急速進行性糸球体腎炎 - MyMed 医療電子教科書

MyMed(マイメド)は、究極の医療電子教科書の作成を通じて、利用者のニーズにあった理想的な医療情報サイトを作ろうというプロジェクトです。

MyMed


このページを印刷
最終更新日:2010.11.18

急速進行性糸球体腎炎(きゅうそくしんこうせいしきゅうたいじんえん)

執筆者: 吉田 雅治

概要

 急速進行性糸球体腎炎(rapidly progressive glomerulonephritis、以下RPGN)はWHOにより、『急性あるいは潜在性に発症する肉眼的血尿、蛋白尿、貧血、急速に進行する腎不全症候群』と定義される。
 RPGNは病理学的には多数の糸球体に細胞性から線維細胞性の半月体の形成を認める半月体形成性壊死性糸球体腎炎(necrotizing crescentic glomerulonephritis)が典型像である。しかし、半月体形成性壊死性糸球体腎炎以外にもRPGNの臨床経過をたどる疾患もあり、前述の定義を満たす、腎炎様の尿所見を伴い、急速な腎機能の悪化により放置すれば末期腎不全まで進行する疾患は臨床的にRPGN症候群として取り扱われる。

①数週から数ヶ月の経過で急速に腎不全が進行する。
②血尿(多くは顕微鏡的血尿、肉眼的血尿も見られる)、蛋白尿、赤血球円柱、顆粒円柱などの腎炎性尿所見を認める。

以上の二項目を満たす症例を臨床的にRPGNと定義する。

疫学

 急速進行性糸球体腎炎は比較的まれな疾患ではあるが、近年患者数の増加が指摘されている。わが国の急速進行性糸球体腎炎による1998年度年間受療患者数1500人から2003年度年間の受療患者数3700人に推計され、約2.5倍に増加している。一方、わが国で急速進行性糸球体腎炎により透析導入となる患者数は1994年の145人から2006年の421人に約2.9倍増加しており、透析導入原疾患の中では、第5位を占めている。
 最も多い病型が、pauci-immune型の一次性半月体形成性糸球体腎炎であり、次いで顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangitis、以下MPA)、ウェゲナー肉芽腫症(Wegener’s Granulomatosis:WG)、グッドパスチャー症候群(抗GBM抗体腎炎を含む)の順であった。男女比は女性が若干多く、65歳以上の高齢での発症例が増加していた。しかし、小児、若年者での発症もある。

病因・病態生理

 我が国のRPGN例で最も多いpauci-immune型半月体形成性糸球体腎炎やMPAでは血清中に抗好中球細胞質抗体(anti neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)がしばしば陽性となることが明らかとなっている。ANCAはエタノール固定したヒト好中球の間接蛍光抗体法によるパターンからcytoplasmic ANCA (以下c-ANCA)とperinuclear ANCA(以下p-ANCA)に分類される。c-ANCAの主な対応抗原はproteinase-3(以下PR3)であるのに対し、p-ANCAの主な標的抗原はMPOであり、PR3-ANCAはWegener肉芽腫症、MPO-ANCAはMPAやpauci-immune型半月体形成性糸球体腎炎でしばしば陽性となる。これらANCA関連のRPGNでは先行感染や何らかの刺激により、MPOやPR3が好中球や単球の表面に発現され、ANCAと反応して、好中球・単球の脱顆粒や活性酸素の放出を来たし、血管内皮細胞を傷害し、糸球体基底膜の破綻から半月体形成をきたすと考えられている。
 RPGN 症例全体の60~70%、MPA, RLVでは80~90%超までもがMPO-ANCA陽性例である。我が国の症例では、ANCA陽性例の中では圧倒的にMPO-ANCA陽性例が多く、欧米と大きく異なっている。この要因については明らかでないが、緯度の差、遺伝的背景、環境因子などが推定されている。

臨床症状

 初発症状は倦怠感、食欲不振、体重減少などの全身性の非特異的症状を認める。腎症状で近年、尿異常、特に血尿を主体とするチャンス尿異常による発見例が著増している。軽微の自覚症状と検尿異常のみでの発見は近年の早期発見例の増加を示唆する。腎外症状の中では、肺病変に関連する症状を持つ症例の増加が特徴としてあげられる。

