手足口病 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.25

手足口病(てあしくちびょう)

Hand, Foot and Mouth Disease : HFMD

執筆者: 木原 亜古

概要

 手、足、口腔内、臀部に痂皮を形成しない小水疱のできる病気。

 手足口病は、その名が示すとおり、口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性の発疹を主症状とした急性ウイルス感染症である。本症は幼児が多く罹患し、2歳以下が半数を占めるが、学童にも流行的発生がみられることがある。成人の大半は既にこれらのウイルスの感染(不顕性感染も含む)を受けている場合が多いので発症はあまり多くはない。
1950年代後半に認識された比較的歴史の新しいウイルス性発疹症であり、我が国では1967年頃からその存在が報告されている。

病因

 病原体として、非ポリオ・エンテロウイルス群(RNA),コクサッキーA16が主であるが、コクサッキーA10および一部のエンテロウイルス71などが同様の症状をおこすことも知られている。

病態生理


疫学

 感染症サーベイランス事業により、本疾患は国内では他国に比べ、疫学的な研究成果をあげている。1997年から2007年までのHFMD患者に関する感染症発生動向調査によると流行のピークは通常盛夏が多いが、その年の気象状況によるものなのか、流行の始まる時期が若干前後したり、秋から冬にかけても散発してみられることもある。

病態生理

 ヒト-ヒト伝播は主として咽頭から排泄されるウイルスによる飛沫感染によるが、便中に排泄されたウイルスによる経口感染、水疱内容物からの感染などもありうる。便中へのウイルスの排泄が長期間にわたることはよく知られており、症状が消失した後も2〜4週間にわたって感染源になりうるといわれている。腸管で増殖したウイルスが血行性に中枢神経系(特にエンテロウイルスV71)、心臓(特にコクサッキーA16)などに到達すると、それらの臓器の症状を起こす可能性がある。また、いちどHFMDを発病しても、その病因ウイルスに対しての免疫は成立するが、他のウイルスによるHFMDを起こすことは免れないため、同様の病態として一夏に複数回経験することもある。

臨床症状

 3〜5日の潜伏期をおいて、口腔粘膜、手掌、足蹠や足背などの四肢末端に直径2〜3mmの水疱性発疹が出現する。同時に肘、膝、臀部などにも出現することが多い。

 口腔粘膜では小潰瘍を形成する。発熱は約1/3に見られるが軽度であり、38℃以下のことがほとんどである。通常は3〜7日の経過で残して水疱は色素沈着を残して消退し、痂皮を形成することがないのが特徴である。皮膚のかゆみや痛みを訴えることは少ない。大人も罹患することがままあるが、手掌に水疱ができると時に疼痛を伴うことがある。

 稀には髄膜炎、小脳失調症、脳炎などの中枢神経系合併症の他、心筋炎、急性弛緩性麻痺などを生ずることもある。特に、エンテロウイルス71による場合には、死亡率が高いため、中枢神経系合併症に注意する必要がある。1997年から2001年かけて、マレーシア、台湾、日本などにおいて、エンテロウイルス71感染が原因で脳炎を発症し、死亡する例が観察された。多くの症例は急激に進行する肺水腫をきたし、入院後24時間以内に死亡するという劇症型の経過を呈する。数年おきに繰り返されるエンテロウイルス71の流行は、異なる亜群によって引き起こされていることが判明した。新たな亜群が出現し、これが全世界に拡散して世界規模で流行を繰り返していると考えられている。エンテロウイルス71には脳幹脳炎をきたしやすい亜群が存在し、それが流行した場合に神経合併症が多発すること、脳幹障害を基にして神経原性肺水腫あるいは神経原性心不全から肺水腫を呈し、または全身性炎症反応から血管原性肺浮腫をきたして、急速に呼吸不全に陥り、死亡することが示唆される。

病原診断

 通常は臨床症状より診断がなされることが多く、水疱性発疹の特徴的な性状、分布範囲が重要であり、季節や周囲での流行状況なども診断上参考となる。鑑別診断として、口腔内水疱についてはヘルパンギーナ、ヘルペスウイルスによる歯肉口内炎、アフタ性口内炎などが挙げられる。手足の発疹に関しては、水痘の初期疹、ストロフルス、伝染性軟属腫(水いぼ)などが鑑別の対象となる。

