炎症性腸疾患 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.02

炎症性腸疾患(えんしょうせいちょうしっかん)

Inflammatory Bowel Disease:IBD

執筆者: 米沢 俊一

概要

 炎症性腸疾患[inflammatory bowel disease:IBD]は慢性持続性の腸炎を起こす難病である。

 潰瘍性大腸炎[ulcerative colitis:UC] とクローン病[Crohn’s disease:CD]がその代表とされるがいまだ病因不明の疾患群である。

 UCは大腸に限局する慢性非特異的大腸炎で直腸から口側に全周性連続性の粘膜上皮内のびらん・潰瘍を呈する。そのタイプは罹患部位により直腸炎、左側結腸炎、全大腸炎の3型と重症度により軽症、中等症、重症、激症に分類される。

 CDは口腔内から肛門までの全消化管粘膜に全層性の炎症を呈し、裂溝や時に穿孔・瘻孔を形成する。組織学的には粘膜内に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫性病変を呈する。画像診断ではスキップ病変、縦走潰瘍、敷石様粘膜、消化管狭窄、穿孔、癒着などが見られる。食事の欧米化に伴い近年わが国での罹患数が増加している。特にCD患者の増加が著しい。好発年齢は10代後半~30歳であるが、発症年齢が徐々に低年齢化し、15歳以下の症例も増加している。

病因

 未だ病因は不明であるが、(図1)のような免疫学的異常、遺伝学的異常、環境因子、腸内細菌など因子が複合的に作用して、獲得免疫機能、免疫寛容、自然免疫機能が破綻し、さらにサイトカイン異常が生じ、最終的に粘膜免疫の破綻により発症するものと考えられている。


病態生理

 UCについては大腸上皮細胞に限局して生じる持続性慢性炎症である。(図2)に示すように通常は腸内細菌や異種蛋白の侵入に対して大腸上皮細胞の損傷であればサイトカインシグナルが発生し上皮細胞のアポトーシス誘導する。一方粘膜下に侵入した場合は抗原提示細胞が直接活性化され、Tリンパ球から液性免疫優位のサイトカインの分泌が生じ、抗原刺激に見合った抗体産生で抗原は除去される。UCの場合は損傷上皮細胞からの異常なIL-7が産生され、アポトーシス誘導が起こらず、そのレセプター刺激が炎症性サイトカイン(IL-1,TNF-α)を産生し、慢性炎症が持続的に惹起される。また粘膜下に抗原の侵入に対して、抗体抑制サイトカインが減少しているため抗体産生過剰が生じ、上皮細胞に対して自己免疫学的炎症が生じる。



CDについては全消化管粘膜に生じうる全層性の持続性慢性炎症である。(図3)に示すように細菌、ウイルス、食餌抗原の粘膜内侵入に対してマクロファージが異常に活性化され、それによる非乾酪性肉芽腫形成が特徴的である。UCと相違して液性免疫異常は少なく、細胞性免疫過剰による炎症が主体である。

臨床症状

 表1にUCとCDの症状、検査法、確定診断についてそれぞれ示した。



自覚症状

 UCは粘血・血便を主症状として腹痛、下痢が随伴しやすい。CDは腹痛が主体で発熱、下痢が随伴しやすい。

他覚症状

 UCは体重減少、CDは栄養・成長障害、口腔内アフタ、痔ろう、肛門周囲膿瘍である。

検査成績

 表1に示すとおりであるが、IBDに共通する検査成績は貧血、白血球増多症、CRP陽性、赤沈亢進である。独自性のある検査はUCでp-ANCA陽性、CDで血小板増多症、ASCA陽性である。

診断・鑑別診断

 UCの診断基準は特異的大腸炎を除外診断して、内視鏡所見で大腸粘膜のびまん性連続性びらん、潰瘍である。CDは内視鏡所見で全消化管に発生しうる縦走潰瘍または敷石像、あるいはアフタ潰瘍があり、その生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫があれば確定診断される。ただし、成人ではUCともCDとも診断できない例があり、これらには分類困難な大腸炎という概念が提唱されているが、小児おいても鑑別困難な症例が存在するので、その場合はそのまま分類不能例として、治療はCDに則って行う方がよい。

