甲状腺癌 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.26

甲状腺癌(こうじょうせんがん)

thyroid carcinoma

執筆者: 杉谷 巌 清水 一雄

はじめに

 甲状腺は人体最大の内分泌腺で、新陳代謝の調整をする甲状腺ホルモンを分泌する。甲状腺ホルモン(free-T4, free-T3)の分泌は脳下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)により調節されている。甲状腺は頸部、気管前面に位置し、蝶が羽を広げたような形をしており、右葉、左葉とこれらを結ぶ峡部よりなる。正常甲状腺の重量15~20g程度である。甲状腺癌は組織学的に乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、未分化癌、その他の癌に大別されるが、甲状腺癌取り扱い規約1)では甲状腺悪性腫瘍として悪性リンパ腫も含め表1の如く分類されている。それぞれの疾患で生物学的特徴が異なることから好発年齢、男女比、発育速度、転移形式、治療法、予後などが多様である。本稿では上記の各種甲状腺癌に甲状腺原発悪性リンパ腫を加え、解説する。 

 (表1. 甲状腺悪性腫瘍の組織学的分類)

乳頭癌

(にゅうとうがん:papillary thyroid carcinoma)

概要


 甲状腺濾胞上皮由来に由来する分化癌で、予後良好なものがほとんどであるが、まれに甲状腺外浸潤や遠隔転移をともない予後不良のものがある。リンパ節転移をともなうことが多い。好発年齢は40~50歳代をピークに幅広い年齢層に分布し、男女比は1:5~8で女性に多い。甲状腺悪性腫瘍の90%前後を占めている。わが国における年間手術件数は7000~8000人と推定され、女性1000人あたりの生涯における発症率は1~2人程度。

病因


 明らかでないが、わが国のようなヨード摂取充足地域では、本疾患の頻度がヨード不足地域に比べ高く、全甲状腺癌の90%程度を乳頭癌が占める(表2)。また、チェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺癌の大量発症に見られる如く、小児期の放射線被曝は本疾患発症の誘因とされている。 

(表2. 甲状腺癌組織型別頻度・悪性リンパ腫は除く)

 

病態生理


 生命に関わる可能性のほとんどない低危険度群(80~90%)とその可能性が高い高危険度群に区別される。前者の10年生存率は99%以上であるが、後者のそれは50~70%程度である。両者を初回手術までに区別する癌死危険度分類法にいくつかのものがある(表3、4)。高齢、大きな腫瘍径、甲状腺外浸潤、遠隔転移、巨大なリンパ節転移などが重要な予後不良因子とされる。まれではあるが、予後不良のケースではリンパ節転移再発を繰り返したり、頸部他臓器に浸潤したり、肺や骨に遠隔転移を来したりする。最終的に未分化転化を来すものもある。 
 
(表3. 甲状腺乳頭癌の主な癌死危険度分類法と予後)

 
(表4. 甲状腺癌のTNM分類と病期分類)


臨床症状


自覚症状


 疼痛、圧痛のない前頸部結節を自覚することが多いが、無症状の場合も少なくない。側頸部のリンパ節腫大を初発症状とすることもある。高危険度癌では周辺臓器の浸潤症状(反回神経麻痺による嗄声、気管浸潤による血痰、呼吸困難、食道浸潤による嚥下障害など)が出現する。 

他覚症状


 前頸部の硬い結節として触知する。気管壁や前頸筋群へ浸潤すれば可動性は制限される。最近は、診断技術の進歩(特に超音波検査)とともに触知不能の結節が検診などで発見されることも増えている。発育速度は極めて緩徐で周囲組織への浸潤も年余の期間を要する。転移形式は所属リンパ節転移が主体で血行性の遠隔転移は稀である。したがって、触診で転移性の所属リンパ節腫脹から本疾患が発見されることもしばしば見られる。

検査成績


通常甲状腺機能は正常。甲状腺腫瘍マーカーとされるサイログロブリンは、良性疾患でも上昇するため鑑別診断には役立たないが、甲状腺全摘術後の再発マーカーとして有用性がある。ただし、甲状腺が残存しているときは高値であっても再発とはいえない。また、測定値はTSHや抗サイログロブリン抗体の影響を受ける。

