始時期

エイズの症状を有する、又はCD4陽性Tリンパ球パーセントが15%未満ではウイルス量に関わらず治療を開始する。しかし、リンパ節腫脹、反復性・持続性の上気道感染・副鼻腔炎・中耳炎、貧血(<8g/dl)、好中球減少(<1000/μl)、血小板減少(<10万/μl)、その他重症感染症の罹患、または中等度免疫低下(CD4パーセントが15-24%)には治療開始を考慮する。臨床症状や免疫異常のない小児でも、ウイルス量が5万~10万コピー/ml以上では治療を考慮される場合もある。無症状でCD4陽性Tリンパ球パーセントが25%以上、且つウイルス量が10万コピー/ml未満の時は、治療を延期するとの意見は多い。

思春期以降の治療開始時期

CD4陽性リンパ球値が最も重要な基準と考えられ、現在は350/μl以下となったら治療を考慮し、200/μl未満とならないうちに治療を開始する。

治療

治療薬

現在本邦で発売されている抗HIV薬の一覧を表5に示した。この内基本的に3剤を組み合わせたhighly active anti-retroviral therapy(HAART:ハート)がすすめられている。

以前は、1日3回服用、食事との関係(食後服用・食間服用など)、服用量が多いなど、長期継続服用のアドヒアランスが悪かったが、最近は1日1回服用、食事と無関係、複数薬の合剤、服用量の減少などが進み、現在では1日1回4錠(カプセル)のみの服用も可能となってきた。詳細は紙面の関係で文献8を参照されたい。

小児の治療も基本的には成人と同様に考えてよい。しかしデータが乏しい点と、小児が服用可能な剤型が乏しいため、成人とは若干異なる。詳細は紙面の関係で文献9を参照されたい。

服薬は中断するとHIV量の増加とCD4陽性Tリンパ球数の減少を来たすため、現状では生涯服用し続ける必要がある。

表5. 日本で承認されている抗HIV薬 

薬剤耐性

HIVは変異のしやすいウイルスであり、数万回の複製に1回は変異を起こす。1個のウイルスは6時間後には100個のウイルスを産生すると言われ、単純計算では1日で108個のウイルスが産生され、それが数万回に1回の変異をきたしたとしても1日で少なくとも103個の変異ウイルスが誕生する事になる。この変異が薬剤関連部位に発生すると、耐性ウイルスへ変異する事になる。ウイルス量を低く保つ事の重要性はここからきている。従って、たとえ短期間であっても服用の中止は耐性ウイルスの出現に繋がる危険を有することになる。

耐性検査には遺伝子型解析(genotypic assay)と表現型解析(phenotypic assay)がある。前者の方が簡便であり、2006年4月より保険収載され、検査会社に依頼可能となった。耐性ウイルスは本邦でも初感染者の約5%に認められるようになり、初回治療前の耐性検査は不可欠である。また治療薬変更時にも薬剤耐性検査が必要となる。詳細は文献を参照されたいが、専門家へのコンサルトも必要であろう。

副作用

抗HIV薬は副作用が強く、専門医との連携の下に処方されねばならない。以下に抗HIV薬に特徴的な副作用を記す。

乳酸アシドーシス:

主な症状は、悪心、嘔吐、腹痛などであり、軽~中等度の肝機能障害を認める。進行すると末梢神経障害が出現し、死に至る事もあり早期発見が重要である。血中乳酸値を測定し、高度の上昇(5mmol/L以上)があれば治療を中止する。

脂質代謝異常:

高コレステロール血症及び高中性脂肪血症として認められる。この結果、動脈硬化を原因とする虚血性心疾患や脳血管障害の増加が危惧される。また糖代謝異常もきたす。

リポアトロフィー:

体脂肪の分布異常を示す病態であり、腹部内蔵脂肪の増加、手足・顔面の皮下脂肪の減少が現れ、まず美容の面で患者の不満を導く。原因は脂肪細胞内のミトコンドリア異常である。最近開発されてきた薬剤の中には、これらのリスクの低い薬剤があり、必要により変更を考慮する。

日和見感染症の治療

日和見感染症は多々あり、本編では割愛する。詳細は文献10,11を参照されたい。

最近の動向

計画的治療中断療法(STI:structured treatment interruptions)はCD4陽性Tリンパ球数が一定数まで低下するまで治療を中止し、以後再開を繰り返す方法である。抗HIV治療を中断しウイルスの増殖を一時的に許し、宿主側の特異的免疫反応を刺激し、かつ長期使用による副作用の軽減にも有用との視点での方法である。大規模な国際共同研究が行われたが、そのプロトコールでは継続群が優れているとの理由で中止となるなど、未だ研究段階である。しかし、精神的理由などで服薬が困難な例など個人レベルでは有用な場合もあり、今後の研究発展を願いたい。

