MyMed(マイメド)は、究極の医療電子教科書の作成を通じて、利用者のニーズにあった理想的な医療情報サイトを作ろうというプロジェクトです。

MyMed


このページを印刷
最終更新日:2010.07.29

聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう)

acoustic neuroma

別名: 前庭神経鞘腫 | 聴神経鞘腫

執筆者: 斉藤 延人

概要

 聴神経腫瘍とは聴神経(音の刺激を伝達する神経)に発生した神経鞘腫です。神経鞘腫とは末梢神経のシュワン(Schwann)細胞から発生した腫瘍で、聴神経腫瘍は神経鞘腫の中では最も頻度が高いものです。専門家の間では前庭神経鞘腫と呼ばれます。小脳橋角部という場所に発生する代表的な腫瘍です。脳腫瘍全国集計によると神経鞘腫は原発性脳腫瘍の10.3%を占め、40代から60代に多く、女性に1.3倍多く発生する良性の腫瘍です。難聴や耳鳴りで発症することが多く、治療は開頭手術による腫瘍摘出か、ガンマナイフなどの定位的放射線治療の方法があります。

病因

病因と病態生理

 末梢神経のSchwann細胞を発生母地とする腫瘍の1つです。皮膜に被われ、分化した腫瘍性のSchwann細胞から成ります。組織学的悪性度は低い良性の脳腫瘍です。聴神経は3つの神経に分けられ、音の刺激を伝達するものが蝸牛神経、体のバランスに関与するものが上前庭神経と下前庭神経です。聴神経腫瘍はほとんどの場合、上または下前庭神経から発生します。中でも下前庭神経より発生するものが最も多いとされています。また、聴神経のすぐ横に顔の筋肉の運動に関与する顔面神経があり、これらの神経は内耳道と脳幹の間を走行し、小脳橋角部という場所にあります。また、聴神経と顔面神経の近傍には三叉神経と呼ばれる顔の感覚の神経や喉の神経などがあります。前庭神経にできた腫瘍により、蝸牛神経や前庭神経、顔面神経が圧迫され障害を受けて、聴力低下や耳鳴り、めまいふらつき、顔の麻痺などの症状を呈するようになります。

 両側に聴神経腫瘍が発生する病気が知られていて、神経線維腫症(neurofibromatosis type 2, NF-2)と呼ばれます。聴神経腫瘍の2-4%を占めます。発症年齢は一側性の聴神経腫瘍より若く、他の神経鞘腫や髄膜腫、神経膠腫などの腫瘍を合併することも多いのが特徴です。腫瘍が増大するにつれて両側とも聴力を失います。原因となる遺伝子がわかっていますが、根本的な治療はまだわかっていません。

臨床症状

 初発症状は多くの場合、難聴、耳鳴り、めまい・ふらつき感です。腫瘍が小さな初期の段階では、難聴、耳鳴りが主な症状で、難聴が徐々に進行します。難聴はまず高い音から聞こえにくくなることが特徴で、腫瘍が大きくなるとともに聞こえが悪くなります。聴力は急激に低下することもあり、突発性難聴と診断されることもあります。顔面神経を傷害するようになると顔面神経麻痺がみられ、腫瘍のある側の半側の顔表情筋の動きが悪くなります。顔面神経は舌の味覚を伝える神経でもあり、下半分の味覚障害が起こることもあります。腫瘍のサイズが大きくなって三叉神経(顔の感覚の神経)を圧迫するようになると顔面のしびれや痛みがでます。のどの神経を圧迫するようになると飲み込みが困難になったり、しゃがれ声になったりします。さらに大きくなって脳幹や小脳を強く圧迫するようになると、体のバランスや動きが悪くなります。末期には髄液の流れが悪くなって頭蓋内圧が高くなり、意識障害に至ることもあります。

検査成績

神経機能の評価

聴力検査

 純音聴力検査 (PTA: pure tone average)はどのくらいの大きさの音から聞こえるのかを評価する検査です。50dBより大きな音でないと聞こえないようになると、実用的な聴力とは言えなくなります。




 純音聴力検査。横軸が音の高さ(周波数)縦軸が聞こえる音の大きさを表しています。矢印の折れ線の側の聴力が低下しています。

 語音明瞭度検査 (SDS: speech discrimination score)は言葉の判別ができるかどうかの検査で、50dB程度の音で、何%の言葉が判別できるかで評価します。

 聴性脳幹反応 (ABR: auditory brain stem response)は、音刺激により起こる微小な脳波の変化を加算することによりとらえる検査で、聴神経腫瘍ではI〜V波の潜時の延長、II波以降の消失などを認めます。

前庭神経

 カロリックテストは外耳に温水や冷水を入れて眼振をみる半規管の機能を見る検査です。主に上前庭神経の機能を反映する検査と考えられています。聴神経腫瘍では半規管麻痺を認めます。

顔面神経

 顔面神経麻痺を評価するためには次のような動作をしてもらい動きの左右差をみます。目を強くつむる。口をとがらせたり、横に広げたりする。眉毛を持ち上げる。麻痺が強い場合には、まぶたが完全には閉じなくなって眼球が乾燥することがあり、角膜の損傷が問題となります。

三叉神経

 三叉神経は顔面の知覚を伝える神経です。顔面の知覚の低下やしびれ感を評価します。他覚的には角膜反射が三叉神経機能の検査です。こよりなどで角膜に触れたときに瞬目が起こる反射です。聴神経腫瘍では高率に障害されています。