診断・鑑別診断


(表5. 穿刺吸引細胞診および頸部超音波検査の診断率) 


理学的所見


触診上、硬く可動性のある結節を触知する。しかし、周囲組織へ浸潤すれば可動性は制限される。硬く腫大したリンパ節を触知することがある。

画像検査


・頸部単純エックス線:腫瘍に一致して微細石灰化を示す(砂粒状石灰化)ことがあるが、最近ではあまり行われない。

・超音波検査:石灰化を伴う低エコー所見を呈し辺縁が不整で内部エコーの不均一な腫瘤として描出される(図1)。甲状腺内多発(転移)や頸部リンパ節転移の診断においても有用性が高い。 
 
(図1. 甲状腺乳頭部癌の超音波像)



・その他:頸部での転移・浸潤の程度を見るために頸部CTやMRIを、遠隔転移の有無を見るために肺CTや骨シンチグラフィ、タリウムシンチグラフィなどを行うことがある。

穿刺吸引細胞診


外来で簡便かつ安全に行なえかつ確実性の高い検査である。腫瘍細胞のシート状配列、核内封入体、核溝(コーヒー豆様の核のしわ)が本疾患の特徴所見(図2)。 


(図2. 甲状腺乳頭癌の細胞像)

血液学的検査


 甲状腺機能は通常正常。甲状腺腫瘍マーカーとされるサイログロブリンは、良性疾患でも上昇するため鑑別診断には役立たないが、甲状腺全摘術後の再発マーカーとして有用性がある。ただし、甲状腺が残存しているときは高値であっても再発とはいえない。また、測定値はTSHや抗サイログロブリン抗体の影響を受ける。 

病理


 腫瘍細胞は線維性結合織に支持されながら乳頭状増殖を示すものが多い。腫瘍細胞の核はスリガラス状で、核内封入体、核溝などの特徴的所見がある。これらの所見があれば、全体構造が濾胞状であっても乳頭癌(濾胞型)と診断する。砂粒状石灰化(砂粒小体)も高頻度に認められる。充実性・索状構造などの低分化成分を認めるものは低分化型乳頭癌とされてきたが、WHO新分類(2004年)および甲状腺癌取扱い規約第6版(2005年)では低分化癌として新しいカテゴリーに分類することになった。その他、びまん性硬化型、高細胞型などの特殊型がある。 

鑑別診断


 亜急性甲状腺炎(硬い結節として触れるが圧痛がある)、嚢胞(液体成分が貯留し緊満しているときは硬い結節として触れるが超音波で鑑別がつく)、その他の甲状腺癌。

治療


 手術が第一選択である。甲状腺原発巣と所属リンパ節の必要十分な切除を行なう。術式は腫瘍の局在部位、リンパ節転移の範囲および癌死危険度などにより甲状腺は腺葉切除から亜全摘、準全摘、全摘の各種術式、またリンパ節郭清は喉頭前、気管前および気管傍(片側または両側)の中心領域(D1)から患側外側区域郭清(D2a)、さらに反対側頸部から縦隔郭清までの各種術式を適切に選択して行う。

 欧米では、すべての乳頭癌患者に対して甲状腺全摘手術を行い、術後放射性ヨード(131I:RAI)による転移の診断・治療を行ったうえで、生涯にわたりT4剤(チラーヂンS)投与によるTSH抑制療法を行うことが広く推奨されている。一方、日本では術前超音波検査などの結果に基づき、低危険度癌に対しては、できるだけ甲状腺を温存した初回手術(患側甲状腺腺葉切除~甲状腺亜全摘)を行い、術後補助療法も行わずに経過を観察する施設が多い(表6)。 

(表6. 甲状腺乳頭癌に対する治療方針のメリット・デメリット)


 手術合併症として甲状腺機能低下(腺葉切除なら10%程度、全摘なら100%)、反回神経麻痺(一過性は5%前後、永久性は1~2%)、副甲状腺(上皮小体)機能低下(全摘の場合、一過性は10%前後、永久性は3~5%)などがある。 

 高危険度群乳頭癌で周辺他臓器に浸潤するものに対しては、他臓器合併切除により予後が改善することがある。適切な再建手術によりQOLが維持される。反回神経浸潤症例については、顕微鏡的な癌遺残は生存率や再発率に影響しないとされ、少なくとも術前に機能している反回神経については鋭的剥離により、できるだけ温存する。気管合併切除の術式は、浸潤の位置と深さ、長さによって決定されるが、気管軟骨膜までの浸潤であればshavingにより良好な結果が得られる。食道浸潤は筋層までにとどまることが多く、食道筋層切除により良好な結果が得られる。低分化癌や癌遺残が明らかな場合など、術後放射線外照射を行うことがある。抗癌剤には有効なものがない。

 肺や骨などへの遠隔転移に対しては甲状腺全摘に引き続きRAI治療を行うが、奏功率は高くない。外科的切除が可能なものに対しては手術が勧められるが、適応は限られている。脊椎転移例では脊髄圧迫による麻痺を予防する目的で、除圧手術が行われることがある。また、骨転移による疼痛抑制には放射腺外照射が有効である。

 最大径1cm以下の乳頭癌を微小乳頭癌という。予後の良い甲状腺癌の中でもとくに予後良好で、無症候性(転移・浸潤の兆候がない)の微小乳頭癌の生命予後はほぼ100%である。良性甲状腺疾患の診断で手術した標本の組織学的検査により偶発的に発見された微小癌の場合、追加の手術や補助療法の必要はないと考えられている。また、検診などで偶然発見された無症候性の微小癌については、手術せずに経過観察する試みも行われている。また、このような症例に対し低侵襲で整容上優れた内視鏡手術を行っている施設もある。一方、特に高齢者で、遠隔転移や明らかなリンパ節転移、反回神経麻痺などの腺外浸潤を契機に発見される微小癌には、予後不良のケースがある。これらの症例に対しては原発巣が小さくとも高危険度癌と考えて、徹底した治療が必要となる。

予後


 術後成績は良好で、10年生存率は90%を超える。とくに低危険度癌では99%以上、高危険度癌でも50~70%(図3)。 


(図3. 癌研式癌死危険度分類による甲状腺乳頭癌の生存曲線)

最新の動向


微小癌に対する治療


a. 内視鏡手術:乳頭癌の中でもとくに予後の良い微小乳頭癌を対象としている。術前検査でリンパ節転移がなく腫瘍が甲状腺内に局在する症例は良い適応である。片葉全摘と喉頭前および気管前傍リンパ節のサンプリング程度まで行なう2)。 

b. 経過観察:十分なインフォームドコンセントの下に超音波検査などで腫瘍径、浸潤・転移の状況などをチェックしつつ3~6ヶ月ごとに経過観察する3)。 

c. PEIT:病変部へのエタノール注入により腫瘍の成長を抑制する方法。

参考文献


1)甲状腺外科研究会:甲状腺癌取扱い規約第6版 2005年9月 金原出版

2) Shimizu K, Tanaka S: Asian perspective on endoscopic thyroidectomy-a review of 193 cases. Asian J Surg, 26: 92-100, 2003.

3) 杉谷巌:甲状腺微小乳頭癌の取扱い―非手術経過観察の妥当性―.外科,68::764-768,2006. 

濾胞癌

(ろほうがん:follicular thyroid carcinoma)

概要


 乳頭癌とともに濾胞上皮由来の分化癌に属し、発育は緩徐である。濾胞構造を主体とし、転移がない場合は、顕微鏡的な被膜浸潤、脈管侵襲の有無により良性の濾胞腺腫と区別するため、術前診断は困難である(表5)。甲状腺悪性腫瘍の4~8%を占めており、好発年齢は乳頭癌に準ずるが男女比は1:3~5となり乳頭癌に比し女性の頻度が少し低下する。浸潤形式から微小浸潤(被包)型と広汎浸潤型に分けられる。前者は腫瘍被膜がよく保たれており、濾胞腺腫との鑑別は超音波上また術中肉眼的にも不可能である。後者は肉眼的に甲状腺組織の広い範囲に浸潤を示しており被膜侵襲も確認できる。

病因


 不明であるがヨード欠乏地域に多いといわれている(表2)。TSH刺激が誘発する可能性がある。

(表2. 甲状腺癌組織型別頻度)


