急性副腎不全 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.10

急性副腎不全(きゅうせいふくじんふぜん)

Adrenal crisis

執筆者: 朝倉 由美

概要

 副腎皮質ホルモンは生命維持に欠かすことのできないステロイドホルモンであり、急性副腎不全は、生体が必要とする副腎皮質ホルモンが不足・欠乏することにより生じる。ショックを呈する児の鑑別診断として念頭におくべき病態である。多くは、慢性副腎機能不全症の初発症状として、あるいはその維持療法中に強いストレスに対応できない場合に発症する。発熱などのストレスをきっかけに消化器症状が出現し、嘔吐のために経口摂取が不能となり、急速に脱水、低血糖、意識障害を生じ、治療されなければショックから死に至ることもある。
 原因となる基礎疾患は様々だが、急性副腎不全を発症した際の急性期の治療法は共通している。基本は、十分量の副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド)を急速補充することと、輸液による電解質異常・低血糖に対する治療となる。急性副腎不全を疑い、早期に診断・治療を開始することができれば予後は通常良好であるが、診断・治療が遅れれば生命危機をまねく。

病因

 副腎不全は、副腎皮質ステロイド分泌が生体の必要量に達しないときに起こる。両側副腎そのものの病変によりステロイド分泌が低下する原発性と、副腎皮質ホルモンの分泌を調節している脳の視床下部や下垂体の病変に伴い続発的にステロイド分泌が低下する中枢性に分けられる。発症の経過からは急性と慢性に分けられる。副腎不全を起こす基礎疾患は、表1に示すように様々で、診断には専門的知識が必要となる。



 急性副腎不全は慢性副腎機能不全症の初発症状として、あるいは維持療法中に、感染症・発熱・手術・外傷などの強いストレスに十分対応できない場合に発症することが多い。:副腎皮質過形成症:〔congenital adrenal hyperplasia:CAH〕など慢性副腎不全では生理的量のステロイド補充をうけており、発熱などのストレス時には急性副腎不全の予防の目的で通常の3倍程度のステロイドを追加内服するように指導されているが(7.4参照)、増量がおくれたり、嘔吐などのために服用できなかったりするときに発症しやすい。
 また、腎臓病や膠原病などの慢性疾患や自己免疫疾患に対して抗炎症作用を目的にステロイドが投与される場合には、長期間にわたって合成ステロイドが投与されることが多く、脳のコントロール中枢も副腎皮質もともに抑制されるため、ステロイドの急速な減量や中止後に急性副腎不全をおこす。
 合成ステロイドは半減期が長く、中枢に対する抑制効果が強いので副腎系抑制効果は強い。また、経皮的吸収でも抑制がおこるため、皮膚からの吸収率が高く体表面積の小さい乳児では吸収量が多くなり易く、副腎が抑制されることもありうるので、効力の強いステロイド外用薬を広範囲に使用する際には注意が必要である。

病態生理

 副腎皮質からは、鉱質コルチコイド(主にアルドステロンなど)、糖質コルチコイド(主にコルチゾールなど)、副腎男性ホルモンなどのステロイドホルモンが分泌されている。アルドステロンは腎臓の尿細管に作用し、水、電解質の吸収を促進し、血圧上昇、循環血液量増加を促す。レニンーアンギオテンシンーアルドステロン系調節機構を構成し、電解質・血圧のバランスを保つ働きをしている。コルチゾールは生命維持に最も重要な役割を果たすステロイドホルモンで、糖・蛋白質・脂質代謝に対する調節作用、免疫機能調節作用、水・電解質・血圧調節作用などが主な作用である。視床下部―脳下垂体―副腎皮質系調節機構を構成している。これらの作用が急激に障害されることで、電解質異常や循環不全をきたす。原発性ではコルチゾールとアルドステロン両方の欠乏を生じるが、中枢性ではACTHの調節をうけないアルドステロン欠乏は伴わない。

臨床症状

 共通の症状はコルチゾールの不足によるものであるが、急性副腎不全に特異的なものはなく、また全てがそろっているとは限らない。原因不明のショックでは常に念頭におく。

 全身倦怠感、消化症状(腹痛、悪心、嘔吐)、脱水症状、循環器症状(頻脈、低血圧、ショック)、体重減少、意識障害(傾眠から昏睡まで)、痙攣、色素沈着(慢性原発性副腎不全に伴う場合に、全身、口唇口腔、外陰部、乳輪、爪床などが黒ずんでみえる。中枢性では認められない)、

 感冒・発熱、外傷等ストレスをきっかけに、嘔気・嘔吐から経口摂取不能となり、低血圧、末梢循環不全、意識障害、痙攣を発症し、治療されなければ致命的状態(ショック/死亡)に陥る。

検査成績

診断・治療に必要な検査


身体所見: 血圧、脈拍、体重、体温、呼吸、脱水の程度、皮膚色素沈着

 採血: 血清電解質、血糖、血液ガス分析、は必須。その他、血算、BUN、クレアチニン、CRP、凝固能、などを同時に検査する。ACTH、コルチゾール、PRA、アルドステロンなどは、初発時には必須となるが、それ以外では必要に応じて採取する。

 初発時には、治療前の血清・血漿・尿をできるだけ凍結保存する。基礎疾患診断に役に立つ。

検査結果


 低Na血症、高K血症、低血糖、BUN・Cr高値、代謝性アシドーシス

 ストレスの原因になった感染症にともなう検査所見

 コルチゾール低値、ACTHは原発性で高値、中枢性では低下または正常、PRA上昇

診断・鑑別診断

 診断には病歴が重要となる。慢性副腎不全症の既往の有無、合成ステロイド剤の長期服用や外用剤の使用とその中断、きっかけとなる感染や外傷がないかなど確認する。病歴、身体所見、血液一般検査により急性副腎不全の診断は可能である。慢性副腎不全症の既往があれば診断は難しくないことが多いが、初発症状の場合は診断には苦慮することがある。原因不明のショックでは念頭におくことが大切である。急性副腎不全と診断されれば、基礎疾患の検索よりも初期治療が優先する。基礎疾患に関してはそれぞれの病態にあわせて治療前に採取した血液・尿中のホルモンや代謝産物、特異的な検査の追加を組み合わせて検討するが、専門的知識が不可欠である。

治療

 速やかに静脈を確保、点滴輸液を開始し、十分量の糖質コルチコイドの投与を行う。

糖質コルチコイド


 静注用ヒドロコルチゾン(ソル・コーテフ、サクシゾン、水溶性ハイドロコートン)を、新生児・乳児では25~50mg、幼児50~100mg、学童以上100~200mg、急速静注する。静注が困難な場合は筋注もやむをえない。続けて初期投与量と同量を24時間で均等に持続点滴静注する。鉱質コルチコイド分泌不全を伴う場合でも、大量のヒドロコルチゾン投与中は鉱質コルチコイドとして酢酸フルドロコルチゾン(フロリネフ)の投与は必要ない。

輸液


 循環血液量の確保、電解質の補正、低血糖治療、アシドーシスの治療を目的に行う。まず、Kを含まない初期第1輸液溶液(ソリタT1・ソルデム1)、あるいは生理食塩水にブドウ糖を加えた (Na 90~130mEq/l、ブドウ糖(5~10%)液、10~20ml/kg/hrを1~2時間急速輸液する。その後、必要な水分量や電解質、アルカリ量を計算して輸液を調節し、24~48時間かけて補正を行う。Kは正常化したら維持量を開始する。

低Na血症


 Na 補正量(mEq)=(135-実測血清Na)×体重(kg)×0.6

 Na維持量(mEq)=50mEq/m2/日

 補正に要するNa量と維持量を24~48時間で投与する。補正速度は1時間あたり1mEq/l/hrを超えないようにする。

脱水


 水分欠乏量(中~高度脱水症では体重の10%程度)の1/2量と維持輸液量を24時間で投与する。ただし、副腎不全では中毒になり易いので過剰にならないように急激な補正は避けるようにする。

 維持輸液量は1日量として乳児100ml/kg、幼児70ml/kg、学童50ml/kgを目安とする。

低血糖


 急性副腎不全時の意識障害、痙攣は低血糖によることが多い。低血糖と判明したら、20~50%ブドウ糖液を直ちに静注し、輸液の糖濃度を5-10%とする。

アシドーシス


 アシドーシスが著しい時は、重炭酸Na(メイロン)を輸液に追加し補正を行うこともあるが、通常は輸液とステロイド投与のみで改善する。

高K血症


 血清Kが著しく高く、心不全の危険のある場合には、陽イオン交換樹脂(ケイキサレート(Na塩)またはカリメート(Ca塩))1g/kgを10%ソルビトール液または微温ブドウ糖液にて懸濁し、注腸する。すでに不整脈が認められればグルコン酸カルシウム(カルチコール0.5ml/kg(最大 10ml) を5% ブドウ糖 (20ml) で希釈し10分で静注する。

経口投与への移行


 これらの治療により重篤な状態を脱し全身状態が改善されたら、2日目以降は状態にあわせて糖質コルチコイドを徐々に減量する。経口摂取可能となったら、糖質コルチコイドとしてヒドロコルチゾン(コートリル)、必要に応じて鉱質コルチコイドとして酢酸フルドロコルチゾン(フロリネフ)投与による経口治療に移行する。糖質コルチコイドは数日~数週で維持量にする。

急性副腎皮質不全の予防


 慢性副腎不全のため生理的なステロイド量で補充治療中に、手術や抜歯などストレスが予測される際には、急性副腎不全発症予防のために、入院前日や処置当日の朝から維持量のヒドロコルチゾンを2~4倍に増量して内服し、処置開始時より静注用ヒドロコルチゾン大量投与と維持輸液を開始する。また、高熱などが持続する場合には維持量のヒドロコルチゾンを3倍に増量して内服するようにするが、経口摂取ができない場合には、経静脈的投与が必要となる。

マススクリーニング発見の新生児CAH


 CAHのうち頻度の高い21-OHDに対しては新生児マススクリーニングが施行されている。マススクリーニングで発見された患児では、初診時に急性副腎皮質不全を伴うとは限らない。脱水、低Na血症を伴う場合には7-1,2の治療法を行うが、伴わない場合には、ヒドロコルチゾンの経口治療で開始することができる。男性化兆候や電解質異常の明らかでないマススクリーニング陽性例はすみやかに専門医にゆだねるべきである。また、マススクリーニングでは発見されないCAHがあり、日本人ではStAR gene変異によるリポイド過形成症が比較的多い。マススクリーニング正常でも副腎皮質過形成症が除外されたことにはならないので注意が必要である。

予後

 維持療法中の急性副腎不全では病歴から診断が付きやすく、早期治療により一般的に予後は良好である。初期治療で改善の傾向がみられない場合は専門医に紹介する。一方、診断が遅れ、初期治療が遅れると生命危機をきたす。急性副腎不全が初発症状の場合は基礎疾患の確定は難しいことが多く、できるだけ早期に専門医にゆだねるべきである。外性器異常を伴う慢性副腎機能不全症は少なくないので、新生児に外性器異常を認めた場合は副腎機能不全の合併を念頭において病態を検討することが必要である。

参考文献

1) 前坂機江、副腎皮質機能低下症、専門医による新小児内分泌疾患の治療、田苗綾子、前坂機江、田中敏章、横谷進、立花克彦 編著 診断と治療社 pp105-114、2007

2) 安達昌憲、急性副腎不全、小児科当直医マニュアル 改訂11版、 診断と治療社 pp184-187, 2007

3)  Migeon C.J., Lanes R, Adrenal cortex: Hypo- and Hyperfunction. Pediatric Endocrinology fifth edition Edited by Lifshitz F. informa pp195-225

(MyMedより)推薦図書

1) 藤枝憲二 編集:小児内分泌疾患鑑別診断チャート,診断と治療社 2009

2) 五十嵐隆 著:小児腎疾患の臨床,診断と治療社 2010
 

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