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Luteal phase defect
執筆者: 杉野 法広
黄体機能不全とは、黄体からのエストロゲンとプロゲステロンの分泌不全により、子宮内膜の分泌性変化が完全におこらないものと定義されている。しかし、実際には黄体からのホルモン分泌に異常がなくても子宮内膜の変化に異常がある場合もあり、子宮内膜の異常も含めて黄体機能不全を取り扱っているのが現状である。したがって黄体機能不全とは、黄体からのエストロゲンとプロゲステロンの分泌不全、または分泌期子宮内膜の成熟異常によってひき起こされる着床障害と考えられる。
疾患概念のところで述べたが、いわゆる広義の黄体機能不全 (luteal phase defect) には、黄体からのホルモン分泌に異常がある狭義の黄体機能不全 (luteal insufficiency) と黄体からのホルモン分泌には異常がないが子宮内膜の変化に異常がある子宮内膜機能不全 (endometrial insufficiency) が含まれると考えるほうが理解しやすい。これまでに、黄体機能不全の病因については色々と解説されているが、そのなかには、病態として実際に存在しうるのかという疑問を抱かせるものや、原因として理論上はありえるといった印象の強いものもある。ここでは、臨床上、実際に存在しうるであろうと考えられる病態について解説する。表1に示すように広義の黄体機能不全を狭義の黄体機能不全と子宮内膜機能不全とに分類し、それぞれについて病因・病態を解説することとする。特にプロゲステロン分泌に異常をきたす狭義の黄体機能不全を中心に述べる。
1.狭義の黄体機能不全 (luteal insufficiency)
黄体からのホルモン分泌に異常がある場合で、臨床的には黄体期中期の血中プロゲステロン値が低値の場合や基礎体温で高温期の期間が短い場合がこれに当る。この狭義の黄体機能不全を、LH 分泌に異常がある場合、黄体自体に異常がある場合、そして高プロラクチン血症に分類する。
1) LH 分泌に異常がある場合正常な黄体が形成されるためには適切な LH サージが必要であるが、LH サージの異常を示唆する黄体機能不全の報告がある3)。尿中の LH 濃度でみたところ、黄体機能不全群では、正常群に比べ、LH サージのピークレベルが低値で持続期間も延長していた。黄体機能の維持には LH のパルス状分泌が必要であり、黄体期には卵胞期に比べ、パルスの頻度は減少するが振幅や持続時間は増加するため、黄体は LH の刺激を多く受けるようになる。この LH のパルス状分泌に異常がある黄体機能不全の報告がある。Hinney ら1) は、LHのパルス状分泌が欠如しており、そのためプロゲステロンやエストロゲン分泌が低下する症例が黄体機能不全の中に存在することを報告している。重症な視床下部障害や下垂体障害による無月経症例の場合は、排卵誘発剤による卵巣刺激により卵胞発育が得られても、LH サージがおこらず排卵できない場合や、HCG 投与による排卵誘発後も LH 分泌が著明に低下しているため黄体機能不全となる。一般臨床上では、体重減少性無月経、分娩時大量出血の既往がある症例、まれに脳腫瘍術後の症例において経験する。 体外受精―胚移植 (IVF-ET) をはじめとする生殖補助技術 (ART) の進歩に伴い、GnRH アゴニストを併用した FSH/hMG 製剤による卵巣刺激は ART を行なううえでの基本技術として欠かすことができないものとなってきた。しかしながら、hMG 使用時に黄体機能不全がおこりやすいことはよく知られているし、特に GnRH アゴニストを併用した場合には黄体機能不全は必発である。hMG 使用時に黄体機能不全がおこりやすい理由としては、多数の発育卵胞からエストラジオールが分泌されるので、血中エストラジオールが高濃度になり、さらに黄体期になっても高濃度のエストラジオールが維持されるため、ネガティブフィードバックにより LH 分泌が抑制されることが挙げられる。GnRH アゴニスト併用のロングプロトコール法では、hMG 療法時の LH 分泌抑制機序に加えて、GnRH アゴニストによる下垂体の脱感作が加わるため、より一層 LH 分泌が抑制されることになる。最近では、GnRH アゴニストに代わり、GnRH アンタゴニストを併用した卵巣刺激が行われるようになった。このGnRH アンタゴニストは半減期が短いため投与を中止すればLH 分泌の抑制はおこらないと予想されていたが、黄体期にはやはり高度にLH 分泌は抑制される4)。この原因は、FSH/hMG 製剤による卵巣刺激に伴う高濃度のエストラジオールによるネガティブフィードバックによると考えられる。 変異 LH の存在も黄体機能不全の原因となりえる。LHb 鎖には、b 鎖遺伝子第2エクソンの点突然変異により8番目のトリプトファンがアルギニンに5番目のイソロイシンがスレオニンに変化した変異 LH の存在が知られている。この変異 LH は生殖能に影響しないと報告されているが、日本人女性では正常女性における出現頻度が8.5%であるのに対して黄体機能不全患者では44.4%と高率であることが報告されている。変異 LH は免疫活性に比し生物活性が高いが、循環血液中での半減期が天然型より短く、このため LH が十分作用してない可能性が推測されている。
2) 黄体自体に異常がある場合黄体は、卵胞の発育・成熟、排卵という現象を経て形成される。したがって、卵胞の発育・排卵過程に異常があれば黄体からのホルモン分泌に異常をきたす。また、排卵後の黄体形成に関わる調節因子や、黄体形成完了後においても黄体ホルモン分泌機構のどこかになんらかの異常が引き起こされれば、黄体のホルモン分泌は異常となる。黄体機能不全に陥っている黄体にはどのような異常が存在するのか、すなわち、黄体機能不全にはどのような病態が隠されているのかは非常に興味深い。しかしながら、黄体機能不全の卵巣を直接調べることは実際には不可能である。したがって、黄体機能不全にどのような病態が存在するかは、黄体の生理学的調節機構を解明することから始まり、その上に立って、その異常を推論することになる。黄体における局所調節因子の異常も含めて様々な病態が考えられる。 卵胞の発育が不良であれば、内きょう膜細胞や顆粒膜細胞の成熟が不完全となり、排卵後に黄体化した細胞の質が低下することは容易に考えられる。実際に、黄体機能不全群では正常群に比べ、排卵前卵胞の大きさが有意に小さかったという報告がある3)。また、臨床上、遅延排卵症例における黄体期中期の血中プロゲステロン値の低値や黄体期間の短縮がよく見られることから、卵胞発育が顆粒膜細胞ひいては黄体細胞の機能に影響することが考えられる。IVF-ET 症例において、HCG 投与後の採卵時に卵胞を大卵胞(18 mm 以上)、中卵胞(12~15 mm)、小卵胞(10 mm 以下)に分類し、卵胞液中の女性ホルモン濃度とアポトーシスをおこした黄体細胞の頻度を調べたところ、発育不良の小卵胞や中卵胞では成熟した大卵胞に比べて、プロゲステロン濃度やエストラジオール濃度が有意に低値を示し、同時に、アポトーシスをおこした細胞が有意に多くみられた5)。すなわち、卵胞の発育は黄体機能に密接に関係している。 黄体の LH に対する反応性の低下を指摘する報告もある。Hinney ら1)は LH のパルス状分泌はあるが、そのパルスに一致したプロゲステロンやエストロゲン分泌がみられない症例が黄体機能不全の中に存在することを報告している。ヒトの LH/HCG レセプターには、スプライシングの違いにより、エクソン9にコードされた細胞外領域の C 末端側の62アミノ酸が存在する完全長のレセプター (HLH-Ra) と62アミノ酸が欠損したレセプター (HLH-Rb) が存在する。実験的に HLH-Ra を発現させた細胞は HCG に反応するが、HLH-Rb を発現させた細胞はHCG にまったく反応しない6)。黄体機能不全の症例に黄体の LH レセプター異常があるかは証明されていないが今後興味が持たれるところである。活性酸素が黄体のプロゲステロン分泌を抑制することや、黄体退縮に活性酸素の増加が関与していることが明らかとなっている7)。