低酸素性虚血性脳症 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.26

低酸素性虚血性脳症(ていさんそせいきょけつせいのうしょう)

Hypoxic ischemic encephalopathy HIE

執筆者: 金子 孝之

概要

 低酸素、虚血による脳障害に筋緊張の異常、刺激に対する異常反応、痙攣、意識障害などの神経症状を伴うものを低酸素性虚血性脳症(以下HIE)と言う。

病因

 胎児、新生児に重度の低酸素、脳虚血を来たす疾患は全て原因となりうる。胎児期、出生時、新生児期の原因として以下のものが挙げられる。(1)


病態生理

HIEの血行動態に伴う病態生理


 仮死などの急激な呼吸循環不全の初期には、重要臓器である脳、心臓、副腎への血流を増加させる血流の再配分(ダイビング反射)が働く。急激な脳血流の増加により頭蓋内出血、鬱血の原因ともなりうる。この状態が持続すると低酸素血症、高炭酸ガス血症、アシドーシスなどにより自律調節能が消失し、体血圧、心機能の低下とともに脳血流も低下する。虚血性の変化、虚血再還流による障害、児の状態による易障害性、易障害部位などにより多彩な脳障害を呈する。(1)(2)


図1. HIEの血行動態に伴う病態生理

HIEの生化学的病態生理

急激な呼吸循環不全は全身に低酸素血症、高炭酸ガス血症、アシドーシスを引き起こす。低酸素虚血により脳は酸素、グルコース欠乏に陥り、嫌気性代謝の亢進による代謝性アシドーシス、ATP低下によるエネルギー欠乏が生じる。ATPの低下などにより細胞膜イオンポンプの機能が障害を受け、細胞内Ca2+上昇、細胞外K+上昇など電解質異常が生じる。更にグルタミン酸など神経刺激物質(excitotoxin)の上昇、フリーラジカルの上昇などが加わり細胞障害、神経障害が進行する。(1)(2)

図2. HIEの生化学的病態

臨床症状

 新生児仮死などの呼吸循環不全を主体とする病態であり、全身の臓器障害により多彩な臨床症状を呈する。神経症状は脳虚血・低酸素の程度、持続時間、回復状況などの外的要因、児の成熟度、脳の組織代謝、血管分布などの内的要因の組み合わせにより生じる。したがって病因の程度、発生時期により好発部位が異なり、多彩な神経症状を呈する。(3) 更に臨床症状は時間経過とともに変化し、重症度によっても変化する。HIEの臨床症状、重症度の評価法としてSarnatのステージ分類を示す。(4)


表2. SarnatのHIEの臨床症状と重症度分類

検査成績

 全身の虚血、低酸素の結果として組織逸脱酵素(AST、ALT、LDH、CK、NSEなど)の上昇、嫌気性代謝の亢進(代謝性アシドーシス、乳酸値上昇など)、電解質異常(K+上昇、Ca++低下など)、炎症性サイトカインの上昇などの血液、髄液検査異常が認められる。血中乳酸≧10mmol/l、Met-Hb≧2%、尿酸≧10mg/dl、髄液NSE≧40ng/dlなどは予後不良の指標として報告されている。(5)

 HIEの病変診断には画像検査(超音波、CT、MRIなど)、生理学的検査(EEG、VEP、BAEP、SEPなど)が用いられている。画像検査は病変部位の特定に有用であり、特に頭部MRI検査では詳細な脳病変の描出が可能である。近年成人領域で脳梗塞など虚血性病変の超急性期の診断に拡散強調画像(diffusion-weighted image:DWI)が利用され、その有用性から新生児のHIEの診断にも利用されている。(6)(7)

 CT画像: 出生後早期のCT画像。両側脳室の狭小化を認め、脳溝は不明瞭。皮髄境界も不明瞭で脳浮腫の所見を認める。



 MRI(DWI): 出生後早期のDWI画像。後頭葉の広範囲に明るく光るhyper intensity areaを認める。虚血・低酸素により著明な細胞性浮腫を生じた所見と考えられる。



