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カテゴリー: 外科 | 糖尿病・代謝内科 | 代謝(糖尿、肥満など)
執筆者: 塚本和久
通常、低脂血症は総コレステロール120mg/dl未満、中性脂肪値50mg/dl未満、HDLコレステロール値40mg/dl未満を基準とする。低LDLコレステロール血症に関しては明らかな基準の定義はないが、ゆるい基準では80mg/dl未満、厳しい基準では25mg/dl未満とする。
高LDLコレステロール血症は動脈硬化症疾患の危険因子としてその立場が確立されているのに対し、低LDLコレステロール血症は特殊な遺伝的疾患をのぞいては臨床的に大きな意味を有さない場合も多く、またしばしば臨床の場で経験するのは他疾患に合併して認められる低LDLコレステロール血症であり、原疾患の進行度や治療効果評価の指標に用いられる。欧米で行われたMRFITでは血清コレステロール値と総死亡率の関連はU字カーブを描くが、血清コレステロール値と冠動脈疾患は正の相関を有しており、一方低コレステロール血症患者では他疾患(悪性疾患など)に伴う死亡率増加であることが推察されている。また、日本人における前向き研究であるNIPPON DATA 80では、当初5年間は低コレステロール血症と死亡率上昇の相関は認めたものの、以後は肝悪性腫瘍による死亡を除外すると相関関係は消失したこと、またJ-LIT試験においても低コレステロール血症患者で死亡率上昇は認められたものの、悪性疾患による死亡が最も多かったことが知られている。もっとも、一昔前に脳出血がその死因の第一位を占めていた日本においては、動物性タンパク摂取不足に伴う低LDLコレステロール血症と血管の脆弱性が指摘され、最近のデータでも低コレステロール血症と脳出血の関連を示すデータも発表されているが、未だ議論のあるところである。
低LDLコレステロール血症を呈する疾患は、原発性と続発性に分類される。
表1 低LDLコレステロール血症を呈する疾患

MTP(microsomal triglycerides transfer protein)遺伝子異常による。常染色体劣性遺伝疾患である。
MTPは、肝細胞および小腸粘膜細胞において、小胞体で合成されるアポB(B100およびB48)を安定化するとともに、アポBに脂質を転送してリポタンパク形成を行う酵素である。MTPの遺伝子異常によるMTP酵素活性消失は、アポBの不安定化、リポ蛋白形成不全をもたらし、肝臓からのVLDL粒子形成、小腸からのカイロミクロン形成が行われず、著明な低コレステロール血症(低LDLコレステロール血症)・低中性脂肪血症を呈することになる。カイロミクロンは食事由来の脂溶性ビタミンの運搬も行っているため、脂溶性ビタミン吸収障害も生じ、臨床症状のほとんどがこのビタミン不足に基づくものである。
病因が明らかなものは①短縮アポBによるものであり、FHBLの10~30%を占める。それ以外は②第3染色体(3p21.1-22)と関連のあるもの(遺伝子は特定されていない)、③原因不明、がほぼ半数ずつである。常染色体優性遺伝疾患である。
正常アポBにはその分子量の大きさで、B100(肝臓で生成される)とB48(小腸で生成される)が存在する。いずれも同一のmRNAから生成されるが、小腸にはeditingタンパクというmRNAにstop codonをいれる酵素が存在しており、B48というB100の48%の分子量のアポBが生成される。FHBLの病態であるが、以下のように考えるのがわかりやすい(例外もある)。B27.6より小さな異常アポBは、細胞内での安定性が悪く、リポタンパクを形成することができないため、カイロミクロンやVLDLの形成に寄与することができない(ABLと同様である)。一方、アポB100のC末端寄りにLDL受容体結合部位があるが、B-82からB-89の短縮アポBは、そのLDL受容体結合活性が高くなり、血中からのLDLのクリアランスが良好となる。また、中間の大きさの変異体(B-37からB-43)はHDL粒子にも存在し、このリポ蛋白は腎臓での異化が亢進し、血中からの消失速度が正常のアポB100より2~5倍に亢進する。これからわかるとおり、短縮アポBのうち非常に短い変異体のホモ接合体が、ABLと同様の臨床所見をとることが多い。短縮アポB以外の原因によるFHBLの病態生理は不明である。
SARA2遺伝子異常による。非常に稀な疾患であり、常染色体劣性遺伝形式をとると考えられている。
SARA2遺伝子は、カイロミクロンが小胞体からゴルジ体に輸送される際に必要な輸送タンパクSar1(secretion-associated and Ras-related protein)をコードする。それゆえ、AD(CRD)では、小腸粘膜細胞内において、カイロミクロン形成は正常に行われるがゴルジ体にカイロミクロンを輸送することができない。一方、肝臓からのVLDL分泌は行われる。それゆえ、小腸からの脂肪および脂溶性ビタミン吸収障害に基づく症状を呈する。
①膵臓由来消化酵素の分泌低下(慢性膵炎や膵切除、膵癌など)、②胆汁酸の異常の(肝硬変による合成低下、胆道閉塞、回腸切除による腸肝循環不全、blind loopによる胆汁酸脱抱合、など)、③小腸吸収粘膜の障害(小腸広範切除、クローン病、セリアックスプルー病、アミロイドーシスなど)などが原因である。
吸収不良症候群は、3大栄養素(糖質、脂質、蛋白質)、ビタミン、ミネラルなどの吸収障害を生じるが、脂質は水に不溶性であり、最も早期に吸収不良をきたしやすい。
肝臓でのコレステロール新生低下による。
