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執筆者: 横田俊平
【概要】 結核は結核菌による感染症である。かつては猖獗をきわめた感染症であるが、第二次大戦後抗結核薬の開発・導入、結核行政の整備(昭和26年に結核予防法改正)、結核医療費の公費負担、環境衛生の改善などによりわが国における発症数、死亡率は著しく減少した。しかし、わが国の結核の発生率は欧米諸国と比較すると依然高い水準にある。また現在アジア・アフリカ諸国の結核対策はなかなか進展せず、世界では約880万人/年の新規結核発生数がある。そのうち390万人が喀痰塗抹陽性であり、年間約160万人が結核死に至る最大の感染症である(2005年WHO統計)1)。わが国では平成17年から、結核対策の重要な柱であったBCG接種に大きな変更が加えられた。これは結核発生の減少への対応と乳幼児の播種性重症結核の防止を最重点課題とした政策転換である。しかし乳幼児型結核の90%以上は両親と祖父母からの感染であることを考えれば、乳児期のBCG接種の励行と同時に、成人の結核対策こそ小児結核の減少にもっとも効果的な方策であろう。他方、わが国の「結核予防法」は平成19年に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(いわゆる感染症法)」へ合一化された。小児結核の発生数もすでに年間150〜200名程度の希少疾患となり、過去の診断方法では確定するに至らない疾患となった。小児結核症例の減少は診断における「doctor’s delay」の大きな原因となる。小児科医は小児結核の特徴を理解し、つねに「もしや結核では?」という意識をもって診療に臨む態度が求められている。
【結核菌の細菌学的特徴】 結核菌は桿菌で鞭毛、芽胞、莢膜を欠き、グラム染色により細胞内が顆粒状に染色される。しかしアニリン色素には染まりにくく、媒染剤を加えて長時間浸すか加熱によりようやく染色される。いったん染色されると今度は酸やアルコールで脱色されにくく、この性質から「抗酸菌」と呼ばれる。培養下の発育は遅く、小川培地で集落が認められるまでに約1ヶ月かかる。しかし最近は液体培地が普及し約2週間で集落を確認することができるようになった。結核菌は消毒薬に抵抗性で、アルコール、ヨードチンキ、逆性石鹸、ヒビテンなどいずれも無効であるが、紫外線には比較的弱い。乾燥した喀痰中では長く生存して感染源となり得る。
【小児結核の2病型】 小児期の結核は、臨床上0~6歳ころまでにみられる乳幼児型と小学生以降にみられる成人型とに分類できる。
1. 乳幼児型結核 乳幼児型結核は、結核菌に未感作で、結核菌に対する細胞性免疫、遅延型過敏反応が未成立の個体に結核菌感染が起こったものである。一般の感染症と同様に感染即発症し、しかも血行性に結核菌が播種され、粟粒結核、結核性髄膜炎、脳底部膿瘍、脳内血管炎を起こしやすい(一次性結核)。細胞性免疫、遅延型過敏反応が未成立であるため、炎症は組織破壊的には進行しない。したがって病巣中心部に乾酪壊死巣は形成されず、むしろ肺炎像を呈し、また結核腫となる。結果として、結核空洞は形成されず3)、排菌も認めにくい(非空洞形成性結核腫型結核、浸潤型結核)。
2. 成人型結核 これに対し小学生以降に認められる成人型結核は、幼少期に感染した結核菌がマクロファージ内寄生体として存続した後、ストレス、免疫不全状態などを誘因として再び活性化し血行、リンパ行を介して肺内撒布される(二次性結核)。肺内各所で病巣を形成して細胞性免疫、遅延型過敏反応を誘発し、炎症を惹起して肺組織を破壊、炎症巣の中心は液状化して乾酪壊死巣を形成する。ここが結核菌の細胞外増殖の場となり、やがて気管支と交通して壊死組織とともに排菌し、残った組織破壊部位は空洞となる。成人型結核で浸潤型結核、空洞形成型結核などの病型を認める理由である。
【臨床症状と検査所見】 乳幼児型結核は高熱の持続、髄膜炎の発症から発見される例もあるが、家族検診で発見される例が多い。他方、成人型の小児結核では成人例と同様に微熱、咳嗽、だるさ、るい痩を認める。乳幼児型結核は赤沈値など炎症マーカーが陽性(>20 mm/時間)になるのは約40%に過ぎない。また喀痰・胃液から検鏡により結核菌が検出されるのは約10%に過ぎず、胸部X線検査では空洞は描出されない。乳幼児の結核の診断は困難をきわめる。成人型結核にみられる臨床症状は肺病巣における持続的な慢性炎症によるものである。したがって赤沈値に代表される炎症所見は高値陽性となり、持続する炎症を反映して血清IgGは上昇する。また気道粘膜の免疫応答の結果、IgAも高値となり、菌体膜の主成分であるペプチドグリカンは強力なアジバンド作用があるためIgMも高値となる。肺の炎症巣は乾酪壊死を起こし気管支と交通することから、喀痰中には排菌された結核菌が検出され、乾酪壊死部は空洞として残遺する。この空洞は胸部X線検査により明瞭に検出される。