 MRI(T1WI): 数週間後のMRI画像。後頭葉を中心に黒く抜けたlow intensity areaを認める。細胞性壊死の所見と考えられる。



 MRI(T2WI): 数週間後のMRI画像。同部位にhigh intensity areaを認める。同様に細胞性壊死の所見と考えられる。


診断・鑑別診断

 病因となりうる病態の存在、臨床症状、検査成績、画像所見などにより総合的に診断する必要がある。

治療

 HIEの主体は新生児仮死などに伴う呼吸循環不全であり、当然ながら脳だけでなく、心臓、肝臓、腎臓など全身の臓器も障害を受ける。そのためHIEの治療の主体は呼吸循環不全に対する全身管理である。

呼吸管理

 低酸素血症、高炭酸ガス血症を予防するため必要に応じて酸素投与、人工呼吸管理を行う。

循環管理

 心腎機能の保存、血圧の維持のため必要に応じて昇圧剤(ドパミン、ドブタミンなど)投与、volume expander(アルブミン、新鮮凍結血漿、赤血球)投与を行う。脳浮腫の軽減を目的に利尿が確立するまでは投与水分量を制限する。

代謝、電解質の管理

 血液ガス分析、血糖値、電解質をモニターしながら、アシドーシスの補正、血糖の維持、電解質投与などの電解質の補正を行う。

鎮静

 痙攣による脳障害を予防するため必要に応じて抗痙攣剤を投与する。脳保護を目的としたフェノバルビタール投与も行われている。

薬物療法

 フェノバルビタール大量投与、ステロイド投与、硫酸マグネシウム投与、脳浮腫治療(グリセオール、マンニトール投与)などが行われているが、有用性は確立していない。

予後

 HIE患児の15~20%は新生児期に死亡し、生存した患児の30%は脳性麻痺、精神発達遅延、てんかんなどの神経学的後遺症を残すと報告されている。(8) ただし各症例で病態は多彩であり様々な臨床経過をたどる。一般に新生児の脳は成人に比べ低酸素虚血に強く、可塑性、障害からの回復能が高いことが知られており、予後は症例毎に異なると考えられる。

最近の動向

 近年新生児のHIEの治療として脳低温療法が注目されている。脳低温療法は障害を受けた脳を低温に保つことで、脳の酸素・エネルギー消費量の抑制、脳浮腫の軽減、グルタミン酸などexcitotoxinの放出抑制、フリーラジカルの抑制などの脳保護効果が期待される。本邦でもいくつかの施設でhead capを用いた選択的頭部冷却療法などの脳低温療法が施行され、その安全性、有効性が報告されている。(5)

参考文献

1)仁志田博司:低酸素性虚血性脳症,仁志田博司(著):新生児学入門第3版,医学書院,東京,pp350_359、2004

2)Volpe JJ:Neurology of the Newborn,W.B.Saunders,Philadelphia,2000

3) 高島幸男:低酸素性虚血性脳障害,佐藤潔、高島幸男、中野仁雄編:胎児・新生児の神経学,メディカ出版,大阪,p426_440,1993

4)Sarnat HB,Sarnat MS:Neonatal encephalopathy following fetal distress.A clinical and electroencephalic study.Arch Neurol 33:696_705,1976.

5)大野勉:新生児店酸素性虚血性脳症の脳低温療法.小児科,46(3):407_418,2005

6)Dag Y, Firat AK, Karakas HM, et al:Clinical outcomes of neonatal hypoxic ischemic encephalopathy evaluated with diffusion weighted magnetic resonance imaging. Diagn Interv Radiol12:109_14, 2006

7)金子孝之:低酸素性虚血性脳症のdiffusion-weighted MRI所見.周産期医学37(2):161_164,2007

8)Stoll BJ,Kliegman RM.Hypoxia-Ischemia:Behrman RE,Kliegman RM,Jenson HB,eds.Nelson Textbook of Pediatrics.17th ed.Philadelphia:SAUNDERS,566_568,2004

(MyMedより)推薦図書

1) 川原信隆・青木茂樹 著, 前川和彦・中島康雄 監修:臨床研修医のための画像医学教室―脳神経領域,医療科学社 2008.3

2) 甲田英一・伊川廣道・ 山下直哉・他 著, 前川和彦・中島康雄 監修:臨床研修医のための画像医学教室―小児科領域,医療科学社 2009.11

3)  櫛橋民生 著:MRIプロトコール集,医療科学社 2006.06

4) Marjolijn Ketelaar 著, 今川 忠男 翻訳:脳性まひ児と両親のための機能的治療アプローチ,三輪書店 2004.03

5) 杉山登志郎 著:発達障害の子どもたち,講談社 2007.12

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