胃炎、胃・十二指腸潰瘍 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.01

胃炎、胃・十二指腸潰瘍(いえん、い・じゅうにしちょうかいよう)

gastritis,gastro-duodenal ulcer

執筆者: 池谷 健

概要

 胃炎と胃・十二指腸潰瘍を別々に論じることが良いかどうかについては議論のあるところである。しかし、一般的には別の疾患として語られてきた歴史があり、ここでは一般の理解に即して分けて記載する。

胃炎

 臨床的な「胃炎」は、臨床症状や内視鏡所見に重きをおいて考えられており、種々の原因によって胃粘膜に発赤、浮腫、びらん、出血などをきたした状態を言う。また、下痢を伴う場合、併せて急性胃腸炎と呼ぶ場合も多い。小児科領域においては、ネルソンの教科書1)にはGastritisの項目は設けられておらず、「Peptic Ulcer Disease」の中で「潰瘍やびらんは胃の炎症や胃炎で起こる」と触れられているのみである。

 一方、病理学的な「胃炎」の概念として、ハリソンの教科書2)では、胃炎は「組織学的に証明された胃粘膜の炎症」に限るべきで、内視鏡的な粘膜の紅斑ではないとして、下記の分類をあげている。

I 急性胃炎

A.急性H.pylori感染症

B.その他の急性感染性胃炎

 細菌性(H.pylori以外)、Helicobacter hermannii、蜂巣炎性、マイコバクテリア性、梅毒性、ウイルス性、寄生虫性、真菌性

II 慢性萎縮性胃炎

A.自己免疫性

B.H.pyloriが関連

C.判定不能 

III まれなタイプ

 急性胃炎では胃前庭部と胃体部の粘膜の多形核細胞浸潤を伴う炎症が見られ、慢性胃炎は胃粘膜にある程度の萎縮を伴うに至ったものである。慢性胃炎の病理学的分類としては、大きく表層性、萎縮性、肥厚性に分けた1950年のSchindlerの分類、萎縮性過形成、化生性、疣状に分けた1974年の佐野の分類、およびHelicobacter Pylori(以下H.pylori)の関与を取りいれ、非萎縮性、萎縮性、特殊性、好酸球性に分けた1991年のSydney分類がある。

胃・十二指腸潰瘍

 胃潰瘍では、胃酸によって胃壁が傷害され、痛み、出血をひき起こす。重症の場合は、胃壁に穿孔も起こる。胃潰瘍の症状や治療法の多くは十二指腸潰瘍にもあてはまり、これらを総称して消化性潰瘍と呼ぶ。成人に比較して小児の胃・十二指腸潰瘍においてH.pyloriの感染率は低く、ほとんどが急性で一過性の経過をとる。しかし、小児においても成人と同様、H. pyloriと胃・十二指腸潰瘍との密接な関連(胃潰瘍で50%、十二指腸潰瘍で90%程度の関与率)は認められており、胃・十二指腸潰瘍の治療方針を立てるうえで、H.pylori感染の診断は重要である。

病因

胃炎

 嘔吐を主訴とする場合、暴飲暴食(過冷の飲物、嗜好品の乱用など)、薬剤摂取(非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)、抗生物質など)、急性の侵襲ストレス、あるいは精神的抑圧が原因と考えられる場合が多い。吐血には薬剤刺激によるものが多く、代表的なものはアルコールであり、他にNSAIDs、ホルモン剤によるものがある。

 1980年台のH.pyloriの発見により慢性胃炎の大半がH.pyloriの長期感染によって引き起こされることが明らかになってきた。H.pyloriの感染は小児期に起こり除菌しない限り終生持続すると考えられている。H. pyloriは経口感染し、口から口へ、あるいは便から口に感染する。

胃・十二指腸潰瘍

 潰瘍の成因に関しては古来種々の学説が唱えられ、攻撃因子と防御因子のバランスが乱れると消化性潰瘍が発生するとの説が長らく支配してきた。両因子のバランス異常をきたすと考えられるステロイドの長期投与、肝硬変、熱傷、溺水などでは、合併症として胃・十二指腸潰瘍が起こることが知られている。

 H. pyloriの同定後、胃・十二指腸潰瘍との疫学的な関連も証明され、H. pyloriが原因であることが承認された。

病態生理

胃炎

 急性胃炎の組織所見では、浮腫と充血を伴った好中球の浸潤が認められる。内視鏡所見では広範囲の点状出血、出血性びらんを呈するが、組織所見との相関は乏しい。急性ストレス性胃炎では、熱傷・ショック・敗血症などに際して、損傷から12時間後には胃体部の点状出血が始まり、後には潰瘍にまで至る内視鏡的な変化が起こる。H.pyloriの初感染時にも一部の例で急性胃炎の症状を呈する場合がある。

 慢性胃炎では胃粘膜、胃固有腺の萎縮、粘膜の腸上皮化生が見られ、リンパ球を中心とする細胞の浸潤がみられる。慢性胃炎では、胃粘膜の萎縮の状態と自覚症状とが相関しないことが多く、慢性胃炎の症状の出現には不明な点がまだ多い。H.pyloriの長期感染が、萎縮性胃炎の原因となること、除菌で治癒・改善することは、統計的に確認されている。

胃・十二指腸潰瘍

 H. pyloriと非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)による障害が、胃・十二指腸潰瘍の大部分を占める。ことに、H. pyloriは消化性潰瘍の主因と考えられているが、成人において感染者は50%を越えるのに胃・十二指腸潰瘍の発生率は2-3%にすぎず、保菌者を発症に導く胃粘膜の障害メカニズムの詳細は判明していない。

 NSAIDsは、シクロオキシゲナーゼ-2を阻害し、胃粘膜の重要な防御因子であるプロスタグランディンの産生を抑制することにより粘膜の防御機構を傷害し、かつ修復機構も抑制する。

臨床症状

胃炎

 急性胃炎は、原因が加わってから6~24時間で発症し、悪心、胸やけ、心窩部の不快感、膨満感、げっぷ、季肋部の鈍痛、食欲不振、全身倦怠感などの症状にひき続き、重症例では心窩部の疝痛、嘔吐、吐血をきたすこともある。一方で全く無症状という人もいる。

 慢性胃炎に特有の症状はない。長期にわたって不快感に悩まされるため、精神的な不安が起こり、頭痛や不眠などの神経的症状を引き起こすこともある。

胃・十二指腸潰瘍

 ハリソンの教科書3)には、「空腹で悪化し食事を摂ると改善する焼けるような心窩部の痛みは、消化性潰瘍に伴う1つの徴候である」と記されている。胃・十二指腸潰瘍の症状ではこうした腹痛(心窩部痛)が代表的であるが、必発というわけではなく、また胃・十二指腸潰瘍に特異な症状というわけでもない。心窩部痛は、食後30分~3時間で起こり、制酸剤や食物摂取で軽快する場合が多い。

 その他の症状は、背部痛、食欲がない、体重減少、吐・下血、胸やけ、もたれなど多彩である。小児期には典型的な潰瘍症状を呈することは少なく、幼児期の潰瘍は突然の吐血、貧血、ショックなど、腹痛のない重篤な症状で発症することが多い。胃・十二指腸潰瘍の重篤な合併症である出血と穿孔の症状である、頻脈、冷汗、血圧低下、気分不快、吐血、下血などの症状が出現したものである。穿孔では、年長児なら持続性の非常に強い腹痛、圧痛、反跳痛、筋性防御、発熱も見られる。逆に本邦における吐血の原因の第一位は胃・十二指腸潰瘍であり、その約半数を占める。

