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執筆者: 梅原 実
急性細気管支炎は、下気道感染(主にRSウィルス感染)に伴う気道上皮の変化によるsmall airwayの狭小化が主たる病態の疾患である。乳児期に好発し、しばしば重症化し人工呼吸管理を必要とする場合も少なくない。治療は支持療法(酸素投与、加湿、呼吸理学療法、輸液療法、人工呼吸療法)などの呼吸(気道)管理が主体となる。
細気管支炎の多くは軽症であり、数日以内に軽快するself-limitingな疾患のため、入院を要する頻度は全患者数の1〜5%とされ基礎疾患を有しない健常乳児の本症罹患による死亡率は1%以下と報告されている。しかし、「表-1」のようなrisk-groupでは死亡率が30%を超える。本症は冬期を中心とした11月から4月が流行期であり、Pneumovirusに分類されているRSウィルス(RSV:respiratory syncytial virus)が最も重要な原因(50〜90%)である。年長児や成人のRSV感染症は軽微な上気道炎で経過することが多いが、乳児はこのような感染者からの鼻汁、咳嗽などや汚染された手指などから感染するので手洗いなどの感染対策が必要である。
パラインフルエンザウィルス(parainfluenza virus)、ライノウィルス(rhino virus)、アデノウィルス(adeno virus)、インフルエンザウィルス(influenza virus)、マイコプラズマ(mycoplasma pneumoniae)、メタニューモウィルス(metapneumo virus)などがある。
急性細気管支炎は主にRSウィルス(RSV)感染に伴う細気管支領域の炎症性気道閉塞が病態の基本であり、気道系感染による気道上皮が粘液産生とともに細胞破壊を受け、さらにケモカイン産生と好中球、リンパ球、マクロファージなどの浸潤を促し、炎症性ケミカルメディエーターの産生により病態を完成させる。そのため本態は細気管支レベルの浮腫、上皮細胞などの剥脱物質、過剰産生粘液が主であり、気管支攣縮の関与は少ないと言われ、小児呼吸系の解剖学的・生理学的特性を考慮すれば、喘鳴、呼吸障害が容易にみられることは考えるに難くない。このような臨床像は喘息発作に類似し、感冒を契機とした初回の発作との鑑別は困難であり、気管支拡張剤の効果が不確定な可能性が高い。さらに、気道狭窄(閉塞)は部分的狭窄と完全閉塞が混在しているため肺は過膨張肺と無気肺の両者がみられることもある。その結果、健常時の2倍とも言われている肺気量・残気量(機能的残気量)の増加、コンプライアンスの低下及び気道抵抗の増加を認める。さらに換気不良部位と血流低下部位のバランスが崩れ(換気/血流不均衡)、低酸素血症は増長する。
初期症状はいわゆる“感冒”類似症状であり、数日続く。症状は多彩であり、徐々(数日かけて)に増悪していくが、軽症の場合には、ほぼ1週間くらいで軽快する。
* 鼻汁分泌
* 咳嗽(軽度)
* 鼻閉
* 無呼吸
* not doing well
* 頻呼吸
* 経口摂取低下
* 喘鳴
* 発熱
* 頻脈または徐脈
* チアノーゼ
* 陥没呼吸
診断と重症度評価は、十分な病歴聴取(流行期、年令、家族内の感染徴候の有無などを含む)と理学的所見により行われるべきで、診断のためにルーチンとして血液検査や胸部XPは必要ないとされている。しかし、流行期(初冬〜初春)や1才未満では、主たる発症原因のRSV感染症の有無をチェックする事は入院を考慮する場合に必要であり、時に広範囲無気肺を生じている場合もあり必要に応じて胸部XPをチェックする。典型的な胸部XP所見は過膨張肺であり、1/4以上でconsolidationを示すが、胸部XP所見と臨床的重症度とは一致しないので注意する。RSV感染症の確定には、急性期では血清抗体価*1やウィルス分離*2は臨床的有用性は低く、迅速診断法(抗原検出キット)が感度・特異度ともに高く広く臨床で使用されている。
*1:血清抗体価は、乳児では免疫血清学的反応性が乏しく、抗体産生までに数週間を要するため臨床的有用性は少ない。 *2:ウィルス分離は検査日数を要するため臨床的有用性は少ない。
急性細気管支炎の呼吸状態の的確な評価上のポイントは高炭酸ガス血症よりも低酸素血症の程度を評価する事である。乳児の心肺停止は急速に進行する呼吸不全により引き起こされる場合がほとんどであり、この低酸素血症出現の機序・病態を充分に理解しておかなければならない。低酸素血症〔PaO260mmHg(40%酸素投与下)〕およびチアノーゼの存在(100%酸素投与下)または、高炭酸ガス血症〔PaCO2 60mmHg〕などを認めれば人工呼吸管理を考慮する。