【結核の診断】
1. 結核の発見動機 小児期の結核は、ツベルクリン反応自然陽転、家族検診、学校検診、肺炎・髄膜炎の発症を契機として発見されることが多い。 ツベルクリン反応自然陽転児の診察では、家族歴の聴取が重要である。乳幼児期の結核感染は父母が約80%以上、祖父母が約10%など家族内感染によるものが総計90%以上を占める。また乳児と深い接触歴を有する近隣の排菌者の存在にも注意する。 家族内に結核発症者がでた場合には、保健所より家族検診の依頼を受け子どもの検索を行うことになる。また学校検診でツベルクリン反応発赤径の大きい場合や強陽性例についても検診が依頼される。いずれもツベルクリン反応の結果の判断が重要になる。 検診依頼された乳幼児(とくに2歳以下)が諸検査にて結核が疑われ、とくに発熱や胸部所見のある場合には髄液検査を行うことが必須である。
2. ツベルクリン反応 乳幼児におけるツベルクリン反応結果の判断には注意を要する。発赤長径が大きくとも発症の可能性は低く、また陰性例といっても感染を否定できない。乳幼児では肺結核であっても発赤長径は10~15mmに過ぎないこともあり、また重症結核ではアネルギーを示す場合もある。また感染後ツベルクリン反応が陽性となるのに8~10週間を要するので、この間ツベルクリン反応は陰性である。 BCG接種後にはツベルクリン反応は陽性にでる。したがって発赤径ではなく隆起部分の計測(真の遅延型過敏反応を示す)や、水疱など副反応所見が診断に重要である。
3. クオンテイフェロン®検査 結核の活動性感染を証明する検査法「クオンテイフェロン®検査」が開発され、臨床の場で用いられるようになった4)。これまで結核菌の感染を知る方法はツベルクリン反応が唯一の検査法であったが、BCG接種例でも陽性にでる、既往の感染は証明できるが活動性感染か否かは判断できない、などの問題があった。クオンテイフェロン®検査は末梢血中を流れる結核菌感作リンパ球機能を計測するもので、活動性結核のみを検出できBCG接種の有無は問わない、非結核性抗酸菌症は陰性にでる、などの有利な特徴がある5)。クオンテイフェロン®(CFP-10/ESAT-6)を用い、末梢血をこの合成ペプチドとともに18時間培養する。ついで培養上清を回収して、上清中のインターフェロン-γ量を測定する。陽性は0.35 IU/ml以上、陰性は0.1 IU/ml以下、0.1~0.35 IU/mlは判定保留とする。検査の原理は、末梢血の培養系内にわずかの結核菌抗原の合成ペプチドを加えることにより感作リンパ球が活性化する原理を応用したものである。抗原としてヒト型結核菌の特異アミノ酸配列の合成ペプチド このようにクオンテイフェロン®検査はこれまでのツベルクリン反応に代わる有用な検査であると位置付けられるが6)、1)結核菌の暴露量、暴露期間と陽性率とは関連するか、2)感染からどのくらいの期間を経ると陽性になるのか、3)治療効果の判断に用いることができるか、など未解決の問題も少なくない。しかし少なくとも陽性例は確実に結核を疑えるので、学校や職場などで集団感染について検討する場合にはきわめて有用な検査法といえる7)。
4. 血液検査 乳幼児型結核では20mm以上の赤沈値亢進を認めるのはわずか約40%に過ぎない。また10,000/μL以上の白血球増多を認める例も40%程度である。しかし乳幼児型結核は結核菌の初感染であること、結核菌の菌体には著しいアジバンド活性をもつペプチドグリカンが存在することから、血清総IgM値が高値となる傾向がある。 治療が開始されると薬剤による肝機能障害をしばしば認める。したがって病初期に初期値としてAST、ALT、LDHなどを検討しておく必要がある。
5. 結核菌の検査 空洞形成のない乳幼児型結核では原則的に排菌は少なく、また培養コロニー数は陽性でも全体で1~数個にすぎないことが多い。しかし検体の適切な採取は菌検出率を向上させる上で重要である。小児の喀痰採取はきわめて困難で、たんに「唾液採取」に終わることもしばしばある。このため乳幼児では早朝の胃液を検体として用いることが多い。 検体はZiehl-Neelsen法で染色・鏡検するが、最近ではオーラミン螢光法などで偽陰性を減らす努力も行われている。 喀痰は培養前に、雑菌を排除し抗酸菌のみを選択的に培養しやすくするためにNALC-NaCl法、4% NaCl法などで前処理する。培地はわが国でも小川培地よりは液体培地が繁用されるようになり、Middlebrook-Cohn 7H11寒天培地やSauton液体培地、Middlebrook 7H9液体培地などが使用されている。 結核菌の薬剤感受性試験は検体を前処理後直接接種する直接法と、分離培養した菌株を二次的に用いる間接法とがあるが、現在は後者がほとんどである。 結核菌の遺伝子検査法はその迅速性と正確さから重要な検査法である。ただし感度は培養法とほぼ同一である。難点は死菌中のDNAまで検出することがある。臨床所見や他の検査所見と合わせて判断することが必要である。 DNAプローブとrRNAとのhybridizationを検出し、用意したプレート上の抗酸菌DNAと検体DNAとのhybridizationを検出する方法、抗酸菌に共通の配列についてPCR法で増幅した後、多種の抗酸菌DNAをコートしたプレートでhybridizationする方法などがある。なお薬剤耐性遺伝子を検索する方法も試みられているが、結核菌は耐性機構が複雑であるため実用化されていない。
6. 画像診断 成人では胸部単純X線検査にて空洞を認めると、次に断層撮影を行い病巣の描出を行う。しかし乳幼児型結核は空洞を認めることは少なく、単純X線検査では病巣を検出するのは困難である。現時点では胸部CTスキャンを乳幼児型結核の診断手技と考えてよい8)。なお胸部CTスキャンを実施するときには造影も同時に行うべきで、肺門リンパ節の位置判断が容易になる。
【治療】
1. 抗結核薬 初期結核では排菌者は、結核性髄膜炎、胸膜炎、粟粒結核などの重症結核と同様に入院処置をとるが、約1ヶ月程度で菌陰性となれば幼稚園や学校での集団生活に戻してよい。入院はできるだけ短期間とする。菌陰性者では強い活動制限を行うことなく外来での定期検診と抗結核剤治療で十分である。ツベルクリン反応自然陽転者は十分な検索の結果異常を検出できなかった場合には、水泳も含め運動制限の必要はない。 小児例に用いる抗結核薬にはイソジアニド(INH)、リファンピシン(RFP)、ストレプトマイシン(SM)またはエタンブトール(EB)が基本となり、重症結核ではピラジナミド(PZA)を重ねる。この際、EBはSM筋注が困難な例、2ヶ月間のSM筋注終了後さらに維持が必要な例などに用いる。 治療の原則は治療初期から多剤併用短期療法を行い、成人ではWHOの推奨により早期四剤併用療法(INH, RFP, PZA, SMまたはEB)が用いられ、小児でも結核性髄膜炎、粟粒結核などの重症例では原則として四剤併用療法とする。抗結核薬の副作用は、EBでは眼科的合併症、SMでは聴力障害、PZAは高尿酸血症、肝障害、胃腸障害、INH、RFPでは肝障害などを認める。
2. 各病型に対する治療 中学生以上は「成人型結核」であり、成人の治療方式に準じて早期四剤併用治療を行う。小学生は症例ごとに家族歴、環境、炎症所見などいろいろな要因を考慮して治療方針を決める。
1) 予防内服 排菌者と接触歴のあるツベルクリン反応陽性の乳幼児は血液、胸部単純X線検査の検索を行い、最終的に胸部CTスキャンで異常を認めた場合には初感染結核と同様の治療を行う。異常を認めなかった場合、BCG接種済みでも予防内服(INH 10~15mg/kg/日、6ヶ月)を行いながら経過観察する。排菌者との接触歴がありツベルクリン反応陰性の場合は行政的には予防投薬の対象とならないが、注意深い観察が必要で8~10週後に再びツベルクリン反応を行う。いずれの場合でもクオンテイフェロン®検査を行い、陽性例にはツベルクリン反応の結果にかかわらず予防内服、または実際の治療を実施する。
2) 初感染結核(肺門リンパ節結核、結核腫) INH+RFP二者併用を6~9ヶ月行い、INHはさらに単独3ヶ月維持する。終了後は3、6、12ヶ月後に検査、観察を繰り返す。クオンテイフェロン®検査は、治療経過に伴い検査値が低下することから、経過観察に用いる意義がある。
3) 肺結核(浸潤性病変、成人型結核) 基礎的治療としてINH+RFP二者併用を6ヶ月(実際にはINHはさらに単独3ヶ月維持することが多い)行い、病変の広がりに応じてSM筋注を初期2ヶ月連日加える。年齢によっては成人プロトコールに準じてEB(SMの代用)、PZAを加えた四者併用療法を行う。
4) 重症結核(結核性胸膜炎、結核性髄膜炎、粟粒結核、腸結核) 早期治療が重要でINH+RFP+SM+PZA(またはEB)の四者併用療法を行う。結核性胸膜炎では側彎症を併発するので早期リハビリテーションに留意する。髄膜炎では脳底部膿瘍に注意が必要であるが、ステロイド薬を使用するかどうかは議論のあるところである。
【小児結核の予防】
