ヒルシュスプルング病類縁疾患 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.15

ヒルシュスプルング病類縁疾患(ひるしゅすぷるんぐびょうるいえんしっかん)

Pseudo-Hirschsprung's disease

執筆者: 中原 さおり

概要

 ヒルシュスプルング病類縁疾患(以後本疾患群)とは、ヒルシュスプルング病に類似した腸管運動不全を示す様々な機能的腸閉塞疾患の総称であり、多くの異なる病因・病態より構成される複雑な疾患群であることをまず理解しておかねばならない。 本疾患群の発生頻度は非常に低く、病因・病態についても不明な点が多く、また、報告者によって診断基準や概念が異なることもある。このため、本疾患群の理解に混乱することもしばしばであるが、本稿ではPuriおよび窪田の分類にしたがって論じていくこととする。

病因

 病因については不明な点が多く、まだよくわかっていないというのが現状であるが、MMIHSやCIIPSなど組織学的には異常の認められないものでは、腸管運動不全の原因は電気生理学的検討や平滑筋の電顕的検討の必要性が示唆されている。Rollesup/supらのMMIHSの電顕的検討からは、全例平滑筋細胞の異常が認められたことからMMIHSはmyopathyとして報告されている。一方で最近の動物モデルでは、アセチルコリンのニコチン受容体α3 subunitのノックアウトマウスが、MMIHSと同様の表現型を示すことが報告され神経原性の異常であるとされており、混沌としている。

 また、腸管運動のペースメーカー作用や神経伝達のneurotransmitter作用を持つことが知られているCajal細胞の欠如や減少が関与していることや、nonadrenergic noncholinergic(NANO nerve)の神経伝達物質として同定されたNOが平滑筋の弛緩に関与していることなどが報告されており、今後の研究による本疾患群の病因究明が待たれる。

病態生理

 ヒルシュスプルング病では、病変部で腸管神経節細胞が完全に欠如しているため、病変部の腸管運動が起こらないことは容易に理解され、これより口側の腸管の拡張、腸閉塞症状が起こるわけであるが、ヒルシュスプルング病類縁疾患では、神経節細胞数が減少していても増加していても、また、あるいは神経節細胞には組織学的な異常が認められなくても適切な腸管運動が起こらない。病因はさまざまであるが、結果的に腸管運動不全が起こり腸閉塞症状を呈する状態である。

臨床症状

 ヒルシュスプルング病類縁疾患には出生後早期から腹部膨満と嘔吐、胎便排泄遅延、重篤なイレウス症状を呈するものから頑固な便秘を臨床症状とするものまで重症度は多彩である。また、イレウス腸炎を繰り返すこともしばしばである。

検査成績

 新生児期に排便障害や腹部膨満症状が続くのにもかかわらず、検査所見上ヒルシュスプルング病に矛盾する結果を得た場合には、ヒルシュスプルング病類縁疾患の可能性を考慮する。現在、ヒルシュスプルング病の診断は、注腸造影、直腸粘膜生検、肛門内圧検査と臨床症状により総合的に判断されている(詳細は他項を参照)が、これらがヒルシュスプルング病に合致せず、それぞれの疾患ごとに以下のような所見を得ることが多い。

hypogangliosois:

 注腸所見は一定したものはなくmicrocolon, semimicrocolonなどの所見を示すが、caliber changeは不明瞭であり、また、細めではあるが狭小ではない直腸を認めるsup/sup。 先にも述べたように直腸粘膜生検で粘膜下に神経節細胞を認めず、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)陽性神経線維の増生を認めない。確定診断には腸管の全層生検が必要であり、神経節細胞の減少とAChE陽性神経線維の減少に加え、粘膜筋板や筋層の肥厚が認められる。

immature gangliososis:

 注腸検査ではmicrocolonまたは左半結腸の狭小化を示すことが多く、直腸肛門反射は新生児期には陰性か非定型的なパターンを示すが、数ヶ月後には陽性化し直腸粘膜生検でAchE活性の増強を示さない。診断には小さな神経節と小さな神経節細胞を同定することが必要である。児の成長・発達により症状軽快し、組織学的所見も正常化することが多く2歳ごろまでは保存的に治療する。2歳頃の再評価で神経節細胞の大きさが正常の50%以下のものをHolschneidersup/supらはhypogenesisと呼んでいる。

IND:

 注腸検査ではヒルシュスプルング病に特徴的な狭小部やcaliber changeは認められないことが多く、直腸からS状結腸にかけての拡張像が認められることが多い。直腸粘膜生検では数の異常だけでなく、巨大神経節細胞や粘膜固有層の異所性神経節細胞を認める。AChE陽性神経線維の増生もあるとされる。ヒルシュスプルング病に合併する場合や二次性の変化の可能性もあり、診断基準はいまだコンセンサスを得れていない状態である。本症の90%は約4年の経過で保存的治療により軽快するといわれている。この間イレウス症状の改善のために一時的に腸瘻造設が必要なる症例もある。

CIIPS, MMIHS:

 注腸検査ではCIIPSでは特徴的な所見はないが、MMIHSではその名の通りmicrocolonを呈する。両者とも直腸粘膜生検では組織学的異常を認めず、現実には診断は臨床的な所見をもとに行われることになる。

治療

保存的治療:


 本疾患群の根源となる腸管蠕動不全に対し、消化管運動促進剤としてクエン酸モサプリド(商品名ガスモチン)、エリスロマイシン、大建中湯などが用いられる。栄養管理は可能であれば経腸栄養剤で、それでもイレウス症状や腸炎を発症する場合には中心静脈栄養を併用するが、反復する腸炎による敗血症、カテーテル感染による敗血症を頻発しルート確保に難渋することも多い。微量元素の欠乏症のうち未だ栄養剤に配合されていないセレンは、長期管理の上では欠乏症にならないよう特に注意が必要である。また、オリゴ糖やprobioticsの投与が有用であるという報告もある。

