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最終更新日:2010.02.05

左心低形成症候群(さしんていけいせいしょうこうぐん)

Hypoplastic Left Heart Syndrome

執筆者: 北川哲也

概要

 左心低形成症候群 hypoplastic left heart syndrome (HLHS) は大動脈弁閉鎖または高度狭窄、上行大動脈低形成、および左室の低形成または欠損を伴う症候群である。通常、VSDを伴わない左室は極端に低形成で、VSDを伴う場合には左室は比較的大きく、僧帽弁が正常であれば、2心室修復が可能な場合もある。
 上行大動脈は、大動脈弁閉鎖を伴う場合には極端に狭小で内径1-2 mmのことが多く、大動脈弁狭窄を伴う場合には比較的太い。弓部大動脈も低形成で大動脈弁閉鎖症では80%で大動脈縮窄症がみられる。下行大動脈は通常、正常の大きさで、太い肺動脈幹、動脈管から連続している。HLHSは先天性心疾患の1.4-3.8%を占め、先天性心疾患による新生児死亡の23%を占める疾患である。

病態生理

 大動脈弁閉鎖では体循環の全てを動脈管に依存し、とくに脳循環は大動脈縮窄部と低形成の弓部を経由して、さらに冠循環は狭小な上行大動脈を単冠動脈として逆行性に灌流される。生後の生理的な肺血管抵抗の急激な低下により、肺・体血流比の肺循環へのシフトと動脈管の狭小化が重なって、肺うっ血と臓器循環虚血を来し、重篤なショックとなる。

臨床症状

 多呼吸を伴う呼吸不全症状が生後1〜2時間で出現するが、気付かれるのは24〜48時間後である。通常、チアノーゼは軽度で、生理的な肺血管抵抗の低下とともに動脈管が閉鎖すると急激に状態が悪化し、ductal shockとなり、呼吸不全や代謝性アシドーシスが進行する。稀に、心房間交通が制限されていると肺静脈高血圧となり、肺血流量が制限され強いチアノーゼを呈するが、体循環は保たれるため生後間もない時期のductal shockによる急激な全身状態の悪化は起りにくい。

治療

 前述のように、本症に対する治療は出生後というより出世前の胎児期に開始されるべきである。そうなれば、分娩までの時間的余裕ができ、患児の両親に対するカウンセリングを行い、心理的な側面から援助することも可能となる。

a) 出生後の初期治療

 動脈管の開存を保ち肺循環と体循環のバランスを調節することがキーポイントとなる。動脈管の開存を保つにはprostaglandin E1製剤を投与する。prostaglandin E1-CDを0.1μg/kg/minから投与開始し、心エコー検査で動脈管の開存が確認されれば0.05μg/kg/min で維持する。
 本症では低酸素血症で状態が悪化することは稀で、むしろ高肺血流量のため体血流量が不足し、代謝性アシドーシスを招き悪循環に陥ることがほとんどである。初期治療では高濃度酸素の投与は禁忌であり、通常room air (FiO2=0.21)で管理される。並列循環において、動脈血酸素飽和度75〜80%前後の時が、肺血流量と体血流量がうまくバランスしていると考えられる1)。動脈血炭酸ガス分圧の低下は肺血管抵抗の低下をもたらすため、40 mmHg前後に調節するのが望ましい。動脈血酸素分圧や炭酸ガス分圧を調節するため、呼吸器の吸気回路に窒素ガスや炭酸ガスを混合することも試みられている2)。
 もう一つの注意すべき点は、稀に心房間交通が狭小化し、重篤な低酸素血症を呈することである。このようなときには準緊急的に姑息手術を行うのがよいとされている。

b) 手術
 フォンタン手術を最終目標とする。新生児期は肺組織が未熟で血管抵抗が高いため、この時期には施行できず、新生児期からはじまるフォンタン手術を目的とした姑息手術による段階的治療が必要である。第1期手術であるNorwood手術では、手術後に刻々と変化する肺血管抵抗故に、肺血流路のBlalock-Taussig短絡では体血管抵抗とのバランスが調節しがたく、大動脈拡張期圧ひいては冠動脈血流量が低下し、心筋虚血をきたしてきた3)。Norwood手術では必要最小のBlalock-Taussig短絡で肺血流量を維持し、可及的早期に第2期手術に移行すべきである1-3)。
 近年、右室・肺動脈導管法により、術後急性期の循環動態は飛躍的に改善した4)。また、動脈管にステントを留置し、肺血流量を両側肺動脈絞扼術でコントロールすることにより第1期手術の低侵襲化を図るハイブリッド治療戦略の導入も導入された。これは手術成績の向上のみならず、循環停止を伴った補助循環が及ぼす神経学的合併症を最小限にとどめようとの意図によっている。本邦では、脳分離循環、下半身灌流下のNorwood手術が提唱されている。

予後

 1981年、ボストン小児病院のNorwoodが左心低形成症候群に対する最初の手術成功例を報告した5)。1990年代に第2期手術としての両方向性グレン手術、最終手術としてのフォンタン手術という段階的治療戦略が導入され、そのノウハウが確立されてからは手術成績の向上が顕著である6-9)。

参考文献

1) Kitagawa T, et al. Achieving optimal pulmonary blood flow in the first-stage of palliation in early infancy for complex cardiac defects with hypoplastic left ventricles. Cardiol Young 5(1): 21-27, 1995.

2) Kitaichi T et al: Suitable shunt size for regulation of pulmonary blood flow in a canine model of univentricular parallel circulations. J Thorac Cardiovasc Surg 125(1): 71-78, 2003.

3) Jonas RA. Intermediate procedures after first-stage Norwood operation facilitate subsequent repair. Ann Thorac Surg 52: 696-700, 1991.

4) Sano S, et al. Right ventricle-pulmonary artery shunt in first stage palliation of hypoplastic left heart syndrome. J Thorac Cardiovasc Surg 126: 504-510, 2003.

5) Norwood WI, et al. Experience with operations for hypoplastic left heart syndrome. J Thorac Cardiovasc Surg 82: 511-519, 1981.

6) Norwood WI, et al. Physiologic repair of aortic atresia; hypoplastic left heart syndrome. N Engl J Med 308: 23-26, 1983.

7) Murdison KA, et al. Hypoplastic left heart syndrome: outcome after initial reconstruction and before modified Fontan procedure. Circulation 82 (Suppl IV): IV199-207, 1990.

8) Norwood WI, et al. Fontan procedure for hypoplastic left heart syndrome. Ann Thorac Surg 54: 125-130, 1992.

9) Mosca RS, et al. Hemodynamic characteristics of neonates following first stage palliation for infants with hypoplastic left heart syndrome. Circulation 92(suppl II): 267-271, 1995.

執筆者による主な図書

(1) 高本眞一 監修,角秀秋 編集:『小児心臓外科の要点と盲点』 文光堂
 
(2) 龍野勝彦 他 編著:『心臓血管外科テキスト』 中外医学社

(3) 日本胸部外科学会卒後教育委員会 編著:『胸部外科において何が標準術式となりうるか』 日本胸部外科学会

(4) 寺本滋 他 監修,内田發三 他 編集:『四肢動脈疾患のすべて』 へるす出版
 
(5) 前田肇 監修,今脇節朗 編集代表:『静脈およびリンパ管疾患と外科』 メデイカルトリビューンブックス,日本アクセル・シュプリンガー出版
 

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ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

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