病態生理


 乳頭癌に比べ、甲状腺周囲他臓器への浸潤やリンパ節転移を来すことは少ない一方、肺や骨への血行性遠隔転移を来すものが比較的多い。遠隔転移を初発症状として発見されることもある。遠隔転移を来さない症例の予後は良好であるが、遠隔転移症例の予後は不良である。まれに未分化転化を来す症例もある。

臨床症状


自覚症状 


 疼痛、圧痛のない前頸部結節を自覚することが多いが、無症状の場合もある。骨転移による疼痛や神経症状を初発症状とすることがある。 

他覚症状


 
触診上は弾性軟で可動性のある腫瘤として触れ、腺腫、腺腫様結節との鑑別は難しい。通常リンパ節は触知しない。発育は緩徐であるが経過中に増大傾向を呈するときは本症を疑う。

検査成績

 通常甲状腺機能は正常だが、遠隔転移例などでf-T3の上昇を認めることがある。サイログロブリン値が上昇することが多いが、良性疾患との鑑別診断には役立たない。

診断・鑑別診断


理学的所見


 乳頭癌と同様に結節を触知するが圧痛・自発痛などの自覚症状はない。4cmを超える結節は本疾患を疑う必要があるが、小さくとも濾胞癌の場合がある。本疾患はリンパ節転移よりも血行性転移が主体となり肺、骨への転移が多く見られる。

画像検査 

・ 頸部単純エックス線:気管は腫瘍に圧排され偏位する。微細石灰化を伴うことは少ない。

・ 超音波検査:腫瘍辺縁に低エコー帯(Halo)を有することが多い。豊富な血流量を反映するカラードプラエコーは診断に有用である。しかし、濾胞癌の診断はつけにくい(表5)。 



・ その他:CT、MRI、シンチグラフィ(タリウム、テクネシウム)など乳頭癌に準ずる。 

穿刺吸引細胞診


 組織学的悪性診断が細胞異型によらないため、細胞診検査で濾胞癌の診断を下すのは困難で、その診断率は50%前後(図4)。カラードプラ法を含めた超音波検査所見を加えて診断率の向上を図る。 


(図4. 甲状腺濾胞癌の細胞像)

血液学的検査


 乳頭癌と同様で甲状腺機能は正常であるが、遠隔転移例などでf-T3の上昇を認めることがある。サイログロブリン値が上昇することが多いが、良性疾患でも上昇するため鑑別診断には役立たない。サイログロブリンは甲状腺全摘術後の再発・転移マーカーとして有用性がある。ただし、甲状腺が残存しているときは正常値でなくとも再発とはいえない。また、測定値はTSHや抗サイログロブリン抗体の影響を受ける。

病理


 濾胞構造を基本とする濾胞上皮由来の悪性腫瘍。診断の基準は腫瘍細胞が被膜浸潤、脈管侵襲、甲状腺外への転移のいずれか少なくともひとつを組織学的に確認する。特殊型として好酸性細胞型濾胞癌、明細胞型濾胞癌がある。後者は腎癌からの転移との鑑別が問題となる。充実性・索状構造などの低分化成分を認めるものは低分化型濾胞癌とされてきたが、WHO新分類(2004年)および甲状腺癌取扱い規約第6版(2005年)では低分化型乳頭癌とあわせ低分化癌として新しいカテゴリーに分類することになった。

鑑別診断


 濾胞腺腫、腺腫様甲状腺腫、濾胞型乳頭癌など。

治療


 手術が第一選択である。術前診断が困難であることから、濾胞癌の可能性がある症例に対しては少なくとも片側腺葉切除は行なっておく。術後診断が濾胞癌であった場合、すぐに残存甲状腺全摘を行うか、経過観察するかについては議論があるが、微少浸潤型など遠隔転移の危険性が低い症例では経過観察でよいものと考えられる。すでに骨、肺など遠隔転移がある症例や広汎浸潤型、低分化癌などその可能性が高い症例には甲状腺全摘術を行い、術後放射性ヨード(131I:RAI)治療に備える。RAI治療の奏功率は必ずしも高くない。遠隔転移病巣の外科的根治が可能なものに対しては手術が勧められるが、適応は限られている。脊椎転移例では脊髄圧迫による麻痺を予防する目的で、除圧手術が行われることがある。また、骨転移による疼痛抑制には放射腺外照射が有効である。

