先天性横隔膜へルニア - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.02

先天性横隔膜へルニア(せんてんせいおうかくまくへるにあ)

congenital diaphragmatic herni

別名: 横隔膜へルニア | CDH

執筆者: 北野 良博

概要

 先天性横隔膜へルニアは、横隔膜の発生異常により生じた欠損孔を通り、腹腔内臓器が胸腔内へと脱出する疾患である。広義の先天性横隔膜ヘルニアには、欠損孔の部位によって名称の異なるBochdalek孔ヘルニア(後外側部)、Morgagniヘルニア(胸骨後部)、食道裂孔ヘルニア(食道裂孔部)、心嚢内ヘルニア(心嚢下部)などが含まれる。しかし、先天性横隔膜ヘルニアと言えば、頻度も重症度も高く、臨床的意義の大きいBochdalek孔ヘルニアのことを指すことが一般的で、本稿でもBochdalek孔ヘルニア(以下、本症)について述べる。

 発生頻度はおよそ2500例に1例である。左右どちらにも起こりえるが、8割が左側である。染色体異常、心大血管奇形、気管・気管支の異常、中枢神経奇形、肺葉外肺分画症、腸回転異常、泌尿生殖器系奇形などを合併することが多く、特に前二者は予後に重大な影響を与える。

病因

 胎生初期(5-10週)の横隔膜形成過程の障害で、横隔膜に様々な大きさの欠損孔が生じることが原因である。動物モデルでは横隔膜発生過程に一過性に出現する、pleuro-peritoneal fold (PPF)の形成異常にまでさかのぼって研究が進んでおり、病因遺伝子の検索がすすめられている。

病態生理

 本症は比較的単純な解剖学的異常であるが、胎児期に腹腔内臓器(肝臓、脾臓、胃、腸管など)が胸腔内に入りこむため、肺が成長する空間が奪われ、肺低形成を合併する。

 肺低形成があると、1)肺のガス交換面積の減少、2)肺血管床の減少、3)肺動脈の過敏性の増加、が絡み合って新生児遷延性肺高血圧(persistent pulmonary hypertension of the newborn; PPHN)に陥る。肺血管抵抗が高いため、全身から帰ってきた酸素濃度の低い血液が肺に流れず、動脈管を通って全身にいく血液(本来は酸素濃度の高い血液)に混ざり、全身にいく血液の酸素濃度が低下し、アシドーシスが進行する。

 肺低形成の程度は、腹腔内臓器が脱出する時期や脱出臓器の量によってさまざまで、その程度によって予後が大きく異なる。臓器脱出の程度が軽い場合や、先天的に横隔膜に孔があっても臓器脱出が出生後に起こった場合には、肺低形成は軽度で手術だけで良好な予後が期待できる。しかし、胎児期早期に大量の腹腔内臓器の脱出が起こると、肺低形成は高度で時には致死的となる。このような症例は出生直後から重篤な呼吸障害を呈し、緻密な呼吸循環管理と手術が必要で、生命的、機能的予後は厳しい。

臨床症状

 本症の発症時期はさまざまである。

 胎児のガス交換は胎盤で行われるため、肺低形成があっても胎児期には無症状である。消化管の通過障害から羊水過多を呈することが多く、胎児診断の契機となる。

 新生児期に発症する場合、症状は重篤な呼吸循環不全である。軽度なものでは、陥没呼吸、頻呼吸、チアノーゼなどであるが、重症例では生直後の蘇生ができないこともある。他覚的には樽状に膨隆した胸郭、凹んだ腹部、心音最強点の偏位、呼吸音の減弱・消失などが観察される。

 稀に年長児になって発症することがある。この場合には肺低形成は病態に関与せず、患側肺の圧迫による呼吸器症状(咳、肺炎、呼吸苦、胸痛、喘息)や、消化管の通過障害による消化器症状(嘔吐、腹痛、食思不振、体重増加不良)が主体である。

検査成績

胎児期:

 本症は、右側で脱出臓器が肝臓のみの場合を除けば、超音波検査で異常を指摘しやすい疾患である。羊水過多をきっかけとすることが多いが、より早期にスクリーニングで指摘されるケースも増えている。さらに胎児MRIを撮影することによって、解剖学的な異常は概ね出生前に診断できるようになった。

生後:

 胸部単純写真で胸腔内に消化管ガスを認めれば診断できる。PPHNの診断は右上肢と下肢の酸素飽和度の乖離で予想されるが、詳細は心エコーで評価する。

治療

胎児期:

 予後予測のために、合併奇形(特に染色体異常、心大血管奇形、中枢神経系奇形)の検索と肺低形成の評価が重要である。胎児の肺機能を直接評価する方法がないため、超音波や胎児MRIで、肝臓や胃の位置、肺の大きさ(lung to head ratio: LHRやL/T比、肺容積)などの形態的評価で代用しているのが実情である。中でも肝臓脱出の有無・程度が予後を推測する上で一番重要であろう。