1. 排菌成人の徹底的治療 国際的にみた対結核戦略は、感染源としての塗抹陽性者(排菌者)を治癒させることを最優先課題とし、初期強化療法期間中は排菌者を直接監視下において標準化された短期多剤併用化学療法を実施する(Directly Observed Treatment, Short-course; DOTS戦略)。つまり「結核菌の発生源を根絶する対策」で、これにより結核菌の伝播を阻止する。とくに小児結核の約85%を占める乳幼児の結核では、感染源の90%以上は両親、祖父母などである。成人の結核対策が十分に機能すれば発生数の減少が期待できる。
2. BCG接種10)乳幼児に対するBCGは、メタアナリーシス法、ケースコントロールド・スタデイなどから、きわめて高い結核予防効果があることが証明されている。特に結核性髄膜炎や粟粒結核など重症播種性結核に対しては約85%の効果が示されている。しかし成人型結核に対してはその効果は約50%とされ、BCG効果については疑問視されている。このため、現在では乳児期のBCG接種が唯一の小児の結核予防手段になった。
【結核の法的対応】
平成19年4月1日、これまで感染症法と別に存在した結核予防法が廃止された。結核も、ひとつの感染症として「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(いわゆる感染症法)の「二類感染症(届け出疾患)」に組み入れられた。これによると、「医師の届け出」に関する条項(第12条。旧結核予防法第22条)として、届け出の期限は旧法では2日以内とされていたものが、「直ちに」と変更された。届先は旧法と同じで「最寄りの保健所」である。就業制限については、「知事通知による就業制限義務」が生じる。入院は(第19条・20条)、応急入院として「72時間以内の入院」、本入院として「30日以内の入院」とされている。「医療費公費負担」は、入院処置の場合は「第37条の1」として「勧告入院」(旧法第35条)、外来の場合には「第37条の2」として「一般患者に対する医療」(旧法第34条)となった。感染症の中でも歴史的に法的処置を必要としてきた疾患であり、この考え方は感染症法に中にも引き継がれている。
小児期の結核は決して過去の疾患ではない。周産期施設で、出産した母親が結核と判明し、生まれて間もない新生児らの感染チェックが行われる事態は、毎年どこかの都道府県で起きている。また学校や集団施設で保菌者がみつかり、周囲の感染チェックが必要となる事態にもしばしば遭遇する。子どもの結核の考え方、診断の手順、新しい検査法の手技など、小児科医として習得しておくべき事項に精通しておきたいものである。
1.http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs104/en/indexhtml 2. 横田俊平、他:結核菌感染と生体防御系. 小児内科30:613-618, 1998. 3. 伊部正明、中島章子、宮前多佳子、他. 乳幼児肺結核では、なぜ排菌例が少ないのか. 感染症学雑誌 74:245-249, 2000. 4. Mori T, Sakatani M, Yamagishi F, et al. Specific detection of tuberculosis infection. Am J Respir Crti Care Med. 170:59-64, 2004. 5. Pai M, Riley LW, Colford JM. Interferon-γ assays in the immunodiagnosis of tuberculosis: a systematic review. Lancet Infect Dis 4:761-76, 2004. 6. Brock I, Weldingh K, Lillebaek T, et al. Comparison of tuberculin skin test and new specific blood test in tuberculosis contacts. Am J Respi Crit Care Med 170:65-69, 2004. 7. 黒澤るみ子、森 雅亮、今川智之、他。小児結核における結核菌感染診断用インターフェロン-γ測定試薬QuantiFERON®TB2Gの有用性についての検討。 8. 片倉茂樹、今川智之、伊藤秀一、他. 胸部単純X線写真ではなく、胸部CTスキャンにて診断された小児肺結核症. 感染症学雑誌 73:130-137, 1999. 9. 横田俊平、他:小児結核の最近の話題—BCG接種の評価—. 小児科42:2046-2052, 2001.
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