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最終更新日:2010.07.27

顎骨骨折(がっこつこっせつ)

Fracture of jaw

別名: 上顎骨骨折・下顎骨骨折

執筆者: 生木 俊輔・米原 啓之

概要

 顎骨は上顎骨、下顎骨から形成されている。これらの骨の骨折を顎骨骨折と総称する。また、これらの骨と連続する頬骨、鼻骨、眼窩周囲の骨などの骨折は顎骨骨折に合併することも多い。顎骨骨折は交通事故やスポーツ外傷などで受傷されることが多く、顎骨骨折の症状や治療は障害された部位ごとに異なる。

病因

 交通事故やスポーツ時の受傷が多い。

病態生理

 各部位ごとに以下に述べる。

臨床症状

 障害された部位により、様々な症状が見られるが、比較的共通して見られる症状として、顔面腫脹・変形、受傷部局所の疼痛、歯列連続性の破綻、咬合異常、開口障害、口唇や頬部および歯槽部の感覚異常などが見られる。

検査成績

 各部位ごとに以下に述べる。

診断・鑑別診断

 各部位ごとに以下に述べる。

治療

 各部位ごとに以下に述べる。

予後

 骨折した部位や骨折の状態により治療期間は異なる。一般的には、骨折部固定後2~4週で線維性の固定が認められ、3ヶ月程度で骨癒合が得られる。

最近の動向

 画像診断技術の向上や診断装置の普及により、正確な診断が可能になった。単純X線画像に加え、CT画像や三次元CT画像を撮影することにより、骨折部分の正確な位置、変形の程度、周囲軟部組織の状態などがより精密に把握されるようになってきている。固定材料としては、従来金属製ワイヤーが用いられていたが、最近ではチタン性ミニプレート、マイクロプレートなどが用いられている。

総論

1.      骨折の定義と分類

 骨組織が外力によって連造成をたたれた状態を骨折という。

 1)骨折の離断の程度による分類
(1)   完全骨折 (2)   不完全骨折 (3)   亀裂骨折

2)下界との交通の有無による分類
(1)   開放性骨折 (2)   閉鎖性骨折

3) 力の作用点による分類
(1)   直達骨折 (2)   介達骨折
 
4)骨折の部位による分類
上顎骨骨折、下顎骨骨折、歯槽骨骨折など

5)骨折箇所の数による分類
単独骨折、多発骨折など

6) 骨折線の走行様式による分類
横骨折、縦骨折、斜骨折など
 
7)発生状況による分類
外傷性骨折、病的骨折、疲労骨折など

8)受傷後の期間による分類
(1)   新鮮骨折 (2)   陳旧性骨折  

2. 顎骨骨折の原因

 外傷性骨折では、交通事故、殴打(けんか)、スポーツ外傷、転倒、などがある。
 病的骨折では特に下顎における腫瘍、嚢胞などによる骨の吸収、骨の非薄、放射線照射による骨の脆弱化、顎骨骨髄炎、線維性骨異形成症などで小さな外力で簡単に骨折を起こすことがある。  

3.顎骨骨折の診断と治療方針

1)問診:

 受傷時の外力の方向、強さなど状況を詳しく聴取し参考とする。

2)視診・触診:

 顔面全体の変形、左右非対称の有無などを把握し次いで細部の観察をする。以下に骨折特有の症状を示す。
・     変形:骨片の転位により顔面の変形をきたす。
・     咬合異常・歯列不正
・     Malgeigne(マルゲーヌ)の圧痛点:骨折線に一致した限局性圧痛を認める。
・     異常可動性
・     軋轢音
・     開口障害

3)X線診査

 骨折の診査においてX線診査は重要である。顎顔面は多くの板状骨が立体的に構築されているため、骨折線の読み取りが難しい場合が多く様々な撮影法が必要となる。また、二次元および三次元CTは特に骨折診断に有用である。

4)治療方針

(1)   救急処置
a)      気道確保 b)      止血 c)       ショックに対する処置 d)      破傷風の予防

(2)   顎骨骨折の治療
 骨折の一般的治療は整復、固定、機能訓練である。

a)      整復骨片の整復はできる限り受傷後早期に行う。顎骨骨折では咬合異常をきたすことが多く、上下顎の咬合状態を受傷前の正常な咬合に整復することが重要である。整復には非観血的整復と観血的整復がある。

(a)   非観血的整復徒手による牽引や圧迫による整復、各種副子を用いた顎間牽引などがある。
(b)   観血的整復骨端部を露出し整復する。陳旧性骨折では骨折部を再離断し整復する。

b)      固定観血的方法と上下顎の咬合関係を利用した顎間固定や顎外固定の非観血的方法がある。

(a)   顎内固定:金属プレート(ミニプレートなど)、金属ワイヤー
(b)   顎間固定:三内式シーネ、Schuchardtシーネ
(c)    顎外固定:オトガイ帽、頭帽

c)       機能訓練固定期間が終了した後、徐々に開口訓練を行わせる。特に関節突起部骨折の場合顎関節強直症を惹起することがあるので開口訓練は積極的に行う。

歯槽骨骨折

1)      概要
  
 上顎前歯のみ、あるいは上下顎前歯部の同時受傷が多く、臼歯部は少ない1)。口腔粘膜の裂傷を伴うことがある。

2)      臨床症状

 歯牙の脱臼、亜脱臼、破折を併発している場合が多い。隣在歯と一緒に動揺するときは歯槽骨骨折を疑う。歯槽骨骨折はX線診査でわかりにくい場合がある。

3)      治療法

 歯牙が完全脱臼している場合は、受傷直後であれば再植を試みる。完全脱臼した歯牙は生理食塩水、または牛乳に浸し保管することが勧められる。再植歯は異時的に根管治療が必要である。不完全脱臼の場合は徒手で整復する。その他,周囲軟組織の血餅や汚れを洗浄し、軟組織の裂傷を縫合する。金属ワイヤーや接着性レジンを用いて歯牙を固定する。固定期間は4週間程度である。

上顎骨骨折

1)      概要

 上顎骨は頬骨、鼻骨、口蓋骨と結合し中顔面を構成いている。また、骨は非薄で脆く外力の方向、強さなどで様々な骨折が生じる。下顎骨骨折とは異なり周囲の頭蓋骨、側頭骨、蝶形骨骨折を合併することもある。

2)      分類

(1)       Le Fort Ⅰ:
 上顎骨中央部を横走する骨折である。骨折線は梨状孔外側縁から横走し、翼口蓋窩に終わる。翼状突起は、下部が含まれる場合と含まれない場合とがある。

(2)       Le Fort Ⅱ:上
 顎骨と鼻骨が一塊となって周囲の骨から分離した状態の骨折。骨折線は鼻骨と上顎骨前頭突起の中央部またはこれらと前頭部との縫合部を横断し、涙骨、篩骨を横断して後下方へ至り、下眼窩裂に入るか、または下眼窩裂前方眼窩底にて前方へUターンし、おおむね頬骨上顎縫合に沿って下外方へ向かい、翼口蓋窩、翼状突起に至る。
(3)       Le Fort Ⅲ:
 中顔面を校正する骨が一塊として頭蓋底から分離され、頭蓋顔面分離状態になったものである。骨折線は前頭鼻骨縫合、前頭上顎縫合から涙骨・篩骨上部を横断して後走し、下眼窩裂に至る。下眼窩裂からは、上前方へは眼窩外側壁を経て頬骨前頭縫合に至り、後下方へは翼口蓋窩・翼状突起基部に至る。 

3)      臨床症状

 上顎が後退すると顔貌は平坦化する。顔面軟組織は腫脹し、裂傷、皮下出血を伴うこともある。また、鼻粘膜、口腔粘膜にも裂傷、粘膜下出血を伴うこともある。縦骨折、歯槽骨骨折などを併発することもある。
 上顎が後退した場合、徒手で歯列を動かすとLe Fort型骨折があると上顎が一塊として動くことがある。その際、軋轢音を認めることがある。視診、触診後、X線診査を行う。後頭前頭法、Waters法、パノラマX線写真、軸方向、咬合法、デンタル写真を組み合わせる。骨片の変位を確認するにはCT画像、特に三次元CT画像が有用である。

4)      治療法

 上顎骨は薄く骨片が小さい場合もあり整復、固定が困難なときがある。 Le Fort型骨折の場合、可能ならば徒手である程度整復し、線副子を用いゴム牽引を行う。ゴム牽引で十分な整復されない場合、重錘による牽引を行うこともある。上記の方法で整復、固定がえられない場合や早期の固定が得たい場合は観血的にプレート行う。顎間固定は概ね6週間程度である。

下顎骨骨折

1)      概要

 下顎骨はその部位、構造、形態から外力の作用を受ける頻度が高く、骨折を生じやすい。下顎骨の完全骨折では、骨折線の位置、走行、ならびに骨片の付着する筋の牽引によって、骨片は外力の方向とは無関係に特有の偏位をきたすことが多い。

2)      骨片の偏位

(1)       正中部骨折:
 骨片の変位はないが開閉口時に骨折正中部が開き、骨呼吸となる。
(2)       犬歯部骨体骨折:
 患側骨片(小骨片)は閉口筋によって挙上され、咬筋、顎舌骨筋の作用で内転する。健側骨片(大骨片)は開口筋により下内方に牽引される。前歯部は開咬状態となる。  
(3)       臼歯部骨体骨折:
 小骨片は内上方に牽引される。大骨片は内下方に偏位する。  
(4)       下顎角部骨折:
 咬筋内に骨折線がある場合には、咬筋と内側翼突筋によって骨折は内外から固定されるため偏位は少ない。
(5)       関節突起部骨折:
 一側性の場合、大骨片は患側に偏位し、かつ前下方に低下し、臼歯部のみ咬合し、前方は開咬を呈する。正中部は患側に偏位する。両側性の場合は、前歯部は低下し、両側の大臼歯部のみ咬合する。下顎はやや後退する。正中部の偏位はほとんど無い。開咬状態を呈する。  

3)      下顎骨体部骨折

 下顎骨は構造、部位、形態などにより外力を受け損傷をきたすことが多い。

(1)       臨床症状
 上記に示した咬合異常,開口障害などが生じる。また、下歯槽神経の損傷による下唇の知覚障害を生じることがある。
(2)       治療法
a)      非観血的治療歯牙の状態が良好で咬頭嵌合位を得られる症例では、早期に線副子を用いて顎間固定を行う。顎間固定は4週間程度である。顎間固定解除後は開口訓練を行う。
b)      観血的治療近年は下顎骨骨折に対し,観血的治療が多く行われる傾向がある。骨片の偏位がない症例や非観血的整復で十分な整復が得られない場合に観血的整復固定がなされる。下顎骨体部は口内法によるミニプレート固定が頻用される。最近の金属ミニプレートの性能が向上しており、顎観固定期間は短くなってきている。多数の小骨片の固定には骨縫合が行われる。

4)      関節突起部骨折

 関節突起の形態的特徴から直達骨折より、オトガイ部および下顎体に対する外力による介達骨折が多い。

(1)       臨床症状
 片側性骨折の場合は大骨片が患側に偏位し顔貌の左右対称性が失われる。臼歯部に早期接触があり前歯は開咬状態となる。小骨片は外側翼突筋により前内方に牽引される。両側性骨折の場合は正中の偏位はないが前歯部は開咬状態となる。視診、触診後、X線診査を行う。後頭前頭法、Waters法、パノラマX線写真、軸方向、咬合法、デンタル写真を組み合わせる。骨片の変位を確認するにはCT画像、特に三次元CT 画像が有用である。

(2)       治療法
 関節突起骨折では非観血的治療と観血的治療が行われる。
a)      非観血的治療線副子を用いて後上方に偏位した大骨片をゴム牽引し正常咬合に誘導する。顎位が回復したら約2~3週間の顎間固定を行う。顎間固定を解除後,積極的に開口訓練を行う。顎間固定解除直後は顎位が不安定になりやすいのでゴム牽引を続けながら開口訓練を行う。開口訓練を怠った場合,顎関節強直症を起こすことがあるので注意する。
b)      観血的治療近年では観血的治療が多く行われるようになってきている。関節突起を含む小骨片が大きい場合など観血的整復固定が行われる。関節突起へのアプローチは耳前部切開,顎下部切開より行われる。固定はKirschner鋼線,鋼線,ミニプレート、ラグスクリューなどで固定される。最近では,ミニプレートが多く用いられる。
5)      筋突起骨折
 筋突起骨折は頻度が少ない。小骨片が側頭筋により上方に牽引されるが、顎位の変化はほとんど無い。特に治療を要しないことが多い。

頬骨骨折

1)      概要

 頬骨は中顔面にあり突出しているため外力を受けることが多い。通常、頬骨骨折と頬骨弓骨折が合併して見られるが、頬骨弓単独骨折の場合もある。

2)      臨床症状

 症状は顔貌の平坦化がみられる。頬骨弓の陥没し下顎骨筋突起の運動障害を生じ開口障害を生じる。視診、触診後、X線診査を行う。後頭前頭法,Waters法、パノラマX線写真、軸方向、咬合法を組み合わせる。骨片の変位を確認するにはCT画像、特に三次元CT画像が有用である。

3)      治療法

(1)       口内法 
 上顎臼歯部歯肉頬移行部を切開、アプローチし骨膜起子などで整復する。口腔外に切開がない利点があるが、骨片の転位が大きい場合には整復が困難なことがある。
(2)       口外法 
 側頭部切開、下眼瞼切開、耳前部切開、上眼瞼眉毛部下縁等のアプローチがあり起子などで整復し、上顎骨前壁、頬骨起始部、前頭頬骨縫合部、眼窩下縁をミニプレートで固定する。頬骨弓単独骨折の場合であれば、通常整復のみで固定は行わない。

鼻骨骨折

1) 概要  

 頬骨骨折やその他の顔面骨骨折に合併することが多い。また、鼻骨骨折単独の場合は形成外科、耳鼻科に受診することが多いようである4)

2) 臨床症状

 鼻出血、鞍鼻、鼻尖部の偏位、鼻根部の腫脹などを認める。視診、触診ならびに顔面側方位、Waters法、顔面軸位のX線像により診断する。CT画像は微細な骨折の確認、鼻中隔の弯曲などを観察するのに有効である。

3) 治療 

 鼻骨骨折単独例では、非観血的に鼻骨整復用鉗子により整復を行い、鼻腔内タンポンおよび鼻背部のシーネ固定を行う。顔面骨骨折に合併していて、骨折部が露出しているような場合には、観血的にミニプレートまたはマ  
イクロプレート固定を行うこともある。

眼窩壁吹き抜け骨折

1)  概要

 眼球に前方からボールなどの鈍的な外力が加わった場合に生ずる骨折。眼窩下縁に骨折がないにもかかわらず眼窩底部や眼窩内壁に骨折を生ずる。頬骨骨折などに合併する場合もある。

2)  臨床症状

 眼球の運動障害が見られ、特に上転障害が認められる。また、複視を認める。 Waters法X線で上顎洞透過性を認める。CT画像により眼窩下壁や内壁の骨折を認めるとともに上顎洞内への眼窩内容物の脱出を認める。

3)  治療

 下眼瞼縁、結膜切開により骨折部を露出し、脱出している眼窩内容物を戻し、骨片を整復する。骨欠損が大きい場合には、骨移植やシリコンプレートなど人工物による欠損部の被覆が行われる場合もある。

参考文献

1) 山根雅之ほか:歯の外傷の臨床的検討.日口外誌 41:P726-728 1995

2) 宮崎正:顎顔面の外傷.口腔外科学 第2版,医歯薬出版,東京.P85-132 2000

3) 泉廣次ほか:顎骨の外傷(顎骨骨折).口腔外科学 第3版 上,学建書院,東京P142-157 2003

4) 山田敦:鼻骨の骨折.外科Mook21 顔面外傷.金原出版.東京.P188-197.1981.

執筆者による主な図書

1) 高戸毅 監修、米原啓之 須佐美隆史 編集:顎口腔外傷のチーム医療,金原出版

2) 米原啓之、高戸毅 執筆:特集3 顎顔面損傷顔面軟部組織損傷の処置「別冊the Quint essence 口腔外科 YEAR BOOK  一般臨床家、口腔外科医のための口腔外科ハンドマニュアル'08 日本口腔外科学会編」,クインテッセンス出版

3) 米原啓之、高戸毅 執筆:顔面骨折「家庭のドクター 標準治療 最新版 第3版」,日本医療企画

 

執筆者による推薦図書

1) 宮崎正 監修,白砂兼光,松矢篤三 編集:口腔外科学 第2版,医歯薬出版会社

2)泉廣次・工藤逸郎 監修、秋本芳明・大木秀郎・近藤壽郎・坂下英明・中村武夫・三宅正彦 編集:口腔外科学 第4版,学建書院

3) 大谷隆俊、園山昇、高橋庄二郎 編:図説 口腔外科手術学 中巻、医歯薬出版株式会社

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