 病原診断としてはウイルス分離が有効である。その場合、診断上役立つ材料として水疱内容物、咽頭拭い液、便、直腸拭い液などが用いられる。血清診断は補助的であるが、行う場合には、エンテロウイルス間での交差反応がない中和抗体を測定する。急性期と回復期の血清で4倍以上の抗体価上昇により診断する。

治療・予防

 特別な治療を要しないことがほとんどである。発疹にかゆみなどを伴うことは少なく、抗ヒスタミン剤の塗布を行うことはあるが、副腎皮質ステロイド剤は禁忌である。口腔内病変に対しては、口腔所見の著しさと疼痛は必ずしも関連性がなく、痛みの強さも個人差がある。痛みの強い場合、刺激にならないような軟らかい薄味の食べ物を勧めるが、何よりも水分不足にならないようにすることが最も重要である。場合によっては、アセトアミノフェンの頓用も効果がある。夏に多い疾患のため、季節がら水分の摂取が重要になってくる。基本的に飲める物を飲むのが一番有効な方法であり、一般的には白湯、薄いお茶類、スポーツ飲料などで水分を少量頻回に与えるよう指導する。脱水傾向のある場合には経静脈的補液も必要となることもある。

 発熱に対しては高熱の割合が少ないので、通常解熱剤の必要もなく、経過観察のみで終わることが多い。抗生剤の投与も意味がない。しかし、頭痛、嘔吐、高熱、また2日以上続く発熱などの場合には髄膜炎、脳炎などへの進展には十分注意を払い、早期の診断と治療が求められる。一方、合併症を生じた場合の特異的な治療法は確立されておらず、一般的なウイルス性の髄膜炎、脳炎の治療法に準ずる。効果的な予防もないが、患者に近づかない、手洗いの励行などがあげられる。保育園や幼稚園においては、患者あるいは回復者に対しても糞便中のウイルス排泄が長期間にわたるため、特に排便後の手洗いを徹底させる。また、園でのプール(水泳)の使用は少なくとも治療後10日間の禁止期間をおきたい。手足口病の原因ウイルスに対するワクチンは現時点では開発されていない。

感染症法における取り扱い

 2007年6月施行の感染症法改正に伴い更新。

 手足口病は5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約3,000カ所の小児科定点より毎週報告がなされている。報告のための基準は以下の通りとなっている。

○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を満たすもの。

1. 手のひら、足底または足背、口腔粘膜に出現する2〜5mm程度の水疱

2. 水疱は痂皮を形成せずに治癒

○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの。

学校保健法での取り扱い

 手足口病は、学校で予防すべき伝染病1〜3種に含まれていない。上述したとおり、主な症状から回復した後もウイルスは長期にわたって排泄されるので、急性期のみ登校登園停止を行って、学校・幼稚園・保育園などでの流行阻止をねらっても、効果はあまり期待ができない。本症の大部分は軽症疾患であり、脱水および合併症、ことに髄膜炎・脳炎などについて注意を払えば、集団としての問題は少ないため、発疹だけの患児に長期の出席停止を強いる必要はなく、また現実的ではない。

 よく通常の流行状況での登校登園が問題にされるが、流行阻止の目的というよりも患者本人の状態によって判断すればよいと考える。ただし、送り迎え時などに目のつくようなひどい水疱が散在している場合、他の保護者への配慮からも急性期の数日間は遠慮させたほうがよいかもしれない。

参考文献

国立感染症研究所感染症情報センターホームページ

小児科(vol.48. No.4 p391-397)

RED BOOK (2006、AAP)

(MyMedより)推薦図書

1) 辻村啓 著:わかりやすい感染症,文芸社 2007

2) 馬場直子 著:こどもの皮疹診療アップデイト (CBRアップデイト・シリーズ 2),シービーアール 2009

3) 古川公章・河合直樹・柏木征三郎 他54名 著、泉孝英 編集:外来診療ハンディガイド,日経メディカル開発 2009
 

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