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Acute pancreatitis
執筆者: 鈴木 五三男
膵臓から分泌される消化酵素は正常では膵管を通って十二指腸に排出され、そこでエンテロキナーゼの作用を受けて活性化され食物の消化を行う。何らかの原因で膵臓の中で消化酵素が活性化され膵臓の自己消化が起こることが急性膵炎の本態である。 形態的には浮腫性膵炎と壊死性膵炎に分けられる。浮腫性膵炎は、膵臓の間質の浮腫が主体で膵周囲の軽度の脂肪壊死を伴うもので軽症の場合が多く、膵炎全体の約80%を占める。他方、壊死性膵炎は残りの約20%を占め、膵実質内の出血や壊死に膵内外の広範な脂肪壊死を伴い重症のことが多く、死亡率も約20%から30%と高い。小児では、成人に比較して軽症の急性膵炎が多いとされている。
成人では胆石とアルコールが2大原因であるが、小児では原因は多岐にわたる。膵胆管合流異常や総胆管拡張症などの膵胆管の形態異常・流行性耳下腺炎、マイコプラズマなどの感染症・L-アスパラギナーゼやバルプロ酸などの薬剤・膠原病などの全身疾患・交通事故、虐待などの外傷・遺伝性膵炎などが挙げられる。小児の急性膵炎は軽症の場合が多いが、L‐アスパラギナーゼによる膵炎は重症化することがあり、注意が必要である。
膵臓から分泌されるトリプシノーゲンが膵臓内で活性化されてトリプシンとなり、これが膵臓から分泌される他の消化酵素(キモトリプシノーゲン・プロエラスターゼ・カリクレイノーゲン・プロホスホリパーゼA 2など)を次々と活性化して膵の自己消化が進行する。膵臓内には、防御因子としてPSTI(pancreatic secretory tripsin inhibitor;膵分泌性トリプシンインヒビター)やα1アンチトリプシンがトリプシンの活性を阻止しているが、量的にトリプシンの活性が上回ると膵炎が成立する。 さらに障害された膵局所からTNF-α(tumor necrosis factor-α)、IL-1(interleukin‐1)、IL-6(interleukin‐6)等のサイトカインが産生されてサイトカインネットワークを形成してSIRS(systemic inflammatory responsive syndrome;全身性炎症性反応症候群)に進展し、血管透過性の高度亢進・好中球からの組織障害性メディエータの放出などにより、MOF(multiple organ failure;多臓器不全)の発症へとつながる。
腹痛・嘔吐がほぼ全例に出現する。特に腹痛は必発でかなりの激痛となる。他に、黄疸・発熱・不機嫌・活気低下等が見られる。
上腹部の圧痛が著明で、仰臥位になれず膝胸位(knee‐chest position)をとる。腹痛は背部に放散する場合がある。重症の場合、ショック症状となり、低血圧・呼吸困難・意識障害・出血傾向などが出現する。
血清アミラーゼ・尿アミラーゼの増加が見られる。しかし、アミラーゼは膵以外にも唾液腺・卵管・肝臓・腎臓・肺・小腸・筋肉などからも産生されるので、血清アミラーゼが高くても急性膵炎とは限らない。膵型(P型)アミラーゼが増加していれば膵炎の可能性が高くなる。また、急性膵炎では膵型アミラーゼの腎臓からの排泄が増加するので、ACCR(amylase creatinine clearance ratio;アミラーゼ・クレアチニンクリアランス比)が上昇する。ACCR(%)は(尿中アミラーゼ×血清クレアチニン)÷(血清アミラーゼ×尿中クレアチニン)×100で計算する。正常値は約2から3%であるが、急性膵炎では6~12%と上昇する。 急性膵炎では血清リパーゼの増加も特徴的である。さらに、他の膵外分泌酵素であるトリプシン・エラスターゼ1・膵ホスホリパーゼA2等の血中濃度の上昇も認める。血中PSTI・尿中TAP(trypsinogen activation peptide;トリプシノーゲン活性化ペプチド)も増加する。この二つは膵炎の重症度とよく相関すると言われている。一般生化学ではLDH・BUN・Creatinineの増加、低蛋白血症、低カルシウム血症などが認められる。さらに、CRP上昇、血小板低下などがある。
腹痛・嘔吐があり、血清(膵型)アミラーゼ・尿アミラーゼの上昇を認めれば、急性膵炎と診断してほぼ間違いない。さらに、確定診断と膵炎の重症度の評価を兼ねて画像診断が必要である。腹部超音波検査で膵臓の腫大・辺縁不整を認めることがある。腹部CTで膵臓の腫大から壊死・出血、さらに膵臓周囲の液体貯留・脂肪壊死を認めることがある。腹部エコー・腹部CTで膵臓の腫脹を認めれば、急性膵炎と診断して間違いはない。症状が落ち着いてから、膵胆管系の形態異常の検索目的に、ERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影)・MRCP(核磁気共鳴膵胆管造影)などを行う。
輸液・膵外分泌の抑制・膵酵素阻害剤・疼痛の軽減・抗生物質・特殊療法・外科的処置等を行う。
(1)嘔吐による水分・電解質の喪失、さらに膵周囲への水分の漏出による脱水に対して充分量の輸液を行う。
(2)膵外分泌の抑制の為に絶飲食とする。胃酸分泌は膵外分泌を促進するので胃酸分泌抑制の為にH 2ブロッカーであるガスターを投与(1mg/kg/day、分2静注)する。
(3)膵酵素阻害剤であるFOY(1~2mg/kg/時)・フサン(0.1~0.2mg/kg/時)・ミラクリッド(200~400単位/kg/時)等の持続静脈内投与を行う。
(4)激しい腹痛に対してペンタジン(0.3~0.5mg/kg)と硫酸アトロピン(0.01~0.02mg/kg)を併用投与する。
(5)感染予防目的に抗生物質を投与する。抗生物質は、膵胆管系に移行性が良いスルペラゾン(40~80mg/kg/day、分3)、カルベニン(30~60mg/kg/day分3)が使用される。静脈内投与のみでなくSDD(selective digestive decontamination;選択的消化管除菌)も重症例では考慮する。これは、重症の急性膵炎では腸管粘膜の透過性が亢進して腸内細菌が血行性あるいはリンパ行性に腹腔内および全身に広がる傾向があり(bacterial translocation)、これを抑制する必要がある為である。
(6)重症の急性膵炎の場合、膵臓の組織内の薬剤濃度を上げるために膵酵素阻害剤と抗生物質の動脈内持続注入や、サイトカインや好中球エラスターゼなどのhumoral mediator除去と除水を目的としたCHDF(continuous hemodialfiltration;持続的血液濾過透析)を考慮する。
(7)細菌感染による膵壊死や膵膿瘍を合併した場合、外科的処置が必要となる。
絶飲食と輸液及び保存的治療で軽快する場合が多い。重症の場合は、多臓器不全・DIC・細菌感染症(感染性膵壊死・膵膿瘍・仮性膵のう胞)等の合併症が予後を左右する。
急性膵炎の治療薬としてPAF(platelet activating factor;血小板活性化因子)受容体拮抗剤・somatostatinの合成アナログであるoctreotide・CCK(cholecystokinin)‐A受容体拮抗剤等が臨床検討されている。また、急性膵炎の重症度の判定に血中IL-6の測定が有用であるとの報告がある。
急性膵炎;日本臨床2004Vol.62No.11
1) 急性膵炎診療ガイドライン2010改訂出版委員会 編集:急性膵炎診療ガイドライン〈2010〉,金原出版 2009
2) 白鳥敬子 監修:膵臓の病気がわかる本,法研 2007
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