画像検査

 頭部のCTやMRIなどの画像検査で小脳橋角部に腫瘍があることが診断されます。

CT

 単純撮影(造影剤を使わない検査)では腫瘍はわかりにくく、小脳橋角部槽の形態の変化や第4脳室の変形で腫瘍の存在が疑われることがあります。いずれにしろ腫瘍が疑われる場合には造影剤を使った検査により、腫瘍は造影され、はっきりと見えるようになります。画像上は白く描出されます。CTの画像の条件を骨に合わせると内耳道の拡大も確認することができます。


聴神経腫瘍の造影CT像。矢印の部分が腫瘍。

MRI

 MRIではCTと比較して骨の影響を受けにくいので、腫瘍の形態がより明瞭に描出されます。T1強調像で低信号に、T2強調像で高信号に描出され、ガドリニウムという造影剤で白く描出されます。内耳道内に入り込んでいる円形に近い形の腫瘍が描出されれば本腫瘍が疑われます。 CISS (constructive interference in the steady state) 法などは、特に小さな腫瘍で前庭神経や顔面神経、その他の神経との関係を把握するのに有効です。





 上は大型の腫瘍。下は内耳道内に限局した小型の腫瘍。

頭部単純X線撮影

 頭部単純X線撮影では、腫瘍がある側の内耳道が拡大していることがあります。対側に比べて2 mm以上拡大している場合や内耳道径が8 mm以上ある場合には本腫瘍を疑います。

診断・鑑別診断

 本疾患を疑った場合、MRIなどの画像診断で診断が確定します。小脳橋角部に発生する腫瘍との鑑別では、髄膜腫が頻度も多く鑑別の必要があります。その他、類上皮腫や三叉神経鞘腫などがあります。難聴や耳鳴りについては、突発性難聴やメニエル病などの初期診断を得ることもあります。

治療

 聴神経腫瘍の治療には、手術による摘出とガンマナイフをはじめとする定位的放射線治療があります。これに加えて経過観察も選択肢の一つとなります。

手術

 全身麻酔で外側後頭下開頭術により摘出術が行われるのが一般的です。これは耳の後方を切開して頭蓋骨に穴を開け、小脳を露出する方法です。小脳のすきまから奥をのぞくと小脳橋角部に腫瘍が見えるようになります。顕微鏡を用いて精細な作業をしながら腫瘍を摘出します。摘出には超音波メスなども使用され、内耳道内の腫瘍の摘出にはドリルによる骨削除が行われます。顔面神経や聴力を温存するために、術中モニタリングと呼ばれる神経の働きをモニターする方法がとられます。顔面神経のモニターには術中に神経を直接刺激して顔面表情筋の筋電図をモニターします。聴力はABRをモニターします。手術治療は腫瘍が無くなるか小さくできることが最大のメリットで、局所の制御率に優れています。また、摘出した腫瘍を病理検査に出すことで腫瘍の診断を確定することができます。特に腫瘍が大きい場合には摘出術以外に選択肢がありません。手術合併症としては、聴力障害、顔面神経麻痺が起こることがあり、その他の合併症として、髄液漏、髄膜炎、出血、梗塞などがあげられます。

放射線治療

 放射線治療では頭の深部にある腫瘍に対し腫瘍だけに高線量の放射線がかかり、周囲の脳の被爆を押さえることができる方法が開発されています。定位的放射線治療と呼ばれ、ガンマナイフがその代表です。ガンマナイフはコバルト線源からの放射線を多方向から腫瘍に集約することで、腫瘍のみに多くの放射線がかかり、周りの脳にかかる放射線の量を減らす方法です。手術の様に腫瘍をなくすことはできませんが、腫瘍の増大が防げればよいとの考えで局所制御率とか腫瘍増殖抑制効果が効果の判定に使われます。精密に腫瘍に高線量の放射線をかけるために、頭をピンでフレームに固定します。ピンの刺さる部位には局所麻酔を行います。治療は半日で済み、入院期間も通常2泊3日程度です。ただし大きな腫瘍に対しては放射線を集約することができず直径2-3cmまでの小さな腫瘍が治療の対象となります。合併症としては、聴力障害、顔面神経麻痺、三叉神経障害、水頭症の合併があります。また非常にまれですが、放射線による腫瘍の悪性化の可能性があります。

最近の動向

 定位的放射線治療では、聴力障害や顔面神経麻痺などの合併症を下げるために、従来に比較して放射線の線量を下げる傾向にあります。最近では12-13グレイという単位を照射するのが一般的です。また、サイバーナイフなど分割照射も可能な機種が出てきました。

(Mymedより)推薦図書

1) 佐々木富男・村上信五 編集:聴神経腫瘍,医学書院 2009

2) 中川雅文 著:「耳の不調」が脳までダメにする (講談社+α新書 483-1B),講談社 2009

3) 藤巻高光 編さん:患者と読む、患者に話す脳腫瘍Q&A135―脳腫瘍と闘うために、すべてがわかる,メディカ出版 2007
 

免責事項

情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

※ この記事に関するご意見をお聞かせください。


このページを印刷


※ マイメドでは、疾患項目の追加、および最新情報をお知らせするためにメールマガジンを配信しております。ご希望の方は下記にメールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。
  なお、次の職業の方は、職業をご選択の上、メールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。

メールアドレス: メールアドレス(確認用):
医療関係者の方はご選択ください: