家族性大腸腺腫症 - MyMed 医療電子教科書

MyMed(マイメド)は、究極の医療電子教科書の作成を通じて、利用者のニーズにあった理想的な医療情報サイトを作ろうというプロジェクトです。

MyMed


このページを印刷
最終更新日:2010.11.15

家族性大腸腺腫症(かぞくせいだいちょうせんしゅしょう)

Familial Adenomatous Polyposis : FAP

別名: 家族性腺腫性ポリポーシス

執筆者: 冨田 尚裕

概要

 大腸腺腫症(ポリポーシス)は、通常、大腸に100個以上のポリープが多発する病態と定義されている。表1にその分類を示したが、原因遺伝子の生殖細胞変異を有して遺伝性に発症するものが多く、その代表例が家族性大腸腺腫症(Familial Adenomatous Polyposis:FAP)である。FAP患者では大腸全域にびまん性に~100個~数万個の腺腫性ポリープが多発し、ポリープ数によって5000個以上の密生型とそれ以下の非密生型に分けられることもある。稀にポリープ数が100個未満のattenuated typeと呼ばれるFAPもある。
 後述する原因遺伝子の変異部位などによってポリープの発生には個人差が大きいが、通常、10歳頃までにポリープが出来始め、20歳頃にはポリポーシスの病態がほぼ発現している。大腸癌発生は10歳台の若年での報告などもあるが、年齢と共に頻度は上がり、40歳台でほぼ50%、放置した場合の生涯にわたる大腸癌発生はほぼ100%である。大腸以外の消化管やその他の臓器にも癌を含む様々な病変が発生し、遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)と並ぶ重要な“遺伝性大腸癌“の症候群である。
 全populationにおける頻度としては、欧米では1:10,000、本邦では1:17,400と推測されている。FAPに由来する大腸癌の全大腸癌に占める割合は約0.5~1%とされていたが、現在は家系メンバーのサーベイランスや予防的手術によって若干減少傾向にある。後述するAPC遺伝子の生殖細胞変異(germline mutation)による常染色体優性遺伝形式のものが多いが、近年、MYH遺伝子の変異による常染色体劣性遺伝形式のFAPの存在も報告されている。

表1、遺伝性消化管ポリポーシスとその原因遺伝子

病因

 家系内集積を認め、患者の子供は性差に関係なくほぼ50%の割合で発症することから、常染色体優性遺伝形式の遺伝病であることが従来から推測されており、原因遺伝子の検索が精力的に進められたが、1987年に原因遺伝子が第5番染色体長腕に存在することが報告され、次いで1991年に5q21にある癌抑制遺伝子Adenomatous Polyposis Coli (APC)遺伝子が単離同定された。
 APC遺伝子産物は正常細胞においては、Wntシグナル伝達系において細胞質内のβ―カテニンに結合してこの蛋白の核移行を阻止し、核内の転写因子の働きを抑制することにより、細胞の増殖・分化の制御を司っている。APC遺伝子は、蛋白をコードする15個のエクソンと2個の非翻訳エクソンからなる大きな遺伝子で、FAP患者においては生下時から全身の細胞において、このAPC遺伝子の一方の対立遺伝子に変異を持っている。もう一方の対立遺伝子の変異によってAPC蛋白の機能の不活性化が生じることにより、高頻度に腺腫が発生し、その後は、多段階発癌において証明された種々の遺伝子異常の蓄積により発癌に至ると考えられる。
 APC遺伝子の変異の多くは塩基の点突然変異point mutationや小さな欠損deletion、挿入insertionであり、PCR法によるスクリーニングやDNA sequencingで検出、確定ができるが、大きな欠失large deletionや再編成 gene rearrangementなどの検出にはSouthern blottingやMultiplex Ligation-dependent Probe Amplification (MLPA)法などが必要となる。このAPC遺伝子の変異の種類・部位などの遺伝子型genotypeとポリープや腸管外病変などの表現型phenotypeとの関連(genotype-phenotype correlation)もいろいろ明らかとなってきている。
 またFAPの一部に大腸ポリープ数が比較的少なく、常染色体劣性遺伝形式で発症するものが少数あり、2002年から2003年にはその原因遺伝子として8-oxo-Gの塩基除去修復系に関与するMYH遺伝子が確認同定された。このFAPの亜型については、MAP(MYH associated polyposis)と呼ばれて古典的なFAPと区別されている。これ以外にも臨床上はFAPと診断されるがAPC, MYH遺伝子の異常が検出されぬものもあり、未知の原因遺伝子が他に存在する可能性も示唆されている。

臨床症状

 基本的には大腸病変による症状が主である。大腸ポリープおよび大腸癌からの出血に伴う下血・血便が高頻度(60%)に見られ、次いで下痢、腹痛、貧血などが見られ、肛門からのポリープ脱出や進行した大腸癌による腸閉塞で発症する場合もあると報告されている。また、骨腫、皮膚・腹腔内腫瘤(デスモイド)といった大腸外病変が最初の診断契機となることもある。
 FAPの随伴症候は全身臓器の多岐にわたるが、消化管では、大腸ポリポーシス、大腸癌の他、胃ポリープ(過形成、腺腫)、胃癌、十二指腸腺腫、十二指腸乳頭部癌などがあり、消化管外病変としては、外骨腫、先天性網膜色素肥大(CHRPE)、過剰歯、潜在骨腫、皮様嚢胞、甲状腺癌、肝芽腫、脳腫瘍などである。骨腫や軟部組織腫瘍を合併するものはGardner症候群、脳腫瘍のmedulloblastomaを合併するものはTurcot症候群(FAP型)と呼ばれることもある。

検査成績

 注腸造影や大腸内視鏡検査で大腸のポリポーシスを確認する以外、特にFAPに特異的な一般検査はない。FAPと診断された、あるいは疑う患者においては、前述した大腸以外の多様な随伴症候の存在を考慮した全身検索が重要である。FAP患者とその家系メンバー(保因者)のサーベイランスでは、大腸以外に、悪性疾患である胃癌や十二指腸癌の発見のための定期的な上部消化管検査や腹部のCT検査などが薦められるが、FAPの病変の多様性を考慮すると今後全身のPET/CT検査なども期待される。
 原因遺伝子であるAPCやMYHの遺伝子診断は確定診断ともなるが、ポリポーシスという明瞭な表現型を有する本疾患においては、遺伝子診断の持つ臨床的意義はかなり限られたものとなる。また、遺伝子診断の持つマイナス要因もあり、実施に当たっては個々の症例において慎重に検討されるべきである。

治療

 大腸病変に対しては、生涯にわたる大腸癌の発生率がほぼ100%であることから、手術が第1選択である。手術法としては、大腸全摘・回腸瘻造設術、結腸全摘・回腸直腸吻合術、大腸全摘・回腸嚢肛門(管)吻合術など種々の術式が行われてきたが、癌発生の母地をなくすという観点からは大腸全摘が理に適っており、機能的なメリットも考慮して大腸全摘およびJ型回腸嚢・肛門(管)吻合術が標準手術と考えられる。
 手術の時期については、無症状であれば、社会的、教育的な見地からも10歳代後半から考慮すれば良いが、有症状やポリープ数の多い症例、癌発生の場合は速やかに手術を検討すべきである。しかしながら、非ステロイド系抗炎症剤(non-steroidal anti-inflammatory drugs :NSAIDs)によるポリープの消失や減少の報告もあり、FAP患者に対するこれらの薬剤を用いた化学予防(Chemoprevention)の臨床試験も多く行われており、将来は、手術の時期や方法に修正が加えられる可能性も否定できない。

予後

 予後については、大腸全摘術を受けたかどうか、またその後のサーベイランスの精度や治療手段などによって大きく異なってくる。 FAP患者の死亡原因の1位は大腸癌で約65%を占めるが、FAP大腸癌が一般大腸癌に比して特に生物学的悪性度が高いというデータはない。大腸癌に次いで、デスモイド、十二指腸癌、肺癌、胃癌などが死亡原因の上位を占める。

最近の動向

 FAPは、古典的な“遺伝性大腸癌“であり、ポリポーシスという明瞭な表現型を有することからその診断は比較的容易である。しかしながら適切なサーベイランスが実施されずに進行した大腸癌やデスモイドが診断されるケースもまだまだ多い。発端者の家系メンバーの適切な説明やサーベイランスの重要性も前項のHNPCCと同様である。家系登録とそれを活用した、情報共有・診療連携の体制構築は重要であるが、1975年に東京医科歯科大学ポリポーシス解析センターで宇都宮、岩間らによって開始され、現在、東京の杏雲堂病院に置かれているFAP全国登録システムも昨今の個人情報保護の機運などから万全には機能しておらず、今後のシステム整備が急がれている。
 FAPは大腸のadenoma-carcinoma sequenceのモデルともなる重要な疾患であり、今までの長年にわたる研究が大腸発癌の分子機構の解明にもたらした貢献は非常に大きい。大腸癌の治療戦略の要ともされている大腸癌発生予防の観点からも、現在行われているFAP患者に対する化学予防の臨床試験などは重要であり、今後の成果が期待されるところである。

参考文献

1) 田村和朗、宇都宮譲二、古山順一:家族性腺腫性ポリポーシス、Selected Articles 2007, 121-130, 2007

2) 岩間毅夫、田村和朗、森田隆幸、他:2、家族性大腸腺腫症(大腸ポリポーシス)登録の現況、大腸疾患NOW 25-32頁、日本メディカルセンター(東京)2004年

(MyMedより)推薦図書

1) 笹月健彦・野田哲生 編集:発がんの分子機構と防御 (がん研究のいま),東京大学出版会 2006

2) 佐々木常雄 編さん:がん診療パーフェクト―基礎知識から診断・治療の実際まで,羊土社 2010

3) 佐原力三郎 著・主婦の友社 編集:大腸がん・潰瘍性大腸炎・過敏性腸症候群 (よくわかる最新医学),主婦の友社 2006
 

免責事項

情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

※ この記事に関するご意見をお聞かせください。


このページを印刷

診療科別


※ マイメドでは、疾患項目の追加、および最新情報をお知らせするためにメールマガジンを配信しております。ご希望の方は下記にメールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。
  なお、次の職業の方は、職業をご選択の上、メールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。

メールアドレス: メールアドレス(確認用):
医療関係者の方はご選択ください: