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late onset circulatory collapse
執筆者: 楠田 聡
晩期循環不全は、2000年以降本邦での報告数が増加した早産児の合併症の一つである。本症は、早産児、特に在胎期間が28週未満の超早産児で、出生直後の循環動態が不安定な時期を過ぎ比較的全身状態が安定した生後7~28日に突然の低血圧発作として発症する。したがって、急性期離脱後循環不全と呼ばれることもある。本症の低血圧は通常のカテコラミンおよび循環血液量補充療法には反応せず、グルココルチコイド投与に反応する。したがって、何らかの機序による副腎皮質機能低下症が疑われているが、その正確な発症メカニズムは不明である。一方、早産児が生後1週以内にグルココルチコイド反応性の低血圧を起こすことは従来から広く知られており、海外かの報告も多い1-6)。しかし、本症とは発症時期が明らかに異なり、両疾患の間にどのような病態の違いがあるかは、現時点では不明である。
現時点では正確な病態が十分に解明されていないため、統一した疾患の定義は存在しない。そこで、本邦で用いられている本症の一般的は診断基準を次に示す(表1)7,8)。早産児が生後7日以降に副腎皮質機能低下を疑わす低血圧、乏尿、低 Na血症、高K血症を示し、通常の治療に反応せず、副腎皮質ホルモンの投与により数時間以内にこれらの症状が全て改善した場合には、本症と診断可能である。低血圧、乏尿、電解質異常の定義は各施設による若干ことなるが、基本的な考え方は同じである。さらに、本症と慢性肺疾患(CLD)の進行との関係が報告されていることから7)、呼吸器症状の悪化を副腎皮質ホルモンの投与の基準に加える施設もある9)。いずれにしても、低血圧、乏尿、低Na血症、高K血症等を呈する早産児の他の疾患、すなわち、敗血症、PDA(動脈管開存症)、脱水等の疾患を必ず除外しておく必要がある。これらの疾患を完全の除外することが可能な場合にのみ診断することが可能となる。
診断基準が一定していないことから、正確な発症頻度は不明であるが、本邦の極低出生体重児の予後調査では、約4%に発症している10)。ただし、施設間の発症頻度の差が大きく、0~40%に分布する。東海地区の多施設共同研究でも全体の頻度は6.9%と報告されているが、同様に施設間の頻度差が報告されている8)。
早産児の視床下部―下垂体―副腎皮質系の機能が未熟なことが発症に関与していることには異論がない。しかし、正確な発症機序に関しては未だに不明である。現在までに行われた検討では、corticotropin releasing hormone (CRH)に対する下垂体の反応の低下、adrenocorticotropic hormoe (ACTH)に対する副腎の反応低下、副腎皮質のコルチゾール産生能の低下、等が報告されている11,12,13)。さらに、発症時のコルチゾール濃度も低下例から正常例まで報告されている9,14)。したがって、単独の原因で起こる疾患であるかどうか、障害部位はどこか、等については今後の検討を待つ必要がある。
出生後の急性期が過ぎ、全身状態が安定した生後7日以降に突然発症する。発症時期の平均はおよそ生後2~3週間と報告されている7,8,15)。主要な症状は、血圧低下に伴う尿量減少、浮腫、体重増加である。さらに、自発運動の低下を認め、明らかに元気がない状態となる。本症と慢性肺疾患 (CLD)の悪化が報告されており、通常は酸素化の低下が認められる7,14)。検査所見としては、胸部X線では血管内脱水による心陰影の狭小化と肺水腫を認める。血液検査所見としては、副腎皮質機能低下に伴う低Na血症、高K血症を認めることもあるが、必発の所見でなない。
本症に特異的な合併症は知られていないが、CLDとの相関が知られている7,14)。また、低血圧性ショックによると考えられるperiventricular leukomalacia(PVL)が後に認められた症例の報告もある16)。
循環不全状態を起こす他の疾患を先ず除外する必要があることから、カテコラミンの投与と容量負荷が行われる。さらに感染症の有無も確認する必要がある。感染症も存在せず、また容量負荷にも反応しない場合には、グルココルチコイドが投与されるが、効果と副作用を考慮するとハイドロコーチゾンの使用がもっとも適切と考えられる。投与量に関してもまだ十分に検討されていないが、ほとんどの症例は補充量であるハイドロコーチゾン1~2mg/kg/dose で効果を示す17)。投与の効果は数時間以内に表れるので、効果を認めない場合には、投与量を3~5倍にするか、他の循環不全の要因を精査する。 一回のグルココルチコイド投与で改善し再発を認めない場合と、繰り返し投与を必要とする症例が存在するが、その差についてはまだ不明である17)。
グルココルチコイド投与の必要性が必ず一過性なので、副腎皮質機能系が成熟すれば問題を認めない。ただし、前述したように低血圧によるPVLを合併すると、神経学的な後遺症を認めることになる。また、早産児に対するグルココルチコイド投与の神経発達に対する長期の影響は現時点では不明である。
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2)Fauser A, Pohlandt F, Bartmann P, Gortner L. Rapid increase of blood pressure in extremely low birth weight infants after a single dose of dexamethasone. Eur J Pediatr 1993;152:354-356.
3) Sasidharan P. Role of corticosteroids in neonatal blood pressure homeostasis. Clin Perinatol 1998;25:723-740.