 基本的に胎児の成熟を待って36週以降に分娩することが望ましいが、そのためには重症例で多い羊水過多の管理が必要である。分娩方法は、世界的には経膣分娩が標準であるが、日本では出生直後から万全の体制で新生児の治療に当たれるよう、帝王切開が選択されることも多い。

 いずれにせよ、CDHの管理に習熟したスタッフが待機する環境での計画分娩が望ましい。計画分娩により、気胸や低酸素・アシドーシスの悪循環を回避可能となったことは出生前診断の大きなメリットである。

生後:

 出生後は集中治療室において呼吸循環管理をおこない、全身状態が安定し、肺動脈のもっとも過敏な時期が過ぎるのを待つ。呼吸循環管理には、重症度に応じて一酸化窒素吸入療法、HFO、カテコラミン、ECMO、サーファクタント補充療法などが適用される。長期的には感染対策や積極的な経管栄養も重要である。

 なかでも本症に対する呼吸管理は、この20年で大きく様変わりした。1980年代にはhyperventilation によって動脈血の二酸化炭素分圧を低く、酸素分圧を高く維持することが本症に対する呼吸管理の原則であった。しかし、hyperventilationの効果は短期的で、長期的には肺へのダメージが強い。

 1980年代以降、人工呼吸に伴う肺損傷に対する認識が広まるにつれて、hyperventilationが本症の隠れた死因であると考えられるようになった。気道内圧をあげず、高二酸化炭素血症を容認することによって、肺損傷を最小限にとどめる呼吸管理が普及するにつれて、以前に比して良好な成績が報告されつつある。

 手術では胸腔内に脱出した臓器を腹腔へ還納して横隔膜の孔を閉鎖する。欠損孔が小さい場合には直接縫合できるが、これができないときにはゴアテックスなどの人工布を縫着することが多い。後者の場合、人工布が成長しないためにヘルニアが再発することが多い。

予後

 新生児の呼吸循環管理が進歩したおかげで、本症の生命予後は改善している。本症全体の救命率は60-70%であるが、肺低形成の程度が症例によって異なるので、単純な比較は難しい。一般的には、肝臓が胸に入り込んでいるもの、妊娠早期から発見されたもの、羊水過多を伴うもの、超音波で計測した肺が小さいものなどが予後不良因子とされている。また、染色体異常や重篤な心奇形を合併している場合も、予後は不良である。胎児診断例では子宮内死亡の可能性が数%程度ある。

 長期的には、軽症例では全く障害が残らない。しかし、最新の治療により救命できるようになった重症例では、慢性呼吸不全、胃食道逆流、成長発達障害、聴力障害、胸郭変形などの後遺症が残ることがある。

最近の動向

 出生前診断の普及により、適切な施設への母体搬送、計画分娩が可能になった。その結果、出生直後から最善の治療を行うことが可能になり、呼吸管理方法の改善とともに治療成績の向上が得られている。

 一方、胎児診断される重症例の中には生存に耐えない高度の肺低形成を認めることがある。このような重症例は従来死産として扱われ、胎児診断と母体搬送なしには医療の対象とならなかった可能性が高い。より重症例を救命できるようになると、難聴や胃食道逆流、成長発達遅滞、ヘルニア再発などの合併症が増えることも事実である。このようなことから本症に対する胎児治療が検討されている。

 本症に対する胎児治療は、米国で1980年代に検討され始め、1990年代に臨床応用された。その歴史的変遷は成書を参照されたいが、子宮を切開して胎児の横隔膜を修復する方法から胎児の気管を閉塞させて胎児肺の成長を促進するという方法に進化してきた。気管を閉塞する手技も、子宮を切開して胎児の気管を剖出後にクリップをかけるという方法から内視鏡手術へとすすみ、最近では開腹せずに子宮に挿入した1本のポートから行う方法が主流になっている。しかし、prospective randomized controlled studyの結果では胎児治療の方が出生後の治療に比べて有効であるとの結果はでていない。出生後の呼吸管理が改善したことによって対照群の生存率が向上したためである。本当に胎児治療を必要とする致死的肺低形成合併例を識別する作業はこれからということになろう。

診断・鑑別診断

胎児期:

 胎児エコーと胎児MRIで診断できる。鑑別診断は、嚢胞状腺腫様奇形などの肺嚢胞性病変、横隔膜弛緩症、奇形腫などである。

生後:

 症状、視診、胸腹単純写真で診断に迷うことは少ない。ただし、年長児発症例では喘息と誤診されていたケースや、胸腔内に脱出した胃のガスを気胸と判断した例など、診断に難渋した報告があるので注意が必要である。

(MyMedより)推薦図書

1) S. ダッタ 編集、Sanjay Datta 原著、竹田省・照井克生 翻訳:ハイリスク妊婦の産科的・麻酔科的管理,シュプリンガージャパン 2008

2) 岡田正 著:系統小児外科学,永井書店 2005

3) 山高篤行・下高原昭廣 編集:小児外科看護の知識と実際 (臨床ナースのためのBasic&Standard),メディカ出版 2010
 

免責事項

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