ロタウイルス感染症 ・ ノロウイルス感染症 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.26

ロタウイルス感染症 ・ ノロウイルス感染症(ろたういるすかんせんしょう ・ のろういるすかんせんしょう)

Rotavirus and Norovirus infection

執筆者: 高梨 さやか 牛島 廣治

概要

 感染性胃腸炎の中でウイルスを原因とするものの割合は高く、小児の散発例ではロタウイルスが25-30%で最多を占め、次いでノロウイルスが15-20%となっている1)2)。ロタウイルス感染症はかつて冬季乳幼児下痢症といわれていたが、その流行時期は次第に早春も含む(2-4月)ように移動してきている。このロタウイルスの流行にやや先んじて(12-1月)ノロウイルスの流行がみられる。発展途上にある国を中心に、年間約60万人の小児がロタウイルス感染症で死亡しており、これは5歳以下の死亡原因の約5%に相当する3)。一方、ノロウイルス感染症の死亡例は多くないものの、食中毒の原因ウイルスとしても最近注目を集めている。

病因

 ロタウイルスはレオウイルス科(family Reoviridae )のロタウイルス属(genus Rotavirus)に分類され、11分節の二重鎖RNA genomeを含む外殻、内殻およびコア蛋白からなる二十面体の粒子である。外殻はVP4とVP7とからなり、それぞれの上にある中和抗原により、P (proteolytic cleavage)血清型とG (glycoprotein)血清型に分類される。内殻にあるVP6上の抗原性の差異により、A群からG群にまで分類され、このうちA、B、C群がヒトに感染し、主にA群が急性胃腸炎の原因となる4)。

 ノロウイルスは従来、小型球形ウイルス(SRSV)やノーウオーク様ウイルス(NLV)と暫定的に呼称されていたが、2002年の国際ウイルス命名委員会で正式にカリシウイルス科 (family Caliciviridae )のノロウイルス属 (genus Norovirus)に分類された。RNA一本鎖ウイルスで、遺伝学的に非常に多様性に富み、genogroup I (GI)からV (GV) まで分類され、ヒトに感染するGI、GII、GIVのうち前二者はさらにそれぞれ15個、18個のgenotypeに分けられている5)。GIIのgenotype4(GII/4)の検出頻度が最も高く、続くGII/3とあわせると、散発性の急性胃腸炎児全体の60~80%を占めている6)。

病態生理

 感染様式は主にヒトからヒトへの糞口感染であり、ノロウイルスに関してはウイルス汚染した生の二枚貝喫食などに伴う食中毒も報告されている。ロタウイルスは外殻のspike proteinであるVP4を介して小腸微絨毛先端の上皮細胞に感染する。感染細胞内で非構造蛋白であるNSP4が産生分泌され、このNSP4が細胞内に取り込まれて細胞内のCa濃度を上昇させることにより細胞膜のCl-透過性が増し、Cl- と水分の分泌が促進されるため下痢が引き起こされると考えられている4)。

 ノロウイルスの腸管上皮細胞への結合のパターンは、組織・血液型抗原(histo-blood group antigen: HBGA)に規定されていることが最近判明してきた。HBGAは赤血球のみならず気道や腸管粘膜上皮に発現している個人に特有の抗原であり、唾液などの体液中に分泌される分泌型のヒトと非分泌型のヒトが存在する。ボランティアによるノーウォークウイルス(ノロウイルスの中で最初に発見されたウイルス)の感染実験の結果などから、少なくともこのノロウイルス株では分泌型で血液型がAまたはO型のヒトしか感染しないことが示された7)。しかし、前述のようにノロウイルスは非常に多様性に富み、多数の株のウイルス粒子を用いた実験結果からは、先天的にどのノロウイルスにも感染しない抵抗性を有するヒトは存在しないだろうと推測されている8)。

臨床症状

 両感染症とも主症状は水様性下痢、嘔吐、発熱であり、病初期に嘔吐、発熱が先行するパターンが多い。潜伏期間はロタウイルスが1-3日、ノロウイルスが1-2日であり、症状持続期間は前者で5-8日、後者で1-2日である。ロタウイルスのほうが下痢持続期間は長く、ノロウイルスのほうが頻回の嘔吐を呈する傾向がある9)。症状が消失しても約3週間ウイルス排出が持続するため、これらの保因者に対する感染対策が感染拡大を防ぐに当たって重要となる。

 合併症としてロタウイルス感染症では、痙攣、肝炎、腎炎、脳症、腸重積などが依然から報告されてきたが、診断法の進歩に伴い、心筋炎などの致死的ロタウイルス感染症の報告も散見されるようになってきた10)。ノロウイルス感染症においても、腎不全を伴う例や、脳症の症例で血清/髄液中からウイルス遺伝子が検出された報告がみられてきており、腸管外感染の可能性が示唆されてきている11)。

