チック障害 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.30

チック障害(ちっくしょうがい)

tic disorders

執筆者: 江川 充

概要

 チックとは,突発的,急速,反復性,非律動性,常同的,不随意的な限定的筋群の運動であり,発声に関係する筋群では,同様の特徴を持つ発声となって現れる。以前は心理的要因によって生ずる(psychogenic)と考えられていた。しかし,現在では,一過性チック障害から,慢性チック障害,ド・ラ・トウレットde la Tourette症候群(ICD-10の診断名,通常はTourette症候群,またはGilles de la Tourette症候群と呼ばれることが多い,以下TSとする)へと連なっている一群の身体疾患と考えられている。TSの研究から,遺伝的背景があり,中枢神経系の疾患として,大脳基底核を含んだ皮質-線条体-視床-皮質回路の異常が推測されている。

 チック症状は,運動チックと音声チックに分けられる。また,すばやい典型的なチックに変えて,やや動きが遅く,一見すると目的があるように見えるチックがあり,それぞれ単純チック,複雑チックと呼ぶ。

 単純運動チックでは,瞬きなどの眼のチックが多い。複雑運動チックでは,顔の表情を変える,跳ねる等の全身に及ぶものもある。単純音声チックでは,カチカチ,キャン,ドン,フンフン,咳払いが多い。複雑音声チックでは,その場面に合わない単語や,句の繰り返しが一般的である。特異的複雑音声チックとしては,汚言症(コプロラリアcoprolalia,社会的に受け入れられない卑猥なことを言う),反響言語(エコラリアecholalia,他の人の言った言葉の繰り返し),反復言語(パリラリアparilalia,患者自身の音声や単語の繰り返し)が認められることがある。

 診断基準はDSM- IV TR(表1)とICD-10(表2)がある。両方ともほぼ同じである。共通項として,発症が18歳以前であり,チック症状が身体疾患や,特定の薬物の副作用が原因でないことが必要である。

  
  表1                                                                                表2         

病因

 一卵性だけでなく二卵性双生児での高い一致率の研究から,常染色体のセット遺伝が推測されている。家族の研究では,TS,強迫性障害(obsessive-compulsive disorder 以下OCD),注意欠陥多動障害(attention-deficit/hyperactivity disorder,以下ADHD)が根本的に関係し,増強しあっていることが示唆された。1) 連鎖解析により,11q23,4q,8pが疑われたが,最近の報告では,複製の失敗が推測され,新たな部位が示唆されている。1)

 発病者から,子どもへと伝達される染色体の分析では,2番染色体,6p,8q,11q,14q,20q,21q,Xの動原体近辺の損傷を報告している。他の研究では,5,10,13番の染色体が報告されている。1)

 最近の研究では,TSの家系に細胞遺伝学的な異常が,3[3p21.3],7〔7q35-36〕,8〔8q21.4〕,9〔9pter〕18〔18q22.3〕に認められたという。Verkerkらは,ランビエ絞輪に局在し,カルシウムイオンチャンネルに関係するコンタクチン関連蛋白2の遺伝子の損傷であると報告している。1) TSの最も新しい報告では,13染色体の逆位の報告がある。更に13q31のブレークポイントから,350kbのSLITRK1遺伝子が,遺伝子異常の候補に上がっている。いくつかのTS症例で,13染色体のSLITRK1遺伝子の欠失が認められたという報告もある。1)

 チック障害は皮質,皮質下,視床,基底核,前頭皮質の機能低下と考えられている。画像診断では,基底核と前頭皮質が疑われている。神経伝達物質の異常も推測されている。ハロペリドールのようなドーパミン(D2)受容体拮抗作用の強い薬物が有効であること,中枢刺激薬や,ドーパミンの活性を上げる薬物によってチックの発症が促進したり,憎悪したりすることから, ドーパミンの異常(ドーパミンの過剰状態か,シナプス後部でのドーパミン受容体の感受性の亢進)が,推測されている。また,TSの髄液検査で,ドーパミンの代謝産物であるホモバニリン酸の基礎値と代謝回転が低下しており,症状の改善とともに改善したことから,むしろドーパミンの低下に対応して,ドーパミン受容体が,過感受性になっているとも推測されている。2)

 環境要因では,胎生期や周産期の障害との関係や一卵性双生児の検討から,出生時体重の少ないほうが重症と示唆された。妊娠中の母親のストレス,喫煙,妊娠3ケ月までの重度の嘔気,嘔吐が関係するという報告もある。社会心理的ストレスは,悪化要因である。

 近年のトピックは,溶連菌感染後のリウマチ熱・小舞踏病(シデナム舞踏病)罹患時に強迫行為や,注意欠陥多動と同じように運動チック,音声チックがみられることから,感染後の免疫誘発性チック,TSが研究されていることである。Swedoらは,連鎖球菌感染と関連した小児自己免疫神経精神疾患という概念を提唱した(pediatric autoimmune neuropsychiatric disorder associated with streptococcal infection,以下PANDAS)。OCD,TS,チックの4~13歳の子ども144名を8年追跡した結果,発症3ヶ月位以内の溶連菌感染が有意に多く,一年以内の多発性溶連菌感染もコントロール集団に比べ,オッズ比で,13.6倍になったという報告もある。1) Kirvanらは14歳のSC女子で作られた抗体が,リソガングリオシド,Nアセチルグルコサミンを含む神経リガンドと結合するのを認めたと報告している。更にこれらの抗体は神経の細胞表面と細胞内シグナルのトリガーとなるカルシウム/カルモジュリン依存性蛋白キナーゼ II に結合しているとしている。しかもこの反応は,PANDASの患者で,反復しているとしている。TSの患者で他に候補となる機構には,α-,γ-エノラーゼ,アルドラーゼC,ピルビン酸キナーゼM1がある。1)

病態生理

 チック障害は皮質,皮質下,視床,基底核,前頭皮質の機能低下と考えられている。画像診断では,基底核と前頭皮質が疑われている。神経伝達物質の異常も推測されている。ハロペリドールのようなドーパミン(D2)受容体拮抗作用の強い薬物が有効であること,中枢刺激薬や,ドーパミンの活性を上げる薬物によってチックの発症が促進したり,憎悪したりすることから, ドーパミンの異常(ドーパミンの過剰状態か,シナプス後部でのドーパミン受容体の感受性の亢進)が,推測されている。また,TSの髄液検査で,ドーパミンの代謝産物であるホモバニリン酸の基礎値と代謝回転が低下しており,症状の改善とともに改善したことから,むしろドーパミンの低下に対応して,ドーパミン受容体が,過感受性になっているとも推測されている。

臨床症状

 独特な運動や発声で,動作,発声には目的がなく,睡眠時には見られない,不随意的に発生するが,一定の時間意識的にとめることができる,などの特徴がある。また,疲労時には増加し,緊張している時,緊張から解けた時にも増加,疲労で増加,発熱で低下,の傾向が見られる。また,テレビゲーム中は増加しているが,本の音読,楽器演奏,スポーツなど集中して作業しているときには見られないこともある。ひとつの動作は,0.5~1秒で反復し,反復された発作の一連の動作から次の発作の間隔は,数分から,数時間あるいはそれ以上に及ぶ。チック自体の神経的なタイムスケールは,ミリ秒のレベルである。


自覚症状

 チック運動は本人には自覚されていないことも多い。チックが始まる前,あるいは終わったとき,その部位に違和感urge を訴えることがある。

他覚症状

 単純運動チックは,瞬き,横目をする,目を回す,白目をむく,口をゆがめる,鼻を曲げる,顔をしかめる,肩をすくめる,頭の急激な動きなどがあり,複雑運動チックでは,顔の表情を変える,身繕いをする,跳ねる,触る,地団太を踏む,物の匂いをかぐ,などが見られる。

 単純音声チックでは,咳をする,咳払い,豚のように鼻を鳴らす,鼻をくんくんさせる,吠える,などがあり,複雑音声チックでは,状況に合わない単語の繰り返しや,汚言症,反響言語,反復言語がある。

検査成績

 診断確定のための検査はない。強いてあげれば,日常的に行われる検査は正常である。しかし,除外診断のための検査が必要になることがある。癲癇除外のためのEEG,脳腫瘍など,頭蓋内疾患の検査では,CT,MRIが必要になるなどである。

診断・鑑別診断

 診断については,チックが4週間以上続き一年以内に治まった場合,一過性チック障害と診断され,一年以上持続する場合を慢性チック障害とする。TSは,慢性チック障害のうちで,ある期間複数の運動チックと音声チックの両方が存在するものである。

 DSM IV ―TRの診断基準の概略をあげておく。(表1参照)共通項目として,18歳未満の発症と,身体疾患と薬物刺激が,原因となる場合は除外されている。

(1)一過性チック障害

 一過性チック障害 運動チック,または音声チック,またはその両方が少なくとも4週以上毎日生じるが,12ヶ月連続することはない。

(2)慢性チック障害

 単発または複数の運動チック,または音声チックが一年以上の期間を通して,ほとんど毎日,または間歇的に,1日に何回となく生じる。3ヶ月以上の間チックが存在しない時期はない。

(3)トウレット症候群

 複数の運動チックおよび1つまたはそれ以上の音声チックの双方が本障害の経過中の若干の期間同時に存在する。チックは一日あたり何回となく,ほとんど毎日または間欠的に,1年以上の持続期間を通して生じ,かつ3ヶ月の以上の間にチックのない時期はない。

(4)その他のチック障害

 その他のチック障害 (1)から(3)に当てはまらないチック。たとえば,18歳以後の発症,4週間未満の持続など。


 鑑別すべき疾患は,ミオクローヌス,振戦,シデナム舞踏病Sydenham's chorea,アテトーゼ,ジストニア,発作性ジスキネシア,バリスム,てんかん,強迫行為,神経癖がある。

 ミオクローヌスは,一つまたは多数の筋の不随意の不規則な運動である。錐体外路系の均衡が障害された状況下で起こるとされる。振戦は,律動的で規則的な拮抗運動である。シデナム舞踏病は,リウマチ熱のひとつの症状で,小舞踏病とも呼ばれる。学童期の女子に罹患率が高く,数日から,数ヶ月で治癒する。ジストニアは基本的には異常姿勢であり,本態は筋緊張の異常亢進である。異様な姿勢をとり,体幹の捻転、胸郭の傾斜、頸の捻転、肘の過伸展、指の過伸展を呈する。これに伴う緩徐な不随意運動をdystonic movementと呼ぶ。

 ジスキネシアは舌,口唇を中心とした不随意運動で,絶え間なく舌を捻転させたり、前後左右に動かしたり咀嚼したり,口唇を動かしたりする。バリスムは舞踏病運動の一種であるが、運動は粗大で、躯幹近位部に強く起こる。上下肢を投げ出すような激しい不随意運動である。視床下核の障害で反対側の上下肢の片側バリスム(hemibalism)が起こる。多くは中年以降に起こり、脳血管障害によるものが多い。癲癇はいろいろな筋の痙攣で,不随意な収縮である。反復する時は間代性痙攣と呼ぶが,意識して停止することはできない。強迫行為は,やりたくないのに,やってしまう行為,神経癖は爪噛み,髪いじりなどであるが,ともに随意的に中断が可能であり,行為自体には意味,目的がある。

治療

 まず治療の適応を判断する必要がある。チックが心因性,あるいは子育ての問題という誤った捉え方をしていれば,正しい知識を教える必要がある。単純性チックは一過性であることがほとんどであり,多くは一年以内におさまること,慢性チック障害に移行しても,成人まで続くということは少ないこと,などである。患者や家族を安心させると言うことは大切なことである。また,チックは,環境の影響も強く受けるので,患児の周囲の受容体制は大切である。

 治療の適応は,やはりチック障害の重症度を判定して判断すべきである。チック症状自体の重症度,チック症状による悪影響の重症度,併発症状の重症度で判断すべきである。併発症状では,注意欠陥多動障害や強迫性障害があるが,併発症状というより,チックが注意欠陥多動障害や強迫性障害の前駆症状となることもある。

 重症度に関し,たとえば,慢性チック障害で,顔をしかめ,地団太を踏む複数の運動チックを示しているケースと,瞬きと肩をすくめる運動チックと咳払いの音声チックを呈するTSのケースでは,前者のほうが周囲に与える悪影響は大きい。


薬物治療

 チック障害で使用される薬物の使用の注意点は,すべて小児年齢に対しては適応外の使用であること,チックという疾患自体も適応外であることである。したがって,副作用に対しては十分注意すべきである。その点漢方薬は副作用の心配が少なく使いやすい。

ハロペリドール

 0.25mgの夕方一回服用で開始し,1~2週で,0.25mgずつ増量,通常0.5~1.0mg/日,朝夕服用で効果がある。限度は最高3mgまで。副作用はジスキネジアを含む錐体外路症状で,抗パーキンソン剤の併用,あるいは減量で対応可能である。

ピモジド pimozide

 0.5mgの夕方一回服用で開始し,1~2週で,0.5mgずつ増量,通常1~2mg/日,朝夕復用で効果がある。副作用は心電図異常(QTc延長)である。

リスペリドン

 TSに対し1-4mgで効果があるという。今後使用の増加が期待されている。副作用では錐体外路症状は少なく,体重増加が見られる。

漢方薬

 抑肝散,抑肝散加陳皮半夏,半夏厚朴湯など, 大人の半量から,2/3量を,分二で服用。怒りっぽさが改善される。特に副作用はない。半夏厚朴湯はゲップや音声チックに効果があった。


心理,精神療法

行動療法

 チックが出現しそうになった時,チックと競合する運動,あるいはチックと同じ運動をゆっくり行うhabit reversal trainingは,試みてもよい治療法である(表3)。


(表3. Habit-reversal training手順)

 症状への気づきawareness,競合反応訓練competing response training,周囲の支援social supportの三段階からなる。たとえば,しかめ面のチックの場合,まず5~10分間鏡の前で,チックを観察させる。一定時間の間に何回出現したかを数え,記録する。次にしかめ面に対しては,ゆっくり笑顔を作るよう指示し,自分でできるよう訓練をする。うまくできるようになったら褒める,励ます。

家族療法

 チックは心理的影響を受けるが,心理的原因で起こるのではないこと,育児やしつけの問題はなく,身体疾患であること,症状や経過には,家族家庭社会の影響が大きいことを説明する。チック障害自体は,憎悪そして軽快と,波があるが,成人期まで続くことは少なく,消失してゆく疾患である。その間の本人家族の不安の解消,そして,学校などの周囲の人の協力など環境調節が必要である。家族の支援には,日本トウレット(チック)協会の活動も期待される。

(表3. Habit-reversal training手順)

予後

 予後は良好である。チック障害の多くは,18歳未満で発症し4週以上持続する。一年未満で消失すれば,一過性チック障害である。一年以上続けば,慢性チック障害である。

 TSは,出生1,000人当たり,4~6人とされ,発症のピークは5~8歳,症状のピークは9~12歳とされている。

 チックは4~11歳頃発症し,6,7歳頃よく認められ,12歳頃から有病率が減少するといわれている。小児の6~20%がチック経験者という報告がある。

最近の動向

 研究対象として,TSが選択され,遺伝子研究について,双生児の分析による研究のほか,罹患同胞対法(affected sib-pair analysis,同胞対が同じ疾患に罹患している時共有するDNAマーカーを検討する方法)による分析が行われている。また最新の画像診断機器を用いた脳神経学的研究や,神経伝達物質の解析などが行われている。画像診断に関しては,ミリ秒単位の表示が出来ることが望まれ,期待される。容連菌感染後の免疫異常については,動物実験も可能であり,今後のさらな進歩が期待される。

参考文献

1 )James E.Swain,Lawrence Scahill,Paul J.Lombroso,et al:Tourette syndrome and tic disorders: a decade of progress.J Am Acad Child Adolesc Psychiatry. 2007 Aug; 46(8):947-68.

2) 金生由紀子:チック障害,日本臨床別冊,精神医学症候群 III ,p59―p73,2003.

3) 塩川宏郷:チック,小児科診療,第69巻,増刊号,p907-909,2006.

(MyMedより)推薦図書

1) アンバー キャロル・メアリー ロバートソン・日本トゥレット協会 著:トゥレット症候群の子どもの理解とケア,明石書店 2007

2) 金生由紀子・高木道人 編集:トゥレット症候群(チック)―脳と心と発達を解くひとつの鍵 (こころのライブラリー) ,星和書店 2002

3) 岡田俊 著:もしかして、うちの子、発達障害かも!?,PHP研究所 2009
 

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