活性酸素は黄体細胞のプロゲステロン合成経路において、コレステロールをミトコンドリア外膜から内膜へ移送するタンパクである Steroidogenic Acute Regulatory Protein (StAR)、コレステロールをプレグネノロンに変換する酵素 P450 side chain cleavage (P450scc) やプレグネノロンをプロゲステロンに変換する酵素 3b-hydroxy steroid dehydrogenase (3b-HSD) を抑制する。黄体機能不全に対し、黄体期における抗酸化剤(ビタミンC)投与の有効性を示す報告がある2)。黄体機能不全患者(黄体期中期の血中プロゲステロン値が 10 ng/ml 未満が2周期続いた症例)に対して、3周期目の排卵後からビタミンC (1000 mg/day) を2週間投与した。効果判定として、3周期目が必ずしも黄体機能不全になるとは限らないため、3周期目のビタミンC非投与例と投与例の改善率を比較した。非投与例では46例のうち10例 (22%) に血中プロゲステロン値の改善(血中プロゲステロン値が 10 ng/ml 以上で上昇幅が 2 ng/ml を超えた症例)がみられたのに対し、ビタミンC投与例では76例中40例 (53%) と有意に改善率の向上がみられたほか、妊娠率も向上した。この報告では、黄体機能不全症例で活性酸素が過剰であることや、ビタミンC投与で活性酸素が減少したことは証明されていないが、酸化ストレスが黄体機能不全の一因である可能性を示した報告として興味深い。文献的には、黄体機能不全群では正常群に比べ、活性酸素の指標となる過酸化脂質の血中濃度が有意に高いという報告もあるが、黄体の酸化ストレスが血中に反映されるかどうかは議論のあるところである。黄体の形成には血管新生による発達した血管網の構築が不可欠である。LH サージ後、基底膜は分解され、内きょう膜細胞層の血管内皮細胞や壁細胞が無血管領域であった顆粒膜細胞層に遊走、増殖し、著明な血管新生がおこる。この黄体の血管新生は黄体期初期の間に完成する8)。中期ではもはや血管新生はおこらず、壁細胞の増加による血管の安定化がおこる8)。黄体における血管新生因子としては、Vascular Endothelial Growth Factor (VEGF) と Angiopoietin が重要である8), 9)。実際、黄体形成や黄体のプロゲステロン分泌にはこの VEGF による血管新生が不可欠であることが動物実験で証明されている10)。このような発達した血管網の構築は、黄体への血液供給に不可欠であり、プロゲステロンの基質であるコレステロールの供給や黄体刺激物質の供給のためだけでなく、合成されたプロゲステロンを循環血液に送ることにおいても重要である。尚、成熟黄体への血液供給は卵巣血液量のほとんどを占めるという報告もある。実際に、黄体血流と黄体機能との関係を調べてみると、カラーパルスドプラ超音波により測定した黄体の血管抵抗値と血中プロゲステロン値との間に有意の負の相関がみられた11)。すなわち黄体血流が黄体機能と密接に関連することが示唆されたわけである。さらに黄体期中期の血中プロゲステロン値が 10 ng/ml 未満を呈する黄体機能不全の症例では正常症例に比べ有意に黄体内血管抵抗値が高く、黄体機能不全の病態として黄体の血流低下が考えられる11)。
3) 高プロラクチン血症 高プロラクチン血症により黄体機能不全が引き起こされる機序として、プロラクチンが視床下部の GnRH ニューロンに作用しGnRH 分泌に影響を及ぼし、LH のパルス分泌の頻度や振幅を減少させたり、エストロゲンによる LH サージに対するポジティブフィードバック機構を抑制し排卵過程を障害する。また、プロラクチンは顆粒膜細胞の減少とエストロゲン産生を抑制するため、黄体化した細胞の機能低下がひきおこされる。高プロラクチン血症の原因として、下垂体腫瘍のプロラクチノーマ(34.3%)、機能性(30.6%)、薬剤性(8.6%)、原発性甲状腺機能低下症に伴うもの(5.2%)が挙げられる。
2.子宮内膜機能不全 (endometrial insufficiency)
黄体期中期の血中プロゲステロン値が正常で基礎体温の高温相の持続期間も正常であるが、子宮内膜日付診に異常がある場合や、子宮内膜が薄い子宮内膜発育不全の症例をこれに分類する。また、非常にまれではあるが、間質の脱落膜化がおこらない症例も報告されている。これらは、血中のエストロゲンやプロゲステロンが十分あるにもかかわらず、子宮内膜が適切に反応しない病態であり、子宮内膜自体に異常があると考えた方が妥当である。ところで、子宮内膜では、様々な生理活性物質が産生される。たとえば、インテグリンなどの接着因子、種々のサイトカインやケモカイン、活性酸素消去酵素、プロスタグランディンなどが着床に関与することが知られている。子宮内膜機能の異常があれば、これらの生理活性物質の産生にも影響し着床不全が引き起こされることが予想されるため、今後解明が進めば、これらの生理活性物質の産生異常による着床不全も子宮内膜機能不全に分類されるであろう。
1) 子宮内膜日付診の異常 我々が不妊症のスクリーニング検査として行なった子宮内膜日付診201例について調べたところ、正常は102例、異常例のなかでは、内膜腺のみが遅延している場合が最も多く75例、内膜腺と間質がともに遅延する場合13例、間質のみが亢進している場合11例であった。尚、そのほかの内膜腺のみが亢進、間質のみが遅延、両者が亢進しているなどの症例はなかった。最終的な妊娠率は、正常例が 65/102 (63.7%)、内膜腺のみが遅延している症例 41/75 (54.7%)、内膜腺と間質がともに遅延する症例 9/13 (69.2%)、間質のみが亢進している症例 3/11 (27.3%) であり、当科における不妊症症例全体の妊娠率は 65.3% であることを考えれば、間質のみが亢進している症例は著しく予後が悪い。我々は、ヒト子宮内膜から分離した上皮細胞と間質細胞の共培養の研究結果から、上皮細胞は間質細胞の脱落膜化を抑制することを明らかにしている 12)。すなわち、上皮細胞による間質細胞脱落膜化の抑制は implantation window をなるべく長期間維持するために重要であり、内膜日付診でみられた間質の亢進(脱落膜化への進行)が妊娠率の低下と関連していたことは、上皮細胞による間質細胞脱落膜化抑制の失調が原因のひとつと推察される13)。
2) 子宮内膜発育不全 子宮内膜発育不全(薄い子宮内膜)は着床障害の重要な病因であり、経膣超音波で測定した子宮内膜厚が 8 mm未満の症例では妊娠率が低い14)。この原因として、子宮内膜の血流不全が考えられる。子宮内膜に近接する子宮放射状動脈の血管抵抗をカラーパルスドプラ超音波で測定したところ、内膜の厚さが 8 mm 未満の症例では正常の厚さの症例に比し有意に高値を示しており、興味深いことに、月経周期の初期からすでに血流の低下が認められている 14)。さらに、子宮内膜が薄い症例に、ビタミンE やバイアグラ膣錠を投与すると血管抵抗は低下し同時に内膜の厚さも増加することが報告されている15)。すなわち、子宮内膜の発育には子宮血流が重要であり、子宮血流の低下により子宮内膜の機能である内膜の発育が障害される。
3) 脱落膜化不全症 血中プロゲステロン値が正常であるにもかかわらず、子宮内膜の間質の脱落膜化がおこらない症例が報告されている16)。この原因として、プロゲステロン受容体の低下が考えられている。しかし、このような症例が実際にどの程度の頻度で存在するのかについての報告はない。
一般的には、現在使われている診断基準①基礎体温の高温相が10日以下、②黄体期中期の血中プロゲステロン値が 10 ng/ml 未満、③子宮内膜日付診の異常、のうちいずれかひとつでも該当する場合を黄体機能不全と診断する。
1) 基礎体温プロゲステロンが視床下部の体温中枢に作用して体温の上昇をひきおこす作用を利用して、基礎体温の変化から黄体のプロゲステロン分泌の状況を推定しようとするものである。卵胞期より0.3度以上の上昇をもって高温相とする。高温相が10日以下(12日未満としてもよい)の場合や、高温相の途中で一時期基礎体温が低下するパターンの場合は異常とみなす。
2) 血中プロゲステロン濃度黄体期中期(排卵後5日目から9日目の間)に2~3ポイントで血中プロゲステロン濃度を測定し、いずれも 10 ng/ml 未満の場合は異常とみなす。
3) 子宮内膜日付診黄体期中期に子宮内膜を採取し、Noyes により確立された基準にしたがって、内膜腺上皮と間質につき、組織学的に排卵後何日目の子宮内膜かを診断する。そして、実際の排卵からの日数との間に2日以上のずれがあれば異常(out of phase)とみなす。
4) 子宮内膜の厚さ黄体機能不全の診断基準には入っていないが、子宮内膜の発育をみるための重要な指標となる。排卵前すなわち卵胞期後期と黄体期中期に、経膣超音波にて子宮内膜の厚さを測定する。8 mm 未満ならば子宮内膜発育不全と診断する。
黄体機能不全の診断がつけば、まず、どのような原因で黄体機能不全になっているかを考えることが重要である(図1)。高プロラクチン血症ならば原因検索を行い、機能性であればカベルゴリン(カバサールR)やブロモクリプチン(パーロデルR)の投与による治療となる。高プロラクチン血症の場合は他の原因による黄体機能不全と治療が異なるため、必ず血液検査を行ない高プロラクチン血症の有無を調べる。卵胞の発育不良があれば治療は排卵誘発剤による卵胞発育促進を行なう。また、自然周期で黄体機能不全が認められない場合でも、不妊治療が進みゴナドトロピン製剤を用いるようになった時は黄体機能不全(黄体期間の短縮)を伴いやすいので注意する。黄体機能不全の病態で述べた LH 分泌不全の中の LH パルスの消失、不十分な LH サージを診断することは日常の一般診療では容易ではないので、原因不明と診断されるかもしれない。黄体機能不全の原因が明らかでない場合や血中 LH 値が低い場合は、HCG による黄体賦活療法かまたは黄体ホルモンの補充療法が選択される。子宮内膜機能不全のうち子宮内膜発育不全に対しては、HCG や黄体ホルモン投与は無効であり、ビタミン Eやバイアグラ膣錠投与による子宮内膜の血流改善の有用性が報告されている15)。
1) 排卵誘発遅延排卵症などの卵胞発育不全症例に対しては、卵胞発育を促しその結果形成される黄体の機能の改善を期待する。クロミフェン(クロミッドR)が第一選択となる。
2) HCG による黄体賦活療法 HCG によって直接黄体を刺激し黄体機能を賦活させる方法である。一般にはHCG 3000単位から5000単位を排卵後2~3日目から隔日に3回筋注投与する。特に、HMG-HCG やFSH-HCG 周期に投与する場合は卵巣過剰刺激症候群 (OHSS) の発症に注意する。OHSS の発症や進展が懸念される場合は、HCG を減量するか、またはHCG 投与を中止し、下記のプロゲステロン製剤の投与に変更する。 ART の進歩がもたらしたエビデンスのひとつとして、黄体機能不全に対する治療法がある。前述したように GnRHアゴニストを併用した卵巣刺激法では、LH の分泌不全による黄体機能不全は必発である。この黄体機能不全に対して HCG 投与の有用性が複数の randomized control study を調査したメタアナリシスで明らかとなっている17), 18)。一方、最近の黄体機能調節に関わる基礎研究においても、HCG は黄体における血管新生を促進すること、黄体細胞のアポトーシスを抑制すること、活性酸素は黄体機能を抑制するが HCG は活性酸素を特異的に消去する酵素である superoxide dismutase (SOD) を増加させることが明らかとなっている。さらに、HCG は末梢血単核球のサイトカイン産生刺激作用を介した黄体機能維持作用をもつことも報告されている。したがって、狭義の黄体機能不全に対しては、HCG 投与はまず試みられるべき治療法と思われる。
3) 黄体ホルモン補充療法プロゲステロン製剤を筋注または経口で補充する方法である。プロゲステロン(プロゲホルモンR)25~50 mg / 日を排卵後2~3日目から連日10日間筋注するか、もしくはプロゲステロンデポー剤(プロゲデポーR、オオホルミンルテウムデポーR)125 mg を排卵後2~3日目に1回筋注する。経口剤では、ダイドロゲステロン(デユファストンR)10~15 mg / 日を排卵後2~3日目から10日間服用するのが一般的である。尚、GnRHアゴニスト併用 ART に伴う黄体機能不全に対して、複数の randomized control study を調査したメタアナリシスにおいて有効性が実証されている黄体ホルモンの投与方法は、プロゲステロン剤の連日筋注投与である17), 18)。
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