新生児一過性多呼吸 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.18

新生児一過性多呼吸(しんせいじいっかせいたこきゅう)

TTN: Transient Tachypnea of the Newborn

別名: TTN

執筆者: 五石 圭司

概要

 新生児一過性多呼吸(TTN : Transient Tachypnea of the Newborn)は、出生後の肺胞内の肺水の排出・吸収遅延によって発症する、比較的予後良好な新生児呼吸器疾患である。Wet Lung Syndrome[1]などと呼ばれることもある。通常は、生後数日のうちに軽快し、特に後遺障害を残さない。ただし、まれに人工呼吸器管理を要するような重症例が存在することと、気胸や新生児遷延性肺高血圧症などの合併症の発症に注意をする必要がある。

病態生理

 出生前の胎児の肺はⅡ型肺胞上皮細胞から分泌された肺水(lung fluid)で満たされている。この肺水は気道を通じて徐々に羊膜腔へと流出し、羊水の一部を形成する。ちなみに、羊水の大部分は胎児尿であり、肺水とは明らかに性状が異なる(表1)。この肺水の分泌は陣痛発現とともに減少し、産道通過時には胸郭の圧迫によって肺外へ排出されるとともに、出生後肺胞腔に残存した肺水は間質を通じて速やかに吸収される。生後なんらかの原因でこの肺水の吸収が遅れた場合、気管支周囲間質に液体の貯留が起こり、これによる末梢気道系の圧迫により肺胞虚脱や逆に呼気を障害してair trappingの状態となり、呼吸障害を呈するのがTTNである。 肺水の肺外への移行を送らせる原因としては、分娩前の肺水の分泌抑制が起こらない場合(早産児や陣痛発来前の予定帝王切開、頸管無力症などによる急速な分娩の進行)、経膣分娩による児胸腔の圧迫による肺水排出が起こらない場合(帝王切開)、肺水のリンパ管・血管系への吸収が遅れる場合(中心静脈圧の増加を招くような循環系への容量負荷の状態:臍帯クランプが遅れたときや、臍帯のmilkingを行ったとき)、低たんぱく血症や貧血などで血管内の浸透圧が低下した状態などがある。


臨床症状

 生直後から呼吸障害を呈することで発症する。特に多呼吸が目立ち、他の症状は目立たないことが多いが、重症になると陥没呼吸、呻吟、チアノーゼが出現する。通常はself-limitingな疾患で、生後1~3日で臨床症状、X線所見ともに改善する。ただし、気胸、新生児遷延性肺高血圧症といった合併症の発症には注意をしておく必要がある。

検査成績

 胸部単純X線写真では、肺野の含気は比較的良好でやや過膨張所見を呈し、肺門部血管陰影の増強、葉間胸水や葉間浮腫を認める。時に胸水貯留を認めることもある。通常、出生翌日にはX線写真での改善傾向が認められるが、X線写真の所見が正常化するには3~7日程度を要する。血液検査ではTTNに特徴的な異常所見を呈することはないが、重症の場合は進行性の呼吸性アシドーシスを呈することがある。呼吸機能検査では、一回換気量(TV: Tidal Volume)の低下が認められるが、呼吸数が多いため、分時換気量(MV: Minute Volume)はTTNの回復後と比較すると大きい。末梢気道の狭小化のため全肺レジスタンスは上昇し、肺ダイナミックコンプライアンスは低下する。[4]

治療

1)    呼吸管理
 特別な治療を要さない児も多いが、呼吸障害が強い、あるいは酸素化が維持できない場合は、SpO2モニター下に酸素投与(通常はFIO2 40%以下で十分)を行う。酸素投与を行う場合は保育器内、あるいはヘッドボックス内でFIO2をチェックしながら行う。特に早産児の場合の高濃度酸素投与は未熟児網膜症の発症の危険因子となるため、注意が必要である重症例では、呼吸管理(nasal-CPAPやCMV)やサーファクテン投与(後述)を行う。ただしnasal-CPAPの装着やCMV管理は理論的には気胸のリスクが増えるため、その適応には慎重となるべきという意見もある。

2)    栄養・輸液管理
 急性期は軽度の水分制限(50-70ml/kg/day)を行う。呼吸障害症状が軽微な場合は経口哺乳も可能であるが、中等症以上の場合、経口哺乳は誤嚥のリスクもあるため経管栄養の方が望ましい。

3)    その他
 サーファクテン投与:重症TTNの場合は人工肺サーファクタント気管内投与が有効という報告はあるが、健康保険の適応はないので注意を要する。

予後

 通常は生後数日以内に軽快する、予後良好な疾患である。後遺症を残すこともないが、乳幼児期に喘鳴性疾患に罹患するリスクが高い、という報告[6]がある。一方、気胸や新生児遷延性肺高血圧症などの合併症を伴うと予後不良の転帰をたどることもあるため、合併症の発症には注意する必要がある。

参考文献

1.          Slovis, T.L., Congenital and Acquired Lesions(Most Causing Respiratory Distress), in Caffey's Pediatric Diagnostic Imaging 11th edition, Mosby Elsevier.
2.          Field DJ, M.A., Hopkin IE, Madeley RJ., Changing patterns in neonatal respiratory diseases. Pediatr Pulmonol., 1987. 3(4): p. 231-235.
3.          Jeffrey A. Whitsett, W.R.R., Barbara B. Warner, Susan E. Wert, Gloria S. Pryhuber, Acute Respiratory Disorders, in Avery's Neonatology 6th edition, M.D.M. Mhairi G. MacDonald, Mary M.K. Seshia, Editor. 2005, Lippincott Williams & Wilkins. p. 553-577.
4.          Greenough, A., Transient Tachypnea of the Newborn, in Neonatal Respiratory Disorder 2nd edition, A.D.M. Anne Greenough, Editor. 2003, Edward Arnold.
5.          Elliot M. Levine, V.G., John J. Barton, Charles M. Strom, Mode of Delivery and Risk of Respiratory Diseases in Newborns. Obstet Gynecol, 2001. 97: p. 439-442.
6.          Liem JJ, H.S., Ekuma O, Becker AB, Kozyrskyj AL, Transient tachypnea of the newborn may be an early clinical manifestation of wheezing symptoms. J Pediatr, 2007. 151(1): p. 29-33.    

(MyMedより)推薦図書

1) 仁志田 博司 著:新生児学入門,医学書院 2003

2) 山城雄一郎:新小児科学 (Qシリーズ),日本医事新報社 2005

3) 樫山鉄矢・山本むつみ 著:ナースのためのやさしくわかる人工呼吸ケア,ナツメ社 2007
 

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