治療

 小児IBDの治療ガイドラインは日本小児栄養消化器肝臓学会の分科会である日本小児IBD研究会のワーキンググループで検討を重ねて、UCは友政らによりCDは今野らにより相次いで作成されている。詳細はその論文を参考にしていただきたい。小児UCの治療アルゴニズムは(図4)に示すとおりである。



 その骨子は重症度と罹患部位に応じた治療選択である。重症度に関しては炎症反応陽性の中等症は重症として扱い、全身状態不良の重症例は激症として扱う。治療の基本はメサラジン、サラゾスルファピリジンとプレドニゾロンである。問題は上記の治療に抵抗性がある場合とステロイドに依存性がある場合である。緩解導入が不良の時に中等症以下の場合は血球成分除去療法、ステロイドパルス療法を選択し、重症・激症例が前述の療法で軽快しない場合にステロイド動注療法、シクロスポリン持続静注療法を加える。これで無効の時は手術療法を選択する。

 ステロイド依存性で再燃を繰り返す場合は6-MPまたはアザチオプリンを併用するが、どちらの免疫抑制薬も効果発揮まで2,3カ月を要するのでその間はステロイドの維持療法か血球成分除去療法をオーバーラップさせる。さらに、再燃時の治療方針の決定には成長を考慮する。

小児CDの治療アルゴニズムは(図5)に示した。



 この指針の骨子は(1)病初期および活動期には原則として入院絶食の上、成分栄養剤による経腸栄養療法が第1選択でメサラジンを併用する。(2)重篤な場合には完全中心静脈栄養療法を選択する。(3)前述の治療で効果がないときに初めてステロイドを併用する。ステロイド漸減中に再発した場合はアザチオプリンを併用する。(4)内科治療により腸閉塞や瘻孔が改善しない場合や成長障害が改善しない場合は骨端線の閉鎖する前に手術を考慮する。以上が成人の治療法と相違するところであるが、治療の薬用量は体重に応じて決定する。

予後

 UCは初回発作型で治癒する場合もあるが、緩解再燃型や慢性持続型がほとんどである。最終的に大腸全摘手術療法により全快するが、術後の合併症として排便障害、排便回数の増多、残存大腸からの再発、盲嚢炎があり、術後のQOL低下が問題である。手術適応はステロイドの総投与量が20g以上になった時、中毒性大腸炎の合併、社会生活が長期に支障を来たした時と考えられる。発症後10年以上を経過すると大腸がん発生の危険があり、定期的な内視鏡観察や粘膜生検が必要となる。

 CDはほとんどの例で完治することは困難である。腸管同士や腸管皮膚の瘻孔形成や、癒着性腸閉塞や潰瘍瘢痕狭窄を来たした場合は手術適応であるが、一度手術すると切開創から再発を来たしやすく、頻回手術の危険があり可能な限り手術は回避するのが原則である。したがってCDの予後はいかに快適なQOLを維持するかにかかっている。

最近の動向

 IBDの病因・病態が明らかになるにつれて病態を根本的に是正する事により完治の方向へ向かわせる治療戦略が検討されつつある。細胞性免疫学的な治療(制御性Tリンパ球の誘導)、腸内細菌をコントロールする治療(プロバイオテイクスの応用)、炎症サイトカインネットワークを抑制する抗サイトカイン療法(抗TNF-α抗体)などで、実際にCDに対する抗TNF-α抗体の定期的静注により緩解維持効果が証明されている。

参考文献

1)米沢俊一:小児炎症性腸疾患の病因・病態. 小児内科 37:1439-1444, 2005

2)友政剛、小林昭夫、牛島高介 他: 小児潰瘍性大腸炎治療指針案. 日児誌108: 611-614, 2004

3)今野武津子、小林昭夫、友政剛 他: 小児クローン病治療指針案. 日児誌109: 815-20, 2005

(MyMedより)推薦図書

1) 日本炎症性腸疾患協会 編集:潰瘍性大腸炎の診療ガイド,文光堂 2007

2) 日本炎症性腸疾患協会 編集:IBDチーム医療ハンドブック―潰瘍性大腸炎・クローン病患者を支援するために,文光堂 2006

3) 日本消化器病学会 編集:クローン病診療ガイドライン,南江堂 2010

4) 斎藤恵子 著、日本炎症性腸疾患協会・福島恒男 編集:潰瘍性大腸炎 患者が本当にききたいこと―129のQ&A付・診療医リスト、安心レシピ,弘文堂 2008

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