肝細胞はコレステロール新生の中心的臓器であり、その障害により低LDLコレステロール血症を呈する。一般の肝硬変では病期が進行するにつれて低コレステロール血症となり、血清コレステロール値自体が肝硬変の重症度のマーカーとなる。急性肝炎では一般に高脂血症となるが、劇症肝炎ではコレステロール合成の著明な低下により低コレステロール血症となる。
LDL受容体活性亢進による血中LDL粒子クリアランス亢進による。
肝臓におけるコレステロール新生も亢進するが、LDL受容体を介したLDL異化がLDL新生を上回る。実験動物では胆汁酸を生成しコレステロール排泄に重要な7αヒドロキシラーゼの亢進も報告されている。
原因は不明な場合が多い。提唱されている機序として、①赤血球産生亢進(溶血性貧血)や腫瘍細胞産生(悪性疾患)の際の膜成分としてのコレステロール消費亢進、②貧血における血漿成分増加による相対的なLDLコレステロール値低下、③増殖因子の関与(白血病)、④腫瘍細胞の肝臓への浸潤(悪性リンパ腫など)による直接的あるいはサイトカインを介した間接的肝コレステロール新生低下、などが挙げられる。
悪性疾患などによる。
生下時には異常はない。無βリポ蛋白血症(abetalipoproteinemia:ABL)および家族性低βリポ蛋白血症(familial hypobetalipoproteinemia:FHBL)の一部に、授乳開始と共に脂肪吸収障害による脂肪便・下痢を呈し、発育異常が見られる。小腸上皮細胞内には吸収されずに残った脂肪滴が充満し、十二指腸粘膜は”snow white duodenum”といわれる所見を呈する。末梢細胞へのコレステロール供給が低下するため赤血球は有棘赤血球となる。脂溶性ビタミン欠乏により、思春期までに網膜色素変性症などの眼症状、多彩な神経障害、溶血、出血傾向を示す。また肝臓からのVLDL分泌不全のため、脂肪肝を呈する。このような症状を呈する患者の検査所見の特徴は、血清総コレステロール値は25-45 mg/dlでそのほとんどはHDLコレステロールである。中性脂肪値は10 mg/dl未満であることが多く、アポBは検出感度以下、脂溶性ビタミン(A、E、K)も低値を示す。通常は小児期に発見されるが、稀に成人期になり偶然発見される症例も報告されている。もっとも、FHBLの症例の多くは、低LDLコレステロール血症以外の所見は認めない。Anderson病(AD)/カイロミクロン停滞病(CRD)では小腸に上記と同様の所見が認められる。症状は脂肪吸収障害と脂溶性ビタミン欠乏による脂肪便・下痢・成長障害・神経症状である。肝臓からの分泌は行われるので、LDL-C値の低下は認めるものの消失することはなく、アポBも正常の半分位存在する。
吸収不良症候群ではそれぞれの疾患による症状・所見と共に、共通して脂肪便、下痢、体重減少、るいそうを起こす。適切な栄養補給がなされない場合には、必須脂肪酸欠乏や脂溶性ビタミン不足による症状・検査所見を起こす。糞便中脂肪のズダンⅢ染色法、13C標識中性脂肪を用いた呼気消化吸収試験、膵臓障害によるものでは膵外分泌能試験(PFD試験)、胆汁酸吸収異常では胆汁酸吸収試験、を行うことにより、診断・鑑別が可能である(詳細は、各疾患の項を参照)。それ以外の続発性低コレステロール血症を呈する疾患は、各疾患の項を参照。
ABL、FHBLの一部、AD/CRDは同様の症状を呈するが、FHBLは常染色体優性遺伝であるのに対しABLとAD/CRDは常染色体劣性遺伝疾患であるので、家族調査でFHBLは鑑別が可能である。また、ABLとAD/CRDは、アポB蛋白質の量および分子量の検討、LDL-C値の低下の程度、肝臓の所見、により、鑑別可能である。
続発性低コレステロール血症については、それぞれの原疾患の項参照。
原発性低LDLコレステロール血症で上記の症状・所見を呈する症例に対して、脂溶性ビタミンの補充は必須である。消化器症状に対しては脂肪制限、特に長鎖脂肪酸の制限を行う。中鎖脂肪酸はカイロミクロンに取り込まれずに吸収されるので、乳幼児期はMCTミルク、離乳後は中鎖脂肪酸の投与を行う。また、必須脂肪酸の補充も重要である。未治療では30歳前後までに神経障害によりADLが著明に障害されるケースが多い。なお、FHBLで臨床症状・所見のない症例は発育・発達も正常であり、かつ心血管病の低リスク群であり、予後は通常人よりよいとする報告がある。
吸収不良症候群に対しては、原疾患が薬物などで治療可能な症例においては原疾患の治療を行う。膵臓由来酵素分泌低下症例に対しては消化剤の投与を行う。栄養障害に対しては、MCTの経口投与を考慮する。必須脂肪酸や脂溶性ビタミン欠乏が存在する場合は、脂肪製剤の点滴やビタミンの補給を行うことが必要である。低栄養の患者に対しては、経口・経管栄養を行う。その他の続発性低LDLコレステロール血症を呈する疾患に対しては低LDLコレステロール血症に対する特別な治療は不要であり、各原疾患の治療を行う。予後は原疾患の予後に左右される。
1) 寺本民生 著:コレステロール値が高いと言われたら読む本,小学館 2010
2) 岡本 卓 著:糖尿病最新療法―インスリン注射も食事制限もいらない,角川SSコミュニケーションズ 2009
3) 田中裕幸 著:男女で違う メタボとコレステロールの新常識,廣済堂出版 2008
4) 寺本民生 著・編集:コレステロール 基礎から臨床へ,ライフ・サイエンス出版 2009
5) 井藤英喜 著:ハローキティの早引き糖尿病・代謝・内分泌疾患ハンドブック,ナツメ社 2009
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