予後


 乳頭癌より少し悪く10年生存率では80%前後である(表7)。 


(表7. 甲状腺濾胞癌の治療成績)

最新の動向

良悪性の術前鑑別診断が困難である以上、初回手術は腺葉切除を行なう。前頸部に傷のつかない内視鏡手術を行う施設もある2)。 

髄様癌

(ずいようがん:Medullary thyroid carcinoma)

概要


 髄様癌は傍濾胞細胞(C細胞)由来の分化癌で、甲状腺悪性腫瘍全体の1.5%前後とまれな疾患である(表2)。血中カルシトニンとCEAが腫瘍マーカーとなる。散発性と遺伝性とに分類される。遺伝性では多発性内分泌腺腫症(multiple endocrine neoplasia: MEN)と家族性髄様癌 (familial medullary thyroid carcinoma: FMTC)があり髄様癌全体の約1/4を占めている。MENには2A型(副腎褐色細胞腫,原発性副甲状腺(上皮小体)機能亢進症を合併),MEN2B型(副甲状腺病変の変わりに口唇,舌などの多発性粘膜腫瘍,マルファン型体型を合併)に分類される(表8)。常染色体優性遺伝を示し1/2の確率で子孫に遺伝する。最近、遺伝性髄様癌の遺伝子診断が可能になった。C細胞は甲状腺の上中1/3境界付近に集積して存在するためここから発症する。遺伝性のものは多中心性に発症する。 

(表8. 甲状腺髄様癌の病型と構成病変)


病因


 傍濾胞細胞(C細胞)由来である。散発型の病因は不明。遺伝性のものはRET遺伝子の点突然変異による。変異の部位による病態の違いも解明されつつある。

病態生理


 遺伝性のものはMEN2Bを除き、散発型より予後良好といわれる。乳頭癌と異なり、リンパ節転移が重要な予後因子となる。再発はリンパ節、とくに縦隔リンパ節に起こることが多く、血行性転移は肝臓に多い。術後カルシトニン、CEAの腫瘍マーカーが正常化する症例の予後は良好だが、正常化しない症例では再発率が高い。

臨床症状


自覚症状


 甲状腺に結節、時に頸部に腫大リンパ節を自覚する。疼痛、圧痛はない。増大すれば気管の圧迫症状が出現する。

他覚症状


 触診上,中等度に硬い腫瘤を触知する。頸部リンパ節転移も多い。家族性腫瘍では多中心性発育をするため多発性に触知する。この時家族歴を聴取することも忘れてはならない。

検査成績


 甲状腺機能は正常であるが、C細胞より分泌されるカルシトニン、CEAが特異的に上昇するため有用な腫瘍マーカーとなる。また、カルシウム,ペンタガストリンによる刺激試験でカルシトニン分泌を誘発させ不顕性の髄様癌,C細胞過形成を発見できることがある。

診断・鑑別診断


理学的所見


 甲状腺上中1/3境界付近に比較的硬い結節を触知、家族性では時に多発結節を触知する。可動性は良好なことが多い。所属リンパ節転移を来しやすく、頸部リンパ節を触れることも多い。 

画像検査

a) 頸部軟線X線検査:砂粒体よりやや大きい斑点状の石灰化を示すことがある。

b) 超音波検査:形状が不整で内部エコーは不均一。大小不同・粗大な石灰化像を認めることもある。副甲状腺病変の診断にも有用。

c) シンチグラフィ:131I-MIBGが特異的に陽性。転移巣の検索にも有用だが感度は高くない。副腎病変、肝転移の診断のためには腹部造影CTも有用。

血液学的検査


 カルシトニンとCEAの上昇は高頻度で本疾患を疑う。まれに一方が陰性の髄様癌もあるので両者を検査することが確実な診断となる(表9)。副甲状腺病変の診断のためには血中カルシウム(イオン化カルシウム)、リン、アルブミンおよびPTH(intact-PTHまたはwhole-PTH)を測定する。副腎褐色細胞腫の診断では血中・尿中カテコラミン(尿中メタネフリン・ノルメタネフリン)を測定する。 


(表9. 甲状腺髄様癌と腫瘍マーカー)