 年長児では十二指腸潰瘍が多く、受験期に多発する。また、腹部不定愁訴を伴った原因不明の鉄欠乏性貧血の精査で発見されることもある。

検査成績

胃炎

 内視鏡検査所見が最も大切である。末梢血検査、便潜血、下痢を伴う時の便の細菌学的検査、腹部単純X線撮影も鑑別診断や原因検索に有用な場合がある。

胃・十二指腸潰瘍

 内視鏡検査所見が最も大切である。次いで上部消化管造影検査が有用である。末梢血検査は鉄欠乏性貧血の発見に有用である。最近頻用されている免疫法による便潜血検査は、大腸がんの発見を目的に下部消化管での出血を感度よく検出するように開発されたものであり、上部消化管の出血の確認には不向きである。

診断・鑑別診断

胃炎

 原則的には内視鏡検査が診断上重要であるが、「急性胃炎」の病名は臨床診断で用いられることが多い。慢性胃炎を中心とした内視鏡検査に際してH. pyloriの感染診断を行なうべきかどうかについて、「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2003年改訂版」4)では、慢性胃炎の一つである萎縮性胃炎ではH.pyloriの除菌治療が望ましいとされてはいても治療が勧められるというレベルではない、とされているので、その意味で本来除菌治療を前提に行われるべきH.pyloriの感染診断は、有用であっても胃炎には保険適応がないことも考慮の上、判断すべきである。

胃・十二指腸潰瘍

 原則的に内視鏡所見で診断する。症状で胃潰瘍と十二指腸潰瘍を鑑別することは困難であるが、しいて挙げるとすれば胃潰瘍は急性胃粘膜病変の範疇に属する多発性の浅い胃前庭部潰瘍が多いので吐血や激しい上腹部痛を訴える症例が多いのに対して、十二指腸潰瘍は比較的症状も軽く吐血も少ない傾向がある。いずれにせよ、胃・十二指腸潰瘍を疑った場合は、積極的に内視鏡検査を行うことが大切である。

 吐血は小児にはまれな症状であり、小児で吐血を見たら、鼻出血の嚥下、全身性出血性疾患、および胃・十二指腸潰瘍を鑑別することが肝要である。

 胃・十二指腸潰瘍は原則的にH. pylori除菌療法が勧められる疾患であり、除菌治療を前提として感染診断を行う。成人においては、上記ガイドライン4)で下記のように勧告されている。

(1)H. pylori感染診断は除菌治療を前提として行われるべきである。

(2)除菌治療前および除菌治療後のH. pylori感染の診断にあたっては、下記の検査法のいずれかを用いる(複数であれば感染診断の精度は更に高くなる)。それぞれの検査法には長所や短所があるので、その特徴を理解したうえで選択する。

(3)除菌判定は除菌治療中止後4週以降に行う。(擬陰性が疑わしい場合には経過観察すること)

(4)検査法:

A 内視鏡による生検組織を必要とする検査法

 幽門前庭部大彎と胃体上部~中部大彎の2箇所からの採取が望ましい。

迅速ウレアーゼ試験:

 生検組織にH. pyloriが付着していると、菌の強いウレアーゼにより尿素がアンモニアと二酸化炭素に分解され試薬のPHが上昇するので、指示薬が黄色から赤色に変化する。陽性であれば短時間でH. pyloriの感染を間接的に証明できる。ただし、結果の保存性がなく、治療後の感度は良くないので、鏡検法用の検体も同時に採取しておくことが望ましい。

鏡検法:

 生検組織にHEやギムザなどの染色を施しH. pyloriを同定する。保存性にすぐれ、他疾患の鑑別にも有用である。

培養法:

 唯一の直接的なH. pyloriの証明であり、最も確実な診断法である。胃粘膜を内視鏡下に生検してH. pyloriを培養する。感受性検査も可能である。

B 内視鏡による生検組織を必要としない検査法

尿素呼気試験:

 放射線同位元素13Cで標識した尿素を経口的に服用させる。胃内にH. pyloriが存在する場合はその強力なウレアーゼ活性により尿素が分解され、13CO2とアンモニアが産生される。この13CO2は血液を介して速やかに呼気中に排泄される。呼気中に自然界に存在する以上の13CO2が検出できればH. pyloriに感染していると診断できる。

抗H. pylori抗体測定:

