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執筆者: 高金 明典
胃切除後に発症する貧血は鉄吸収障害による小球性低色素性貧血と胃全摘術後に多いビタミンB12吸収障害による巨赤芽球性貧血(悪性貧血)である.
食事から摂取された鉄は胃酸によりイオン化され上部空腸で吸収される.したがって,胃切除により胃酸分泌が低下した状態では鉄の吸収障害が発生する.また,胃全摘術後はビタミンB12の吸収に大切なCastle内因子が欠乏するため回腸末端でのビタミンB12吸収障害が発生する.
鉄欠乏性貧血は術後比較的早期より発症し,舌炎や口角炎を併発することもある.スプ-ン状爪は特徴のある所見である.頭痛などの神経症状をともなうこともある.ビタミンB12は肝臓などに貯蔵されており,胃全摘術後早期にビタミンB12が欠乏するわけではない.ビタミンB12欠乏による貧血が発症するまで3年以上を要することが多い. 貧血以外の症状として腹痛や下痢などの消化器症状や倦怠感を訴えることがある.Hunter舌炎は有名である.神経症状として亜急性連合変性症,多発ニュ-ロパチ-,視神経障害,脳症などがある.
血液検査より貧血を認め,ヘモグロビン値やMCVから貧血の種類を明らかにする.血清鉄やビタミンB12の低下が認められる.
胃切除後の血液検査において小球性小色素性貧血で,血清鉄の低下が明らかであれば術後鉄欠乏性貧血の確診となる.また胃全摘術後に大球性貧血が発症し,ビタミンB12の低下を認めれば確診となる.無症状のまま経過し,血液検査ではじめて貧血と診断される場合もある.大腸癌などの消化管出血による貧血との鑑別が必要である.また,盲管症候群(blind loop syndrome)では細菌の異常繁殖によりビタミンB12が消費され貧血が増長される.葉酸投与を受けている場合は血液像の正常化によりビタミンB12欠乏を見落とすことがあり注意が必要である.
鉄欠乏性貧血は鉄剤の経口投与が効果的であるが,経口投与で改善されない場合は静注投与する.ビタミンB12欠乏性貧血に対するビタミンB12経口投与は無効のことが多く筋注が望ましい.
貧血が徐々に進行した場合,貧血による症状発現が遅れるため重篤な神経症状が出現することがある.したがって,胃切除後は定期的に血液検査を行う必要がある.
1) 幕内雅敏 監修,荒井邦佳 編集:Knack & Pitfalls 胃外科の要点と盲点 第2版,文光堂,東京,2009年
2) 武藤徹一郎・幕内雅敏 監修:新臨床外科学 第4版,医学書院,東京,2006年
3) 東口髙志 編:NSTハンドブック 疾患・病態別の栄養管理,医薬ジャーナル社,大阪,2008年
4) 久保田哲朗・大村健二 編集:消化器癌化学療法,南山堂,東京,2009年
5) 胃癌術後評価を考えるワーキンググループ・胃外科・術後障害研究会 編集:胃癌術式と胃術後障害 そのコンセンサスの現状と解説,ヴァン メディカル,東京,2009年
1) 高瀬浩造・阿部俊子 編集:エビデンスに基づくクリニカルパス,医学書院,東京,2004年
2) 内富庸介・藤森麻衣子 編集:がん医療におけるコミュニケーション・スキル,医学書院,東京,2007年
3) Jurgen Thorwald 著,小川道雄 訳:外科医の世紀 近代医学のあけぼの,へるす出版,東京,2007年
4) 財団法人先端医療振興財団・臨床研究情報センター 監修:患者・家族のためのがん緩和ケアマニュアル,日経メディカル開発,東京,2009年
5) 竹末芳生 編集:手術部位感染(SSI)対策の実践,医薬ジャ-ナル社,大阪,2005年
1) 上西紀夫 編集:食道・胃外科標準手術―操作のコツとトラブルシューティング (Digestive Surgery NOW),メジカルビュー社 2008
2) 主婦の友社 編集、池上保子・羽生富士夫・喜多村陽一 監修:胃を切った人の食事―おいしく食べて治す 消化器をいたわるレシピ200 (おいしく食べて治す),主婦の友社 2003
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