診断は前述のように十分な病歴聴取(流行期、年令、家族内の感染徴候の有無などを含む)と理学的所見により行われるべきで、診断のためにルーチンとして血液検査や胸部XPは必要ない。重症度評価には酸素化の指標が重要であり、臨床的に簡便で有用なものは経皮的酸素飽和度(SpO2)で、 SpO2<95%は注意すべきである。
乳児期喘鳴の原因疾患としては、“先天性喘鳴(喉頭軟化症)”や“急性細気管支炎”などが臨床的にはよく遭遇するが、“気管支喘息”との鑑別がしばしば問題となる。時に気管支拡張剤吸入が喘鳴の軽減をもたらす場合があるが、それが気管支喘息発作と診断される根拠になるとはいえない。流行期以外の喘鳴では気管支喘息の可能性が否定できない。小児の呼吸器系の解剖学的・生理学的特徴からわずかな気道狭窄の変化が喘鳴(呼吸器症状)を変化させるため気管支拡張剤の効果の有無だけで喘息と診断する事は危険である。また、“気管・気管支の狭窄や軟化症(血管輪を含む)”、“胃食道逆流現象(GERD: gastroesophageal reflux disease)”も決してまれとは言えず、説明ができない病態では常に念頭に置いておかなければならない疾患である。特に啼泣時に症状が増悪したり、チアノーゼや意識障害を伴う場合には本症を考えて専門医療施設へコンサルトする事が望ましい。さらに、鑑別すべき疾患から“気道異物(気管、気管支)”を絶対にはずしてはいけない。明らかな誤嚥のエピソードがなくても、喘鳴や咳嗽が遷延する場合には気道異物を考慮しなければならない。気道異物は、異物の介在部位によって呼吸器症状が異なるので注意しなければならない。診療上のポイントは喘鳴の程度で重症度を低くみてはいけない事である。陥没呼吸、チアノーゼや意識レベル低下などの所見は気道狭窄の進行を示唆し、呼吸不全の早期徴候と判断し、人工呼吸管理の可能性もあるので高次医療施設へ転院を考慮する。
急性細気管支炎は、下気道感染に伴う気道上皮の変化によるsmall airwayの狭小化が主な病態であるため、特異的な根本的療法はなく、支持療法(酸素投与、加湿、呼吸理学療法、輸液療法、人工呼吸療法など)として呼吸管理が主体である。薬物療法(気管支拡張剤、ステロイド、抗生物質、抗ウィルス薬など)については種々の論議が続いており、未だ整理確立された治療法はない。
呼吸管理、気道浄化療法、および脱水の補正を含めた全身管理が三つの柱である。
SpO2[[92%で酸素投与の適応とされるが、95%以上を維持することが望ましい。臨床症状の悪化に加え低酸素血症(40%酸素投与下で PaO2<60mmHg)、チアノーゼ(100%酸素投与下)または高炭酸ガス血症(PaCO2|92%で酸素投与の適応とされるが、95%以上を維持することが望ましい。臨床症状の悪化に加え低酸素血症(40%酸素投与下でPaO2<60mmHg)、チアノーゼ(100%酸素投与下)または高炭酸ガス血症(PaCO2]]60mmHg)などを伴えば人工呼吸管理を考慮する。
呼吸障害による経口摂取低下(哺乳量低下)、多呼吸による不感蒸泄量増加、および咳嗽に伴う嘔吐などから脱水傾向にある場合が少なくなく、気道分泌物の粘長度増加から粘液栓形成の危険性がある。一方、著明な吸気努力による胸腔内圧の上昇および血中抗利尿ホルモンの増加などから肺内水分量の貯留が促され、容易に肺水腫や水中毒を引き起こすので、過剰輸液にならないように初期輸液の後は適切な補液療法を行い、血清電解質異常(低Na血症など)に注意が必要である。
気道分泌物クリアランスの改善と呼吸補助を主な目的として呼吸理学療法が行われている。しかし、入院を要しない軽症から中等症の症例に対する呼吸理学療法(vibrationやpercussion、体位ドレナージ)は、患児への刺激増加による呼吸状態の増悪と気道収縮などを招くため、AAPでは evidence levelを“recommendation”に留め、ルーチンでの実施を勧告していない。人工呼吸管理下においては、“vibrationや percussion、体位ドレナージ”だけではなく“呼気介助法(forced expiratory technique)”が有効な場合がある。
入院症例の7〜8%が人工呼吸管理を要するといわれ、risk-groupではその頻度が増加する。人工呼吸管理の適応を表ー1に示したが、いわゆる“not doing well”の症例では、救急外来で気管挿管を実施しなければならないこともあり、躊躇しないでタイミングを逃さない的確な判断が要求される。人工呼吸管理が必要となった場合のポイントは、酸素化の保持と換気不全に留意する事である。重症化した場合には、著明な末梢気道狭窄(閉塞)が存在しているので呼出障害(気道抵抗の増大)が高度であり、同時にコンプライアンス低下もみられるため、高炭酸ガス血症を認めるからといって安易に換気回数を増やす必要はなく、呼気時間を充分に保持し、pressure control ventilation(適度な換気量を保持するための吸気圧設定)で管理する。さらに、呼吸仕事量の増大が患児の消耗を助長していると考えられる場合には鎮静薬および筋弛緩薬投与下で人工呼吸管理を注意深く行う。
気管支拡張剤吸入(ベネトリンなど)が、短期間にクリニカルスコアを改善させたという報告があるが、入院期間や罹病期間を短縮させた報告は少ない。本剤の使用は“使用効果が認められた場合”に留めるべきでルーチン使用を避けるべきである。
α-およびβ-作用を持つエピネフリンは気管支拡張効果ばかりではなく肺血管収縮などから肺内水分量増加の軽減に有用であり、β-刺激薬同様、エピネフリン吸入療法は酸素化やクリニカルスコアの改善が報告されている。しかし、入院期間や罹病期間を短縮させるevidenceはなく、ルーチン使用を避けるべきとの勧告が出されている。
ステロイドの治療効果の可否については、未だ論議の的である。種々のステロイドと投与方法(ex.経口prednisolone、静注 dexamethasone、budesonide )においても明らかな有意差がなかったとされている。入院期間、酸素飽和度の改善や人工呼吸管理施行児の予後などに有意差を認めないなど、AAPでは入院治療中のRSVによる細気管支炎におけるステロイド使用は勧告していない。一方で軽症児における発症早期のステロイド投与(皮下注 dexamethasone)が入院率を減少させたという報告もあり、今後さらなる検討が待たれるところである。
本症がウィルス感染症である以上、原則としてルーチン使用を行うべきではない。好発年令が低年齢であること、発熱を伴う場合が多いことや病初期から細菌性感染症が否定しきれない場合などの理由から抗生剤投与がよく行われる。二次性細菌感染症の発症riskも考慮されていたと思われるが、抗生剤投与群の方が二次的細菌感染症頻度が高かったという報告もあり、臨床症状、各種検査結果、培養結果などから細菌感染症合併の可能性が高い場合に限って投与するべきであろう。
broad-spectrum antiviral agentであるRibavirinは我が国では肝炎治療に使用されているが、諸外国のように吸入療法としての承認はされていない。本剤が入院症例の死亡率軽減や人工呼吸管理期間の短縮化に有意差がなかったと報告されている。
Helium-oxygen混合ガス吸入療法、Surfactant投与、吸入furosemide、RSV-IG、吸入 INFα-2a 、rhDNase種々の治療が試みられているが、誌面の都合上省略する。
[補]“シナジス(palivizumab)”:
発症後の治療薬ではないが、ハイリスク児(在胎期間28週以下の早産で、12ヶ月以下の新生児および乳児、在胎期間29〜35週の早産で、 6ヶ月以下の新生児および乳児、過去6ヶ月以内に気管支肺異形成症の治療を受けた24ヶ月以下の新生児、乳児および幼児、先天性心疾患児)のRSV感染症の重症化を抑制するためにRSV流行期間(秋〜春)に15mg/kg/回を毎月1回筋注する。
入院加療を要した急性細気管支炎の回復後に反復する喘鳴や気管支喘息を発症することが知られている。“post-bronchiolitic wheeze”と言われ、RSV感染前に比し肺機能が低下することが報告されている。
呼吸不全徴候があれば当然入院の適応となるが、転院の是非を検討する場合は人工呼吸管理適応の有無が大きなpointとなる。さらにrisk groupでは集中治療を行わなければならない可能性もあり高次医療施設への転送を積極的に検討すべきである。特に6ヶ月未満の乳児では重症化しやすく容易に無呼吸を含めた重篤な呼吸障害へ急速に悪化する場合があるため酸素投与、気管挿管などの呼吸管理を躊躇することなく行い、安全で確実な転送準備を行うべきである。前述したように急性細気管支炎の重症化しやすい危険因子として、生後12週未満の乳児、未熟児の既往、先天性心疾患児、BPD (bronchopulmonary dysplasia)、慢性肺疾患(cystic fibrosisを含む)、免疫不全症、移植後、化学療法中などがあり、注意深い観察が必要である。
1) 新実彰男・宮川武彦・富井啓介 著、泉孝英 編集:症状からみた喘息診療プラクティス,日経メディカル開発 2007
2) 市川光太郎 著:小児救急のおとし穴 (CBRレジデント・スキルアップシリーズ (1),シービーアール 2004
3) 山城雄一郎:新小児科学 (Qシリーズ),日本医事新報社 2005
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