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エルシニアは、腸内細菌科のエルシニア属に属するグラム陰性桿菌で、ヒトに対して病原性が確立しているのは、Yersinia enterocolitica(以下Y.ent)と、Yersinia pseudotuberculosis(以下Y.pstb)、Yersinia pestis(ペストの原因菌)であるが、ペストは今や絶滅しているので一般にエルシニア感染症とはY.entとY.pstb感染症をさしている。
Y.entもY.pstbも25℃では運動能力があるが、37℃では運動を停止する。-1℃から45℃までの広い温度域で発育できる。
Y.entでは6種の生物型と60種類以上の血清型があり、ヒトから分離されているものでは、血清型O:3、O:5.27、O:8、O:9、生物型2,3,4に属するものが重要である。本邦では血清型O:3が多いが、近年は病原性が強く敗血症を起こしやすいO:8による報告もみられている。
Y.pstbでは6種類の血清型( I ~ VI )と4亜型に分けられており、世界的には I 、 II ( I > II )が多いとされるが、本邦では IV 、 V 、 II 型の報告が多い1)。
一般的に頻度が高いとされるY.entは本邦からの報告は少ないが、細菌性腸炎に占める頻度は、キャンピロバクタ、サルモネラに次いで3番目に多いとされる。Y.entの正確な発症率は国外でも不明であるが、下痢を呈した患者の便からの分離率は、ヨーロッパ、米国、ニュージーランドから0~3.2%であったという報告がある2)。欧米ではY.entもY.pstbも冬季に多いとされるが、本邦ではY.entに関しては夏季の報告が多い。
感染経路としては、豚、羊、ウシなどの家畜や、犬や猫などのペット、野生動物に広く分布し、糞便で汚染された食肉、生乳、山水・井戸水や動物との接触などが感染源であり、伝播経路は経口感染が主である。また糞口経路によるヒトーヒト感染も想定される。4℃でも増殖できるため冷蔵保存期間中の増殖が症状発現に関与し、輸血によるY.ent敗血症の報告もあり50%でショックや死亡が起こるとされる3)。
Y.entの潜伏期間は典型的には4~6日間であるが、1~14日間と幅がある。Y.pstbの潜伏期間も同様に41時間~20日間と幅がある。本菌は小腸に存在するM細胞を経て粘膜固有層へ入る。ついで腸管膜リンパ節へ移行し増殖して全身へ播種する。小腸の炎症が進行すると潰瘍を形成し、便に多核白血球や赤血球を混入する。エルシニアは鉄を必要としているとされ、溶血性貧血やサラセミアなどの頻回の輸血を要する鉄過剰者は菌血症のハイリスク群である4)。またその一方で鉄キレート化剤は本菌の発育を促し多核白血球の防御能を阻害するとされ、鉄過剰者におけるdeferoxamine投与も菌血症の独立した危険因子となる2,3,5)。その他糖尿病、悪性腫瘍患者、免疫抑制薬使用者、慢性肝疾患、アルコール依存者、低栄養、高齢者も菌血症や局所転移性感染のハイリスク群となる。
Y.entの多くは大腸菌の耐熱性エンテロトキシンに類似した毒素を産生する。
Y.pstbは、スーパー抗原活性をもつ外毒素(Yersinia pseudotuberculosis-derived mitogen:YPM)を産生し、T細胞の増殖や炎症性サイトカインの産生亢進を惹起することが指摘され、川崎病様症状を呈する要因と考えられてきている。本邦、韓国、極東ロシアを含む極東と、ヨーロッパなどとの臨床症状の違いはYPMを産生する血清型の頻度と関係があると想定されている。本邦や極東ではYPMを産生する血清型の頻度が高く、ヨーロッパでは低い(YPMを産生しない1aが多い)1,6)。また幻の病気とされる泉熱はY.pstb感染症であったと推測されている。
Y.entの小児における感染後の菌の排泄期間は14日~97日(平均42日)とされる。
症候性感染は小児で多いとされる。Y.pstbは臨床症状のある患者の少なくとも75%は15歳以下とされる。Y.entはやや男子に多いとされ(男女比1.3:1)、Y.pstbも男児が女児より3倍以上の罹患率を示したという報告がある2)。
エルシニア感染症の臨床病型としては、(1)胃腸炎型、(2)回盲部病変型(回腸末端炎、腸間膜リンパ節炎、虫垂炎型)、(3)結節性紅斑型、(4)敗血症型、(5)関節炎型(反応性)に大きく分けられる。
Y.entによる症状では、年少児では胃腸炎型(嘔吐、下痢、腹痛、発熱)が多く、その症状は1~3週間持続するが、再燃することもある。その他、頭痛、発疹、関節痛、滲出性咽頭炎、肺炎などを呈することもある。年長児では回盲部病変型による偽虫垂炎症候群(発熱、右下腹部痛)が多い。重篤な合併症として、腸管穿孔、直腸出血、腸重責などがある。乳児とくに3ヶ月未満は菌血症の合併が多い。
Y.pstb感染症の主要症状は、発熱・腹痛・猩紅熱様発疹であり、病型としては腸間膜リンパ節炎が多い。下痢や回腸末端炎は比較的稀であり、便培養も陰性であることも多い。本邦では特に西日本からの報告が多く上記に加え2峰性・3峰性の発熱(40%)、眼球結膜充血(20%)・苺舌(40%)・頚部リンパ節腫脹(10%)・回復期の四肢末端の落屑(80%)などの川崎病様症状、若年性関節リウマチや血管性紫斑病類似の症状、腎不全など多彩である。武田らは川崎病の診断基準を満たしたものが12.8%(冠動脈病変2.8%)、急性腎不全(急性間質性腎炎が主体)を11%に認めたと報告している6)。
反応性関節炎は下痢出現ののち数日から1ヶ月後に発症し、多くは2~14日間かけて次々と数関節に出現していく。3分の1では4ヶ月以上持続するとされるが、慢性化は少数である。HLA-B27の保有者に多いとされ、エルシニア抗原との類似性が想定されている。関節液の多くは25000/mm3未満(多核白血球が優位)であり、通常培養は陰性である3)。
結節性紅斑は男女比が1:2と女性に多く、典型的には熱や腹痛から2~20日後に下肢や体幹に発症し多くは1ヶ月以内に消失するとされる。また結節性紅斑の病因は不明である。
Y.entのまとまった報告は欧米で多い。血液検査ではWBC15000/μl以上(61%)、Band15%以上(41%)、単球800/μl以上(71%)を呈する7)。細菌性腸炎を示唆する便中白血球は比較的よく認める。
Y.pstbは本邦から報告が多く、WBC上昇(核の左方移動、好酸球・異型リンパ球増加)、CRP・赤沈上昇、血小板増加、肝機能障害を認めるとされる8)。
右下腹部痛、発熱を主訴とした偽虫垂炎症候群の場合、症状と身体所見のみでは虫垂炎との鑑別が困難なことがあり、腹部超音波断層検査や腹部CTなどの画像的検索が必要となる。虫垂炎が否定され、急性の回腸末端炎や腸間膜リンパ節炎を疑う場合に想定される病原体はエルシニア以外にも存在するため注意を要する。回腸末端炎ではサルモネラ、カンピロバクタ、大腸菌などが、腸間膜リンパ節炎では結核、アデノウイルス、エンテロウイルスなどもある2)。 Y.pstbにより川崎病の診断基準を満たすような症例の場合、現実的にはその鑑別は困難となる。
診断については、基本は便培養からの検出であるが、通常の培養法では他の腸内細菌の菌の増殖が勝り本菌の同定が困難である。例えばMacConkey寒天培地にも発育可能だが、通常の37℃の培養では他の腸内細菌よりコロニーが小さいため分離が困難である。CIN(Cefsulodin-Irgasan-novobiocin)培地などのエルシニア選択培地で25℃、48時間行うのが推奨される。ただしY.pstbの中にはCIN寒天培地に生育しにくい菌株もあるためMacConkey寒天培地も併用する。またこれらの培養法でも検出できない場合、糞便を直接リン酸バッファーに入れ増菌する低温増菌法(4℃~6℃で4週間まで)はエルシニアの分離率を高める可能性があり施行する価値がある。多くの検査施設は本菌の分離に必要な手順をルーチンには実施していないため、エルシニア感染症を疑う場合、その趣旨を検査施設に伝えなければならない。一般的には便からの分離は胃腸症状にかかわらず初期の2週間は陽性になる2,3,9)。
また血液、髄液、リンパ節、腹水など本来無菌的な部位からは標準的な培地で分離可能である。
抗菌薬の投与などの影響で培養陰性の場合、凝集素価の上昇が参考になる。ペア血清で4倍以上、単血清では160倍以上で一般的に陽性とするが、Brucella、Vibrio、大腸菌、サルモネラなど他の菌と交叉反応することがありその解釈には注意を要する。凝集抗体は発症早期に上昇し、2週目にはピークに達し、2~6ヶ月以内には消失するのが一般的とされる。そのため急性期にとられた検体でもすでに抗体価は上昇していることがあり、4倍以上の上昇が得られないこともある3)。