 血清、全血、尿、唾液で測定可能である。一般には血清中の抗H. pylori -IgG抗体をELISA法で測定する。H. pylori感染症の診断として最も簡便で、陰性であれば感染がないとほぼ診断できる。感度が良好で安価なため疫学的研究に適している。

便中H. pylori抗原測定:

 非侵襲的で簡便なため小児の診断に適している。除菌前の検査としては感度、特異度ともに高く、除菌後診断の使用にも耐える。

小児期H. pylori除菌療法の適応を決定するガイドラインの発展

 小児のH. pylori除菌療法に関するガイドラインとしては、1997年加藤晴一ら5)により「内視鏡的に採取した胃生検組織を用いて、ウレアーゼ試験、病理組織検査、あるいは培養法を施行する。生検は胃前庭部を含め、最低2ヶ所から採取する。また、血清抗H. pylori IgG抗体価の測定も用いられる。このうち、2種類以上の検査が陽性の場合、H. pylori陽性と判定する。」と提言されている。この時には実施が確実にできる証拠がないとして評価が低かった尿素呼気試験は2000年の改正6)で除菌前と除菌後の感染診断に有用と改められた。また便中H. pylori抗原測定の評価も低かったが、除菌前の検査に限れば便中H. pylori抗原測定は十分有力で、小児においては除菌判定にも有用とされた。逆に、血清抗H. pylori IgG抗体価の測定の評価が高すぎたため、小児期Helicobacter Pylori感染症の診断、治療および管理指針(2005年改訂版)7)では単一検査としては推奨されなくなった。

 除菌前の感染診断については、内視鏡検査または造影検査において胃潰瘍または十二指腸潰瘍の確定診断がなされた患者のうち、H.pylori感染が疑われる患者に対し、上記6項目の検査法のうちいずれかの方法を実施した場合に1項目のみ算定できる。ただし、検査の結果H.pylori陰性となった患者に対して、異なる検査法により再度検査を実施した場合に限り、さらに1回に限り算定できる。

 疫学調査におけるH. pylori IgA抗体の有用性について、2000年に中里豊ら8)は「IgA抗体測定は、母親からの移行抗体の心配がなく、小児では疫学調査に向いており」、「IgGに比べより鋭敏に感染状況を反映している」と報告しており、奥田真珠美ら9)も「成人では感染後IgG、IgA抗体上昇までの期間は1ヶ月程度と推定される」が、「小児では胃内からH. pyloriが分離・培養された胃炎や胃潰瘍でも血清IgG抗体は上昇せず、その後数ヶ月追跡しても陽転しないことは日常診療で経験」され、「年少児ではIgAがIgG抗体より早期に陽転することから、IgA抗体は小児期のH. pylori感染診断に有用である」としている。(現時点で、H. pylori IgA抗体価の測定は研究的検査であり、健保未採用。)

治療

胃炎

(1) 原因となりうる薬物の投与を中止する。

(2) 絶食(水分は可)。軽症例は1~2日の絶食で軽快する。

(3) 吐血があれば冷生食により胃内冷却・洗浄を行う。吐血が大量の場合は輸液、輸血を行う。急速輸液や輸血の可能性を考え、可能なら普段使用する留置針よりワンランク太い留置針を用いることが望ましい。止血しない場合には内視鏡的止血を図る。

(4) 腹痛に対しては対症療法を行なう。鎮痛・鎮痙剤として、下記を用いる。 ・ソリタT1号200mL+臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン)1/2筒(増減)(点滴)

(5) 経口摂取可能となった後の薬物療法の例として下記を挙げる。H2受容体拮抗薬を始めとするほとんどの潰瘍治療薬は、用法・用量は異なるものの胃炎にも適応がある。

a)胃酸分泌抑制薬:胃酸の分泌を抑える働きがあり、基本的な対症療法である。 ・水酸化アルミニウムゲル/水酸化マグネシウム(マーロックス懸濁内服用)   用時1gを水10mlに溶解して内服、0.4mL/kg/日 分4、食間(最大量 4800mg/日)

b)胃粘膜保護薬:胃の粘膜を保護する薬で、補助的に用いられる。 ・重曹 年長児で3.0g/日(増減) 分3、食間 ・スクラルファート(アルサルミン)0.075g/kg/日 分3、食間(最大量 3.6g/日)  ・レバミニド(ムコスタ顆粒20%)   小学生100mg中学生200mg(適宜増減) 分3、食間(最大量 300 mg/日)

c)運動機能改善薬:胃のぜん動運動を活発にする薬で、胸やけ、悪心、嘔吐に有効。 ・クエン酸モサプリド(ガスモチン散1%)   小学生7.5mg中学生10mg(適宜増減) 分3、食前または食後(最大量 15 mg/日)

d)胃粘膜麻酔薬:鎮痙 ・臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン10mg錠)

  0.5~1mg/kg/日 分3、頓用(最大量 100 mg/日)

 ・臭化ブチルスコポラミン(ブチブロン坐薬10mg)

  幼児1/3個/回、学童1/2個/回、成人1個/回、1日3~5回頓用

 慢性胃炎では、胃の不定愁訴に対し、上記の胃酸分泌抑制薬、胃粘膜保護薬あるいはH2受容体拮抗薬(シメチジン、塩酸ラニチジン、ファモチジン、ニザチジン、塩酸ロキサチジンアセタート:詳細は潰瘍の項で述べる)などが有効である。

 胃炎ではH.pyloriの除菌治療は一般的でないが、2005年の小児期Helicobacter Pylori感染症の診断、治療および管理指針7)では、胃粘膜の萎縮が認められ、症状の改善を期待して本人と両親が希望する場合は除菌療法を考慮することとしている。

胃・十二指腸潰瘍

 小児でも上部消化管出血を疑った場合は、内視鏡検査が可能な施設に移送する。活動性出血を伴う潰瘍では、出血量が多いとショックに至る可能性があるので緊急内視鏡を行い、出血源を確認し止血する。潰瘍穿孔では激しい腹痛、腹部膨満、ショックなどの急性腹症を呈する。この際は緊急内視鏡や外科手術の適応を考え、専門医療機関へ紹介・移送する。

 潰瘍の診断および治癒判定は内視鏡検査で行う。H.pylori感染の有無を確認して治療方針を立てる。治療は薬物療法が原則で、症例にもよるが潰瘍の治癒には4~8週を要する。

 内視鏡的に活動性潰瘍を認めた場合は、活動性出血の存在あるいは貧血に注意して入院にて安静・加療とする。病初期で嘔吐や腹痛の強い場合は補液下で絶食とするが、絶食期間は長くても数日にとどめる。その後、流動食ないし3分粥から開始し1週間程度で普通食とする。

出血時の緊急処置

 消化性潰瘍出血は命の危険もある急性疾患である。消化性潰瘍出血の治療には外科的治療と内科的治療がある。バイタルサインのモニタリング、血管確保、血液検査、腹部X線検査を施行する。貧血には輸血などで対応し、立位X線検査で遊離ガス像を認めれば穿孔が示唆され、緊急手術の適応となる。経鼻胃管による胃内容吸引で出血の持続の有無を確認し、可能な限り緊急内視鏡を行い、出血源を認めたら内視鏡的止血を行う。内視鏡検査の際に胃・十二指腸潰瘍を確認した場合は胃粘膜を採取し、組織のウレアーゼ試験、病理組織検査、培養を行う。 1980年以降は、H2受容体拮抗薬と呼ばれる胃酸分泌抑制薬が発売され、潰瘍のコントロールが容易になり出血が極めて減少したため手術数は激減した。1990年以降に薬物治療の主役はH2受容体拮抗薬からプロトンポンプインヒビター(プロトンポンプ阻害薬:PPI)へ移行したが、その効果は極めて良好である。しかし現在でも、穿孔例や内視鏡的に止血・コントロールできない出血例に対しては外科的切除が行われている。

 内科的治療には内視鏡治療と薬物治療がある。胃潰瘍より出血している場合はクリッピングあるいはヒートプローブを用いて内視鏡的止血術を行う。

(1)食事療法

 止血を確認後2~3日は絶食とした後、流動食から食事を開始して1週間程度で普通食にする。

(2)薬物療法

 絶食期間は、下記等のH2受容体拮抗薬の静注を1日2回行う。

 ・ファモチジン(ガスター注)(20mg/2ml)  0.25mg/kg/回 (最大量 20mg/回)

 ・シメチジン(タガメット注)(200mg/2ml)  2.5mg/kg/回 (最大量400mg/回)

 ・塩酸ラニチジン(ザンタック注)(50mg/2ml) 1.25mg/kg/回 (最大量 50mg/回)

 ・塩酸ロキサチジンアセタート(アルタット注75mg)

  小学生37.5mg/回、中学生50mg/回、成人75mg/回(最大量75mg/回)

  ともに生理食塩水などに溶解し、30分で点滴静注する

食事が開始されてからの薬物療法

H.pylori陰性潰瘍の治療

 非ステロイド系抗炎症薬などの薬物が原因である場合は、これらの薬剤を中止・変更し、基礎疾患によるものは原疾患の治療を行う。

 対症療法として、H2受容体拮抗薬を経口的に投与する。

 ・ファモチジン(ガスター散10%)  0.5~1mg/kg/日、分2 (最大量40mg/日)

 ・シメチジン(タガメット細粒20%) 10~20mg/kg/日、分2~4 (最大量800mg/日)

 ・塩酸ラニチジン(ザンタック錠75mg)   小学生1錠、分1、中学生2錠、分2(最大量4錠/日)

 ・ニザチジン(アシノンCap75mg)   小学生1Cap、分1、中学生2Cap、分2(最大量4Cap/日)

 ・ラフチジン(ストガー錠5mg)   小学生1Cap、分1、中学生2Cap、分2(最大量4Cap/日)

  H2受容体拮抗薬抵抗例では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を用いる。

 ・オメプラゾール(オメプラール錠10 mg)   小学生1錠、中学生2錠(最大量2錠/日)

 ・ランソプラゾール(タケプロンOD錠15mg)   小学生1錠、中学生2錠(最大量2錠/日)

 ・ラベプラゾールナトリウム(パリエット錠10mg)   中学生1錠(最大量2錠/日)

  ともに分1(朝食後)投与で、十二指腸潰瘍で6週間、胃潰瘍で8週間継続する。

  治癒後の維持療法は、通常不要である。

H.pylori陽性潰瘍の治療

 2005年の小児期Helicobacter Pylori感染症の診断、治療および管理指針7)によれば、H.pylori除菌の適応は、十二指腸潰瘍、胃潰瘍の初発、再発、合併症症例すべてと適応が拡大され、更に活動性潰瘍では除菌治療後にプロトンポンプ阻害薬などの酸分泌抑制薬を1~2か月間投与することが望ましいとされた。ただ、近年は薬剤耐性のH.pyloriが除菌失敗の原因として問題視されているので、安易な治療開始はしてはならない。治療は、5歳未満の再感染率が高率であることより、原則として5歳以上が対象である。

小児の3剤併用療法(PAC)

 1.オメプラゾール(オメプラール錠20 mg)粉砕 1.0mg/kg/日(最大量 40mg/日)

  または、  ランソプラゾール(タケプロンOD錠15mg)粉砕1.5mg/kg/日(最大量 60mg/日)

 2.アモキシシリン(パセトシン細粒10%)50mg/kg/日 (最大量2,000mg/日)

 3.クラリスロマイシン(クラリシッド錠50mg)20mg/kg/日 (最大量 800mg/日)

 この組み合わせを分2で7日間内服を標準とするが、小児は14日間投与も可とする。

 小児のH.pyloriのクラリスロマイシン耐性は約30%に見られるので、除菌失敗時には第2選択薬として、クラリスロマイシンに代えてメトロニダゾールを用いる。(PAM)

  メトロニダゾール(フラジール内服錠250mg)10-20mg/kg/日 (最大量 1000mg/日)

 なお、平成19年1月からラベプラゾールもPPIの一員としてH.pylori除菌療法の適応が承認された。

 この治療法での小児における除菌率は70-90%とされており、近年漸減傾向にある。H.pyloriの耐性化の問題と服薬アドヒアランスの問題が懸念されている。

 3剤併用療法における副作用発現率は約20-30%と高率で、下痢、軟便が最も多く、ついで異味・口内炎、発疹が多い。いずれも軽症なことが多く、除菌治療の中断に至る症例はあまりない。アモキシシリンの副作用として、スチーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症、顆粒球減少症、急性腎不全、出血性大腸炎なども報告されており、注意が必要である。

参考:成人の健康保険での薬用量

アモキシシリン1回750mg、クラリスロマイシン1回200mg及びランソプラゾール1回30mgの3剤を同時に1日2回内服、7日間。

*クラリスロマイシンは,必要に応じて1回400mg1日2回まで増量可。

アモキシシリン1回750mg,クラリスロマイシン1回400mg及びオメプラゾール1回20mgの3剤を同時に1日2回内服、7日間。

心身症としてのベンゾジアゼピン(クロルジアゼポキシド)の投与

 胃・十二指腸潰瘍には心身症としての側面もあり、再発防止に用いられる。

バランス散1%○R 3才10~20mg、小学生10~30mg、中学生15~40mg、成人20~60mg、分2~4で投与

続発症としての消化性潰瘍

NSAIDSは日常最も多く使われる鎮痛薬で、間欠的に使う場合には問題とはならないが、関節リウマチ患者などにおける長期連用では消化性潰瘍を発生させる。 NSAIDSを中止できない場合、胃潰瘍治療薬を併用し潰瘍の再発を予防する必要がある。ミソプロストール(サイトテック錠200μg)及びプロトンポンプ阻害薬は、NSAIDS関連消化性潰瘍に有効である。

 ・ミソプロストール(サイトテック錠200μg)

  小学生2錠を分4、中学生3錠を分3、成人4錠を分4で投与

  (予防に関する保険適用はないことに注意)

 NSAIDSを中止できない場合、高用量H2受容体拮抗薬の投与の有用性も証明されてはいるがやや劣り、やはり保険適用はない。

 ADEM(急性散在性脳脊髄炎)などステロイドを長期多量に使う疾患では胃潰瘍のリスクがあり、予防投薬が行われている。(予防に関する保険適用はない。)

 肝硬変の11%に消化性潰瘍が合併する。この場合は胃潰瘍より十二指腸潰瘍のほうが多く、2/3は無痛性である。

 熱傷では、ストレスの観点から胃潰瘍予防のH2受容体拮抗薬投与が検討される。溺水では、ストレス以外に胃内のbacterial colonizationの観点からも胃潰瘍予防のH2受容体拮抗薬投与が検討されるべきである。

 内視鏡的治療を必要とするほどでない消化性潰瘍の場合でも、出血性の消化性潰瘍の発生リスクを減少させるため、プロトンポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬の使用が必要となる場合がある。

合併症の診断及び治療効果の確認

 潰瘍穿孔、狭窄、出血が問題になる。少なくとも月1回は外来通院させ、服薬コンプライアンス、症状の確認、貧血の有無、血清鉄などの検査を行う。

 また、除菌の判定のため、除菌治療終了後6~8週後に内視鏡検査・生検を行い病理組織検査あるいは培養法を施行する。また13C尿素呼気テストは、H.pylori感染の除菌判定に感度、特異度ともに良好であり、除菌終了後最低6週以上あけて行い、除菌を確認する。便中抗原検査も小児の除菌判定に用いられる。

予後

胃炎

 急性胃炎は治癒するものがほとんどであるが、慢性胃炎は完全に治りきることはまれである。慢性胃炎の一部に対するH.pyloriの除菌治療の有効性も明らかになりつつあるが、保険適応など注意を要する。

胃・十二指腸潰瘍

 近年漸減傾向にあるがH.pylori除菌後の消化性潰瘍再発防止率は、胃潰瘍で70-80%、十二指腸潰瘍で80-90%程度とされている。潰瘍穿孔、狭窄や出血によるショックを合併しなければ、消化性潰瘍の予後は良好である。再発の問題も、保険適用の問題は残るものの、メトロニダゾールなどの他の抗菌剤の合理的な利用を含めたH.pylori除菌療法で解決できそうである。しかし、H.pylori陰性で再発を繰り返す例や、基礎疾患でNSAIDs等の長期投与を強いられる症例に対しては、慎重な経過観察が必要である。

 H.pyloriの感染経路として家族内感染が知られており、除菌後の再感染のリスクを減らすことを目的に、同居している家族の消化器症状や消化性潰瘍の既往などを確認し、必要なら13C尿素呼気テストなどでH.pylori感染の有無を検査し、結果で家族内にH.pylori感染があれば、患児の年齢などを考慮して同時除菌も検討するべきである。

最近の動向

 慢性胃炎に対するH.pyloriの除菌治療について、2003年の日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会4)は慢性萎縮性胃炎の除菌治療の推奨を見送り、単に「望ましい」疾患に分類したが、今後のエビデンスの積み重ねにより適応が拡大される可能性がある。

 成人では検査時の苦痛が少ない経鼻内視鏡の人気が高まっているが、生検などの操作がやりにくいことが話題になっている。消化管の観察はできても、所見がみつかった場合には経口内視鏡に変更せざるを得ない場合も少なくない。小児では、鼻孔の大きさが小さいことがネックになってこの人気機材の恩恵を受けられるに至っていないが、今後より細くより嚥下反射を起こしにくい方向に開発が進んで行くのであれば小児の内視鏡検査はもっと広がるのかもしれない。消化管内部の観察だけに限るなら、カプセル内視鏡が現在の直径1cm超からグングン小さくなって将来は内視鏡に取って代るのかもしれない。

参考文献

1) 「Peptic Ulcer Disease」:Nelson、Textbook of Pediatrics、17th Edition、pp1244-1247、Saunders、2003

2) 「胃炎」:ハリソン内科学、日本語版、第15版、pp1711-1714、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2003

3) 「消化性潰瘍とその周辺疾患」:ハリソン内科学、日本語版、第15版、pp1697-1711、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2003

4) 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会、「日本ヘリコバクター学会ガイドライン2003-H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2003年改訂版」、Helicobacter Research、7巻3号、pp253-263、2003

5) 加藤晴一、「小児のH. pylori除菌療法に関するガイドライン(案)の提唱」、小児栄養消化器病学会誌11巻2号:pp173-176、1997

6) 第27回2本日本小児栄養消化器病学会講演抄録集、p52、2000

7) 加藤晴一、「小児期Helicobacter Pylori感染症の診断、治療および管理指針(2005年改訂版)」、小児内科39巻3号、pp475-479、2007

8) 中里豊、「埼玉県南部地域における小児Helicobacter pylori感染の疫学調査」、小児栄養消化器病学会誌14巻1号、pp17-19、2000

9) 奥田真珠美、「小児のHelicobacter pylori IgG, IgA抗体陽転時期の比較」、小児栄養消化器病学会誌14巻2号、pp66-69、2000

(MyMedより)推薦図書

1) 寺野彰・高橋信一 編集:新ヘリコバクター・ピロリとその除菌法―ガイドラインと保険適用,南江堂 2003

2) 渡辺純夫 編集:消化器内科学(医学スーパーラーニングシリーズ),シュプリンガー・ジャパン株式会社 2010

3) 伊藤慎芳 著:ピロリ菌―日本人6千万人の体に棲む胃癌の元凶,祥伝社 2006

4) 平塚秀雄 著:新版 胃・十二指腸の病気 (よくわかる最新医学),主婦の友社 2005

5) 青木照明・加藤チイ・斉藤君江 著、青木照明 監修:胃手術後の100日レシピ―退院後の食事プラン (100日レシピシリーズ),女子栄養大学出版部 2010
 

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