穿刺吸引細胞診


 腫瘍細胞は類円形,紡錘形など多様。疎結合性の細胞が多量に得られる。間質に沈着するアミロイドを確認すれば更に診断が確実となる(図5、6)。免疫組織化学的にカルシトニン・CEA陽性となる。 

(図5. 甲状腺髄様癌の細胞像(1))


(図6. 甲状腺髄様癌の細胞像(2))

病理

 
 C細胞への分化を示し、カルシトニンを分泌する甲状腺上皮性悪性腫瘍。間質へのアミロイド沈着を認めるものも多い。組織・細胞所見は多様である。 

遺伝子検索


 遺伝性髄様癌の原因はRET癌遺伝子の点突然変異であることが確認され遺伝子検査が可能になった。発端者の遺伝子診断により、MENの診断が容易となった。さらに血縁者の遺伝子診断により発症前診断が可能で、予防的甲状腺全摘手術を行うこともできるようになった。

治療


 治療は外科的切除が原則。遺伝性髄様癌では多中心性に発症するため、甲状腺全摘術の適応となる。MEN2Aは、循環動態を安定させる目的で、副腎褐色細胞腫が合併していれば、この手術を先に行う。副甲状腺については全摘・自家移植を勧めるものがある。散発性髄様癌は、必ずしも全摘の必要性はない。リンパ節郭清は最低限、患側頸部の保存的リンパ節郭清を行う。

予後


 10年生存率は,遺伝性で70~80%、散発性で60%前後。各病型における生存率に関しては、FMTC、MEN2A、散発性髄様癌、MEN2Bの順に予後良好から不良になると報告されている。

最新の動向

 
 RET遺伝子の点突然変異診断検査により、遺伝子検査が可能となったため本疾患の治療は変わってきた。発症前診断が可能となったが、予防的甲状腺全摘術をいつ施行するかについては議論がある4)

参考文献


4) Brandi ML, Gagel RF, Angeli A, et al: Guidelines for diagnosis and therapy of MEN type 1and type 2. J Clin Endocrinol Metab, 86: 5658-5671, 2001. 

未分化癌

(みぶんかがん:Anaplastic thyroid carcinoma)

概要


 濾胞上皮由来の悪性腫瘍で、きわめて予後不良。放置されたり、再発を繰り返した乳頭癌や濾胞癌が未分化転化して生じることも多い。全甲状腺癌に占める割合は1~5%(表2)。男女比は1対1~2で、他の甲状腺癌に比べ、男性の頻度が高い。好発年齢は60~70歳代で高齢者に多く、若年者にはきわめてまれ。
 


病因 


 不明。放置されたり、再発を繰り返した乳頭癌や濾胞癌が未分化転化して生じることも多い。

病態生理 


 急激に発症、急速に増大し、全身化するため治癒はきわめてまれ。分化癌の診断で手術された摘出標本中に少量の未分化癌成分を認めるような症例では長期生存する例がある。

臨床症状


自覚症状 


 急激に増大する頸部腫瘍が主体。以前から存在していた前頸部結節が急速増大した場合には、未分化転化を疑う。リンパ節転移はむしろ目立たないことが多い。局所の発赤、疼痛や発熱、疲労感、体重減少などの全身症状をともなうこともある。周辺臓器の浸潤症状(反回神経麻痺による嗄声、気管浸潤による血痰、呼吸困難、食道浸潤による嚥下障害など)をともなうこともある。

他覚症状


 急激に増大する(極端な場合は日ごと、週ごとに増大する)浸潤性の頸部腫瘍を触れる。硬く、可動性がないことが多い。肺、骨のほか全身転移をともなうことも少なくない。

検査成績


 血液検査では白血球増多、赤沈亢進、CRP高値を認めることが多い。未分化癌細胞は時にG-CSFやPTH関連蛋白などのサイトカインを産生することがあり、著明な白血球増多や高カルシウム血症をともなうことがある。甲状腺機能は正常なことが多いが、甲状腺破壊による機能低下(まれに機能亢進)を示すこともある。サイログロブリンその他の腫瘍マーカーで未分化癌に特異的なものはない。 

診断・鑑別診断


理学的所見


 急激に増大する浸潤性の頸部腫瘍を触れる。硬く、可動性がないことが多い。局所の発赤、疼痛や発熱、倦怠感、体重減少などの全身症状をともなうこともある。周辺臓器の浸潤症状(反回神経麻痺による嗄声、気管浸潤による血痰、呼吸困難、食道浸潤による嚥下障害など)をともなうこともある。 

画像所見


・頸部超音波、CT、MRI:巨大な浸潤性結節を認める。未分化癌では画像上、腫瘍中心に壊死をともなうことや、先行病変である乳頭癌の石灰化像を認めることが多い(図7)。 


(図7. 甲状腺未分化癌のCT所見)

・その他:ガリウムシンチグラフィで取り込みを認め、遠隔転移の診断にも役立つ。

穿刺吸引細胞診


 未分化癌の細胞診断はその高度な核・細胞異型から容易なことが多い(図8)。超音波ガイド下に腫瘍の複数個所から細胞を採取するのがよい。ときに確定診断のために生検を要することもある。 

図8. 甲状腺未分化癌の細胞
(図8. 甲状腺未分化癌の細胞像)

血液学的検査


 甲状腺機能は正常のことが多いが、機能低下、機能亢進を呈することもある。また種々のサイトカイン分泌により白血球増多や高カルシウム血症をともなうこともある。サイログロブリンの上昇は軽度のことが多い。

病理


 高度な構造異型、細胞異型を示す濾胞上皮由来の悪性腫瘍。壊死や出血をともなうことも多い。

鑑別診断


 低分化癌、悪性リンパ腫、転移性甲状腺癌など。

治療


 手術、放射線外照射、化学療法を適宜組み合わせて行うが、奏功率は低い。緩和ケア主体の治療がQOL維持の面から推奨される場合もある5)。 

手術療法


 未分化癌の外科的切除に関しては、根治的切除を行いえた症例の予後が良いとする報告があるが、局所の根治のためには他臓器合併切除を要するケースが多い。拡大手術が生存率の改善に有効であるという証拠はなく、特に失声を来す喉頭合併切除には消極的な施設が多い。しかし、喉頭付近への浸潤による呼吸困難や嚥下障害は患者のQOLを著しく損なうものであり、手術適応は慎重に決定すべきである。

放射線療法


 未分化癌には放射性ヨード内照射療法は無効である。外照射に対する感受性も低いが、最近、1.2~1.6 Gyの照射を1日2回行う頻回分割照射を行う施設もある。

化学療法


 未分化癌の化学療法については現在のところ、adriamycinとcisplatinによる多剤併用療法が中心であるが効果は十分ではない。cisplatin、adriamycin、etoposideによるEAP療法により、奏効率67%との報告もあるが、これは例外的な成績で、最近のpaclitaxelやgemcitabineによる治療成績もあまり芳しくない。

予後


 きわめて不良。1年生存率は6~20%で、2年以上の生存はまれ。

最新の動向


 分子生物学的研究により未分化癌における各種の癌遺伝子や癌抑制遺伝子、増殖因子の異常(p53、Ras遺伝子の変異、c-Abl遺伝子の過剰発現、PTEN遺伝子の不活化、VEGFの過剰発現など)が明らかになってきた。今後、それらを標的とした分子標的薬や遺伝子治療といった新しい治療法の開発が期待されている。

参考文献


5) 増淵達夫、杉谷巌:甲状腺未分化癌.JOHNS, 21: 1407-1410, 2005. 

甲状腺悪性リンパ腫

(こうじょうせんあくせいりんぱしゅ:Malignant lymphoma of the thyroid)

概要


 甲状腺悪性リンパ腫は節外性悪性リンパ腫の3~7%を占めており、甲状腺悪性腫瘍の1~5%を占める。60歳以上に好発し、男女比は1:3~7程度。慢性甲状腺炎(橋本病)を基盤として発生することが知られており、ほとんどはB細胞由来のリンパ腫である。最近ではびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫は減少傾向で、mucosa associated lymphoid tissue (MALT)リンパ腫の頻度が増加している。多くは化学療法や放射線治療が奏功し、他の節外性リンパ腫より予後良好である。

病因


 慢性甲状腺炎(橋本病)から発生することが知られている。慢性甲状腺炎のある患者では、慢性甲状腺炎のない患者に比べ甲状腺悪性リンパ腫の発生危険度が約60倍高いという。