反応性関節炎などの非化膿性合併症では、消化器症状がはっきしないこともあるため、疑われる場合は便培養や抗体検査を行う。
ELISA法によるエルシニア抗体価や PCR法に関しては、現段階では研究的方法である。
エルシニア以外の細菌性腸炎も同様であるが、胃腸炎症状は抗菌薬を使用しなくても基本的にはSelf-limitedな経過をとり、抗菌薬の使用に関しては、(1)腸内の正常細菌叢を抑制することで排菌が延長したり、(2)偽膜性腸炎などの抗菌薬関連下痢症の発症、(3)耐性化の問題があることも考慮する。また、現時点でエルシニアに関しての抗菌薬の有効性は確立されていない。よってエルシニア腸炎や腸管膜リンパ節炎のみでは、基本的には抗菌薬の適応はない2,4)。Y.entによる腸炎に対しての抗菌薬使用は、エルシニアに対するIgG抗体の陽性期間を短くするとされる3)。
一般に、エルシニア感染症において抗菌薬の適応となるのは下記のような状況である。3ヶ月未満、免疫不全(悪性腫瘍、鎌状赤血球症、サラセミア、HIV、免疫療法をうけているもの、先天性心疾患や無脾症)、慢性消化管疾患、高熱を伴う重症あるいは遷延性腸炎、菌血症(疑い含む)、人工物挿入者、溶血性疾患、局在性感染(疑い含む)。
選択される抗菌薬はアミノグリコシド、第3世代セファロスポリン(セフォタキシム)、ST合剤、フルオロキノロン、テトラサイクリン、クロラムフェニコールなどがある2,3,4,9)。
ただしアミノグリコシド、第3世代セファロスポリン以外は、小児の場合、年齢によっては禁忌となるため注意を要する。(テトラサイクリン系は骨発育不全・永久的な歯牙着色などがあるため8歳以下の小児は原則禁忌である。キノロン系は関節軟骨障害の可能性があるため小児は原則禁忌である。クロラムフェニコールは、用量非依存性に数万人に1人の確立で不可逆性の再生不良性貧血を起こすだけでなく、新生児では肝臓での代謝が悪く致命的なグレイベイビー症候群のリスクがある。ST合剤、セフトリアキソン、セフォペラゾンなどの蛋白結合能の高い抗菌薬は核黄疸のリスクがあり新生児には推奨されない。これらの抗菌薬は他に代替薬がなく、メリットが副作用を上回る場合には考慮される。)またセフロキシム、セフタジジム、セフォペラゾンでの治療失敗例が報告されている3)。重症感染症では大抵、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、ゲンタマイシンに反応するとされ、全身性感染症などでは第3世代セファロスポリンとアミノグリコシドの併用例の報告もある。また伝統的なエルシニアの治療とされてきたテトラサイクリンは最近耐性化がすすんできている2)。
Y.entはβラクタマーゼを産生するためペニシリンや第1世代セファロスポリンに耐性を示す3)。Y.pstbはアンピシリンにも感受性があるとされるが、In vivoでは抗菌薬の有効性は明らかではなく解熱期間にも差はない8)。
川崎病の診断基準を満たす場合、アスピリンやガンマグロブリン大量療法を含めた治療管理が必要となるが、エルシニア感染症を認めない川崎病に比較しその治療効果は低いとされる。反応性関節炎に対しては、非ステロイド性抗炎症剤、関節内ステロイド、理学療法を考慮する3)。
その他、発熱、腹痛、下痢などに対しては、必要に応じて輸液などの対症療法を行う。
免疫不全者や低年齢児などは敗血症のリスクが高く、また敗血症の死亡率は50%以上とされ、適切な抗菌薬療法が望まれる。基礎疾患のない胃腸炎などの予後は一般に良好である。Y.pstb感染症により冠動脈病変を併発した場合はその長期管理が必要となる。急性腎不全は1~2ヶ月の経過で回復する。
感染源となりうる動物との接触を避け、手洗いの励行、食品の安全取り扱いの徹底が重要である。特に豚の食肉取り扱いは注意すべきであり、生肉や小腸を取り扱う者が年少児をケアすることは避け、不十分な加熱も危険である。低温殺菌されていないミルク、井戸水や山水などの汚染水も避けるべきである。献血者は、最近の発熱、腹痛、下痢などについて問診をおこなわれるべきである。ワクチンは今のところ存在しない3,4,)。
症例:3歳、男児。
主訴:発熱、腹痛、発疹。
既往歴・家族歴:特記事項なし。
現病歴:
入院7日前から間欠的な腹痛、38℃の発熱、腹部・手背・膝窩・両下腿・足背に掻痒感のない径1mm大の皮膚色の丘疹が散在性に出現した。入院6日前、咽頭痛を訴え近医を受診し、溶連菌とインフルエンザウイルスの迅速検査行うも陰性であった。その後発熱は39~40℃と上昇したが丘疹は消失した。入院5日前、近医受診し、セフカペンを処方された。入院4日前より、泥状から水様の下痢が1日1~2回程度出現した。入院3日前、解熱したが、咽頭痛・腹痛持続し、近医受診し、アデノウイルス迅速検査施行されたが陰性、血液検査ではWBC5000/μl、Hb12.6g/dl、血小板13.4万/μl、GOT264IU/l、GPT196IU/l、CRP3.05mg/dlと肝機能障害、軽度の炎症反応増加を認めた。腹痛に対しては浣腸が施行された。入院1日前、精査加療目的にて当科紹介となった。来院時、体幹に紅斑出現し、腹痛は強くなく、WBC13500/μl、Hb12.8g/dl、血小板16.3万/μl、GOT98IU/l、GPT100IU/l、CRP1.65mg/dlの検査結果を認めた。帰宅後、再び発熱が出現、腹痛増強し、翌日入院となった。
入院時現症:
咳嗽・鼻汁や嘔吐は認めない。経口不良、尿量低下を認めた。バイタルは、体温38.7℃、血圧124/60mmHg、脈拍数132回/分、呼吸数30回/分。全身状態はやや不良であったが、意識は清明であった。皮膚には、体幹・四肢に直径数mm大の紅丘疹を認め、四肢末梢部には軽度の浮腫・発赤を認めた。Capillary refillingは3秒と軽度遅延していた。髄膜刺激徴候はなく、明らかな眼球結膜充血も認めない。咽頭発赤・苺舌・口唇潮紅などは認めないが、口唇亀裂を認めた。頚部リンパ節腫脹はなく、胸部に異常所見を認めない。腹部は、平坦、軟で、肝脾腫も認めない。腸雑音は軽度低下、腹痛の部位は臍周囲のようであるが啼泣のため詳細な把握は困難であった。本患児の、前腕部の数mm大の紅丘疹を示す。同様の所見を体幹や下肢にも認めた。掻痒は認めなかった(図1)。

入院時検査所見(表1)

生化学検査では、軽度の肝機能障害、LDHの増加、低Na血症、CRPの軽度上昇を認めた。血液一般検査では、WBCの上昇、分画では好中球の増加、単球の増加を認めた。赤沈は51mm/hrと亢進していた。尿検査では、ケトンが3+で、蛋白は1+であった。便検査では、塗抹では多核白血球は1視野5個未満と陰性であり、その他ロタウイルス、アデノウイルス、O157、Clostridium difficileの抗原検査も全て陰性であった。
腹部レントゲン(図2)
緑色の○で囲んだ領域に、右下腹部に周囲の消化管ガスを圧排するMass effectを呈する領域を認めた。

腹部超音波断層検査(図3)
回盲部、上行結腸を中心に腸管壁の著名な肥厚を認めた。

腹部造影CT(図4、図5)


啼泣にて、超音波では十分な評価が困難であったため、腹部造影CTを施行。結腸肝湾曲部の腸管壁肥厚を認めた。上行結腸、回盲部の腸管壁肥厚、さらに腸管膜リンパ節腫大を認めた。虫垂の最大外径は5.7mmであり虫垂炎の所見は認めなかった。
入院後臨床経過(図6)

入院当初は、川崎病も鑑別に考え、心エコーも施行したが、冠動脈を含め異常は認めなかった。入院時の問診で、発症4日前にサファリパークにて羊や鹿と接触していることが判明した。腹痛、再発熱、発疹、下痢を認め、画像検査より腸管膜リンパ節炎、回盲部中心に腸管壁肥厚を認め、エルシニア感染症が最も疑われた。入院翌日の第9病日の時点で、発熱・腹痛持続、全身状態もやや不良であり、Albも2.7g/dlと低下、尿量低下、浮腫も認め、エルシニアの敗血症の可能性も考慮し、ゲンタイマイシン5mg/kg/dayの投与を開始した。ゲンタマイシン投与翌日より解熱傾向を認め、全身状態・腹痛も徐々に軽快していった。第11病日、入院時の便のエルシニア選択培地からエルシニアエンテロコリチカが検出され、エルシニア感染症と確定診断した。血液培養は陰性であった。
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2) 平山宗宏 著・岡部信彦 著:感染症 最新改訂12版・特装版―幼児から高校生まで (写真を見ながら学べるビジュアル版新健康教育シリーズ),少年写真新聞社 2010
3) 原田研介 監修:患者と家族のための川崎病Q&A,ライフサイエンス 2006
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