4) Gaissmaier RE, Pohlandt F. Single-dose dexamethasone treatment of hypotension in preterm infants. J Pediatr 1999;134:701-705.
5) Ng PC, Lam CWK, Fok TF, Lee CH, Ma KC, Chan IHS. Refractory hypotension in preterm infants with adrenocortical insufficiency. Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed 2001;84:F122-124.
6) Seri I, Tan R, Evans J. Cardiovascular effects of hydrocortisone in preterm infants with pressor-resistant hypotension. Pediatrics 2001;107:1070-1074.
7)中西秀彦, 楠田聡, 松波聡子, 郡山健, 江原英治, 金太章. 超早産児における晩期循環不全と慢性肺疾患との関係. 日本未熟児新生児学会雑誌2004;16:43-51
8)小山典久 急性期離脱後循環不全(晩期循環不全)小児科診療 2007;70:664-670
9)増本健一, 楠田聡, 佐久間泉, 小保内俊雅, 細井岳, 福井千佳, 山中聡子, 田村良香, 青柳裕之, 仁志田博司. 母体・胎児・新生児の心肺機能低下時の反応と対応 早産児に生じる晩期循環不全の対応. 周産期学シンポジウム 2006:24:113-116
10)Kusuda S, Fujimura M, Sakuma I, Aotani H, Kabe K, Itani Y, Ichiba H, Matsunami K, Nishida H; Neonatal Research Network, Japan. Morbidity and mortality of infants with very low birth weight in Japan: center variation. Pediatrics 2006;118:e1130-8.
11)Hanna CE, Keith LD, Colasurdo MA, Buffkin DC, Laird MR, Mandel SH, Cook DM, LaFranchi SH, Reynolds JW.
Hypothalamic pituitary adrenal function in the extremely low birth weight infant. J Clin Endocrinol Metab 1993;76:384-7.
12)Ng PC, Lee CH, Lam CW, Ma KC, Fok TF, Chan IH, Wong E. Transient adrenocortical insufficiency of prematurity and systemic hypotension in very low birthweight infants. Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed 2004;89:F119-26.
13)山田恭聖、田中太平、側島久典、村松幹司、横山岳彦、水野春夫、岩佐充二、安藤恒三郎、戸苅 創. 超早産児急性期離脱後の低血圧症における下垂体副腎機能低下. 日本未熟児新生児学会雑誌 2007;17:99-106
14)Watterberg KL, Gerdes JS, Cook KL. Impaired glucocorticoid synthesis in premature infants developing chronic lung disease. Pediatr Res 2001;50:190-195.
15)景山 操 目で見てわかる循環器疾患の基礎知識と管理―晩期循環不全(急性期離脱後循環不全)Neonatal Care 2007;20:772-779
16)中西秀彦、松波聡子、郡山 健、江原英治、金 太章、楠田 聡. 晩期循環不全と出生後発症の脳室周囲白質軟化症(PVL)との関係. 日本未熟児新生児学会雑誌 2005;17:57-67
17)楠田 聡. 早産児に対するステロイドホルモン投与のポイントー周産期救急のコツと落とし穴, 岡村州博 編、中山書店 ,2004、40-41
表1 診断基準 ○ 生後1週以降に、平均血圧35mmHg以下の低血圧、電解質異常(130mEq/L以下の低Na血症、5.5mEq/L以上の高K血症)、尿量減少(時間尿1ml/kg/h以下)15g/kg/日(または1.5%/日)以上の体重増加のうち1つ以上を認め、これらの症状がステロイドホルモン投与により速やかに改善した場合。 (大阪市立総合医療センターの診断基準、文献7) ○ 生後数日以後で呼吸循環動態が落ち着いた時期が存在した後の発症で、明らかな原因がなく、突然血圧低下もしくは尿量の減少のいずれか1つを認め、昇圧治療を要した例。ただし、血圧低下とは、繰り返し測定して血圧がそれまでの約80%未満とする。また、尿量減少とは、8時間の尿量が半量未満、8時間の尿量が 1ml/kg/h未満、4時間の無尿のいずれかとする。 (東海地区多施設共同研究の診断基準、文献8)
表2 ハイドロコルチゾン補充療法の適応基準と治療法
1)酸素化の悪化(FiO2 0.1以上の上昇または頻回の無呼吸);1点 2)胸部X線の水腫様変化(hazy lung);1点 3)低ナトリウム血症(130mEq/L以下または5mEq/L以上の急激な低下);1点 4)乏尿(尿量1ml/kg/時以下が4時間以上持続);1点 5)血圧低下(収縮期血圧40mmHg以下または前値より80%低下);1点同時に存在する合併症の治療を行うと共に上記の項目が2点以上であれば、ハイドロコルチゾン1~2mg/Kg/日使用する。合併症(貧血、PDA、感染、Hypovolemiaなど)の診断と治療を確実に行う (東京女子医科大学母子総合医療センター2005年10月20日作成、文献9)
1) 楠田聡 著:『新生児内分泌ハンドブック』 メディカ出版
2) 楠田聡 編集:『周産期相談 お母さんへの回答マニュアル』 東京医学社
3) 楠田聡 編集:『周産期医学必須知識』 東京医学社
4) 楠田聡 分担執筆:『ナースのための小児の病態生理辞典』 ヘルス出版
5) 楠田聡 分担執筆:『小児内分泌学』 診断と治癒社
東京女子医科大学母子総合医療センター 編:『周産期マニュアル』 メディカ出版
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