病態生理


 病期分類(表10) と組織型分類(WHO分類)により治療方針を決定する。MALTリンパ腫はほとんどがIE期で発見され、治癒率が高いが、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫は病期が進んでいることが多く、予後不良である。 


(表10. 甲状腺悪性リンパ腫の病期分類)

臨床症状


自覚症状


 休息に増大する甲状腺腫を主訴とする。疼痛や嗄声、呼吸困難、嚥下障害を訴える場合もある。最近では発熱、寝汗、体重減少などの全身症状をともなう例は少なく、無症状の悪性リンパ腫が超音波検査などで指摘される例もある。

他覚症状


 巨大なびまん性甲状腺腫(左右差あり)を認めることが多い。 慢性甲状腺炎の経過観察中に急激に甲状腺腫が増大する場合では診断が容易。

検査成績


 甲状腺自己抗体(抗サイログロイブリン抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)が陽性。甲状腺機能も低下している症例が多い。

診断・鑑別診断


理学的所見


 巨大なびまん性甲状腺腫(左右差あり)を認める。最近では触診で明らかでない小さな悪性リンパ腫が発見されることも多い。

画像所見


・超音波検査:嚢胞様低エコー結節、網目状高エコーが特徴的。最近では触診で明らかでない小さな悪性リンパ腫が超音波検査を契機に発見されることもある(MALTリンパ腫であることが多い)。 

・ガリウムシンチグラフィ、胸・腹部CT:病期分類に有用

穿刺吸引細胞診


 びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の細胞診断は難しくない(図9)。MALTリンパ腫では慢性甲状腺炎との鑑別が難しいことも多い。確定診断、組織型決定のために生検を要することがある。 


(図9. 甲状腺悪性リンパ腫の細胞像)

血液学的検査


 甲状腺自己抗体(抗サイログロイブリン抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)が陽性。甲状腺機能も低下している症例が多い。LDHや可溶性IL-2R、血清ガンマグロブリンが高値のことも多い。

病理


 ほとんどがMALTリンパ腫またはびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫である。前者から後者への移行型も少なくない。MALTリンパ腫は多様なBリンパ球系細胞が混在し、びまん性ないし不明瞭な結節性増生を呈する。生物学的には低悪性度である。びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫では大型腫瘍細胞がびまん性に増生し、破壊性・浸潤性が強い。悪性リンパ腫では免疫グロブリン重鎖可変領域の再構成がみられ、慢性甲状腺炎など反応性病変との鑑別に有用である。

鑑別診断


 甲状腺未分化癌

治療


 放射線照射と化学療法が主体。手術の適応は限られている。IE期のMALTリンパ腫には放射線療法単独、IIIE期以上では化学療法、その中間では化学療法と放射線療法の併用が行われることが多い。 

放射線治療


 放射線外照射はIE期、IIE期の甲状腺悪性リンパ腫に適応となる。頸部から上縦隔を照射野に含め、40Gy以上の照射を行う。 

化学療法


 IE期、IIE期の放射線治療との併用または放射線治療後の再発症例、IIIE期、IV期の症例には化学療法を行う。CHOP療法(サイクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)が主体で3~4週間のクールを3クール以上行う。

予後


 5年生存率は約60%である。組織分類によるgrade、病期が進むほど予後不良。

最新の動向


 B細胞に特異的に発現するCD20に対するモノクローナル抗体リツキシマブを用いた治療が開始されており、低悪性度のB細胞リンパ腫や高齢者で有効性が報告されている6)

参考文献


6) Coiffier B, Lepage E, Briere J, et al: CHOP chemotherapy plus rituximab compared with CHOP alone in elderly patients with diffuse large-B-cell lymphoma. N Eng J Med, 346: 235-242, 2002.

(MyMedより)推薦図書

1) 田上哲也・伊藤公一・成瀬光栄・西川光重 編集:甲状腺疾患診療マニュアル,診断と治療社 2009

2) 越山裕行 著:最新内分泌代謝学ハンドブック,三原医学社 2006

3) 伊藤公一 監修:新版 甲状腺の病気 (よくわかる最新医学),主婦の友社 2007
 

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