外科的治療:


 消化管の減圧と経腸栄養のために腸瘻造設が行われるが、ヒルシュスプルング病と異なり、病変部と正常腸管との境界が不明瞭であったらり、また、病変が全消化管に及んでいたりするため、初回の腸瘻造設で適切な場所に造設できないこともしばしばあり、再造設になることも多い。また、本疾患群では胃からの排泄遅延があることも多く減圧用の胃瘻が置かれることも多い。病変部限局しているhypoganglionosisの症例では病変部切除、肛門へのpull-throughが行われることもある。 漆原らは病変が広範囲に及ぶ本疾患症例に対し、大量小腸・右半結腸切除、小腸・横行結腸側々吻合付加空腸瘻という新しい術式を試み、在宅管理、食事の経口摂取が可能となった症例を報告しておりencouragingである。腸管蠕動不全が恒常的に続く症例に対しては、小腸移植も適応となるが、現時点では小腸移植の成績は必ずしも満足できるものではなく、リスクとベネフィットを十分に検討する必要がある。

分類

 本疾患群をまず組織学的異常の有無により大きく二つに分け、それぞれを(表1)のように分類する。神経節細胞の数が減少しているhypoganglionosisでは、直腸粘膜生検で粘膜下に神経節細胞を認めず、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)陽性神経線維の増生を認めない。確定診断には腸管の全層生検が必要であり、神経節細胞の減少とAChE陽性神経線維の減少に加え、粘膜筋板や筋層の肥厚が認められる。

 神経節細胞数の減少では発達が未熟で数が減少しているものをhypogenesis、単に数が減少している場合をoligoganglionosisと呼ぶ場合もある。

 神経節細胞の数の増加が認められるIntestinal neuronal dysplasia(IND)では、数の異常だけでなく、巨大神経節細胞や粘膜固有層の異所性神経節細胞を認める。AChE陽性神経線維の増生もあり、ヒルシュスプルング病に合併する場合がある。

 神経節細胞のサイズの異常として、サイズが大きい場合をgiant ganglia、小さい場合をsmall gangliaと呼んでいる。small gangliaの中で胎児期の神経節細胞類似の未熟性を有するものをimmature gangliaと分類し低出生体重児に多い。診断には小さな神経節と小さな神経節細胞を同定することが必要である。

 以上が組織学的異常を伴うものであるが、組織学的異常を伴わないものは臨床的にpseudo-obstructionやhypoperistalsisと総称されている疾患で、CIIPS(chronic idiopathic intestinal pseudo-obstruction syndrome)やMMIHS(megacysitis microcolon intestinal hypoperistalsis syndrome)が代表的であるが、CIIPSに膀胱機能障害を伴う場合があり、両者には類似性も多い。

表1.Hirschsprung病類縁疾患の分類


・欧米では、組織学的異常を伴う類縁疾患を neurocristopahtyまたはintestinal dysganglionosesとも総称される。
IND: intestinal neuronal dysplasia

CIIPS: Chronic idiopathic intestinal pseudo-obstruction syndrome

MMIHS: Megacystic microcolon intestinal hypoperistalsis syndrome

参考文献

1) Puri P, Rolle U: Variant Hirschsprung's disease. Semin Pedeatr surg 13:293-299, 2004

2) 窪田正幸: Hirschsprung病類縁疾患の疾患概念と病態-電気生理学的検討. 小児外科 38(6) 666-671, 2006

3) Kubota M, Ikeda K, Ito Y: Autonomic innervation of the intestine from a baby with megacystis microcolon intestinal hypoperistalsis syndrome: II. Electrophysiological study. J Pediatr Surg 24: 1267-1270, 1989

4) Rolle U, O'Briain S, Pearl RH, et al: Megacystis-microcolon-intestinal hypoperistalsis syndrome: evidence of intestinal myopathy. Pediatr Surg Int 18: 2-5, 2002

5) Richrdson CE, Morgan JM, Jasani B, et al: Megacystis-microcolon-intestinal hypoperistalsis syndrome and the absence of the receptor subunit. Gastroenterology 121: 350-357, 2001

6) Rolle U, Yoneda A, Solari V, et al: Abnormalities of c-kit positive cellular network in isolated hypoganglionosis. J Pediatr Surg 37: 709-714,2002

7) Yamataka A, Ohshiro K, Kobayashi H, et al: Intestinal pacemaker c-kit cells and synapses in allied Hirschsprung's disorders. J Pdiatr Surg 32:1069-1074, 1997

8) 宗像敬明, 岡部郁夫, 越永従道:Hypoganglionosisの注腸造影診断.日本小児放射線研究会雑誌5: 124-125, 1989

9) Holschneider AM, Meier-Ruge W, Ure BM: Hischsprung's disease and allied disorders-A review. Eur H Pediatr Surg 4: 260-266, 1994

10) 窪田昭男, 川原央好, 奥山宏臣, 他:Hirschsprung病類縁疾患慢性期の治療戦略-synbioticsの有用性.小児外科38(6) 742-749,2006

11) 漆原直人, 古田繁行, 福本弘二, 他:Hiruschsprung病類縁疾患に対する外科的治療.小児外科38(6) 701-707,2006

(MyMedより)推薦図書

1) 岡本英三 監修、豊坂昭弘 編集:Hirschsprung病類縁疾患―病態解明と診断・治療の研究,永井書店 1997

2) 岡田正 著:系統小児外科学,永井書店 2005
 

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