検査成績

 両感染症とも脱水と代謝性アシドーシスに伴う低血糖や電解質異常が認められることがある。腹部レントゲン検査では、非特異的な腸管壁の肥厚がみられたり、症例によってはイレウスを呈したりしているものがある。

 ロタウイルスに対しては簡易迅速にウイルス抗原が検出できるイムノクロマトグラフィーが市販されている。アデノウイルスと同時検出できるキットもある。その他、ラテックス凝集反応やELISA、古典的にはウイルスの分離培養や電子顕微鏡による検出が行われることもある。

 ノロウイルスは分離培養が不可能なため、抗原として大量のウイルスを得ることができず、免疫学的検査方法の開発が困難であった。最近、遺伝子工学的手法でウイルス様蛋白の作成が可能となってきており、これを人工抗原としてELISA、イムノクロマトグラフィー等の免疫学的な迅速検査へ応用が期待されている。

 両ウイルスともgold standardは各種のprimerを用いたRT-PCR法と考えられることが多い。その他、微量のウイルス汚染の検出を目指し、リアルタイムPCR法やLoop-Mediated Isothermal Amplification (LAMP)法などの新しい遺伝子検査法が開発されてきている。

診断・鑑別診断

 便の性状(水様性下痢、血性でない)や臨床経過、周囲の流行状況などから、他の下痢症と鑑別診断するが実際には困難である。確定診断には、上記に述べたような各種検査を行う必要がある。

治療

 両ウイルスともに特異的抗ウイルス薬はないため、対症療法が主体となる。

脱水に対する治療


 脱水の程度に応じて、ORS (oral rehydration solution)を用いたORT (oral rehydration treatment)を中心に据えた補液を行う。ロタウイルス・ノロウイルス等ウイルス性胃腸炎での下痢便中Na濃度は20~60mEq/lとされており、市販のORSの電解質組成で対処可能と考えられる。

 軽度の脱水には、予測される水分喪失量をORSにて3-4時間かけて補充する。ORSはスプーン1、2杯の極少量から開始し、嘔吐しないことを確認しながら、20~30分毎に徐々に増量していく。中等度から重度の脱水や、ORS摂取に耐えられない頻回の嘔吐には経静脈的輸液療法を併用する。循環不全の改善のために、細胞外液型の輸液製剤(ソリタT1号、ラクテックD、生理食塩水、ハルトマン液など)を用いて利尿がつくまで急速輸液を行う。輸液速度は10~20ml/kg/時で行い、通常は2~3時間で利尿がみられる。

 急速補液後の段階で嘔吐がなければ、ORSに加えて適切な食事療法を開始する。このとき、授乳中の乳幼児は母乳を継続して飲ませ、粉ミルクも薄める必要はない。急性期を過ぎても下痢が遷延するなど、二次性乳糖不耐症が臨床的に疑われたときは、乳糖除去ミルクを選択する。食事には、よく煮たうどん、お粥などの炭水化物のほか、好めばヨーグルトやリンゴ、バナナなどの果実も推奨される。

薬物療法


止痢薬


 腸管蠕動運動抑制薬(ロートエキス、塩酸ロペラミド(ロペミン))は下痢持続時間を短縮するが、ウイルス毒素(ロタウイルスの非構造蛋白であるNSP4など)の排泄を遅らせるなどの問題がある。収斂薬(タンニン酸アルブミン(タンナルビン))、吸着薬(天然ケイ酸アルミニウム(アドソルビン))も用いられるが、前者は牛乳アレルギーのある患児には禁忌である。

 二次性乳糖不耐症が疑われた場合には、チラクターゼ(ミルラクト)などの乳糖分解酵素薬を投与する。整腸薬としてラクトミン(ビオフェルミン)、ビフィズス菌(ラックB),酪酸菌(ミヤBM)などがあり、プロバイオティクスとしての役割が期待されている。

制吐剤


 メトクロプラミド(プリンペラン)、ドンペリドン(ナウゼリン)、フェノバルビタール(フェノバール)などがあるが、眠気によりORTを困難にしかねないことや、脱水状態での使用により錘体外路症状が出やすいことに注意が必要である。

予後

 伝播力は強いが、基本的にself-limitingな感染症であり、後遺症を残すことは少ないものの、前述のように重症のロタウイルス感染症・ノロウイルス感染症の報告もみられてきており、注意を要する。無熱性痙攣を起こした場合もてんかんへの移行は少ないとされる。

最近の動向

 現段階で、日本以外ではRotaTeqTMとRotarixTM2つのロタウイルス弱毒生ワクチンが主に使用されてきている。前者はウシロタウイルスWC3(G6P[5])のVP7遺伝子を4価(G1、2、3、4)のヒトロタウイルスと、VP4遺伝子をヒトのP[8]にそれぞれ組み換えたワクチンで、米国やフィンランドなど100カ国以上で特許を得て、米国では臨床で使用開始されている。後者は1価のヒトロタウイルス(G1P[8])を用いたワクチンで、アジアを中心に60カ国以上で特許を取得している。両者とも、1998年に米国で市販され腸重積の副反応のために翌年使用中止になったRotaShieldsとは異なり、腸重積の頻度はコントロール群と有意差はなく、重症のロタウイルス感染症を減少させる効果が示されている14)。

参考文献

1) Phan TG, Nguyen TA, Kuroiwa T, Kaneshi K, Ueda Y, Nakaya S, Nishimura S, Nishimura T, Yamamoto A, Okitsu S, Ushijima H: Viral diarrhea in Japanese children: results from a one-year epidemiologic study. Clin Lab 51(3-4):183-191, 2005

2) 牛島廣治、秋原志穂、周玉梅、顔海念、吉永美咲、 沖津祥子: ロタウイルス感染症についての最近の疫学と知見. 小児科臨床、57(3):327-333, 2004

3) Parashar UD, Gibson CJ, Bresse JS, Glass RI: Rotavirus and severe childhood diarrhea. Emerg Infect Dis:12(2):304-306, 2006

4) Estes MK, Kapikian AZ: Rotaviruses. In Fields BN, et al (eds): Virology 5th ed. Lippincott-Raven publishers, Philadelphia, p1917-1974, 2007

5) Green KY: Caliciviridae: The Noroviruses. In Fields BN, et al (eds): Virology 5th ed. Lippincott-Raven publishers, Philadelphia, p949-980, 2007

6) Okame M, Akihara S, Hansman G, Hainian Y, Tran HT, Phan TG, Yagyu F, Okitsu S, Ushijima H: Existence of multiple genotypes associated with acute gastroenteritis during 6-year survey of norovirus infection in Japan. J Med Virol:78(10):1318-1324, 2006

7) Hutson AM, Atmar RL, Graham DY, Estes MK: Norwalk virus infection and disease is associated with ABO histo-blood group type. J Infect Dis:185(9):1335-1337, 2002

8) Huang P, Farkas T, Zhong W, Tan M, Thornton S, Morrow AL, Jiang X: Norovirus and histo-blood group antigens: demonstration of a wide spectrum of strain specificities and classification of two major binding groups among multiple binding patterns. J Virol:79(11):6714-6722, 2005

9) 荻田純子、黒崎知道、久保田博昭、石和田稔彦、池上宏、河野陽一:2004/05冬期に経験した小児の急性胃腸炎の入院例について ロタウイルス感染症とノロウイルス感染症の比較検討. 小児感染免疫, 18(4), 365-370, 2006

10) Grech V, Calvagna V, Falzon A, Mifsud A: Fatal, rotavirus-associated myocarditis and pneumonitis in a 2-year-old boy. Ann Trop Pediatr: 21(2):147-148, 2001

11) Ito S, Takeshita S, Nezu A, Aihara Y, Usuku S, Noguchi Y, Yokota S: Norovirus-associated encephalopathy. Pediatr Infect Dis J: 25(7):651-652, 2006

12) 五十嵐隆:水・電解質・酸塩基平衡と脱水症. p93-114, 小児科学、五十嵐隆編集、文光堂、東京、2004

13) Uemura N, Okumura A, Negoro T, Watanabe K:Clinical features of benign convulsions with mild gastroenteritis. Brain Dev 24(8):745-749, 2002

14) Glass RI, Parashar UD, Bresse JS, Turcios R, Fischer TK, Widdowson MA, Jiang B, Gentsch JR: Rotavirus vaccines: current prospects and future challenges. Lancet 22;368:323-332 2006

執筆者による主な図書

1) 米国小児科学会 編集、岡部信彦 監修:最新感染症ガイド R-Book 2006 日本版Red Book 感染症の実践的なバイブル,(株) 日本小児医事出版社
2) 渡辺博(東京大学) 専門編集:小児科臨床ピクシス4.予防接種,中山書店

(MyMedより)推薦図書

1) 砂川慶介、尾内一信 編・著:小児感染症治療ハンドブック,診断と治療社 2008

2) 日本小児感染症学会 編集:日常診療に役立つ小児感染症マニュアル〈2007〉,東京医学社 2006

3) 川瀬昌宏 著:臨床医のための小児診療ハンドブック,日経メディカル開発 2008
 

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