予防

母子感染予防

1990年代前半米国で行われたジドブジンをHIV感染妊婦・新生児に投与する臨床試験により、従来30%程度の母子感染を約1/3に減少させる事が示された。現在推奨されるプロトコールを表6に示し概説する。文献12も参照されたい。

表6. 母子感染予防プロトコール

抗HIV療法

HIVの母子感染時期は子宮内感染が約5%、周産期約10~15%、母乳20%位と推定されている。従って、抗HIV薬は妊娠中期(16週以後)より投与開始し、分娩時はZDVの点滴静注、新生児に対して6週間のZDV投与が推奨されている。妊娠中の抗HIV薬としては、以前はZDV単独であったが、HAARTの登場に伴い3剤による治療が発展してきた。この内、最も多く用いられている組み合わせはZDV+3TC+NFVである。エファビレンツは催奇形性より母体への使用は控えるべきである。母子感染リスクを下げる重要な因子は母体のウイルス量であり、3000コピー/ml以下を目標とする。妊婦に対する抗HIV薬の安全性の詳細は文献12を参照されたい。

抗HIV薬の児への影響は、ミトコンドリア異常症が少ない頻度ながら報告されているが、HIV感染リスクと比較すると予防投薬は有用であり、今後も注意を払いながら経験を積んでいく事になろう。

帝王切開

母子感染予防に最も重要なのは、上記の母親への抗HIV療法であるが、帝王切開によりさらに数%の感染予防効果が報告されており、本邦ではHIV陽性妊婦の出産では一般的となっている。

母乳の中止

母乳中のHIVウイルス量は平均700コピー/mlとの報告もあり、HIV陽性母体の場合は感染予防としては母乳を中止する。

医療従事者のHIV曝露対策

HIV陽性血液による感染リスクは、針刺しなどの経皮的曝露では0.3%程度、粘膜曝露では0.09%程度と報告されている。この感染リスクはB型肝炎ウイルスの約30%、C型肝炎ウイルスの約2%に比べ明らかに低率である。

曝露後予防投薬は、曝露源患者によりリスクが異なり、表7に示すガイドラインがすすめられる。 暴露が軽度であれば2剤の基本処方(逆転写酵素阻害薬)のみ、重度であれば拡大処方としてプロテアーゼ阻害薬を追加した3剤を用いる。プロテアーゼ阻害剤は従来NFVが推奨されていたが、LPV/rが現時点で最も強力な抗HIV活性を有する点より優先処方とされた。予防投与は出来るだけ早く開始すべきであり、数時間以内に開始する。しかし時間に強い根拠はなく、それに固執する必要はない。多少遅れても予防投与を考慮すべきであろう。

曝露源患者が抗HIV療法中であり、それによりコントロールされている場合はガイドラインに沿った薬剤ではなく、原則患者に投与されている薬剤を使用すべきとの考えもある。 耐性ウイルスの暴露の場合を含め予防薬の選択に困った時は専門家にコンサルトする必要があるが、時間を要する場合はとりあえず初回は推奨薬を服用し、いたずらに時間をあけない。

予防内服期間は通常4週間である。その後の観察期間は、6週後、3ヵ月後、6ヵ月後がすすめられているが、12ヵ月後については議論がわかれる。最低でも6ヶ月間の観察は必要である。

予防投薬に関する最終的な判断は、投与の利益と薬剤の副作用を考慮し、専門医のアドバイスの下暴露者が本人の責任で自己決定することになる。

表7-A HIV感染予防投与の推奨基準(針刺し)

表7-B HIV感染予防投与の推奨基準(粘膜汚染)

結語

慢性感染としてのHIV感染

HIV感染症が治療の進歩の結果、HIV慢性感染となり、かつ今後もHIV陽性者の増加が推定される。小児科医が思春期まで対象患者が拡大する中でHIVとは無関係の疾患の罹患も増加すると推定される。HIV陽性者の一般診察については、HB,HCV同様血液以外は感染源とならないとの認識で、差別のない診療を願いたい。自身の患者の中にもHIV陽性者が存在する可能性がある。

性感染症教育-小児科医としての役割

現在HIV感染のほとんどが性交渉によるものである。種々の調査で、中学3年生までに5~10%が、高校3年生までに30~40%が性交渉経験を有する。この内半数以上の人がコンドームを用いる事がなく、今後若年者を中心にHIV感染の拡大が懸念されている。性感染症の一つであるクラミジア感染は無症状の事が多いため特に女性で拡大しており、20~25歳の一般女性の内5~10%は陽性と推察されている。これは無防備な性交渉の実態を示しているのみならず、性感染症による粘膜障害によりHIV感染リスクも増加させ(数倍と言われる)、今後のHIV感染の拡大が危惧される要因である。

ヒトパピローマウイルス感染(子宮頸部がん、陰茎がん、肛門がん)
2008年度のノーベル医学生理学賞に、HIVの発見者と共にヒトパピローマウイルスの発見者が受賞した。本疾患はHIVに匹敵する重要な疾患であり、共に性感染症が主たる原因である。HIVと同時受賞となっただけのインパクトを有する研究であり、本稿でも追加する。
本邦で毎年7000名が子宮頸部がんに罹患し、2500名が死亡している。陰茎がん・肛門がんについての統計は無いが、米国ではそれぞれ子宮頸部がんの10分の1の発症を示した報告もあり、男性にも無縁ではない。
2006年6月米国にてヒトパピローマウイルスワクチンが緊急に認可され、その後2年余の間に世界90ヶ国以上で認可されるに至っている。メルク社(本邦では万有製薬)、グラクソスミスクライン社の2社より発売されているが、本邦では2007年末に申請されているが、未だ認可に至っていない。ヒトパピローマウイルスの内発癌に関与する型は15あるが、その内16・18型の2種を含み、この型については現在の所ほぼ100%発症を予防していると思われる(治験から6年余経過している)。欧米ではこの2種による発癌が80%であるが、本邦では50%程度と推定されており、他の型には無効である(一部他の型への有効性も報告あり)。
主な接種対象者は、性活動が始まる11~13歳であり、将来小児科医の関与が求められる。現状では明らかに有用なワクチンであり、認可の遅れが多数の命に関わる可能性も有する。現在世界の多くは女性を対象としているが、男性への拡大の他に、有効期間、さらに性感染症に関わるワクチンであり保護者の理解も不可欠な問題となる。小児科医は将来本ワクチンに関与することは不可避であり、パピローマウイルス・ワクチンに対する関心を深めていただきたい。

本邦において思春期医療は、内科・小児科の境界領域にあり遅れた分野となっている。性感染症は思春期医療の中でも重要な位置にあり、小児科医の関与を願いたい。日本小児科学会でも学会員を対象に性感染症を含む思春期医学講座を3回開催し、2009年5月には福岡市で4回目の開催が予定されている。機会をみて参加されることを望みたい。
小児科医は日常診療においても性感染症の存在を認識し、適確な診断とカウンセリングを通しての患児らへの予防啓発が求められる時代になったと言える。予防啓発には特に学校現場(特に中学校・高校)での性感染症教育が重要であり、学校医として関わる小児科医は特にこれらの実態に関心を抱く必要があろう。

文献

1) UNAIDS. AIDS Epidemic Update: December 2006.
(http://www.unaids.org/en/より最新版がダウンロード可能)

2) 厚生労働省エイズ動向委員会. 平成19年エイズ発生動向年報.
(http://www.acc.go.jp/mlhw/mhw_survey/mhw_survey.htmより最新版がダウンロード可能)

3) 佐藤武幸: 子どもとHIV. 「子どもの性と心」.小児科臨床60:29-35,2007.

4) 佐藤武幸:ヒト免疫不全ウイルス感染症(HIV感染症)、小児感染症マニュアル2007、日本小児感染症学会(編)、pp461-479、東京医学社、東京、2006.

5) 佐藤武幸:学校,親との連携とプライバシーの確保.「子どものHIV感染症の諸問題」.小児内科37:354-356,2005.

6) Sakaguchi M., Sato T., Groopman JE. : Human immunodeficiency virus infection of megakaryocytic cells. Blood 77 : 481-485, 1991.

7) Sato T., Ota S., Kakuda H.,et al. : Expression of multidrug resistant gene (mdr-1/P-glycoprotein) in a megakaryoblastic cell line, CMK, and its enhancement during megakaryoblastic differentiation. Leuk. Lymph. 18 : 515-520, 1995.

8) DHHS. Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and Adolescents. Department of Health and Human Services (DHHS) Oct 26, 2006. (http://www.aidsinfo.nih.gov/より最新版がダウンロード可能)

9) DHHS. Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Pediatric HIV Infection. Department of Health and Human Services (DHHS) Oct 26, 2006. (http://www.aidsinfo.nih.gov/より最新版がダウンロード可能)

10) CDC. Treating Opportunistic Infections Among HIV-Infected Adults and Adolescents. MMWR 53:1-112, 2004 (http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5315a1.htm)

11) CDC. Treating Opportunistic Infections Among HIV-Exposed and Infected Children. MMWR 53:1-63, 2004 (http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5314a1.htm)

12) DHHS. Recommendation for Use of Antiretroviral Drugs in Pregnant HIV-1-Infected Women for Maternal Health and Interventions to Reduce Perinatal HIV-1 Transmission in the United States.  Department of Health and Human Services (DHHS) Oct 12, 2006. (http://www.aidsinfo.nih.gov/より最新版がダウンロード可能)

13) CDC. Updated U.S Public Health Service Guidelines for the Management of Occupational Exposures to HIV and Recommendations for Postexposure Prophylaxis. MMWR 54:1-17,2005

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