検査成績

 初診時の検査所見は血清クレアチニンの増加、尿蛋白、赤沈、CRPの上昇、ヘモグロビン濃度の低下がある。血清免疫検査としてC(PR-3)、P(MPO)-ANCA、抗GBM抗体が有用である。腎エコーによる腎のサイズは正常である。
 進行性糸球体腎炎(rapidly progressive glomerulonephritis:RPGN)の臨床経過をとる。
 腎組織の免疫学的病型分類として
①pauci-immune型
②抗糸球体基底膜(glomerular besement membrane:GBM)抗体型
③免疫複合体
の3型に分けられる。
 pauci-immune型では、糸球体への免疫グロブリン沈着が証明されない。この型の80%以上では、図1に示すように血清中にANCA、特にP-ANCA(MPO-ANCA)が検出される。c-ANCA(抗PR-3ANCA)陽性で、上気道や肺に肉芽腫性病変が認められる場合はWegener肉芽腫症と診断される。
 血清中に抗GBM抗体が証明される抗GBM抗体型では、GBMに沿ったIgGの線状の沈着が観察される。腎炎に加えて肺出血を伴う場合は、グッドパスチャー(Goodpasture)症候群に分類される。
 免疫複合体型では、GBMやメサンギウム領域に免疫グロブリンや補体の顆粒状沈着がみられ、抗DNA抗体陽性、血清低補体値があればループス腎炎、リウマチ因子陽性、血清高補体値があればリウマトイド血管炎、クリオグロブリン血症陽性であればクリオグロブリン血管炎、IgA高値であればHenöch-Schönlein紫斑病、IgA腎症がそれぞれ鑑別され、確定診断は腎生検により最終判断される。

図1図1

治療

 RPGNの予後改善には腎機能悪化が軽度な早期に発見し、速やかに治療を開始することが重要である。治療開始には病型診断と重症度の判定のために組織学的検討が必須であり、本疾患が疑われた場合は早急に腎疾患医療専門機関に紹介する。血清学的指標や腎組織学的検討より病型診断を行い、重症度や各種合併症を考慮した治療を行う。通常、メチルプレドニゾロンパルス療法を含めた副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬、抗血小板薬や抗凝固薬、血漿交換療法などを併用した治療が行われる。
 腎不全が進行した場合は、早めに透析療法を開始する。強力な免疫抑制療法施行時の感染症、出血の予防、対処および寛解後の再発を含めた長期経過観察による予後の改善が重要である。
 本疾患の治療方法としては、ANCA陽性RPGN、抗GBM抗体型RPGNなどでは副腎皮質ホルモン製剤と免疫抑制薬、抗血小板薬、抗凝固薬による多剤併用療法が基本となる。MPO-ANCA型RPGN、PR3-ANCA型RPGN、抗GBM抗体型RPGNのそれぞれの病型においての治療法を図2-4に示す。薬物療法に加え、症例に応じ体外血液浄化療法などが行われることがある。
 現時点において、RPGNに対する血漿交換療法については、ループス腎炎に伴うRPGNのみに保険適応があり、その他の病型では、保険適応外である。ステロイドや免疫抑制薬の投与不能な症例や治療抵抗例へ、ANCAの早期除去による腎機能悪化の抑制や多臓器病変の発症予防、進行抑制への効果が期待できるとも考えられるが、今後の検討が必要である。

チャート1

予後

 生命予後、腎予後とも改善がみられ、近年、早期診断・早期治療により6ヶ月生命予後は86.1%まで改善した。6ヶ月腎予後も81.8%まで改善した。病型別ではMPO-ANCA型RPGNの近年の生命予後、腎予後の改善が明らかであるが、他の病型では軽度の改善にとどまる。抗GBM抗体型RPGNでは、生命予後の腎予後は未だきわめて不良である。RPGN患者の死亡原因は55.9%が感染症であり、予防対処が重要である。

最近の動向

 2007年度における診療指針(厚労省進行性腎障害RPGN分科会)

RPGN
の診断指針

 
RPGNの予後改善のためには腎機能障害の軽度な早期にRPGNを疑い、腎生検を含めた病型診断および治療が可能な腎疾患専門医療機関にすみやかに紹介することが重要である。このような趣旨から、「早期発見のためのRPGN診断指針」(表1)および「RPGN確定診断指針」(表2)が作製された。

・RPGN の診療のためには炎症所見を伴い、血尿とタンパク尿、わずかな腎機能の低下があれば、即座に腎疾患専門医療機関へ紹介すべきである。
・RPGNの自覚症状としては、倦怠感(73.6%)。食欲不振(60.2%)、発熱(51.2%)などで、特異的な症状はない。高齢者など全く自覚症状を欠く症例もある。
・ごく早期のRPGNを発見するには腎機能が正常範囲であっても、あらたな腎炎性検尿異常が出現し、明らかに感染症とは異なる炎症所見を伴う場合、あるいは炎症所見が陰性であっても慢性糸球体腎炎による腎機能低下に比べ、腎機能悪化速度が明らかに速い場合や高度の貧血を伴う場合など、臨床経過によりRPGNが疑われる症例については、積極的に腎疾患専門医療機関への紹介を行う必要がある。
・RPGNの原因は、非常に多岐に及ぶ。正確な原疾患の把握、合併症の把握を行うことが重要である。
・特に肺病変の合併は予後とも直結し、十分な注意が必要である。・病型診断には、血清中のミエロペルオキシダーゼ(MPO)-抗好中球細胞質抗体(ANCA)、プロテイナーゼー3(PR3)-ANCA、抗糸球体基底膜抗体などの血清マーカーの測定が有用である。

臨床重症度分類

 臨床所見をスコア化した重症度分類を表3に示す。臨床重症度分類によりRPGN患者の生命予後を予想することが可能(図1)である。

表1表2表1,2
図1図1

治療指針

 ・RPGNの原因は多岐におよび、感染症、悪性腫瘍、薬剤によるものも存在する。このような場合に、本指針における治療は、適応とならず、それぞれの原疾患の治療が行われるべきである。

1)初期治療指針

・病型診断を行い、図2~4に従い治療を行う。

図2図2

図3図3

図4図4

・年齢は暦年齢でなく、実年齢に従うべきで、ここの患者の一般状態、日常活動性などを考慮し、治療のランクを調節する。
・MPO-ANCA型で臨床重症度ⅢまたはⅣの高齢者では、さらに1ランク下げた治療法を行ったほうが生命予後良好な場合がある。
・PR3-ANCA型RPGNではシクロフォスファミドと副腎皮質ステロイド薬の併用療法が治療法として確立している。
・初期治療で疾患のコントロールがついた場合には、8週間以内に経口プロドニゾロン換算量で20mg未満に減量し、維持治療に移行する。
・MPO-ANCA型、PR3―ANCA型RPGNの血漿交換療法(保険未承認)については、高度腎機能障害を伴い、腎生検での半月体の90%以上が細胞性半月体であるなど、急速な腎機能障害が明らかなときに施行すると腎機能回復の可能性が高まるとのヨーロッパの報告があるが、我が国の症例では効果を確認できていない。一般に、肺出血を伴うときには考慮する。

2)維持期の治療(図5)

・ANCAなどの血清マーカーが陰性化後、通常、2年程度は維持期の治療が必要である。・疾患活動性マーカーとしては、CRP、白血球数、血清クレアチニン値、ANCA値、抗GBM抗体価などを用いる。・再発時は初発時と同様の症状を伴うことが多い。・ANCA関連血管炎の再発予防効果はアザチオプリンでもシクロフォスファミドと同程度である。

図5図5

3)免疫抑制薬治療中の注意点

・免疫抑制療法開始後2~4週後には、日和見感染予防にTrimethoprim/ sulfamethoxazole (ST)合剤の投与(保険未承認)を行う。
・抗真菌薬の予防的投与(保険未承認)を行う。
・一部の免疫抑制薬は、発ガンリスクを上げるので、使用は最小限とし、中止後も適宜、ガン合併がないかチェックする。
・結核のスクリーニング検査を行う。
・骨粗鬆症に対する予防を行う。

参考文献

1)吉田雅治:半月体形成性腎炎(急速進行性糸球体腎炎症候群)議事録.腎臓学 木村健二郎編.メディカルレヴュー社,東京,190-195,2004.

2)山縣邦弘:急速進行性糸球体腎炎.腎と透析 61:105-112,2006.

3)吉田雅治:ANCA関連腎症.腎・泌尿器疾患診療マニュアル(五十嵐 隆編),S190-191,2007.

4)吉田雅治:血管炎に関連する急速進行性糸球体腎炎.腎・泌尿器診療マニュアル,五十嵐隆 他編,日本医師会,S194-195,2007.

5)吉田雅治:ANCA関連腎血管炎.腎臓病を外来で診る,林 松彦編,診断と治療社,東京,62-73,2007.

6)吉田雅治:腎炎に伴うAKI:内科,21-25,2008.

7)山縣邦弘:我が国のRPGNの現状.急速進行性糸球体腎炎の診療指針,2007年における改訂,印刷中,日本腎臓学会誌,2008.

執筆者による主な図書

1)吉田雅治:アレルギー性肉芽腫性血管炎,腎血管炎,ループス腎炎他7件(分担執筆),
内科学書 改訂第7版』中山書店,2009

2)吉田雅治:Wegener 肉芽腫症(分担執筆),『血管炎』 朝倉書店,2001

3)吉田雅治:Wegener 肉芽腫症(分担執筆),『今日の治療指針 vol.52』 医学書院,2010

4)吉田雅治:腎血管炎(分担執筆),『内科学 第9版』 朝倉書店,2007

(MyMedより)その他推薦図書

1) 菱田明 著:急性腎不全・AKIを理解する―臨床と基礎研究の最前線,東京医学社 2010

2) 坂井建雄・河原克雅 著:カラー図解 人体の正常構造と機能〈5〉腎・泌尿器,日本医事新報社 1999

3) 日本腎不全看護学会 編集:腎不全看護,医学書院 2009

4) 出浦照國 著:新版 腎不全がわかる本-食事療法で透析を遅らせる,日本評論社 2010

5) 高市憲明 監修:新版 腎臓病 (よくわかる最新医学),主婦の友社; 新版版 2010
 

免責事項

情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

※ この記事に関するご意見をお聞かせください。


このページを印刷

診療科別


※ マイメドでは、疾患項目の追加、および最新情報をお知らせするためにメールマガジンを配信しております。ご希望の方は下記にメールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。
  なお、次の職業の方は、職業をご選択の上、メールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。

メールアドレス: メールアドレス(確認用):
医療関係者の方はご選択ください: